1991 年 3 巻 2 号 p. 223-235
顎関節構成硬組織は咀嚼機構を反映し, 生涯を通じて咀嚼機構に対応した変化が生じる。しかしながら, 水平面における下顎頭長軸角は角度計測法自体が報告者によって異なり, 下顎頭長軸角の咀嚼機構における診断意義についても報告者によって様々であり, 結果は一致していない。さらに下顎頭長軸角の機能解剖学的検索はほとんどされていない。
そこで下顎頭長軸角の機能解剖学的意義を検討し, 顎関節の機能異常によって下顎頭長軸角に変化が出現する可能性があるかどうかを推測する目的で, 日本人晒浄頭蓋骨を用い, 下顎頭長軸角を含めた顔面頭蓋骨の3次元角度計測を行ったので報告する。
その結果, 下顎頭長軸角は咀嚼機構や顔面骨格形態の一部を反映しており, 特に下顎窩外側角や咬筋の付着方向と関連が認められた。また, 関節結節外側の位置の変化をきたすような状態 (加齢, 咬耗の進行や歯の喪失) 下では, 下顎頭長軸角は, それに追従して変化する可能性が示唆された。しかし, 個人における左右側あるいは健側と患側の比較は, ばらつきが大きいため困難であろうと思われた。