日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
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116 巻, supplement 号
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  • 矢冨 裕
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 2-6
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    スフィンゴシンの代謝産物としてその存在自体は古くより知られていたスフィンゴシン1-リン酸(sphingosine1-phosphate;Sph-1-P)は,近年になり,シグナル分子として多彩な細胞応答を惹起することが明らかにされた.血小板は,そのスフィンゴ脂質代謝の特異性から,Sph-1-Pを豊富に含み,活性化に伴ってこれを細胞外に放出する.この活性化血小板由来のSph-1-Pは,血小板自身または血管を構成する細胞に作用し,オートクリンまたはパラクリン的に血栓・止血・動脈硬化などの反応に関わると予想される.これらの多彩なSph-1-Pの作用の大部分は, Endothelial differentiation gene ファミリーと呼ばれる,G蛋白質に連関する細胞表面受容体を介するものと考えられている.Sph-1-Pにより惹起される血管生物学的細胞応答,それに関与する受容体と下流の情報伝達を明らかにしていくことは,血管疾患の治療薬の開発につながると考えられる.
  • 横塚 弘毅
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 7-15
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    高温多湿の気候のため,日本のブドウは欧米のそれよりも,ポリフェノール,特にアントシアニン含量が少ない。このような日本産ブドウから,ポリフェノール濃度は高いが,苦渋味が少なくスムースなフレーバーをもつ赤ワインを製造するためには,ワインの発酵や熟成中のポリフェノールの挙動を詳細に研究し,適切な製造法を構築する必要がある。ブドウを破砕すると,ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)が無色ジフェノールを酸化し,生じたキノンがアントシアニンや色素オリゴマーあるいはポリマーを脱色した。PPOがこれらの色素を直接に脱色することはなかった。マストに酵母を添加して発酵を開始すると,果皮や種子からポリフェノールが抽出され,発酵しているマストの赤色強度(アントシアニン濃度)は発酵開始後数日で最大となったが,無色ポリフェノール(カテキン,プロシアニジン,フラボノールなど)の抽出は醸し発酵が終了するまで続いた。官能検査の結果,残存する赤色色素濃度が最大となった日から数日間醸し発酵したワインが最も高い評価が得られた。22年間にわたって赤ワインを毎年製造し,これらをワインセラーで貯蔵し,色素分析を行った結果,全ポリフェノール含量は貯蔵後約10年間,それほど大きく変化しなかったが,全色素量は貯蔵期間を経るに従って徐々に減少した。ワインの各ポリフェノール画分と抗酸化活性を測定したところ,ワインの抗酸化活性と全ポリフェノール,フラボノイド,赤色色素量の間には高い相関があった。灰色カビ病菌で汚染されたブドウに特有なフェノールで,血小板凝集や血栓症の予防効果あるいは抗癌性で注目されているスチルベン化合物であるリスベラトロールは,果汁にはほとんど存在せず,醸し発酵中に果皮や種子よりワインへ移行した。リスベラトロール生産性の高いブドウ品種は,耐病性に優れていたので,この遺伝子のクローニングを行い,リスベラトロール生産性の低いブドウ品種の遺伝子との比較がなされている。
  • 中村 春木
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 18-22
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ゲノム、プロテオーム、フィジオームという、全体とネットワークとを解析する“-ome”研究が意味を持つのは、たとえばプロテオーム研究においては、素子としての個々の蛋白質分子と、素過程としての分子間相互作用がそれぞれ物理化学的に詳細に明らかにされていることが前提である。単なる部品の名前と結果としての各部品の機能だけでは、モデルとしてのネットワークを超えることはできない。そのための実体を明らかにする研究こそが、構造生物学およびそのゲノム・スケールでの構造ゲノム科学であり、創造的な薬物設計につながる。
  • 古谷 利夫
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 23-27
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ヒトゲノム計画の進展により、創薬研究はゲノム研究を基盤としたゲノム創薬へと変貌しつつある。ヒトゲノム配列の解読の終了が間近に迫り、DNAマイクロアレイやバイオインフォマティクスなどの新しいツールや技術の開発により個々の遺伝子の機能解明に向けて熾烈な競争がすでに始まっている。さらに、プロテオミクスや構造ゲノム科学による網羅的且つ体系的なタンパク質およびタンパク質立体構造の研究により、タンパク質の立体構造に基づくドラッグデザインがルーティン化されつつある。ポストゲノム時代の創薬は疾患関連遺伝子およびタンパク質の発見とそれに続く創薬研究が従来にも増して合理的でありながら効率的に行なわれるようになるであろう。
  • 倉智 嘉久
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 28-32
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    カリウムチャネル作用薬として、ATP感受性Kチャネル活性薬(K channel opener)と電位依存性Kチャネル阻害薬(III群の抗不整脈薬)が知られている。この10年以上にわたり、これらの範疇に属する薬物が数多く開発されてきた。標的チャネルの分子構成も明かとなり、これらの薬物の作用機構が詳細に検討されている。本シンポジウムではこれらの薬物作用の現在の理解とその薬物効果についてまとめ、今後のイオンチャネルを標的とする薬物開発のための参考としたい。
  • 杉山 雄一
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 33-37
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    分子性異物からの防御、排除に関わる代謝酵素や輸送担体(トランスポータ)に見られる特徴として、これら蛋白が一般的に多くのメンバーより構成されており、適応進化による多様化の側面を持つことが挙げられる。また細胞の生死に直接関与する蛋白ではないが故に、遺伝子変異のpenetranceが高く、遺伝子多型が多く見られる。これが薬物動態の個体差に反映し、副作用の原因となっている。この7-8年ほどの間に薬物トランスポータについての解明が急速に進んだ。例えば、トランスポータを欠損する遺伝的疾患を持ったヒト、実験動物が発見されるという最近の成果を挙げることができる。こうした解毒機構の持つ多様性、大きな種差、遺伝的多型の存在は、医薬品の安全性の確保を極めて困難にしており、信頼あるヒトでの薬物動態予測法の開発が切望されている現状である。我々の研究グループでも、ABC蛋白の一つである胆管側の有機アニオントランスポータ,cMOAT/rMRP2のクローニングを行い、その基質認識特異性を明らかにするとともに、類似のトランスポータが複数存在することなどを明らかにしている。さらにその後、一連のMRP family蛋白が、我々を含め国の内外でクローニングされ、その臓器分布、基質特性の解析から、種々の臓器における異物解毒に関わることが実証されつつある。薬物動態を支配するトランスポータとしては、特に、消化管吸収に関わる小腸、薬物クリアランスに関わる肝・腎、さらには薬効部位である中枢への薬物移行を支配する血液脳関門、血液脳脊髄液関門におけるトランスポータを挙げることができる。これらトランスポータへの乗り易さを、薬効・副作用夕一ゲットとなる組織、細胞に比較的固有のトランスポータを考慮してデザインし、適切なdrug deliveryを可能にすることの重要性について、実際のデータをもとに議論する。
  • 小林 拓也, 成宮 周
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 38-42
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    プロスタノイドはプロスタグランジン(PG)とトロンボキサン(TX)より成る生理活性物質群である。生成されたプロスタノイドは細胞外に放出され、生体内で多彩な作用を発揮する。これらの作用は、標的細胞の細胞膜上にあるプロスタノイド受容体を介して発現される。薬理学的な解析によりPGD,PGE,PGF,PGI,TXの特異的受容体は、各々DP,EP,FP,IP,TPと名付けられ、さらにEPは、種々のPGE類似化合物に対する親和性の違いにより4種類のサブタイプ(EP1,EP2,EP3,EP4)に分類された。我々は、TPをプロスタノイド受容体として初めてヒト血小板より精製し、さらにcDNAのクローン化に成功した。その成果をもとにマウスの8種類のプロスタノイド受容体(DP,EP1,EP2,EP3,EP4,FP,IP,TP)の一次構造を解明した。次に、これらのクローン化受容体を用いてリガンド結合ドメインの構造の解明を試みた。一方、クローン化受容体を発現する細胞株を樹立し、選択的アゴニスト・アンタゴニストの評価に用いた。さらに、我々が作成した8種類の受容体欠損マウスを用い、開発・未開発のアンタゴニストの生体内における作用を解析したい。
  • 堀之内 孝広, 小池 勝夫
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 43-47
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    atypica1 β-アドレナリン受容体(atypical β-AR)はβ1-及びβ2-ARとは異なるユニークな特徴を有している。今回,モルモット胃底に存在するatypica1 β-ARを介した弛緩反応を指標として各種薬剤の作用を評価し,atypicalβARの薬理学的な特徴を明らかにした。プロプラノロール,アルプレノロール及びピンドロールは側鎖に共通構造のiso-プロピルアミノ基を有するアリロキシプロパノールアミン(-OCH2CH(OH)CH2NHCH(CH3)2)を持っている。しかしながら,アルプレノロールやピンドロールはatypical β-ARに対して活性作用を有していたが,プロプラノロールは無作用であった。また,ブプラノロール,ナドロール,CGP12177A及びカルテオロールは側鎖にtert-ブチルアミノ基を有するアリロキシプロパノールアミン(-OCH2CH(OH)CH2NHC(CH3)3)を有しているが,atypical β-ARに対して活性作用を示したものはナドロール,CGP12177A及びカルテオロールであり,ブプラノロールは活性作用を示さなかった。このことは,atypical β-ARに対する薬剤の作用がアリロキシプロパノールアミン側鎖の違いよりも芳香環に結合している置換基によって大きく変化することを示唆している。次にatypical β-ARの立体選択性を検討したところ,atypical β-ARにおいて得られた立体異性体の効力比((+)/(-))はモルモット右心耳(β1-AR)やモルモット気管(β2-AR)で得られた効力比より25倍小さく,このことからモルモット胃底のatypical β-ARは立体選択性が顕著に低いことが明らかになった。今後,atypical β-ARの薬剤に対する識別力の違いに関して,コンピュータ解析による分子モデリングなどの研究で解明されることが期待される。
  • 松永 公浩, インドラ , 星野 修, 石黒 正路, 大泉 康
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 48-52
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    これまでに、ナンテニンは、胸部大動脈および腎動脈において、KC1およびヒスタミンによる収縮には影響を与えることなく、セロトニンによる収縮の用量作用曲線を顕著に右に平行移動させ、その作用が5-HT2A受容体阻害によることが示唆された。そこで、ナンテニンの構造類縁体を合成し、それらの抗セロトニン作用の構造活性相関を検討した。ナンテニンの6位の窒素原子上の置換基をメチル(ナンテニン)から水素あるいはエチルに置換すると、いずれの場合も活性が顕著に低下した。さらに、トリフルオロアセチル基に置換した類縁体では高濃度においても抗セロトニン作用を示さなかった。以上のことから、窒素原子上のローンペアが活性発現に重要な役割を果たしていることが示唆された。さらに、1位のメトキシル基(ナンテニン)を水酸基に置換するとナンテニンより約10倍活性の低下が認められた。また、4位に水酸基を導入すると、顕著な活性の低下が認められた。これらのことから6位の窒素原子上のローンペアが活性発現に極めて重要であり、次いで1位の水酸基がアルキル化していることおよび4位に水酸基などの立体障害が無いことが必要であると考えられた。そこで、受容体結合実験を検討したところ抗セロトニン作用の構造活性相関による解析と一致する結果が得られた。さらに、ロドプシンの構造をテンプレートとして、コンピューター解析により5-HT2A受容体の膜貫通領域の三次元構造を構築し、モレキュラーモデリングによる5-HT2A受容体とナンテニンおよび種々のナンテニン類縁体との相互作用の解析を行った。その結果、ナンテニンより活性が低下した類縁体では5-HT2A受容体との水素結合が、より弱くなっていることが示唆され、構造活性相関で得られた結果をモレキュラーモデリングにより説明することができた。
  • 小濱 一弘
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 53-56
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)はCa2+とカルモジュリン存在下で、血管平滑筋ミオシン軽鎖をリン酸化し、そのATPaseを活性化する酵素である。MLCKは多機能性で、キナーゼ活性の他にアクチン結合性やミオシン結合性が古くから知られているが、これらの性質も、アクチン-ミオシン相互作用を修飾し得ることが演者らの手により解明されて来た。種々の機能の生理活性を検討する第一歩として、血管平滑筋細胞内でMLCKの発現の阻害を行なった。母体には血管平滑筋由来のSM3を用い、プラスミドベクターによりMLCKのcDNAの一部をアンチセンス方向でSM3細胞に導入し、MLCK・mRNAのアンチセンスを細胞内で発現させた。薬剤耐性を目安にスクリーニングをし、これによりMCLK・欠損株を stable transfectant として得ることができた。この欠損株は、血小板由来成長因子(PDGF)に対する遊走能が低下していた。contorolのSM3細胞にMLCK阻害薬(ML-9とWortmannin)を与えて、同様な遊走能の低下が確認できた。
     増殖性血管病変では血管平滑筋の形質転換が起こり平滑筋が増殖しサイトカインに対する遊走が起るが、上記の実験結果を応用し創薬にむすびつけるアイデア、特に、1)増殖指向性のあるレトロウイルスをベクターとして利用すること、及び2)合成アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計・化学修飾に関して述べた。
  • 梅村 和夫, 高松 宏幸, 塚田 秀夫
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 58-63
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    脳梗塞急性期の治療薬の薬効評価は一般的にはラット脳虚血モデルが用いられている。今までに開発されてきた薬剤はそれらのモデルで有効性が確認されていたが、臨床試験ではあまりよい結果ではなかった。このことから、ラットモデルでの薬効評価に限界があるのではと疑問視されている。そこで今回、よりヒトに近いサルを用いて中大脳動脈を閉塞し脳梗塞モデルの作成を試みた。サル中大脳動脈を一時的に閉塞するモデルと永久に閉塞するモデルを作成しそれらのモデルにおける梗塞進展に違いをポジトロン エミッション トモグラフィ(PEr)を用いて評価した。PETスタディでは局所脳血流量、酸素摂取率、酸素消費率を経時的に評価した。さらに、免疫抑制剤であるFK506の脳梗塞への影響を検討した。一時虚血モデルは中大脳動脈を3時間閉塞後再開通させた。永久閉塞モデルは中大脳動脈を8時間閉塞し続けた。再開通後5時間(閉塞後8時間)に脳を取り出し病理学的に梗塞の広がりを検討した。PETで観察した結果から中大脳動脈閉塞中は主に基底核領域の血流量が高度に、また皮質領域は中程度低下していた。永久閉塞モデルでは血流量の変化は中大脳動脈閉塞直後の変化が8時間後まで続いた。閉塞8時間後の酸素消費率の低下していた領域は病理学的検討による梗塞の広がりとよく相関した。永久閉塞モデルの梗塞の広がりは主に基底核領域にあり、皮質領域にはほとんどなかった。一方、一時脳虚血モデルでは、血流を再開通すると特に皮質領域で血流量の上昇が見られたが、再開通5時間後には再び血流量の低下が見られた。この低下は多分No-reflow現象と思われた。一時脳虚血モデルにおける梗塞の広がりは基底核だけでなく皮質領域まで広がっていた。これは再灌流傷害によるものと考えられた。虚血直後の投与されたFK506は、主に虚血再灌流後の傷害に効果を示した。今回の結果から、サルを用いた脳虚血モデルにおける脳梗塞進展の過程をPETで観察できることが分かった。このモデルを用いた薬剤の効果がヒトの病態への影響を反映するものかどうかは今後の課題である。
  • 山本 徳則, 戸村 裕一, 田中 啓幹, 多田 哲宏, 橋本 礼治, 小笠原 康夫, 梶谷 文彦
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 64-67
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    糸球体微小循環の可視化への試みが in vitro または in vivo で色々な方法で試みられて来ている。それぞれの方法での薬理学的、生理学的アプローチが行われているが糸球体微小循環の微小血管への反応性においてartificalな方法でしかアプローチが出来なかった。以前より試みられている方法には方法論的限界があったことより我々はこれらのdisadvandageを改善すべく泌尿器科領域の内視鏡技術と医用工学領域の顕微鏡技術を合わせもつ、pencil lens probe CCD intravital vidomicroscopic system を開発し、糸球体微小循環の薬物による影響を評価した。なお、このシステムの特徴は systemic hemodynamics と尿細管ム糸球体フィードバックメカニズムを有する糸球体微小循環を同時に評価出来ることである。対象としたのは高血圧または糖尿病のラット病態モデルでその糸球体微小循環を可視化し、L型カルシウム拮抗薬の薬効を評価した。この新しいバイオイメージング技術はより生理的なさらには病態モデルの糸球体微小循環の in vivo 薬効評価する有用なシステムである。
  • 小野 秀樹, 岡田 啓希, 本多 基子
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 68-72
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    1)マウスの脊髄反射電位の測定法を確立することを最初の目的とした。麻酔したマウスにおいてラットと同様に単シナプス反射電位と多シナプス反射電位を得ることができた。単シナプス反射電位に対して、TRHは一過性に、DOIは持続的にこれを増強し、tolperisoneは一過性に、baclofenは持続的にこれを抑制した。マウスにおいてもラットとほぼ同等の結果が得られることが示された。2)脊髄小脳変性症の動物モデルとして、cytosine arabinoside(Ara-C) 投与によっておこる運動失調マウス(Ara-Cマウス)を用いた。Ara-Cマウスにおいて脊髄小脳変性症治療薬であるtaltirelinは単シナプス反射を増強した。さらにAra-Cマウスにおけるprazosinとmazindo1の作用の変化から、Ara-Cマウスにおいては、下行性ノルアドレナリン神経系の機能が低下していることが示唆された。
  • 原 一雄, 山内 敏正, 戸辺 一之, 赤沼 安夫, 門脇 孝
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 73-77
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    転写因子で核内受容体である peroxisome proliferator-activated receptorγ(PPARγ) の個体レベルでの生理的役割を明らかにするため発生工学的手法を用いた欠損マウスの作製とその表現型の解析、ヒトPPARγ2遺伝子Pro12Ala多型に関する患者対照研究を行った。PPARγホモ欠損マウスは胎盤の機能障害のため胎生致死であった。PPARγヘテロ欠損マウスは高脂肪食下における脂肪細胞の肥大化とそれに伴うインスリン抵抗性の出現から保護されていた。その分子的機序として、PPARγヘテロ欠損マウスは野生型に比べ脂肪細胞の径が小さく脂肪組織重量が軽いにも関わらずレプチンの発現や血中濃度が高値であることが少なくとも一部を説明していると考えられた。よって、PPARγは高脂肪食による脂肪細胞肥大化やインスリン抵抗性の出現を媒介する倹約遺伝子であることが示唆された。ヒトにおけるPPARγの役割を解明するためヒトPPARγ2遺伝子をスクリーニングし、転写活性能の低下したPro12Ala多型を同定した。肥満群ではAla多型保持者は非保持者に比しインスリン感受性が高いこと、本多型が糖尿病群に比べ非糖尿病群で有意に高頻度に認められることから本多型は糖尿病抵抗性因子として働いていることが示唆された。以上の結果よりPPARγはヒトにおいてもマウスにおいても倹約遺伝子としての役割を担っていることが示された。
  • 千葉 茂俊
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 78-81
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    イヌ心臓機能に及ぼす薬物の作用は主に in vivo 動物標本ならびに in vivo 摘出標本を使用しての実験成績によって分析されているが、医学的見地からすれば静脈投与によって惹起される反応は心臓循環器系への直接作用のみならず反射等を介した間接作用も反映しているので複雑な反応として出現する。したがって、直接作用を正確に見極めるためには in vivo 動物実験ではその点を明確にしておく必要がある。これらの作用を同時に観察できれば都合のよい実験標本といえる。今回はすでに1975年以来使用されているイヌ摘出右心房筋を供血犬のヘパリン化動脈血で定圧灌流する方式を用いての実験例を示し、薬物の心臓作用の分析を検討した。薬物としてはリドカイン、ジソピラミド、PGI2、ペントバルビタール、ニトロプルシド、ハイドララジン、グルカゴンを用い、供血犬に静注した時の供血犬および摘出心筋の反応を示す。さらに、その心臓作用の薬理学的分析を行い、直接作用と間接作用について検討した結果を示す。
  • 杉山 篤, 佐藤 吉沖, 橋本 敬太郎
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 82-87
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    クラスIII抗不整脈薬およびQT延長作用が報告されている非循環器用薬剤の催不整脈作用を分析した。まず、セマチリドの催不整脈作用をイヌ摘出血液灌流心室筋標本を用いて評価した。セマチリドは単相性活動電位持続時間(MAP90)および有効不応期(ERP)を用量依存的かつ逆頻度依存的に延長した。刺激頻度が遅いほど、相対不応期の延長も増大し、期外刺激により多型性心室頻拍(TdP)が誘発された。血液灌流心室筋標本はクラスIII作用を有する薬物の電気生理学的作用だけでなく催不整脈作用を検出するモデルとしても利用できること、また、相対不応期の延長は催不整脈作用を定量的に評価するための指標として利用できることが示された。次に、薬物の電気生理学的作用をハロセン麻酔犬を用いて評価した。クラスIII抗不整脈薬(ドフェチリド、ニフェカラント)は、陰性変時作用、再分極過程および有効不応期の延長作用を示したが、他の心血管系の測定項目にはほとんど影響を与えなかった。一方、非循環器用薬剤(シサプリド、スルピリド、ハロペリドール、スパルフロキサシン)は、上記の作用以外に陰性変力、変伝導作用や血圧低下作用も示した。いずれの薬物も、相対不応期を心周期の後方へ移動させると同時に延長したので、この作用が各薬物の不整脈源性基質の一部であると考えられた。最後に in vivo における薬物の催不整脈作用を慢性完全房室ブロック犬を用いて評価した。クラスIII抗不整脈薬としてセマチリド、ニフェカラント、非循環器用薬剤としてシサプリド、テルフェナジン、スルピリド、スパルフロキサシンを無麻酔状態で経口投与した。臨床使用量ではTdPの発生は観察されなかったが、その5-40倍量投与後、TdPがすべての薬剤で誘発された。慢性完全房室ブロック犬は薬物による催不整脈作用を評価するための検出感度の高いモデルとして有用であることが示された。
  • 阿部 正義, 清水 直美, 柴田 和彦, 桂木 猛
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 88-93
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    気管支喘息の病態での補体活性化の関与を検討した。能動感作ラットに抗原(OA)と共に補体活性化産物であるアナフィラトキシンC5aを気管内投与すると、即時型反応に引き続いて持続的な気道抵抗の上昇を認めた。同時に胆汁中の Cysteinyl-Leukotrienes の主要な代謝物であるN-Ac-LTE4を測定するとOAとC5aの同時刺激により持続的に肺での Cysteinyl-Leukotrienes 産生の増加が認められた。一方、能動感作ラットにOAを反復曝露することにより気道粘膜下組織に好中球を中心とした著明な炎症性細胞浸潤と遅発型の気道反応をおこす実験モデルを作成した。肺組織を抗C5a受容体抗体で免疫染色すると、浸潤した好中球並びに肺胞マクロファージにその発現が認められた。次に、補体系をその上流(C3およびC5転換酵素レベル)で阻害する、二種類の抗補体剤(nafamostat mesilate (Futhan) 並びに sCR1)で前処置してから抗原を曝露すると、いずれも遅発型反応を抑制したがsCR1の方がより強く抑制した。病理組織学的にも反復抗原曝露による炎症性細胞浸潤はsCR1前処置により著明に抑制された。またC5a受容体拮抗剤で前処置すると遅発型気道反応並びに気道粘膜下への細胞浸潤はともに抑制された。更に、sCR1前処置により補体系を阻害したラットに抗原とともに微量の C5a des Arg を気管内に投与すると遅発型気道反応並びに気道粘膜下組織への炎症性細胞浸潤の両方を再現することができた。一方、Interleukin-8ファミリーに属する Cytokine-induced neutrophil chemoattractant-1 (CINC-1) は C5a des Arg の100倍濃度まで使用しても有意の作用は認められなかった。以上より、反復する抗原・抗体反応により産生される気道内の微量C5aが一部の喘息の病態を重症化していると考えられ、抗補体剤、殊にアナフィラトキシンC5a受容体拮抗剤は新規の抗喘息薬に成り得る可能性が示唆される。
  • 田中 正敏, 吉田 眞美, 江本 浩幸, 石井 秀夫
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 96-100
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ラットに拘束ストレスを負荷すると、鳴いたり脱糞したりといったヒトの不安や恐怖に近い負の情動反応が喚起されるが、その際広汎な脳部位でノルアドレナリンの放出が元進している。そこで私達は、ストレスによって生じる視床下部、扁桃核、青斑核などの脳部位におけるノルアドレナリン放出亢進が、不安や恐怖の惹起と関連しているという不安のノルアドレナリン仮説を提唱した。つまり、ストレスによって引き起こされる脳のノルアドレナリン放出亢進と情動反応は、ベンゾジアゼピン系の代表的抗不安薬であるジアゼパムによって減弱され、その作用はベンゾジアゼピン受容体拮抗薬であるフルマゼニルによって拮抗される。同様に強力なオピエイトであるモルヒネや脳室内投与したオピオイド・ペプチドであるβ-エンドルフィンやメチオニン-エンケファリンもストレスによるこれらの脳部位のノルアドレナリン放出亢進を減弱し、その作用はナロキソンで拮抗される。これらの事実から、ベンゾジアゼピン系薬物はベンゾジアゼピン受容体/GABAA受容体/クロール・イオン・チャネル複合体を介して、オピオイド系薬物はオピオイド受容体を介して、視床下部、扁桃核、青斑核などのノルアドレナリン放出亢進を減弱することで、それぞれの抗不安作用の一部を現していると考えられる。そこで抗不安作用の発現機序が異なるジアゼパムとモルヒネのストレス負荷前の同時投与が、ストレスによるノルアドレナリン放出亢進にどう影響するかについて検討した。その結果ジアゼパムもしくはモルヒネそれぞれの単独投与によるノルアドレナリン放出亢進の減弱作用よりはるかに強い放出亢進の抑制作用が、視床下部、扁桃核、青斑核部、海馬、視床などでみられ、特に視床下部、扁桃核、海馬ではストレスによるノルアドレナリン放出亢進がほぼ完全に抑制された。これらの事実から有効な抗不安薬として、ベンゾジアゼピン受容体及びオピオイド受容体の両者に親和性を有する薬物が考えられる。また、ストレスによる脳のノルアドレナリン放出亢進の発現に corticotropin releasing homone (CRH, CRF) が大きく関与しているという私達の実験事実から、CRFの拮抗薬も抗不安薬もしくは抗ストレス薬として期待される。
  • 木内 祐二
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 101-106
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    うつ病治療における抗うつ薬の奏効機転に関しては従来より多くの仮説が提示されているがいまだ確定的なものはない。我々は抗うつ作用解明の一助として、近年その分子実態が明らかになった抗うつ薬の主要な標的蛋白モノアミントランスポーターの調節機構を詳細に検討した。PC12細胞のノルアドレナリン取り込みは、Ca2+/カルモジュリン依存性キナーゼ(CaMキナーゼ)類によるノルアドレナリントランスポーター(NAT)の直接のリン酸化やリン酸化を介した細胞膜への移動(トランスロケーション)促進により急速に増加した。また長期的にもCaMキナーゼIIはCREBなどの転写因子のリン酸化を介してNAT遺伝子の発現を増大させ取り込みを持続的に促進することが明らかになった。以上のように、モノアミントランスポーター機能は近年、うつ病の発症機序への関与が推測されているCa2+やキナーゼなどの細胞内情報伝達系により短期的および長期的に調整される可能性が示された。一方、NAT遺伝子発現はノルアドレナリン選択性の高い取り込み阻害薬(抗うつ薬)の長期添加により抑制され、抗うつ薬慢性投与はモノアミントランスポーターの発現にも作用している可能性が示唆された。最近、セロトニントランスポーター(SERT)遺伝子の遺伝的多型と神経質等の性格傾向や感情障害との問に相関が報告されたこととも合わせて、モノアミントランスポーターを介するモノアミン神経伝達の変動の解析がうつ病・抗うつ薬の研究において再び注目を集めている。他方、既知分子のみに注目する研究では抗うつ薬の奏効機転の全体像を明らかにするには限界があるとも指摘されており、関与する蛋白質を未知分子も含めて幅広くスクリーニングしようという試みも行われている。本講演ではその一部も紹介したい。
  • 森信 繁
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 107-110
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ストレス性精神障害の発症機序には、ストレスによって刺激されたcAMP-cAMP response element binding protein (CREB)・カルシウム-カルモデユリンキナーゼ-CREBといった細胞内情報伝達系の活性化を介した脳内遺伝子発現の変動が密接に関与しているという仮説に基づいて、ストレスによるラット脳内CREBリン酸化-脱リン酸化バランスについて検討した。拘束ストレスによって大脳皮質前頭部・海馬内のCREBリン酸化は有意に亢進し、ストレス脆弱個体ではストレス性CREBリン酸化亢進が顕著であることがわかった。同時に拘束ストレスによるCREBリン酸化亢進状態をFK506処置によって持続させた状態では、ストレス性 c-fos mRNA 発現が単なる拘束ストレス負荷群に比較して有意に亢進していることが明かとなった。リン酸化CREB(p-CREB)の脱リン酸化に関与するカルシニューリン(CaN)の発現やファオスファターゼ活性に及ぼす、ストレスの影響を検討した。拘束ストレスによってCaNの発現は影響を受けなかったが、活性は有意に亢進するこが明かとなった。このような一連の実験結果は、ストレス性精神障害の発症にストレス負荷によるCREBリン酸化亢進を介した遺伝子発現が密接に関与していることを示している。従って今後はCREBのリン酸化亢進のメカニズムの解明や標的遺伝子の探索を推進することが、本障害の治療に有効な薬物をみつける有力な鍵になると思われる。
  • 神庭 重信, 工藤 耕太郎, 喬 春香, 有田 順
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 111-115
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    高週齢のラットと低週齢のラットに情動反応を評価する恐怖条件付け(contextual fearconditioning.)を用いて行った。footshock直後のすくみ行動(freezing.)は高週齢群と低週齢群で有意差を認めなかったが、1時間後には低週齢群では有意に増加していた。この時、学習に関係するとされている転写因子の活性型である phospho-CAMP-responsive element-binding protein(pCREB) を免疫染色したところ、海馬のCA1において低週齢群では有意に陽性細胞の増加が認められたが高週齢群では増加が認められなかった。海馬の他の部位や扁桃体では、陽性細胞数の変化が認められなかった。また、CAMP-responsive element-binding protein(CREB) を免疫染色したところどの群においても変化が認められなかった。このことから情動記憶である contextual fear conditioning において海馬CA1におけるCREBのリン酸化とそれに続く蛋白合成が関与していることが示唆された。
  • 橋本 均, 新谷 紀人, 松田 敏夫, 馬場 明道
    2000 年 116 巻 supplement 号 p. 116-120
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ニューロペプチド、PACAP(pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide)の神経系における生理作用の解明を目的として、ES細胞におけるジーンターゲティング法によりPACAP受容体サブタイプの一つであるPAC1受容体の遺伝子エクソン2ノックアウトマウス、およびPACAPリガンド遺伝子ノックアウトマウスをそれぞれ作製し、各変異マウスについてPACAPシグナル系の機能変化と個体の行動異常を薬理学的に解析した。まず129系マウスゲノムDNAライブラリーよりPAC1受容体およびPACAPの遺伝子を単離し、構造を決定した。それらをもとに、ターゲティングベクターを作製し、PAC1受容体はD3株、PACAPはE14株のES細胞に導入して相同組換え体を得て、同ヘテロおよびホモノックアウトマウス産仔を得た。PAC1受容体ノックアウトマウスにおいては、ターゲティングしたエクソンより下流からN末に欠損のある産物が産生されていたものの、その発現量は野生型よりも大幅に低下していた。一方、PACAPノックアウトマウスを行動薬理学に解析した結果、その自発運動の亢進が観察され、とくに情動関連行動に野生型と比較して明らかな変化が認められた。
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