1984 年 83 巻 1 号 p. 69-77
ラット酢酸潰瘍を365日にわたり内視鏡で観察し,その治癒,再発,再燃経過を明らかにした.さらに,それらに対する潰瘍作製部位,動物の週齢および性の影響についても検討した.1)7週齢雄ラットの胃前壁胃底腺幽門腺境界部の漿膜下に20%酢酸0.05mlを注射して作製した潰瘍は,作製後3日目で潰瘍底に凝血,壊死物を伴う類円形の活動期潰瘍として観察され,日数の経過とともに縮小し(10~50日),約50%が辺縁のひだ集中を残して搬痕治癒した(35~154日).一方,50日目以降,縮小した潰瘍が再び大きくなって再燃(37%),あるいは治癒例に再び潰瘍が生じて再発(治癒例の40%,全例数の21%)する例が観察され,累積再燃・再発率は365日目で59%となった.2)大弩胃底腺部に作製した潰瘍は,縮小が速く,20日目で初発治癒例がみられ,133日目までに全例治癒した.さらに365日目まで再燃あるいは再発する例はなかった.3)25週齢雄ラットに作製した腺境界部潰蕩の累積治癒率は33%,累積再燃・再発率は67%であり,7週齢雌ラットでは累積治癒率,累積再燃・再発率はいずれも60%であった.以上の結果から,ラット酢酸潰瘍の治癒,再発,再燃に種々要因が影響し,特に潰瘍の存在部位の影響が大きいことが示された.