日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
Print ISSN : 0915-3004
ISSN-L : 0915-3004
症例報告
脳梗塞の初発症状として顎関節脱臼が生じた1例
渡辺 昌広岡本 知子藤井 智子本橋 具和窪 寛仁杉立 光史中嶋 正博
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 34 巻 3 号 p. 83-88

詳細
抄録

顎関節脱臼の誘発因子として一般的に過度の開口や外傷などがあるが,まれに脳血管障害に起因すると考えられる脱臼が存在する。今回われわれは脳梗塞の初発症状として顎関節脱臼が生じた1例を経験したので,報告する。患者は82歳女性。2014年11月に右被殻のラクナ梗塞を生じて以降,近医にて経過観察されていた。2019年7月,欠伸をした際に閉口障害を自覚し近在総合病院救急科を受診。CT画像にて右側顎関節脱臼を認め,徒手的整復法を施行するも再脱臼を繰り返したため,精査依頼で同日,当院を受診した。初診時,右側下顎頭は整復されておりCT画像においても右側顎関節部に異常所見を認めなかったため,チンキャップでの開口抑制を指示した。しかし,帰宅後,歩行障害が生じはじめたため,翌日,近在総合病院脳神経内科を受診。精査にて,左放線冠から内包後脚にかけての亜急性期脳梗塞,および右上下肢麻痺を認めたため入院下にて抗血栓療法を施行した。入院中も複数回,右側顎関節脱臼を認めたため,その都度,徒手的整復を行った。最終の顎関節脱臼後10日間はチンキャップでの開口抑制を継続した。患者は発症後2年11か月経過時に他疾患の増悪により永眠したが,初診時以降,再脱臼は認めなかった。脳梗塞の急性期において顎関節の支持,運動にかかわる筋肉の緊張が低下し,顎関節脱臼の誘発因子となることから,顎関節脱臼が脳血管障害のサインである可能性に留意する必要がある。

著者関連情報
© 2022 一般社団法人 日本顎関節学会
前の記事
feedback
Top