2016 年 58 巻 9 号 p. 1440-1452
表在型食道癌の約6割を占める0-Ⅱc型病変は,EP~SMまでの幅広い深達度を示し,深達度評価が最も重要な病型である.深達度診断をする際には,まず,通常観察で病変の形態,可動性などからおおよその深達度を予測する.T1a-MM以深への浸潤が疑われる場合には,凹凸の目立つ部位に対して拡大観察やEUSを施行し,最深部の深達度,浸潤幅,浸潤様式などを予測する.微小浸潤例ではこの手法を用いても,浸潤を確信することは難しい症例も存在するが,通常観察と拡大観察の間に乖離がある病変,陥凹内に厚みのある病変,typeRを示す病変では,血管変化からは深達度評価が難しい場合があり,EUSが有用である.いずれの方法にも単独では限界があり,総合的に判断することが正確な診断を行う上で重要である.
NBIなどのmodalityの発達に伴って,食道表在癌の発見例が増加し,低侵襲治療である内視鏡治療への期待が高まっている.しかしながら,食道癌は早期から転移をきたすため,正確な診断を行い慎重に治療方針が立てられなければならない.なかでも,0-Ⅱc型病変は表在癌の約6割を占め,かつEP~SMまで幅広い深達度を示し,深達度の評価が最も重要な病型である.筆者らは,治療前の深達度診断を1)通常内視鏡2)NBI拡大内視鏡3)超音波内視鏡を併用して行っており,本論文では0-Ⅱc病変の観察方法,深達度診断の手順について述べる.
食道癌取扱い規約第11版 1)による食道表在癌深達度亜分類(Figure 1)では,食道表在癌は粘膜癌と粘膜下層癌の2つに分けられ,さらに各々が3つに亜分類されている.粘膜癌は,癌が上皮層にとどまり,基底膜を超えない上皮内癌(T1a-EP),癌が粘膜固有層に浸潤する粘膜固有層癌(T1a-LPM),癌が粘膜筋板に接するか浸潤する粘膜筋板癌(T1a-MM)の3つに分けられている.粘膜下層癌の浸潤については,粘膜下層を3等分し,浅層までの浸潤をSM1,中層までの浸潤をSM2,深層までの浸潤をSM3としている.食道壁全層が切除される外科切除標本ではSM層を3等分できるが,内視鏡治療例では切除範囲が粘膜下層全体とならないため,粘膜下層の深達度を粘膜筋板の下縁からの浸潤距離で決めており,200μmまでをSM1癌,それ以上の浸潤をSM2以深癌として取り扱っている.

食道表在癌深達度亜分類.
食道表在癌では,病変の肉眼所見と深達度,深達度と脈管侵襲・リンパ節転移頻度の間に密接な関係がある 2).癌浸潤が粘膜固有層までにとどまるT1a-EP・LPM癌ではリンパ節転移がほとんどないのに対し,粘膜筋板あるいは粘膜下層の浅層に浸潤するT1a-MM・SM1癌では,10%程度にリンパ節転移を認め,癌が粘膜下層の中1/3より深く浸潤するSM2・3癌では30~50%にリンパ節転移を認めるとされている 3).よって,治療方法を選択するにあたっては,NBI拡大観察やEUSを併用して,可能な限り正確な深達度診断を行うことが求められる.
しかし,浸潤態度や浸潤様式などにより,深達度診断が難しい症例が存在することも事実であり,現状での深達度診断の目標は,①脈管侵襲やリンパ節転移がなく,局所治療で根治可能なT1a-EP・LPM癌(内視鏡治療の適応症例),②リンパ節転移頻度が低率で,局所治療の適応拡大が検討されるT1a-MM・SM1癌(内視鏡治療の相対的適応症例),③リンパ節転移を高頻度に認めるため,リンパ節郭清を含めた外科切除が必要なSM2・3癌の3群に分けることである.
観察時には,食道内をよく水洗し,粘液を除去してから観察を始める.病変を発見し,深達度の評価を行う際には,送気・吸引により食道壁の伸展度を変えて,動的に観察することが必要である.通常観察で,まず陥凹の深さ,陥凹内の凹凸,辺縁隆起の有無など病変の形態を観察する.病変の硬さや可動性については,伸展による病変の形態変化(Figure 2)や病変内へのヒダの入り方,畳目模様の入り方などに注目する.

伸展度の違いによる病変の形態変化.
a:弱伸展時 発赤陥凹面の中心部に白色調の変化として捉えられる一段深い陥凹部分に硬さが感じられる.
b:伸展時 空気量を増やしても,白色調の陥凹面は伸展が得られにくく,周囲の発赤面よりも深達度が一段深い可能性が予想される.
深達度診断が最も問題となるMM以深への浸潤が疑われる症例では,NBI併用拡大観察にて血管形態を観察し,部位別の深達度診断を行う.さらに,MM以深へ浸潤が疑われる部位をターゲットとして細径プローブによる深達度診断を行っている.
a.EP/LPM 陥凹がごく浅いため,弱伸展では陥凹と認識できるが,強伸展では段差が不明瞭となり,陥凹の判断が難しい病変である.陥凹底は平坦あるいは細顆粒状の凹凸を示す.T1a-EP/LPM癌で問題となるのは,癌の浸潤が粘膜固有層の中層を超えているか否かであり,超えて浸潤する部分が広くなると,畳の目ヒダが増減を示すようになる.病変の部位により深達度診断が難しい場合もあるが,95%程度は正診が可能である.
b.MM/SM1 病巣の陥凹底に顆粒~粗大顆粒状の隆起を有し,辺縁に盛り上がりを伴うような明瞭な陥凹性病変である.粘膜筋板以深に浸潤する症例であっても,病変全体でMM/SM1に浸潤している症例は少なく,病巣内の一部でMM・SM1へ浸潤する症例が大半を占める.従って,粘膜筋板以深への浸潤を疑う症例については,まず最深部の検索を行う.通常観察でのポイントは,陥凹内および陥凹辺縁の隆起,あるいは陥凹内のより深い陥凹部分を確認することである.また,粘膜筋板まで癌浸潤すると畳の目ヒダが途絶するため,畳目模様の変化にも注目すべきである.
T1a-MM/SM1癌になると,約10%にリンパ節転移がみられるため,治療方針を決定するうえで,深達度診断は非常に重要であり,通常観察でMMへの浸潤が疑われる部位には,拡大観察を行ってB2血管やa vascular area(AVA)の有無を確認する.また,EUSを併用し,粘膜筋板への浸潤の有無を確認する.微小浸潤例では,拡大観察やEUSを行っても浸潤の所見がとらえられず,浅く診断してしまうことも多く,MM/SM1癌の正診率は70%程度である.
c.SM2以深 病巣の周囲に明瞭な盛り上がりを伴う深い陥凹で,陥凹底に結節状の隆起を認める.病変によっては陥凹全体が厚くみえるような症例もあり,一見して動きが悪いと感じられる病変である.SM浸潤部では管腔伸展時に弧状の変形を示し,蠕動に伴う動きは,周囲より遅れるのが特徴である.SM2癌では30~50%にリンパ節転移を認めることから,外科切除や化学放射線治療の適応を検討すべきである.通常観察でSM2への浸潤が疑われる場合はEUSを行って粘膜下層への浸潤を確認し,治療方針を決定する.
2.拡大内視鏡診断通常観察や非拡大NBI観察にて,陥凹内の隆起やより深い陥凹部,陥凹辺縁の隆起など,浸潤を疑う部分を認めた場合は,積極的にNBI併用拡大観察を行い,血管形態を観察する.
日本食道学会分類 4),5)では,境界病変でみられる血管をTypeA,癌でみられる血管をTypeBとし,TypeBをB1,B2,B3に亜分類している(Figure 3).B1は拡張・蛇行・口径不同・形状不均一のすべてを示すループ様の異常血管,B2はループ形成に乏しい異常血管であり,B3は高度に拡張した不整な血管を示す.また,TypeB血管で囲まれた無血管もしくは血管が疎な領域をA vascular area(AVA)とし,AVAの大きさから0.5mm未満をAVA-small,0.5mm以上3mm未満をAVA-middle,3mm以上をAVA-largeと表記している.拡大観察にて血管形態を観察することで,ある程度深達度診断が行えるように,TypeB1はT1a-EP/LPM癌,TypeB2はT1a-MM/SM1癌,TypeB3はT1b-SM2以深癌におおむね該当するよう分類されているため,浸潤を疑う部分をよく観察し,部位別の深達度診断を行う.実際には,黒フード(MB46,オリンパス)を拡大スコープ(H260Z,オリンパス)先端にやや長めに装着し,病変を画面の上にもってきて接写する.このとき,可能な限り脱気し,病変部の食道壁がスコープのレンズに平行になるよう調節し,補助レバーで拡大倍率を上げた際に視野全体で焦点があうようにするとよい.

食道表在癌拡大内視鏡分類.
a:typeA.
b:typeB1.
c:typeB2.
d:typeB3.
手順としては,まず病巣内のどの部分を観察しているのか確認しながら,部位ごとに中拡大から徐々に倍率を上げていき,病巣全体の血管形態を観察し,診断を行う.その後,通常観察で気になった部位やB2血管を認めた領域について,最大倍率で詳細に観察を行う.内視鏡治療を考慮するような表在型の病変では,病巣の大部分でB1血管を認めることが多く,通常観察でMM以深の可能性を予測した領域に,B2血管がみられるか否かを確認する.
3.EUSによる深達度診断通常観察でMM以深が疑われる場合には,細径プローブによる超音波内視鏡を実施している.0-Ⅱc型食道癌に対する深達度診断は,主に20MHzの高周波プローブを用いており,食道壁は通常9層に描出される.9層に分離したうちの4層目(4/9層)で比較的低エコーにみえる層がsmの固有エコーを表し,3層目(3/9層)が粘膜筋板(MM)を反映する層と考えられている.深達度診断は3/9層の走行に注目して行う.
・EP/LPM癌:3/9層が保たれるもの
・MM/SM1癌:3/9層に不整や中断を認めるが,低エコー腫瘤が4/9層に及ばないもの
・SM2/SM3癌:3/9層が断裂し,低エコー腫瘤が4/9層に及ぶもの
として判定している.実際には,midazolamを投与して適度な鎮静を行い,食道蠕動につながる嚥下運動をできるだけ抑制して,食道壁が静止するように環境を作るのが望ましい.鎮痙剤の使用は必須だが,食道癌の好発部位は胸部中部食道(Mt)領域であり,心臓の真裏に位置することから,拍動があると観察しづらいため,その意味から筆者らはブスコパンではなくグルカゴンの静注を用いている.内視鏡を挿入し,病変を確認後,病変上の粘液や付着物を水洗し除去する.診断には,基本的には脱気水充満法を用いている.鉗子孔以外から脱気水を注入できるスコープ(Q260Z/Q260J,オリンパス)を用いて,鉗子孔から細径プローブを挿入する.勢いよく脱気水を注入すると,二次的に食道蠕動を起こすため,水勢は弱めに設定するのがよい.胃内の空気や液体を十分に吸引し,スコープを食道内の病変の位置まで引き抜く.観察したい部分に垂直にプローブがあたるように,鉗子口のある7時方向へ,スコープをrotationし,適量の脱気水で食道壁を伸展させて,scanを開始する.細かい気泡はアーチファクトとなるため,吸引孔をあててあらかじめ丁寧に吸引する.スコープを固定し,プローブを前後させて,病巣内の部位別の診断を行う.その後,通常観察や拡大観察で注目した領域に対して,詳細に観察を行う.腫瘍は,低エコー像として描出されるため,最深部と考えられる部位の低エコー像の下端と粘膜筋板を想定した第3/9層の高エコーとの関係をよく観察する.その際,注入する脱気水の量が不十分で食道壁の伸展が弱いと腫瘍エコーはより分厚く描出されるため,深読みにつながりやすい.食道蠕動の抑制と適切な壁の伸展が,正確な診断には重要である.
また,EGJに近い腹部食道では,脱気水の保持や食道壁の伸展が難しいため,ソフトバルーン法 6)が有用である.医療用スキンをスコープ先端に装着し,バルーン内に適量の脱気水を注入して,細径プローブで超音波操作を行う.この場合,容易に脱気水が保持されるが,適度に食道壁を伸展するようバルーンをあて,押しつけすぎないことが正確な像を得る上で,重要である.
実際には,通常観察で病変の形態,硬さなどからおおよその深達度を予測し,その後血管変化を観察することで,部位別の深達度診断を行う.なかでもMM以深への浸潤が疑われる場合には,凹凸の目立つ部位に対して,拡大観察や細径プローブを用いてEUSを行い,最深部の深達度はもちろんのこと,浸潤幅や浸潤様式などを予測する.浸潤範囲が2mmを超える症例では,この手法による深達度診断成績は良好である 7).しかし,浸潤範囲が狭くその距離が2mm以下の浸潤では,通常観察,拡大観察,EUSのいずれを行っても,浸潤を確信することは困難な場合が多い.
拡大観察は,腫瘍表面から約100μmまでの範囲に存在する血管から腫瘍の浸潤を類推する方法であり,厚みのある病変では浸潤を示す血管がみられない場合が多い.そのほか,病変の形態と拡大観察所見に乖離がある病変,陥凹内の凹凸が目立つ病変,拡大観察でtypeRを示す病変では,細径プローブによる評価が有用とされている 8).
<症例1> Mt領域後壁の発赤調のごく浅い陥凹性病変.陥凹内部には非癌上皮の取り残しが見られ,弱伸展でわずかな陥凹が認識できる0-Ⅱc型病変である.通常観察ではT1a-EPと診断.拡大観察では,病巣全体にB1血管を認め,総合的に0-Ⅱc,T1a-EPと診断した.ESDを施行し,病理学的に,17×14mm大のT1a-EP癌と診断された(Figure 4).

症例1 淡い発赤調の0-Ⅱc型病変.
a:通常観察 後壁に淡い発赤調の病変を認め,弱伸展でわずかな陥凹が認識できる.
b:NBI観察 通常観察でとらえられた発赤調の変化は,Brownish areaとして茶色く描出される.
c:ヨード染色 通常観察で淡い発赤としてとらえられた領域はヨード不染を示し,陥凹内部に非癌上皮の取り残しを認める.
d:NBI併用拡大観察 病巣全体にB1血管を認める.
e:病理組織所見:T1a-EP癌と診断された.
<症例2> Mt領域右壁の発赤調で辺縁にわずかに盛り上がりを伴う陥凹性病変.陥凹辺縁には縁取るように盛り上がりを認め,小病変でありながら,存在感のある0-Ⅱc型病変であり,通常観察ではT1a-MMの可能性を疑った.拡大観察では,陥凹面にはB1血管とループがほどけかかったB2血管が混在しており,T1a-LPM癌あるいは粘膜筋板に接するT1a-MM癌を考えた.EUSでは3/9層が途絶えているようにみえ,T1a-MM/T1b-SM1と診断した.総合的にT1a-MMと診断したが,小病変であり,step up therapyを前提にESDを施行した.病理学的には,厚みのある腫瘍であったが,粘膜筋板には接しておらず,7×5mm大のT1a-LPM癌と診断された(Figure 5).

症例2 辺縁に盛り上がりを伴う0-Ⅱc型病変.
a:通常観察 右壁に7mm大の発赤調陥凹性病変を認める.陥凹の辺縁には縁取るように盛り上がりがみられる.
b:NBI観察 通常観察で発赤調の陥凹面としてみられた部分はBrownish areaとして観察される.
c:NBI併用拡大観察 陥凹面にB1血管とループがほどけかかった細径のB2血管を認める.
d:通常観察(弱伸展時)空気量を少なくすると,病変部の腫瘍の厚みが目立つ.
e:ヨード染色 陥凹面はPCsign陽性の不染を示す.
f:EUS 粘膜筋板を想定する3/9層が一部で途絶えているようにみえ,T1a-MM/T1b-SM1と診断した.
g:病理組織所見 厚みのある腫瘍であったが,粘膜筋板には接しておらず,T1a-LPM癌と診断された.
<症例3> Lt領域後壁の発赤調の浅い陥凹性病変.病変の左口側よりに黄白色調の陥凹内隆起を認める0-Ⅱc型病変である.通常観察では,陥凹内隆起の部分でT1a-MMへの浸潤を疑った.拡大観察では,隆起部で口径不同の目立つ横走するB2血管を認め,隆起以外の浅い陥凹面には一様にB1血管を認め,通常観察を裏付ける所見と考えた.EUSでは,陥凹内隆起部で腫瘍が筋板を下方へ押し下げるようにみえ,T1a-MMと診断した.総合的にT1a-MMと診断したが,進行胃癌の術前であったため,診断的治療としてESDを選択した.病理学的には,治療前に最深部と予測した陥凹内隆起の部分で粘膜筋板に浸潤しており,38×25mm大,T1a-MM,ly0,v1と診断された(Figure 6).胃癌の術中所見として腹膜播種を認め,術後化学療法が検討されたが,MDSの合併のため施行できず,体力の低下から誤嚥性肺炎を繰り返し,ESD後6カ月で他癌死された.

症例3 陥凹内に顆粒状隆起を伴う0-Ⅱc型病変.
a:通常観察 後壁に発赤調の浅い陥凹性病変を認める.陥凹内には黄白色調の顆粒状隆起を伴っている.
b:NBI観察 通常観察で淡い発赤調の変化としてとらえられた部分はBrownish areaを示す.
c:ヨード染色 同部はヨード不染を示す.
d:NBI併用拡大観察 病変口側の発赤面の拡大像ではB1血管を認めた.
e:NBI併用拡大観察 黄白色調の隆起部では口径不同の目立つB2血管を認めた.
f:EUS 陥凹内の隆起部では腫瘍が粘膜筋板を下方へ押し下げるように描出され,T1a-MMと診断した.
g:病理組織所見:陥凹内隆起部分で粘膜筋板に浸潤しており,T1a-MM,ly0,v1と診断された.
<症例4> Mt領域右後壁よりの発赤調の陥凹性病変.病変内口側よりに白色調の隆起と肛門側よりに厚みの目立つ部分を有する0-Ⅰ+Ⅱc型病変である.とくに,肛門側よりの厚みと凹凸の目立つ領域に注目し,拡大観察を施行した.同部位には緑色の径の太いB3血管を認め,SM2と予測した.EUSでは,同部位でSM深部におよぶ腫瘍エコーを認めたが,筋層との境界エコーは明瞭に描出され,SM2と診断.総合的にSM2と診断したが,高齢で慢性腎不全の併存あり,患者の強い希望でESDを選択した.病理学的には,2つの隆起部分でSMに浸潤しており.21×16mm大,T1b-SM2以深(2,100μm),ly0,v0と診断された(Figure 7).全身状態も芳しくなく,追加治療は選択できなかった.

症例4 陥凹内にくびれのない隆起を伴う0-Ⅰ+Ⅱc型病変.
a,b:通常観察 右後壁よりに発赤調の陥凹性病変の内部に白色調のくびれを伴う柔らかい隆起とその肛門側にくびれのない隆起を認める.
c:NBI観察 通常観察で淡い発赤面としてみられた部分は,淡いBrownish areaを示す.
d:NBI併用拡大観察 肛門側の隆起部には緑色調のB3血管を認める.
e:EUS 肛門側の隆起部の観察では粘膜下層深層におよぶ低エコー腫瘤を認める.
f:病理組織所見 表層から2,100μmの厚みを有し,SM2以深,ly0,v0と診断された.
NBI拡大観察を用いても,正診が困難な場合がある.血管所見と病理診断の一致率をTable 1に示す.B1血管は,感度,特異度ともに良好であるが,B2血管の特異度の低さ,B3血管の感度の低さが目立つ.Figure 8のようにB2血管には組織学的バリエーションがあり,B2様の血管が観察されても,深達度を反映した血管変化ではない場合もある(詳細は文献9を参照されたい).また,微小浸潤例,浸潤部の表層に付着物や糜爛がみられる例,導管内進展からのSM浸潤例,腫瘍先進部が表層の癌と離れた構造を示し,浸潤が表層の血管変化に現れていない例などは,拡大観察単独では正診が困難である.

NBI拡大所見と病理診断の一致率.

B2と認識されていると考えられる血管の組織学的パターン.
a:腫瘍胞巣間の,間質を走行する血管.
b:Bulky growthな腫瘍を取り囲む血管.
c:乳頭状増殖を示す隆起性病変に出現する血管.
d:炎症に伴って出現した血管.
一方EUSは,微小浸潤例や導管内伸展例の診断の難しさ,またリンパ濾胞や食道腺,retention cyst,脈管などの変化が癌と混在する場合の浸潤部の評価が難しいとされる 8).
いずれのmodalityにも限界があるため,通常観察と併せて,総合的に判断するのがよいと考えている.
<症例5 微小浸潤例> Lt領域前壁の発赤調の浅い陥凹性病変.病変の中央部でやや厚みが目立つ印象をうけるが,ほとんど凹凸のみられない0-Ⅱc型病変であり,通常観察ではT1a-LPMと診断.拡大観察では,病変全体にB1血管を認め,通常観察を裏付ける所見と考えた.ESDを施行し,病理学的には大きさ34×16mm,SM浸潤幅1mmのT1b-SM2癌と診断された.浸潤幅が狭いことに加えて,SM浸潤部の表層には糜爛の形成があり,これらが浸潤を予測できなかった理由と考えられた(Figure 9).

症例5 微小浸潤例.
a:通常観察 前壁に1/2周性の発赤調の浅い陥凹性病変を認める.陥凹内には小びらんや白苔の付着を認めるも,目立った凹凸はみられない.
b:NBI観察 白色光で発赤調の領域としてとらえられた部分は,Brownish areaを示す.
c,d:NBI併用拡大観察 びらん部分では血管は視認できないが,観察範囲にはB1血管のみを認めた.
e:切除検体 1点のSM浸潤を除き,T1a-LPMまでにとどまる病変であった.
f:ヨード染色像 病変部はヨード不染を示し,病理学的にSM浸潤と診断された部位は矢印のびらんを示す部分に対応していた.
g:病理組織所見 SMに300μm浸潤する癌でT1b-SM2,ly0,v0と診断された.SM浸潤部の表層はびらんと浅い癌の構造が覆っており,拡大観察で浸潤が予測できなかった原因と考えられた.
<症例6 浸潤部が表層の癌と離れた構造を示す例> Ut領域左壁の辺縁隆起を伴う発赤調の陥凹性病変.陥凹内には凹凸が目立ち,一見してSM浸潤を疑う0-Ⅱc+Ⅱa型病変である.拡大観察では,陥凹面にB1およびB2血管を認めるのみで,SM浸潤を示す血管変化が捉えられなかったが,EUSでは,SM層深部に浸潤する低エコー腫瘤を認め,総合的にSM2と診断した.EMRを施行し,病理学的には11×8mm大,T1b-SM2,ly0,v0と診断された.組織像は,浸潤部が表層の癌と離れた形をとっており,深部への浸潤を示す血管変化が捉えられなかったと考えられる(Figure 10).

症例6 浸潤部が表層の癌と離れた構造を示す例.
a:通常観察 辺縁隆起を伴う発赤調の陥凹性病変を認める.陥凹内には凹凸が目立ち,SM浸潤が疑われる.
b:NBI観察 白色光で発赤陥凹面としてみられた部分はBrownish areaを示す.
c:ヨード染色 陥凹内部はヨード不染を示す.
d:NBI併用拡大観察 陥凹面にB1および細いB2血管を認めるのみで,SM浸潤を示す血管変化は捉えられなかった.
e:EUS SM層深部に浸潤する低エコー腫瘤を認めた.
f:病理組織所見:T1b-SM2,ly0,v0と診断された.浸潤部が表層の癌と離れた形をとっており,拡大観察で深部への浸潤を示す血管変化が捉えられなかったと考えられた.
拡大観察やEUSは,比較的客観性の高い診断手法であり,十分な画像が得られれば,硬さや可動性など主観的に判断すべき要素の多い通常観察よりも馴染みやすい.しかし,いずれの方法にも単独では限界があり,通常観察と併せて総合的に判断することが正確な診断を行う上で重要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし