2020 年 32 巻 2 号 p. 77-83
Jacob's diseaseは,筋突起部の骨軟骨腫においてマッシュルーム状を呈し増大化した腫瘍と頰骨弓との間に偽関節様の関係を形成している状態と定義されている。今回われわれは,Jacob's diseaseと咀嚼筋腱・腱膜過形成症の併発症例に対し,手術を行い経過良好であった1例を報告する。患者は27歳の男性で,長期にわたる開口障害のために当科に紹介された。最大開口域は4 mm,側方運動は左右ともに4 mm,前方運動は6 mmと制限されていた。CT画像にて左側筋突起の先端には26×18×18 mmのマッシュルーム様の不透過像を認め,これと接する頰骨弓は変形をきたしていた。MRIでは,両側咬筋にstrike root appearance像を認めた。左側筋突起部腫瘍性病変および両側咀嚼筋腱・腱膜過形成症の疑いと診断した。全身麻酔下にて口内法と口外法を併用し,左側筋突起部腫瘍性病変を含む切除術を施行した。しかし,開口時に両側咬筋前縁部に硬い張りを触知したため,右側筋突起切除術および両側咬筋腱膜切除術を併施した。手術終了時の開口域は63 mmであった。筋突起部腫瘍性病変の病理組織学的所見は,病変の頂部に菲薄した線維性組織と未熟な硝子軟骨様の組織が確認され,直下には移行的に髄腔を有する海綿骨組織が確認されたため骨軟骨腫であり,Jacob's diseaseと咀嚼筋腱・腱膜過形成症の併発症例と診断した。術後4日目より開口訓練を開始し3か月間継続した。術後12か月の開口域は60 mmであり,再発所見は認めず経過良好である。