抄録
当科では,高齢者の顎関節症に対する治療法は,従来,若年者,中年者の場合と同様に,食事指導,生活指導,投薬などを主体に行ってきた。そこで,若年者などと同様な治療法で加療した高齢者の顎関節症の症状が,どの程度改善したのかを検討することを目的に,当科を受診した65歳以上の顎関節症患者(以下,高齢者群とする)77例について,症型分類別に後向き臨床研究を行った。対照群には,同時期に当科を受診し,同様な治療を行った39歳以下の顎関節症患者(以下,若年・中年者群とする)82例を用いた。
症状が改善したものは,高齢者群では53例(68.8%)であり,1か月以内に症状が改善したものは,症状改善例の60.4%であった。なお若年・中年者群では59例(72.0%)であり,1か月以内に症状が改善したものは,症状改善例の67.8%であり,高齢者群と同様な傾向であった。
症型分類別では,高齢者群はI型のものが92.9%で最も症状改善率がよく,以下,IIIa型(80.0%),II型(72.2%)の順であり,IIIb型が最も低く45.0%であった。若年・中年者群は,I型のものが100%で最も症状改善率がよく,以下,II型(77.1%),IIIa型(76.9%)の順であり,IIIb型が最も低く43.6%であった。
両群間で症型別に症状改善率を比較すると,I型,II型,IIIa型,IIIb型すべてにおいて有意差を認めなかった。
本研究の高齢者群は,II型のものが比較的多くみられ,骨変形が少ない集団であったが,食事指導,生活指導や投薬にもよく反応し,症状改善までの期間も短かった。これは,高齢者でも若年・中年者などと同様な方法で症状の改善が得られることを示唆していると考えられた。