日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
Covered self-expandable metallic stentによる良性胆管狭窄の治療
安田 一朗 土井 晋平馬淵 正敏岩下 拓司向井 強
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2016 年 58 巻 12 号 p. 2432-2438

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要旨

良性胆管狭窄に対する治療は,現在,内視鏡治療が第一選択として広く行われている.従来,狭窄部のバルーン拡張及びプラスチックステント留置が標準的な手技として行われてきたが,難治例に対するcovered self-expandable metallic stent留置の有用性が最近数多く報告され,注目されている.良性胆管狭窄に対するCSEMS留置の適応,手技の実際について解説するとともに,治療成績に関する最近の報告について紹介する.

Ⅰ 緒  言

良性胆管狭窄に対する内視鏡治療は,外科手術と比較して簡便に行うことができ,低侵襲で入院期間も短いことから,現在多くの施設で第一選択として行われている.内視鏡治療の基本は,胆管狭窄部へのステント留置であり,従来プラスチックステントが使用されてきたが,長期留置によっても十分な狭窄の改善効果が得られず治療に難渋する症例もしばしばみられた.こうした難治例に対して,段階的にステントの留置本数を増やしていく方法が2001年Costamagnaら 1)によって報告され,その後現在に至るまで一定の評価が得られている 2)~5).しかし,この方法は複数回の内視鏡処置が必要で,処置が繰り返し長期に及んだ場合,患者のコンプライアンスの低下(治療放棄)や費用対効果の面での懸念があった.

これに対して,self-expandable metallic stent(SEMS)は口径が大きいため,複数本のプラスチックステント留置と同等の狭窄拡張効果が1回の処置で得られる可能性があり,その有効性が一時期待された 6),7).しかし,実際には,ステントワイヤの圧迫による胆管上皮のステント内腔への過形成性増生によりステントが早期に閉塞してしまうことがあり,また,ワイヤが胆管壁に埋没するため,一度留置したら二度と抜去できないといった重大な問題点もあった.そのため現在では,SEMSは良性狭窄においては使用すべきではないという結論に至っている.

しかし,われわれはSEMS表面に膜を張ったcovered-SEMS(CSEMS)であれば,ステントのメッシュ間隙からの上皮の増生を防ぐことができ,ワイヤも胆管壁に埋没しないため抜去も可能なのではと考え,難治性良性胆管狭窄に対してCSEMSの一時的留置を行い,その有効性を2003年に世界で初めて報告した 8).その後,良性胆管狭窄に対するCSEMSの有効性を示す結果が,世界中で数多く報告されている.

本稿では良性胆管狭窄に対するCSEMS留置の適応,手技の実際について解説し,さらに最近の治療成績に関する報告について紹介する.

Ⅱ 適  応

良性胆管狭窄の原因には,Table 1に示すようなものが挙げられる 9)

Table 1 

良性胆管狭窄の原因.

CSEMS留置の適応となるのは,プラスチックステント留置では狭窄の改善が得られなかった難治例,あるいは難治が予想される症例であり,原因別では慢性膵炎に難治例が多いとされている 3),10)

当施設では,単回のプラスチックステント留置で改善が得られる良性胆管狭窄も多く経験しているので,まず初回は7Fr.のプラスチックステントを留置し,3カ月後にいったん抜去して造影を行い,狭窄部の造影剤通過が不良な症例に対してCSEMS留置を検討するようにしている.

また,CSEMSは構造上,肝門部や肝内胆管に留置すると対側あるいは分枝胆管を閉塞してしまうため,肝門部/肝内胆管狭窄例やステント留置が肝門部にかかってしまうことが予測される症例は対象外となる.すなわち,肝門部まで一定の距離(通常2cm以上) 11)がある肝外胆管狭窄例が対象となる.

なお,CSEMSの良性胆管狭窄に対する使用は,現時点では適応外使用であり,保険で認められていない.したがって使用する際は,各施設の倫理委員会の承認を受けたうえで,自由診療として行うべきである.

Ⅲ 手技の実際

1.準備

前処置および検査前投薬は通常のERCPと同様であり,準備する処置具も悪性胆道狭窄に対する内視鏡的胆道ステンティングで用いるものと同じである.

留置前に行っておく最も重要なことは,狭窄の原因・状態に関する情報をできるだけ集めておくことであり,CT,MRI,EUS所見などにおいて悪性狭窄を示唆する所見の有無を検討し,狭窄部位や狭窄長についても事前にある程度把握しておくべきである.こうした情報により,追加で準備すべき処置具や症例に適した形状・長さのステントをあらかじめ選択して準備しておくことができる.悪性胆管狭窄の可能性が完全には否定できない場合には,ステント留置時に経乳頭的ブラシ細胞診や生検を前もって行う必要があり,またステント留置前あるいは留置後にEUS-FNAや経皮的針生検などによる病理診断を行うことも検討しておく.

2.手順

①まず,通常のERCP手技で胆管造影を行い,狭窄部にガイドワイヤを挿入する.狭窄が高度であったり,屈曲あるいは捻じれていたりするとガイドワイヤの挿入が難しいことがあるが,当施設では先端の回転性がよく,先端に力がよく伝わるガイドワイヤ(VisiGlide2:オリンパス社)を使用している.

②ガイドワイヤが狭窄部を越えたら,狭窄の上流を造影し(必要であれば下流も造影),狭窄の部位と長さを正確に把握する.

③次いで内視鏡的乳頭切開術(EST)を行う.切開長については特にこだわってないが,少し切れ込みを入れておけば,ステントの拡張力で切り口はその後徐々に適当な程度まで広がっていくと考えられるため,それほど大きく切開する必要はないと考えている.

④臨床経過,画像所見などから悪性胆管狭窄を完全に否定できない場合は,必要に応じて経乳頭的ブラシ細胞診,生検を行う.

⑤狭窄が高度な場合や慢性膵炎例などで狭窄が硬い場合はバルーン拡張を行う.使用するバルーンは通常の胆管拡張用バルーンであるが,初回はバルーン径のあまり大きなものは使用せず,6mmのものを使用している.また最近,先端チップが先細り状でガイドワイヤとの段差が非常に小さいバルーンが市販されており(REN:カネカ社),狭窄部での引っ掛かりが少ないため,挿入がより容易となっている.

⑥次いでCSEMSを留置するが,手技については通常の悪性胆管狭窄における方法と全く同じで,特別な注意やコツはない.ステント上端が肝門部にかからず,狭窄部上流を十分にカバーし,かつ下端が乳頭から10~15mm程度出る長さのステントを準備し,上端からステントを展開していく.CSEMSは外筒を引き始めてから実際にステントが展開し始めるまでにかなり強い抵抗を感じる製品が多く,外筒を強く引いた際にデリバリーシステム全体が抜けてしまい,予定したよりも下方でステントが展開し始めてしまうことがあるため,ステント上端が少し展開した時点で再度位置合わせをして,上端・下端両方の位置を確認しながらステントを展開していく.

⑦ステントを完全に展開したら,ステント全体の形状と狭窄部の拡張具合を確認する.この段階でステントが完全に拡張している必要はないが,スコープの吸引によりステント上流の造影剤が十二指腸へ良好に排出されることを確認する.ステントが拡張不良で,造影剤の流出も悪い場合は,胆管拡張用バルーンでステントを拡張する.

3.CSEMS

現在市販されているSEMSには大きく分けてlaser-cut type(金属の筒をレーザーでジグザグにワイヤ状に切り抜いたもの)とbraided type(複数の金属ワイヤを編み込んだもの)があるが,laser-cut typeは構造上ジグザグが胆管壁に引っ掛かって抜去しづらいため,引っ張っても筒状のまま伸びて抜去しやすいbraided typeの方が良性狭窄には適していると考えられる.また,膜がステント全体を覆っているfully-covered typeと両端が膜で覆われていないpartially-covered typeの比較については,partially-covered typeでは膜を張っていないステント上端部分のワイヤが胆管壁に埋没して抜去しづらくなるため,fully-covered typeの方が適している.ただし,fully-covered typeでは留置中の逸脱や迷入が起こりやすく,1/3以上の症例で逸脱や迷入が経験されたとの報告もあるため 12)~15),逸脱予防の引っ掛かりを付けたステント 14),16)やCSEMS内にdouble-pigtail型のプラスチックステントを置いて逸脱を防ぐ試み 15)も報告されている.

また,ステント性能については,radial force(拡張力)が強い方が狭窄部の拡張効果は期待できそうであるが,radial forceが強いステントはaxial force(ステントが長軸方向に直線化しようとする力)も強いことが多く,胆管の屈曲が強い例ではステントが屈曲に追従せず直線化してしまい,ステント上端が胆管壁にめり込んでドレナージ不良となったり,胆管を損傷して出血,穿孔など思わぬ偶発症が発生したりといった懸念がある.したがって現在当施設では,胆管が比較的直線的な症例ではWallFlex(Boston-Scientific社)を,屈曲が強い症例ではNiti-S SUPREMO(TaeWoong Medical社)を使用している(Figure 1, 2).後者はさらにステント下端にlasso(紐)が付いていて,引き抜きやすい構造になっている.

Figure 1 

アルコール性慢性膵炎に伴う胆管狭窄.

下部胆管に狭窄をみとめ,膵頭部に石灰化を伴う(a).狭窄部を6mm径胆管拡張用バルーンで拡張したのち(b),7Fr. プラスチックステントを留置した(c).プラスチックステントの2カ月間留置を2回繰り返したが,狭窄の改善は不十分で胆管内の造影剤排出は不良であったため(d),fully-covered SEMS(WallFlex:Boston-Scientific社)を留置した(e).留置3カ月後にスネアで抜去したところ(f),下部胆管狭窄は改善していた(g).

Figure 2 

後腹膜線維症に伴う胆管狭窄.

中部胆管に高度屈曲を伴う狭窄をみとめたため(a),Niti-S SUPREMO(Taewoong Medical社)を留置した(b).狭窄部分のステントはやや拡張不良であったが,胆汁の流出は良好であった(c).また,このステントには引き抜き用のlasso(紐)が付いている.

4.留置期間

CSEMSの留置期間については,これまでの報告では概ね3~6カ月であるが 10),留置が長期になると抜去しづらくなる可能性があるため,当施設では初回は3カ月で抜去し,胆管造影によって狭窄の改善度を評価している(Figure 1).

Ⅳ 治療成績

最近,retrospeciveではあるが,100例を超える多数例での治療成績の検討や,プラスチックステントとの比較対照試験の結果が報告されている.

Iraniら 17)は,管外性狭窄75例(うち慢性膵炎に伴うもの73例),管内性狭窄70例(術後や総胆管結石に伴う狭窄),計145例の良性胆管狭窄に対するCSEMSの治療成績をretrospectiveに解析しており,97%の症例でCSEMSの抜去が可能,留置期間中央値26週で66%の症例に狭窄改善が得られ,偶発症発生率は17%(胆管炎,膵炎,ステント逸脱など)であったと報告している.また,管外性狭窄の狭窄改善率は管内性狭窄よりも有意に低かった(48% vs. 87%, P=0.004)としている.Saxenaら 18)も,123例のCSEMS留置例をretrospectiveに解析しており,ステント入れ替え回数平均1.2回,ステント留置期間平均24.4週間で81%の症例において狭窄が改善したと報告している.なお,偶発症については,ステント逸脱が9.7%と最も多く,次いでステント閉塞,胆管炎,膵炎がみられたと報告している.

Haapamakiら 19)は,慢性膵炎に伴う良性胆管狭窄60例を対象として,3本の10Frプラスチックステント3カ月間留置後に6本のプラスチックステントを3カ月留置する群と1本のCSEMSを6カ月留置する群のRCTを行っている.その結果,ステント抜去後2年の狭窄非再燃率は,90%と92%(P=0.405)と同等であったと報告している.また,Coteら 11もプラスチックステントとCSEMSの狭窄改善率を比較するRCT(プラスチックステントに対するCSEMSの非劣勢試験)を行っている.このstudyではプラスチックステントの交換は3カ月ごと(交換の際にステントの径と数を増やす),CSEMSの交換は6カ月ごとに,狭窄が改善するまで行っており,12カ月後のCSEMS群の狭窄改善率は92.6%で,プラスチックステント群の85.4%に劣らないという結果であった.なお,内視鏡処置回数はプラスチックステント群で平均3.24回であったのに対して,CSEMS群では2.14回と有意に少なかった(P<0.001).

Ⅴ 結  語

プラスチックステント留置で狭窄が改善しない難治性良性胆管狭窄に対して,CSEMS留置は有効な治療法と考えられる.ただし,CSEMSの良性胆管狭窄への使用は,現時点では適応外使用となるため,適応を十分に吟味し,倫理委員会の承認など必要な手順を踏んで行うべきである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:安田一朗(オリンパス,メディコスヒラタ)

文 献
 
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