日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
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34 巻, 3 号
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連載解説
  • 濱田 良樹
    2022 年 34 巻 3 号 p. 61-68
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    顎関節洗浄療法(Arthrocentesis)は,非外科的治療に抵抗性を示す顎関節症に対する外科的治療の第一選択として長きにわたって適用されている。主な適応症はいわゆる顎関節クローズドロック症例で,病理組織学的には滑膜炎と変形性顎関節症の所見が混在する病態で,ほとんどの症例で関節円板の変形・前方転位が見られる。このような病態を有する顎関節の滑膜や滑液からは,種々の起炎性物質が検出されており,滑液の粘性低下や関節軟骨・骨の退行性変化への関与が示唆されている。したがって,顎関節洗浄療法の治療効果は,主に滑液中の起炎性物質を洗い流すことによって発揮されると考えられている。一方,顎関節の洗浄後にヒアルロン酸,ステロイド薬,多血小板血漿を関節腔内に追加注入することで,洗浄療法の臨床的な治療効果を高めることが期待されてきた。しかしながら,その有効性についてはいまだ議論の余地が残されている。ところで,顎関節洗浄療法の奏効率はおおむね70~85%であるが,奏効例においても顎関節症発症の主因の一つとされているブラキシズムやTeeth contacting habitなどが消退しているとはかぎらず,生化学的・関節鏡視学的に関節腔内の炎症反応が残存していることが示唆されている。したがって,顎関節洗浄療法によって症状が消退した後も,症状の再燃を予防するためには,咀嚼筋の脱力,マッサージ,ストレッチ(最大開口)を継続的に実践することがきわめて重要と考えられる。

依頼論文
  • ―歯科患者の慢性疼痛への応用―
    清水 栄司
    2022 年 34 巻 3 号 p. 69-75
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    認知行動療法は,医学的根拠の強い精神療法であり,うつ病,不安症などの精神疾患の治療の第一選択となっている。問題解決を目指し,偏った感情,認知(考え方),行動,身体反応の悪循環のパターンをバランスのとれたものになるよう見直して生活の質を上げていくために,週1回50分で16回程度をマンツーマンで行うことが標準的で,これを高強度の認知行動療法と呼ぶ。一方で,歯科診療の現場で日常的に遭遇する軽症の不眠,不安,うつなどをもつ患者には,月1回30分計6回(6か月)程度の低強度の認知行動療法を提供する。今回,筆者は,認知行動療法に対する研究と臨床経験をもとに,顎関節症Ⅱ軸(心理社会的要因)への対応として応用する方策についての話題提供を行う。

    第一に,顎関節症の患者がうつ病,不安症などのcommon mental disorders(一般的な精神疾患)を合併する場合は,低強度の認知行動療法の提供を行う。

    第二に,顎関節症の患者が慢性疼痛(米国精神医学会のDSM-5の身体症状症:特に疼痛を伴う)に該当する場合,慢性疼痛の認知行動療法の提供を行う。

    第三に,顎関節症の患者の生活指導やストレス対処力向上のために,認知行動療法的なアプローチを取り入れる場合は,3つの良いことエクササイズのような5分間認知療法の提供や,ハビット・リバーサル(習慣逆転法)の提供を行う。

原著
  • 高橋 康輔, 亀井 和利, 鈴木 雄祐, 枝 卓志, 田島 麻衣, 伊藤 耕, 小倉 直美, 近藤 壽郎
    2022 年 34 巻 3 号 p. 76-82
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    下顎骨骨折のなかでも下顎頸部高位に骨折を認める下顎頭骨折は,骨片の整復固定が難しいことから手術療法か,または保存療法かを選択するのに苦慮することがある。下顎頭骨折後の保存療法は,下顎頭の形態が回復できないことから,側方運動障害が生じることが報告され,高位下顎頭骨折に対してMiniplateやLag screwを用いて整復固定することで良好な結果が得られるとする報告が増え,外科的治療の適応が拡大しつつある。今回われわれは,2014年から2021年までに当院で加療した下顎頭骨折に対して,Lag screw法を用いて観血的整復固定を施行した6例7関節に対し,治療後の開口量および顎関節症状の有無などについて後ろ向きに調査した。術後の開口量は平均44.1 mmであった。術後の関節雑音(クリックまたはクレピタス)の有無を調べた結果,1例1関節で関節雑音の出現を認めた。また,1例1関節に顎運動時の下顎の偏位を認めた。以上の結果から,下顎頭骨折患者において,Lag screwによる整復固定法では比較的良好な結果が得られた。

症例報告
  • 渡辺 昌広, 岡本 知子, 藤井 智子, 本橋 具和, 窪 寛仁, 杉立 光史, 中嶋 正博
    2022 年 34 巻 3 号 p. 83-88
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/06/20
    ジャーナル フリー

    顎関節脱臼の誘発因子として一般的に過度の開口や外傷などがあるが,まれに脳血管障害に起因すると考えられる脱臼が存在する。今回われわれは脳梗塞の初発症状として顎関節脱臼が生じた1例を経験したので,報告する。患者は82歳女性。2014年11月に右被殻のラクナ梗塞を生じて以降,近医にて経過観察されていた。2019年7月,欠伸をした際に閉口障害を自覚し近在総合病院救急科を受診。CT画像にて右側顎関節脱臼を認め,徒手的整復法を施行するも再脱臼を繰り返したため,精査依頼で同日,当院を受診した。初診時,右側下顎頭は整復されておりCT画像においても右側顎関節部に異常所見を認めなかったため,チンキャップでの開口抑制を指示した。しかし,帰宅後,歩行障害が生じはじめたため,翌日,近在総合病院脳神経内科を受診。精査にて,左放線冠から内包後脚にかけての亜急性期脳梗塞,および右上下肢麻痺を認めたため入院下にて抗血栓療法を施行した。入院中も複数回,右側顎関節脱臼を認めたため,その都度,徒手的整復を行った。最終の顎関節脱臼後10日間はチンキャップでの開口抑制を継続した。患者は発症後2年11か月経過時に他疾患の増悪により永眠したが,初診時以降,再脱臼は認めなかった。脳梗塞の急性期において顎関節の支持,運動にかかわる筋肉の緊張が低下し,顎関節脱臼の誘発因子となることから,顎関節脱臼が脳血管障害のサインである可能性に留意する必要がある。

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