抄録
最近5年間の顎関節症 (II, III, およびIV型) 患者613人に対して保存的治療の効果を評価した。このうち, 治療開始後2か月以内に症状の消失した37例 (CR群) と3か月以上経過しても改善の認められなかった18例 (NI群) を今回の研究の対象とした。両群間で, 治療前のMRI所見と症状および治療に対する効果が比較評価された。その結果, 以下の予後予測因子が明らかとなった。1. NI群はCR群より有意に高齢であった。 (51.2±12.5歳-34.4±17.9歳)。2. 顎関節症の病悩期間がCR群では2.3±3.0か月であったのに対し, NI群では6.9±6.0か月と有意に長かった。3. クレピタスはCR群よりNI群に多く認められた。4. 不可逆性関節円板前方転位の割合は, CR群では16.2%であったのに対しNI群では83.3%と有意に高率であった。5. CR群に比べNI群では関節円板がより大きく前方に転位していた。6. NI群では18人中14人のTMJDはIV型に分類された。一方CR群ではIV型は認められなかった。結論として, TMJDに対する保存的治療の効果は, 患者の年齢, 病悩期間, クレピタスの存在, 関節円板転位の程度に関係していた。それ故, 何の効果も得ることなく長期にわたって保存的治療を行うことを避けるためには, これらの要因を治療期間前に評価することが大切であると考えられた。