日本消化器内視鏡学会雑誌
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内視鏡的除去により救命できたブロムワレリル尿素による急性薬物中毒の1例
井原 勇太郎 檜沢 一興江崎 幹宏
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2016 年 58 巻 11 号 p. 2294-2295

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【症例】

患者:36歳,女性.

主訴:意識障害.

現病歴:摂食障害と鬱病で近医を受診後,15時に処方薬(ロラゼパム,バルプロ酸,オランザピン,クロナゼパム,フルニトラゼパム,ブロマゼパム)を内服して就寝すると家族に告げた.翌朝8時に意識不明で発見され当院救急搬送された.

来院時所見:JCS300,脈拍64/分,血圧46/31mmHg,呼吸数20/分,瞳孔5/5mmで対光反射なく,四肢冷感強く挫滅創を認めた.

搬入時検査所見:尿蛋白3+,尿潜血3+,白血球10,570/μL,BUN 16mg/dL,Cr 1.3mg/dL,CK 1,256IU/L,BS 115mg/dL,CRP 0.1mg/dLで,動脈ガスではpH 7.24,pCO2 41torr,pO2 285torr,BE -9.8mmol/Lと代謝性アシドーシスを認めた.

搬入後,無脈性電気活動の状態で心肺蘇生法を開始し心拍再開したが,呼吸循環不安定でノルアドレナリン持続投与と気管挿管が必要だった.半日以上経過したことより胃洗浄は不要と判断したが,四肢挫滅創を認め意識障害が遷延していた.さらに胸部X線写真で左上腹部に不透化性陰影を認め(Figure 1),胸腹部CTを施行した結果,胃内に7cmの高信号構造物を認めた(Figure 2).薬物残渣と判断し胃洗浄を施行したが排泄困難であり,その後の家族の報告にて18箱162個の鎮静剤ウット(ほぼ致死量のブロムワレリル尿素15gを含有)の服薬が判明した.直ちに内視鏡を施行した結果,餅状に固形化した白色の薬物塊を確認し,ネット鉗子で回収除去した(Figure 3-a,b).翌朝には意識改善し第15病日に退院となった.

Figure 1 

胸部レントゲン所見.左上腹部に不透化性陰影(↑)が認められた.

Figure 2 

CT所見.胃内に貯留する7cm大の高信号構造物が確認された.

Figure 3 

a:上部消化管内視鏡所見.胃内に黒色調の液体が貯留しており,吸引するとさらに活性炭と思われる黒色泥状物が出現した.さらに吸引していくと白色の泥状物が出現した.b:洗浄したところ餅状に固形化した白色の薬物塊を確認でき,吸引ならびにネット鉗子で除去した.

【解説】

ウットは,ブロムワレリル尿素を主成分とする鎮静剤であり,過剰摂取では意識がはっきりしている状態でも突然の心停止や呼吸不全を起こす危険がある.本例は致死量に近い,15gのブロムワレリル尿素を服用していたことが判明した.経口摂取されたブロムワレリル尿素は,消化管から速やかに吸収され,効果発現時間は20~30分であるが,酸性溶液にほとんど溶解しないことから,大量摂取時には胃液中では不溶性の薬物塊を形成する特徴がある.その結果,持続的に薬剤の吸収が起こることがあり,大量服薬例では,内視鏡的あるいは外科的に残存薬剤を除去することが必要とされる 1).ブロムワレリル尿素は,代表的なX線不透過性薬剤であり,胃内に薬剤塊があると単純X線でも描出されるが,不透過医薬品検出にはCT検査が単純X線検査よりも優れているとされている 2).X線不透過の医薬品は,ブロムワレリル尿素以外にも,抱水クロラール,徐放薬,重金属などが知られているが 3),本例のような,X線やCT所見を伴う意識障害例に遭遇した場合には,本症を念頭に,直ちに内視鏡的摘除を試みる必要がある.

医学中央雑誌にて「ブロムワレリル尿素」,「胃」をkey wordに検索した結果,ブロムワレリル尿素の内視鏡像が記載された報告は1例のみであった 1).症例は22歳の男性で意識障害で搬送された.X線で胃内に薬物塊と思われる高吸収を認め,内視鏡にてペースト状になった薬物塊を認め吸引,除去された.その後意識障害は徐々に改善しており,ブロムワレリル尿素の積極的な除去が推奨されている.

2013年にウットなど第2類医薬品もネット販売が解禁された.ウットをネットで検索してみれば,甘美な宣伝文句とともに価格競争を煽るサイトまで目に付く.処方箋なしで自由にかつ大量に購入できることから,今後も事故が続く危険性があると思われる.内視鏡医として,意識障害を来す疾患として本症例のような症例があることを熟知しておくべきであり,診断に至った場合,速やかに内視鏡摘除することが重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:江崎幹宏(エーザイ(株),AbbVie合同会社,田辺三菱製薬(株))

文 献
 
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