抄録
顎関節の変形を伴う不正咬合患者について,矯正歯科治療前後の顎関節病態の長期経過を検討した。患者は開咬を主訴として来院した初診時年齢20歳5か月の女性で,Angle II級開咬,および骨格的前後関係はANB角5.9°の上顎前突で,オーバージェット7.0mm,オーバーバイト0mmであった。また,顎関節は両側とも下顎頭の変形を呈していた。Angle II級開咬ならびに両側顎関節の変形と診断された。スタビライゼーション型スプリントを3か月使用して顎関節病態の経過をみた後,マルチブラケット装置を用いた矯正歯科治療により,不正咬合の改善を行った。2年3か月後,安定した緊密な咬合状態が獲得されたため,保定に移行した。治療期間中に関節円板および下顎頭の状態に変化が認められたが,顎関節症状は認められなかった。保定開始5年後,顎関節症状はなく,咬合状態も安定していたため保定を終了した。骨形態変化などの顎関節病態の進行は認められなかった。術前の顎関節症の診断と,適切な治療計画に加えて,治療後の継続的な経過観察が重要であると考えられた。