2016 年 58 巻 10 号 p. 2241
【背景】本邦の食道癌診断治療ガイドラインでは,食道扁平上皮癌の内視鏡治療の適応病変はEP/LPM癌であり,MM/SM1癌は相対的適応,SM2癌は研究的段階と位置付けられている.表在型食道扁平上皮癌(SESCC)の深達度診断において拡大内視鏡は重要な役割を果たしている.拡大内視鏡分類には所謂,井上分類2)と有馬分類3)があるが,双方を基盤として2012年に日本食道学会でSESCCの拡大内視鏡分類(以下,JES分類)が作成された.また,JES分類の作成委員会でJES分類による深達度診断能を評価するために多施設前向き試験を行った.
【目的】JES分類におけるtype B血管の深達度診断能を評価する.
【方法】JES分類は上皮乳頭内毛細血管ループ(intra-epithelial papillary capillary loop:IPCL)の変化を認めない,もしくは軽微なものをtype A,血管形態の変化が高度なものをtype Bに分け,type Bは微細血管の走行や拡張の程度によりB1,B2,B3に細分類し,B1はループ様構造を認める異常血管,B2はループ様構造に乏しい異常血管,B3はB2血管径の3倍以上(60μm以上)と定義している.オリジナルのavascular area(AVA)は,ストレッチされたB2,B3血管で囲まれた領域と定義しているが3),JES分類ではB1を含むtype B血管で囲まれた領域とし,直径0.5mm未満をsmall,0.5~3mmをmiddle,3mm以上をlargeとした.2011年1月から2011年8月までにhigh volume center 5施設で内視鏡治療予定のSESCC 211例を前向きに登録し,治療前にJES分類のtype B細分類に基づいて深達度診断を行い,内視鏡治療後に得られた病理結果と対比した.
【結果】登録された211例全例でtype B血管が観察された.深達度の内訳はEP/LPM癌163例,MM/SM1癌28例,SM2癌20例であった.EP/LPMのうち159例(97.5%)にB1,4例(2.5%)にB2を認め,B3は認めなかった.MM/SM1癌のうち7例(25%)にB1,21例(75%)にB2を認め,B3は認めなかった.SM2癌のうち6例(30%)にB1,3例(15%)にB2,11例(55%)にB3を認めた.B1をEP/LPM癌,B2をMM/SM1癌,B3をSM2癌の指標とすると,感度/特異度/陽性的中率(PPV)/陰性的中率(NPV)はB1で97.5%/72.9%/92.4%/89.7%,B2で75.0%/96.2%/75.0%/96.2%,B3で55%/100%/100%/95.5%であった.
【考察】B1血管の診断能は高く,EP~SM1癌をSM2癌に過大評価したケースはなかった.Type Bの正診率はover allで90.5%であり,JES分類はSESCCの深達度診断に有用と言えるが,type B2のMM/SM1癌に対する感度とPPVは75%に留まり,SM2癌対するtype B3の感度が低かった.Type B2やAVAを囲む血管の再評価が今後の課題である.
本論文は2012年に日本食道学会で作成したJES分類の英語版を掲載した論文で,type B血管の診断能を前向きに評価した結果も合わせて示している.本論文で示されたデータはpreriminaryな結果として位置付けることができる.Type B2には炎症と腫瘍の評価が難しい血管など,ループの壊れたB1と言えない血管がすべて分類され,検者によりB2血管の認識が異なる場合がある.Type B3の判断も,腫瘍血管か,腫瘍で圧排された上皮下血管なのか判断が難しい場合がある.B3血管の感度の低さはSM2癌の浅読みに繋がる可能性があり注意を要する.本論文では検討されていないがAVAの評価にも検者間のバラツキが多く,今後はこれらの課題を克服するべく,さらなる検討のうえ,version upされることが望まれる.