日本薬理学雑誌
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静脈注射による血栓:性静脈炎に関する実験的研究
府川 和永伊藤 義彦三崎 則幸野村 聡子
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1975 年 71 巻 4 号 p. 307-315

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抄録

静脈注射剤投与による血栓性静脈炎の発生予測を行うための試験法を考案し,その病態モデルについて2,3の検討を加えた.実験はウサギ耳介後静脈を用い,血栓性静脈炎発生方法として,検体を単に静脈注射する方法(静注法),血管局所に検体を一定時間貯溜させる方法(貯溜法)の2法について検討した.その結果,静注法では,血栓性静脈炎の発生は認められたが,その発生率は低く,検出率を高めるためには実験例数の増大や大量投与の必要があり,被験薬によっては中毒量に至るような不都合が生ずるため試験法として適さないと考えられた.貯溜法では,少量(0.05ml)の検体を毎日3分間血血局所に貯溜させることY:.より,高率に血栓牲静脈炎の発生がみられ,その病像は組織学的にも静脈注射後のヒト血栓性静脈炎像に酷似することを確認した.また,この方法を用いた数種の薬剤の血栓発生率や炎症強度は臨床統計資料と相関関係を示すことが認められた.さらに,貯溜法において短時間内に反復処置することにより血栓発生率が増大し,その効果は静注法における検体容量効果と相関関係を示すことを見い出した.このことにより,一定容量の検体を処置する貯溜法によっても,臨床上注射容量の異なる検体の発生頻度予想を可能とした.なお,これらの血栓性静脈炎の発生において,血栓は注射針挿入により損傷をうけた血管内壁と刺激性検体の接触が,炎症症状の発現には血管壁およびその周囲組織への刺激性検体の拡散がそれぞれ主要因となることを考察した.したがって,この貯溜法は静脈用注射剤の血栓性静脈炎試験法として適しており,この方法によって臨床上わずか0.04%程度の発生をも予測しうることを見い出した.

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