2023 年 21 巻 p. 153-170
学習者の多様化に伴い一層の現場対応力が日本語教師に求められると同時にフィールドを跨いだキャリア形成にも注意が向けられている。また,日本語教育学を多くの人に開かれた存在として据え,日本語教育の知見を利用した活動の対象者として母語話者を含む動きも出てきている。日本語教育が関わる場は広がっていると言える。本稿は,様々なフィールドを体験し多様な学習者と向き合う中で,非母語話者のみならず母語話者への働きかけをも行った経験をもつ日本語教員の,自身の姿勢や価値観の変容等についての語りを記したものである。語りから,学習者を多面的に捉える姿勢の獲得により,フィールドや対象者が変わろうとも現場対応がスムーズにできるようになった様子が明らかになった。学習者を社会的な存在として捉え,自らの理念を守りつつも学習者に寄り添い現実的な対応をする姿も認められた。また,開かれた日本語教育学に携わる中で,社会的な視野や見地を深めていく様子も語られた。