抄録
顎関節症 (TMD) 患者の寄与因子として, ストレスは大きな要因であるが, その評価法は不確実である。ストレスレベルの客観的評価法のなかでもChromogranin A (CgA) は新規ストレスマーカーとして期待されている。TMD患者のストレスの影響を客観的に評価する方法を確立することを目的として, 精神的ストレス負荷と運動ストレス負荷の2種類の負荷を顎関節症状のない健常成人ボランティア (対照群19名) に与え (クロスオーバー法), 唾液中CgAの変動を調査した。さらに, 精神的ストレス負荷時の唾液中CgAを対照群19名と臨床診査ならびにMR画像検査によりTMDと診断したTMD患者53名で比較した。唾液採取綿Salivette (Sarstedt Co., Germany) で, 負荷前, 負荷中, 負荷後の混合唾液を5分間隔で採取し, 測定した (ELISA法)。なお, 測定値は対数変換値を用いた。統計学的分析には反復測定による2元配置分散分析と単変量多重比較を用いた。対照群において2種類の負荷の比較では, CgA各時間値に有意差は認めなかった。対照群とTMD群の精神的ストレス負荷の比較ではCgA各時間値に有意差を認め, 2群間では有意差を認めなかったが, 多重比較では, TMD群では基準値と比較して負荷直前値および負荷中5分値は有意に高値を示した。TMD患者のストレス状態の客観的評価には唾液中CgA測定が有用であると考えられた。