日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
イレウス管併用ダブルバルーン小腸内視鏡により治療した食餌性イレウスの1例
木村 圭一 岩崎 哲也山田 拓哉岩崎 竜一朗榊原 祐子中水流 正一石田 永山口 真二郎尾下 正秀三田 英治
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2016 年 58 巻 9 号 p. 1420-1425

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要旨

89歳,女性.腹痛,嘔吐の精査加療目的で入院となった.CT検査で小腸異物による食餌性イレウスが疑われた.イレウス管挿入を行い減圧を図ったが異物の自然排出は認めず,ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行し異物(梅の種子)を回収した.その後,偶発症なく退院となった.イレウス管併用ダブルバルーン小腸内視鏡検査はトリプルバルーンメソッドとして報告されている.今回,トリプルバルーンメソッドにて食餌性イレウスを加療し得た症例を経験した.

Ⅰ 緒  言

食餌性イレウスはイレウス全体の0.3-3%程度と比較的稀な疾患であり 1),保存的加療で改善する例は少なく,ほとんどの症例で外科的治療が必要とされている.近年,小腸内視鏡の登場により様々な小腸疾患に関して内視鏡治療が行われている.今回,高齢者においてイレウス管併用ダブルバルーン小腸内視鏡検査(トリプルバルーンメソッド)を施行し食餌性イレウスを加療し得た症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:89歳,女性.

主訴:腹痛,嘔吐.

既往歴:2004年 子宮頸癌(広汎子宮全摘術及び放射線治療施行),2005年 直腸膣瘻(人工肛門造設術施行),2005年 傍人工肛門ヘルニア嵌頓(腸管切除術施行),2006年 傍人工肛門ヘルニア(固定修復術施行),2012年 傍人工肛門ヘルニア再燃(メッシュにて修復術施行).

家族歴・嗜好歴:特記すべきことなし.

現病歴:2013年5月中旬より嘔吐と腹痛が出現した.症状改善せず経口摂取が困難となったため,精査加療目的に入院となった.

入院時現症:身長:140.0cm,体重:31.0kg,体温:37.0℃,血圧:156/83mmHg,脈拍:81回/分,意識清明,眼瞼結膜貧血あり,眼球結膜黄染なし,頸部リンパ節触知せず,心音整・心雑音なし,呼吸音清・ラ音なし,腹部は平坦・軟・腹部全体に自発痛及び圧痛あり,筋性防御なし,反跳痛なし,腸蠕動音亢進なし,肝・脾触知せず,左上腹部に人工肛門あり,前脛骨浮腫軽度あり.

臨床検査成績:正球性正色素性貧血,軽度の腎機能障害及び低栄養を認めた(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

腹部単純CT検査:小腸の広範な拡張と腸内容物の貯留を認め(Figure 1-a),閉塞部先端に13mm大の高吸収域を認めた(Figure 1-b).

Figure 1 

腹部単純CT検査.

a:小腸の広汎な拡張と腸管内容物の貯留を認める(赤矢印).

b:閉塞部先端に13mm大の高吸収域を認める(白矢印).

臨床経過:病歴聴取にて梅干しを毎日摂取しており,腹部単純CT検査上,梅の種子と思われる高吸収域が閉塞部先端に認められたため,梅の種子による食餌性イレウスと判断した.16Frのイレウス管(スーパーデニスチューブ,COVIDIEN社製)を挿入して腸管の減圧を図った上で,絶飲食,補液及び抗生剤投与にて加療を開始し,異物の自然排出を期待した.第2病日には排ガス・排便共に認め,腹痛も消失した.第4病日に腹部単純CT検査を施行したところ,小腸の拡張の改善を認め,イレウス管先端に異物は認めなかった.イレウス管造影を施行したところ,造影される範囲内の小腸に狭窄を認めず,異物も明らかではなかった.また,大腸への造影剤の流出も確認し,イレウスは解除されたと判断した.同日にイレウス管をクランプし,第5病日に経口摂取を開始した.症状の再燃を認めなかったため第7病日にイレウス管を抜去したが,第8病日に腹痛と嘔吐が再度出現した.腹部単純CT検査を行ったところ,再度小腸の広範な拡張を認め,異物が排泄されず更に肛門側に残存していたため,食餌性イレウス再燃と判断した.

イレウス管を再留置し再度,絶飲食とし補液および抗生剤投与を開始した.イレウス管が狭窄部位付近まで先進し,腸管拡張がある程度改善したことを確認した上で,第14病日にイレウス管を併用したダブルバルーン小腸内視鏡検査(Double Balloon Enteroscopy:以下,DBE)(EN-450T5,フジノン社製)を施行した.イレウス管に沿わせる形でDBEを経口的に挿入していった.腸管のたわみが生じた際は,イレウス管のバルーンを拡張状態にして適度に牽引し口側小腸を短縮させることで,比較的容易にDBEを先進させることが出来た(Figure 2-a,b).イレウス管がスコープと干渉し引き込まれた際は,適宜イレウス管を牽引する操作を加えた.

Figure 2 

造影検査.

腸管のたわみが生じた際は(赤矢頭)(a),イレウス管を適度に牽引することにより腸管が短縮出来た(b).

イレウス管の先端までスコープを進めた上で造影を施行したところ,小腸の一部に数cmに渡って狭窄を認め,同部位に異物の嵌頓を認めた(Figure 3).内視鏡下にも腸管狭窄を確認し(Figure 4-a),その少し肛門側に異物を認めた.同部位には全周性に浅い潰瘍を認め,異物による圧迫もしくは放射線性腸炎の影響が考えられた(Figure 4-b).吸引などで異物を少しずつ口側に移動させた上でスネアにて回収し,異物は梅の種子であることが確認出来た.異物回収後にイレウス管を抜去し,第15病日に経口摂取を開始したが腹痛等の再燃を認めず,第19病日に退院となった.

Figure 3 

造影検査.

小腸の一部に数cmに渡って狭窄を認め,同部位に異物の嵌頓を認めた.

Figure 4 

DBEによる異物除去.

下部空腸に腸管狭窄を確認し(a),その少し肛門側に異物を認め,同部位には全周性に浅い潰瘍を認めた(b).

Ⅲ 考  察

食餌性イレウスは上述の如くイレウス全体の0.3-3%を占めるにすぎない.食餌性イレウスの治療に関しては,まず保存的にイレウス管を挿入し腸管減圧による異物の自然排出を期待するが,イレウス管挿入が長期にわたる場合や腸管穿孔を疑わせる所見を認める場合は外科的治療が必要とされている 2)

本邦では植物種子による腸閉塞は32例報告されており(Table 2 3)~6)(医中誌,1991~2014年,「種子」「腸閉塞」,会議録を除く),そのうち11例が放射線性腸炎を伴っていた.植物種子は硬い非吸収性の塊であり本来であれば食餌性イレウスの原因とはなりにくいが,本症例のように複数の開腹歴,放射線治療後の影響や炎症性腸疾患,悪性腫瘍の存在等により腸管に癒着や狭窄のような通過障害を有する症例において植物種子が閉塞の原因となり得る.なお,本症例では異物回収の際に生検は施行しなかったが,低用量アスピリンやNSAIDsの服用歴はないこと,複数の開腹歴を有することや腸管狭窄をきたしていた部位が放射線照射範囲に合致することから,腸管狭窄の原因は複数の開腹歴及び放射線性腸炎の影響と判断した.

Table 2 

植物種子による腸閉塞.

植物種子の嵌頓による腸閉塞の診断にはCTが有用であり,梅の種子はsoft tissue densityの異物像としてとらえられる 7).治療としては自然排出1例を除き外科的治療を選択されている.本症例は複数回の開腹手術歴を有し,かつ骨盤内への放射線照射も施行されており,高度の腸管癒着が予想された.外科的治療も検討したが,高齢かつ上記理由により手術に難渋することが予想されたため,イレウス管を留置し十分に減圧を行った上で経口的DBEを施行し内視鏡的異物摘出術を施行する方針とした.

この方法はトリプルバルーンメソッドとして,2005年に高橋らにより最初に報告されている 8)~10)

トリプルバルーンメソッドの長所として適宜X線透視で確認しながらイレウス管を牽引することにより腸管の短縮が可能となり,経口的DBE挿入が容易となることと,脱気や腸管内容物の吸引が可能であることが挙げられる 8).一方,短所としてイレウス管牽引時の圧負荷,過度のバルーン拡張による腸管裂傷の危険性がある.腸管に対して愛護的な牽引と圧負荷をかけることや疼痛の有無を観察することが偶発症の回避に重要である 5)

小腸内視鏡にて治療し得た小腸異物の報告は本邦では6例報告されている 11)~13)が,いずれの症例もイレウスは生じておらず(Table 3)(医中誌,1991~2014年,「小腸内視鏡」「異物」,会議録を除く),食餌性イレウスに対して内視鏡的に保存的加療し得た本邦での報告例は認めなかった(医中誌,1991年~2014年,「食餌性イレウス」「小腸内視鏡」,会議録を除く).

Table 3 

小腸内視鏡にて治療し得た小腸異物の本邦報告例.

本症例のようにイレウス合併症例においては,イレウスが解除されていない状態では経口的DBEによる内視鏡的異物摘出術が困難と考える.本症例ではイレウス管を先行して挿入することで腸管内の減圧を図った後,安全に経口的DBEを挿入することができた.また,前述のごとくイレウス管に適宜牽引をかけることで経口的DBEの挿入は容易であった.

本症例は食餌性イレウスに対して,トリプルバルーンメソッドで加療し得た初めての症例である.トリプルバルーンメソッドは処置が必要な場合にも有用であり,従来,外科治療が必要とされるような食餌性イレウスでも,本症例のように保存的加療を行うことができた.

Ⅳ 結  語

梅の種子により発症した食餌性イレウスに対して,トリプルバルーンメソッドにて加療し得た1例を経験した.近年,経口的DBEは徐々に一般化され施行可能な施設も増えている.患者背景や病状に応じてトリプルバルーンメソッドを選択にいれることで,外科手術を回避できる症例も増えると考えられた.

本症例は第91回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会(2013年11月)で報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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