2022 年 20 巻 p. 225-247
未就学児の子育てをしながら日本語教育に携わる教師であるという共通点を持つ筆者の私たちは,仕事と子育ての経験に向き合うために,語り聴く場を設けた。そこで自身の経験を語り,他者の経験を聴くことを通して,経験の捉え直しや日本語教師である自分についての理解が促されていった。このプロセスは,日本語教師としての自身のあり方を見出すプロセスであった。本稿では,私たちのうち1名に焦点を当て,彼女が仕事と子育てに関わる経験の見つめ直しから,日本語教師としての自身のあり方を見出していったプロセスを明らかにした。彼女は,「子育て=大変」に反発する思い,同じように反発した20年前の出来事の捉え直しを経て,多様性が普通に存在する社会を作りたい,また学生が自分を理解するのをサポートしたいという思いから,日本語教育の実践において声の獲得を目指していることを見出していったのである。