抄録
ラットに拘束ストレスを負荷すると、鳴いたり脱糞したりといったヒトの不安や恐怖に近い負の情動反応が喚起されるが、その際広汎な脳部位でノルアドレナリンの放出が元進している。そこで私達は、ストレスによって生じる視床下部、扁桃核、青斑核などの脳部位におけるノルアドレナリン放出亢進が、不安や恐怖の惹起と関連しているという不安のノルアドレナリン仮説を提唱した。つまり、ストレスによって引き起こされる脳のノルアドレナリン放出亢進と情動反応は、ベンゾジアゼピン系の代表的抗不安薬であるジアゼパムによって減弱され、その作用はベンゾジアゼピン受容体拮抗薬であるフルマゼニルによって拮抗される。同様に強力なオピエイトであるモルヒネや脳室内投与したオピオイド・ペプチドであるβ-エンドルフィンやメチオニン-エンケファリンもストレスによるこれらの脳部位のノルアドレナリン放出亢進を減弱し、その作用はナロキソンで拮抗される。これらの事実から、ベンゾジアゼピン系薬物はベンゾジアゼピン受容体/GABAA受容体/クロール・イオン・チャネル複合体を介して、オピオイド系薬物はオピオイド受容体を介して、視床下部、扁桃核、青斑核などのノルアドレナリン放出亢進を減弱することで、それぞれの抗不安作用の一部を現していると考えられる。そこで抗不安作用の発現機序が異なるジアゼパムとモルヒネのストレス負荷前の同時投与が、ストレスによるノルアドレナリン放出亢進にどう影響するかについて検討した。その結果ジアゼパムもしくはモルヒネそれぞれの単独投与によるノルアドレナリン放出亢進の減弱作用よりはるかに強い放出亢進の抑制作用が、視床下部、扁桃核、青斑核部、海馬、視床などでみられ、特に視床下部、扁桃核、海馬ではストレスによるノルアドレナリン放出亢進がほぼ完全に抑制された。これらの事実から有効な抗不安薬として、ベンゾジアゼピン受容体及びオピオイド受容体の両者に親和性を有する薬物が考えられる。また、ストレスによる脳のノルアドレナリン放出亢進の発現に corticotropin releasing homone (CRH, CRF) が大きく関与しているという私達の実験事実から、CRFの拮抗薬も抗不安薬もしくは抗ストレス薬として期待される。