日本薬理学雑誌
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ラット卵巣摘出による機能変化に対する加味帰脾湯の効果―痛覚閾値,学習行動および循環機能について―
島村 美智枝西沢 幸二山下 明
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1996 年 108 巻 2 号 p. 65-75

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抄録

更年期には閉経に伴い,のぼせやほてり,憂欝,知覚異常,不眠など多種多様の症状が出現し,これらは総称して更年期症候群あるいは更年期障害と呼ばれている.我々は,加味帰脾湯がこれらの更年期症候群に対して臨床的に用いられていることに着目し,その有用性を確認するため,卵巣摘出ラットを更年期のモデルに見立て,痛覚,記憶学習能および循環機能に対する作用についていくつかの検討を行った.卵巣摘出または偽手術後,加味帰脾湯および他の被験薬は,試験開始までの7あるいは8日間1日1回経ロ投与した.電気刺激感受性試験において,卵巣摘出により痛覚閾値が有意に上昇し,感覚鈍麻が認められた.加味帰脾湯は痛覚閾値を用量依存的に回復させた.にステップ・スルー型受動的回避学習反応において,卵巣摘出ラットのST潜時は有意に短縮し,記憶学習能力の低下が認められた,加味帰脾湯はこれを有意に延長させた.また,八方向放射状迷路課題において,卵巣摘出ラットは正選択数の減少および誤選択数の増加を示した.これに対し加味帰脾湯は,用量依存的に正選択数を増加させ,誤選択数を減少させた.さらに卵巣摘出により血圧は有意に上昇し,加味帰脾湯はこれを用量依存的に回復させた.これらの結果から,加味帰脾湯は更年期症候群に有効であることが示唆された.また,加味帰脾湯が卵巣摘出による子宮重量の減少に対して影響を与えなかったことから,その作用はホルモン剤がエストロゲンを補うような直接作用よりも,むしろ卵巣摘出によってもたらされる中枢神経系の変化を正常化する作用によるものと推測された.

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