1989 年 1 巻 1 号 p. 162-171
顎顔面頭蓋における形態的要素と筋活動との関係については, これまでに種々報告されているが, 総活動量や咬筋関与率などの機能的要素との間の相関性については不明な点が多い。そこで本研究は, これら両者の関係を明らかにすることを目的として行った。
被験者は, 健常有歯顎者10名とし, 各被験者に対して側方頭部X線規格写真 (セファロ) を撮影し, トレーシングペーパー上にトレースを行ったのち, 距離的項目と角度的項目に分けて計測を行った。また, タッピング運動時における側頭筋前部と咬筋浅層の筋電図活動を記録し, 両者の筋活動量の合計である総活動量と, その総活動量に占める咬筋活動量の比率である咬筋関与率を算出した。ついで, セファロにおける各項目と筋活動量に関する各パラメータとの相関係数を算出し, 両者間の相関の有意性について検討を行い, 以下の結果を得た。
1) 総活動量は, 下顎骨の大きさ, 各基準平面間の角度や上下顎前歯の突出度などの形態的要素の間に有意な相関が認められた。
2) 咬筋関与率は, 顎顔面頭蓋における形態的要素との関連性はほとんど認められなかったが, 歯の植立方向やその位置との間に有意な相関を有することが示唆された。
したがって, 閉口筋筋活動を診査, 分析する際には, 顎顔面頭蓋における形態的要素ならびに歯の植立方向やその位置などによって影響されることを十分考慮した上で行う必要のあることが示された。