2024 年 36 巻 2 号 p. 68-75
顎関節症の病態はさまざまであるが,多くは関節円板の器質的変化による顎関節内障である。これが長期に及ぶと円板の穿孔や断裂を生じ,さらに病態が進行すると骨・軟骨の変形を生じる。顎関節症の原因は明らかではないが,現在では環境と宿主の相互バランスの破綻によって発症するという考えが提唱され,機械的負荷関連因子やエストロゲンなどが指摘されている。関節組織には,マトリックス高分子が豊富に含まれ,粘弾性特性や摩擦力に対する潤滑機能を有している。しかし,関節組織に加わる機械的負荷が生理的限界を超えると,代謝バランスが崩れ,骨・軟骨組織が破壊される。しかし,骨・軟骨破壊機構における機械的負荷とエストロゲンの関連性についてはいまだ不明な点が多く,その詳細も明らかにされていない。また,変形性顎関節症の初期変化として関節潤滑機能の低下が報告されており,過度な機械的負荷が潤滑機能タンパク質を低下させ,それにより基質破壊をもたらすことも報告されている。このような基質破壊に対し,整形外科領域では高分子ヒアルロン酸の関節腔内注入が症状緩和に有用であると報告されている。しかし,顎関節における効果については現在のところ十分なエビデンスが存在しない。本稿では,これらの問題について従来の研究結果とわれわれの知見を参考に概説する。