論文ID: 22142
統合失調症については,ゲノムワイド関連解析やエクソーム解析の結果などから,シナプス関連遺伝子がリスク遺伝子として複数同定されている.また,死後脳の組織学的研究から,統合失調症では大脳皮質の錐体細胞樹状突起スパイン(神経細胞樹状突起にある棘状の構造でシナプス後部を形成する)密度の低下が報告されている.これらの背景から,シナプス機能不全が統合失調症のリスク形成に関わることが考えられている.一方,著者らはこれまで,脂肪酸を内因性リガンドとする核内受容体「peroxisome proliferator-activated receptor α(PPARα)」と統合失調症病態メカニズム形成の関連に注目して解析を行ってきた.著者らは,統合失調症患者において「稀ではあるが機能的変化につながる」PPARA遺伝子(PPARαをコードする)変異が存在することを明らかにした.また,Pparaノックアウトマウスは,統合失調症様の行動変化を示すとともに,脳内でシナプス関連遺伝子の発現変化が起きること,大脳皮質前頭前野においてスパイン密度の低下が起きることを見いだした.これらの結果は,PPARαの機能低下が脳内のシナプス機能低下を介して統合失調症のリスク形成につながる可能性を示している.筆者らは,核内受容体PPARαの機能低下が統合失調症病態形成に関わるとすれば,人為的に核内受容体PPARαの機能を活性化することができれば統合失調症の治療に役立つのではないかと考えて,核内受容体PPARαを分子標的とした統合失調症の治療薬開発を検討している.