2019 年 31 巻 1 号 p. 24-31
進行性の下顎頭吸収あるいは特発性の下顎頭吸収は,外傷などの明確な原因を有さず,下顎の後方偏位や前歯の開咬につながる進行性の下顎頭吸収が生じる疾患である。本論文では,顎関節治療後に短期間に発症・進行した下顎頭吸収症例の経過と治療について報告する。
患者は43歳女性で,前方歯の開咬と咀嚼障害を主訴にあごの関節・歯ぎしり外来に来院した。既往歴で3年前に当科にて開口障害の主訴で顎関節症の治療を行っている。MRI検査では,明確な左右の下顎頭のerosionを伴う関節突起の短縮が確認され,短期間かつ顕著な吸収を認めたことから進行性の下顎頭吸収と診断した。
本症例では一次治療として,咬合の安定化を目的としたスタビリゼーションスプリント療法と,顎機能の改善を目的とした自律運動練習や習癖指導を行い,下顎頭の吸収が安定した後に理想的な咬合関係を確立するため,外科矯正や全顎の補綴治療による二次治療を行うことを計画した。しかし,一次治療後に患者が許容する咬合の改善が得られたことから,早期接触の除去を目的とした咬合調整と智歯抜歯を追加したうえで,二次治療を行わず治療終了とした。
進行性の下顎頭吸収の治療経過に関するデータは十分でなく,本病態に対する明確な治療方針は明らかにされていないが,本症例のように外科矯正治療を行わずに,機能的・審美的な改善が得られる場合があるなら,保存的な治療を優先することも考慮すべきと考える。