日本消化器内視鏡学会雑誌
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ヘリコバクター・ピロリ菌陰性胃癌:その特徴と内視鏡所見
山本 頼正 藤崎 順子大前 雅実平澤 俊明五十嵐 正広
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2016 年 58 巻 9 号 p. 1492-1503

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要旨

ヘリコバクター・ピロリ菌は慢性的な胃炎を惹起し,それに引き続き胃癌を引き起こす要因のひとつである.本邦では衛生環境の改善や,除菌治療の普及により,その感染率は徐々に低下している.しかし最近,ピロリ菌未感染の胃癌が報告されており,その頻度は全胃癌の0.42-5.4%であり,おおよそ1%である.ピロリ菌陰性胃癌の診断基準は,報告によって様々であり,いまだ確立されていない.われわれは,ピロリ菌陰性胃癌の必要最小限の診断基準として,内視鏡所見,病理所見,血清ペプシノーゲン法の2つ以上で陰性で,尿素呼気テストまたは血清IgG抗体が陰性,かつ除菌歴がない事を提案する.ピロリ菌感染以外の胃癌の原因としては,生活習慣,ウイルス感染,自己免疫性疾患,遺伝的疾患などいくつかの要因が関連することが知られているが,ピロリ菌陰性胃癌の主な原因はいまだ不明である.

ピロリ菌陰性胃癌は,未分化型癌の頻度が高く,主に印鑑細胞癌であり,比較的若年者の胃中―下部の褪色調病変で,平坦・陥凹型の肉眼型が多い.一方で分化型癌は,未分化型癌に比して相対的に高齢者の胃中-上部に認める胃底腺型胃癌であり,粘膜下腫瘍様や陥凹型の肉眼型である.ピロリ菌陰性胃癌を早期診断することで,内視鏡切除などの低侵襲治療が可能となるため,内視鏡医はピロリ菌陰性胃癌の臨床所見,内視鏡所見について十分理解しておくことが重要である.

Ⅰ はじめに

International Agency for Research on Cancerの報告によると,全世界において胃癌の罹患数は第5位,死亡数は第3位で,年間に100万人が胃癌に罹患している 1)

Helicobactor pylori(以下ピロリ菌)は1983年に胃・十二指腸潰瘍の原因菌として発見され 2),1994年には世界保健機構により“definite carcinogen”として認定された 3)

ピロリ菌は,胃への持続的な感染により,長期間の胃炎をもたらし,ひいては胃癌を引き起こす.Uemuraらの前向きコホート研究では,ピロリ菌感染者からは胃癌が発生したが,非感染者からの発生は認めなかった 4).またFukaseらの前向き研究では,早期胃癌内視鏡治療後のピロリ菌除菌治療により,異時多発の胃癌発生が3分の1に抑制されることが示された 5).これらの研究結果から,本邦では2013年よりピロリ菌感染症に対する除菌治療が保険収載され,ピロリ菌感染者に対して広く除菌治療が行われるようになった.このように除菌治療の普及と,衛生環境の改善により,本邦ではピロリ菌感染率が急速に低下しており 6),ここ10年間の胃癌死亡率は,年間3-4%ずつ低下している 7)

一方で,最近,ピロリ菌未感染の患者に発生した胃癌の報告があり,ピロリ菌陰性胃癌と言及されている 8),9).ピロリ菌感染に関連しない胃癌としては,自己免疫性胃炎 10),Epstein-Barrウイルス感染 11),遺伝的要因 12)に関連する病変も報告されている.噴門部癌の中には,ピロリ菌と関連しない病変も含まれ,欧米ではその頻度が増加しており 13),本邦においても増加傾向であることが報告されている 14).しかし噴門部癌を含む食道胃接合部癌は,バレット食道腺癌との鑑別が困難な症例も多いため,食道胃接合部癌に関しては今回は言及しない.

近い将来,ピロリ菌感染率の低下に伴い,胃癌全体の頻度も低下することで,相対的にピロリ菌陰性胃癌は増加するかもしれない.現時点で,ピロリ菌陰性胃癌に関する診断基準,疾患頻度,病因,臨床所見,内視鏡所見は明確にされていない.本稿では,ピロリ菌陰性胃癌の実際の症例を提示し,最近の研究についてレビューした.

Ⅱ ピロリ菌陰性胃癌の診断基準と頻度

ピロリ菌陰性胃癌は,ピロリ菌の既往感染がなく,ピロリ菌未感染の胃に発生した胃癌である.ピロリ菌感染の判定にはいくつかの方法があるが,内視鏡所見による判定,病理所見による判定,臨床検査所見による判定の3つに分けられる.

内視鏡所見では,胃粘膜の萎縮を認めず,ピロリ菌未感染を示す所見であるRAC(regular arrangement of collecting venule) 15)を前庭部の粘膜表面に認める場合,ピロリ菌未感染と判定できる(Figure 1).

Figure 1 

ピロリ菌未感染胃の内視鏡所見.

a:前庭部.

b:体部小弯.

c:体部大弯.

d:regular arrangement of collecting venules(RAC).胃粘膜萎縮は認めず,粘膜表層にRACを認める(黄色矢印).

本邦では,通常内視鏡を用いた胃粘膜萎縮の評価には,木村-竹本分類 16)が一般的に用いられている.この分類では,胃粘膜萎縮の内視鏡所見を粘膜の色調と,毛細血管の透見像の違いとして認識し,粘膜萎縮の程度を判定する.また最近,木村―竹本分類による胃粘膜萎縮の評価は,組織所見や血清ペプシノーゲンと相関することが示されている 17)

ピロリ菌陰性を示す内視鏡所見としては,線状発赤,点状出血,胃底腺ポリープが,ピロリ菌除菌後粘膜を示す所見としては,斑状発赤が報告されている 18).このように本邦では,内視鏡所見はピロリ菌感染状態の診断に有用であるが,一方で,欧米のガイドラインでは,通常内視鏡所見から,胃粘膜萎縮や腸上皮化生を正しく診断することはできないとされ,生検を用いて診断することが推奨されている 19)

病理所見による判定は,胃の生検組織を用いたUpdate Sydney System 20)により評価され,ピロリ菌未感染で萎縮のない粘膜は,萎縮(0),腸上皮化生(0または1),単核球浸潤(0または1),好中球浸潤(0),ピロリ菌(0)となる.Update Sydney Systemでは,前庭部から2カ所(幽門から3cmの大弯と小弯),胃角から1カ所,体部から2カ所(胃角から口側4cmの小弯と体中部大弯)の合計5カ所からの生検採取が推奨されている.これらの生検により,ピロリ菌感染状態と慢性胃炎の正確な評価ができる.

これら内視鏡所見と病理所見は,胃粘膜萎縮と腸上皮化生を評価することで,現在のピロリ菌感染だけでなく,感染の既往も診断することができる 18),21),22)

臨床検査所見による判定には,尿素呼気テスト,血清または尿中抗体検査,便中抗原,迅速ウレアーゼテストなどが含まれるが,各々の検査には,ピロリ菌感染の偽陰性があるため 23),ピロリ菌感染陰性の判定には2つ以上の検査での確認が望ましい.これらの臨床検査を用いた場合,現在のピロリ菌感染は可能であるが,未感染か既往感染かの区別はできない.

血清ペプシノーゲン(血清PG)は胃粘膜の萎縮性変化に関連し,ペプシノーゲンⅠ(PGⅠ)とペプシノーゲンⅡ(PGⅡ)から構成されている 24),25).萎縮性胃炎の進展に伴い,PGⅠとPGⅡがともに減少するが,通常PGⅠはPGⅡに比してより減少するため,PGⅠ低下と,PGⅠ/Ⅱ比の低下は胃粘膜における萎縮性変化のよい指標になる 26).PGⅠ≤70とPGⅠ/Ⅱ比≤3.0の患者はPG法陽性,萎縮性変化ありと判定される 27).一方,PGⅠ>70とPGⅠ/Ⅱ比>3.0はPG法陰性,萎縮性変化なしの判定となる.このように血清PGレベルの測定は,非侵襲的に胃粘膜萎縮を判定できる.しかしながら,血清PG値は除菌後に改善するため,ピロリ菌陽性患者は,除菌12-15カ月後にはピロリ菌未感染患者と同様な血清PG値になることが報告されている 28).このため,血清PG法でのピロリ菌既往感染の診断は困難であり,ピロリ菌除菌歴の聴取は必須である.

ピロリ菌陰性胃癌として報告された文献における,各々の診断基準と頻度をTable 1に示す.

Table 1 

ピロリ菌陰性胃癌の診断基準と頻度.

これらの報告のうち,2つは厳密な基準で診断されており 29),30),これらは内視鏡所見,病理所見,2つ以上の臨床検査所見のすべてでピロリ菌陰性で,さらに血清PG法陰性と除菌歴がないことである(Table 2).この厳密な診断基準では,ピロリ菌陰性胃癌の頻度はそれぞれ0.42% 29)と2.3% 30)であった.他の5つの報告では,ピロリ菌陰性胃癌の頻度は,0.66-5.4% 8),9),31)~33)であった.Yoonらの報告は,5.4%と最も高い頻度であるが,胃粘膜萎縮の評価に血清PG法において,高度萎縮例(PGⅠ≤30かつPGⅠ/Ⅱ≤2.0)のみ除外しているため,軽度萎縮の既往感染例が含まれている可能性がある.また韓国からの報告のため,地理的な違いもあるかもしれない.

Table 2 

ピロリ菌陰性胃癌の診断基準.

Kakinokiらの報告では,3.11%の頻度であり,これは本邦の報告で最も頻度が高い.切除標本でのupdate Sydney Systemによる評価で,ピロリ菌陰性胃癌が診断されているため,既往感染症例を含んでいる可能性がある.

他の3つの本邦からの報告は,前述した厳密な診断基準を満たさないが,それぞれ0.66% 31),1.31% 33),2.0% 8)の頻度であり,厳蜜な診断基準での頻度と同様であった(Table 1).

これらの結果から,ピロリ菌陰性胃癌の臨床的な診断には,厳密な診断基準までは必要ない可能性があり,前述した3つの報告に基づき,必要最小限の診断基準をTable 2に示した.

このピロリ菌陰性胃癌に関する,必要最小限の診断基準は,内視鏡所見,病理所見,血清PG法の2つ以上で陰性で,尿素呼気テストまたは血清IgG抗体が陰性,かつ除菌歴がないことである.この必要最小限の診断基準を満たした場合,ピロリ菌陰性胃癌と臨床的に診断してよいものと思われる.

これらの報告をまとめると,本邦におけるピロリ菌陰性胃癌の頻度はおおよそ1%程度と考える.スクリーニング内視鏡検査における胃癌の発見率は0.45%であることから 34),スクリーニング検査でピロリ菌陰性胃癌を発見することは,極めてまれではあるが,内視鏡医は偶然に遭遇する可能性があるピロリ菌陰性胃癌の特徴をよく理解しておくことが必要である.

Ⅲ ピロリ菌陰性胃癌の病因

ピロリ菌感染以外の胃癌の原因として,生活習慣,ウイルス感染,自己免疫機序,遺伝子異常などが挙げられる.

・生活習慣,ウイルス感染,自己免疫機序

胃癌に関連する生活習慣としては,塩分摂取 35),喫煙 36),高血糖 37),コレステロール低値 38)などがあるが,いずれも単独で胃癌の原因となるものではない.

ウイルス感染では,Epstein-Barr(EB)ウイルスが胃癌と関係することが知られている 39).EBウイルスに関連する胃癌は,形態的にnasopharingeal lymphoepitheliomaに似ており,それらはlymphoepithelioma-like carcinoma(LELC)と呼ばれている 40).EBウイルス陽性のLELCは,全胃癌の1-4%に認め 11),41),EBウイルス陰性の胃癌と比較して胃上部の未分化型癌が多く,ピロリ菌感染率が低いと報告されている 42).しかしEBウイルス陽性胃癌の多くは萎縮性胃炎を伴っているため 43),一般的にピロリ菌陰性胃癌の単独の因子とは考えられていない.

Pernicious anemia(PA)は,胃体部粘膜の萎縮をおこす自己免疫性胃炎である 44).PA患者は胃癌のリスクが高いことが報告されている 10).本邦ではPA患者のピロリ菌感染率は低く 45),PAはピロリ菌陰性胃癌の病因の一つである.

最近のメタアナリシスでは,胃癌に対するPA患者の相対危険度は6.8と報告されている 46).しかしながらPA患者における胃癌発生頻度は0.27人/年であるため,PAがピロリ菌陰性胃癌に寄与する割合は低いと考える.

・遺伝子変異と家族集積性

欧米では,胃癌患者の10%は,遺伝的素因を持つ家族集積性を示している 12).さらに細胞接着因子であるE-cadherinをコードするCDH1遺伝子の変異はdiffuse-typeの胃癌の要因であり 47),hereditaty diffuse gastric cancer(HDGC)の患者はCDH1遺伝子変異を伴うことがよく知られている 48)CDH1遺伝子変異に関連した生涯における癌の発生リスクは,胃癌において70%以上で,女性では乳癌の発生も40%以上である 49)

欧米では,CDH1遺伝子変異を認めた場合,HDGCに関連する印鑑細胞癌が,多巣性に胃全体に発生するため,予防的な胃全摘が推奨されている 50).また切除された胃の病理所見では,噴門を含む胃上部に,多発する4mm以下の印鑑細胞癌を認めることが示されている 51)

本邦の家族性胃癌症例におけるCDH1遺伝子変異の検出率は,ヨーロッパと比較して低いことが報告されている 52),53).その検出率の差は,解析方法の違いによる可能性も指摘されている.最近,本邦においてCDH1遺伝子変異を持つ家族性胃癌家系が報告され 54)CDH1遺伝子変異のスクリーニングにおいては,multiplex ligation-dependend probe amplication analysisで行うべきと提案されている.またInternalinal Gastric Cancer Linkage ConsortiumによるHDGCのコンセンサスガイドラインの改訂版では,胃癌の家族歴がない40歳未満のdiffuse-typeの胃癌症例には,CDH1遺伝子変異の検査が推奨されている 55).将来的に,本邦においてもピロリ菌未感染のdiffuse-typeの若年胃癌患者にはこの検査が必要になるかもしれない.

最近の本邦におけるgenome-wide association studyで,diffuse-typeの胃癌の散発症例において,前立腺幹細胞抗原(prostate stem cell antigen,PSCA)遺伝子の多型が同定され,そのPSCA遺伝子多型の,diffuse-typeの胃癌に対するオッズ比は1.62であった 56)

この研究では,ピロリ菌との関連は検討していないが,このPSCA遺伝子多型はintestinal-typeの胃癌とは有意な相関がないことが示されている.またPSCA proteinは主にdiffuse-typeの胃癌の発生母地とされている,胃粘膜の増殖帯がある,粘膜中層に有意に限局して発現している 57).われわれの検討では,ピロリ菌陰性胃癌のほとんどは,胃粘膜中層の増殖帯に限局した未分化型癌(印鑑細胞癌)であった 30).ピロリ菌陰性の未分化型癌と,PSCA遺伝子多型の関連について興味深いが,さらなる研究が必要である.

その他の遺伝子異常としては,APC遺伝子変異によるfamilial adenomatous polyposis(FAP)に合併する胃癌がある 58).本邦ではFAP患者の一般人口と比較した胃癌の相対危険度は3.43倍であり,大腸癌の210倍,十二指腸癌/小腸癌の250倍と比較すると低いことが報告されている 59).しかしながらFAP患者における胃癌での平均死亡年齢は48.3±13.9歳であり,2000年における本邦全体の胃癌の平均死亡年齢の73歳よりはかなり若年である 60).このため,FAP患者に対しては,大腸の検査だけでなく,胃癌に対する定期的な内視鏡サーベイランスが推奨されている 61)

最近,上山らにより新しい胃癌のタイプとして胃底腺型胃癌(主細胞優位型)が報告された 62).これは胃底腺の主細胞に分化する腺癌で,ペプシノーゲンⅠの染色が陽性になることが特徴である.胃底腺型胃癌は,慢性胃炎や腸上皮化生がない胃粘膜の深部から発生することが推測されており,その頻度は全胃癌の中で1.6%で 63),ピロリ菌陰性胃癌のひとつとしても注目されている.胃底腺型胃癌は,腫瘍径が小さくても粘膜下層浸潤しているものが多いが,細胞増殖能は低く,悪性度は高くないことも報告されている 62).しかしながら,一部には脈管侵襲を伴う高悪性度の病変も報告もある 63),64).胃底腺胃癌と通常の胃癌の比較では,胃底腺型胃癌はβ-cateninの蓄積とCTNNB1やAXIN遺伝子変異で特徴づけられており,Wnt/β-catenin pathwayの活性化との関連が示唆されている 63)

ピロリ菌陰性胃癌の病因は,いまだ十分に解明されていないが,今後は遺伝子変異などの視点からの原因究明が期待されている.

Ⅳ ピロリ菌陰性胃癌の臨床像と内視鏡所見

ピロリ菌陰性胃癌の特徴について,いくつか報告があるが,病変の頻度が低いことから,いずれも少数例での報告である 8),9),29)~33).それら報告された臨床所見の特徴をTable 3に示す.これらのうち4つの報告では,平均年齢が60歳未満と相対的に若く,性差は少なく,男女比はほぼ1:1であった.組織型に関しては,未分化型が最も多かった.内視鏡切除症例が多く含まれているためであるが,進行癌より早期癌が多く報告されている.

Table 3 

ピロリ菌陰性胃癌の臨床所見.

われわれの検討では,ほとんどのピロリ菌陰性胃癌は胃の中-下部の褪色調の陥凹性病変であり,組織型のほとんどが印鑑細胞癌であった(Figure 2 30).現在,未分化型早期癌の標準的な治療は外科手術であるが,もし20mm以下で潰瘍所見がない未分化型早期癌が発見された場合は,患者の生活の質を維持するために,臨床研究としてではあるが,内視鏡的粘膜下層剥離術での治療も可能である 65)

Figure 2 

未分化型早期癌.

36歳男性.自覚症状はなく,健診の内視鏡検査で早期胃癌を診断された.ピロリ菌未感染胃で(a,b),病変は体上部大弯のわずかな褪色調陥凹で,腫瘍径は11mmであった(c).ESDでの治療が行われ,病理所見では,粘膜に限局する印鑑細胞癌であった.

一方で,Yaitaらの報告では 33),ピロリ菌陰性胃癌の14例中8例は分化型癌であり,その8例中5例は胃底腺型胃癌であった.Ueyamaらの胃底腺型胃癌10例の報告では 66),平均年齢66.6歳で,未分化型癌と比較して高齢であり,10例中6例は胃の上部で,残り4例は胃の中部であり,胃の下部には認めなかった.胃底腺型胃癌の肉眼所見は,粘膜下腫瘍型(60%)と平坦・陥凹型(40%)の2つに分類されている.特徴的な内視鏡所見として,色調は褪色調で(70%),表面に枝分かれした拡張血管を認め(50%),病変の周囲粘膜に萎縮性変化を伴わない(90%)ことである(Figure 3).

Figure 3 

胃底腺胃癌.

62歳男性,自覚症状はなく,健診の内視鏡検査で早期胃癌を診断された.ピロリ菌未感染胃で(a,b),病変は噴門部後壁の白色調のわずかに陥凹する病変であった.病変粘膜表面に拡張した血管を認め,腫瘍径は10mmであった(c).ESDでの治療が行われ,病理所見では,粘膜に限局する胃底腺型胃癌であった.

またピロリ菌陰性胃癌において,極めてまれではあるが,分化型癌も報告されている 8),9),29)

他の胃癌としては,PA患者に発生した胃癌や,FAP,HDGC等の遺伝子異常を伴う患者に発生した胃癌がある.Figure 4にPA患者の胃癌を,Figure 5にFAP患者の胃癌を示す.それら2名の患者は,ピロリ菌未感染であり,2名とも内視鏡的粘膜下層剥離術で治療でき,胃切除術を避けることができた.そのような疾患の頻度は低いが,内視鏡検査の前に病歴をしっかりと聴取し,早期に診断することが重要である.最後に,報告されているピロリ菌陰性胃癌の内視鏡所見をTable 4に要約した.

Figure 4 

悪性貧血患者の胃癌.

54歳男性,患者は5年前から悪性貧血と診断されていた.悪性貧血の定期検診として内視鏡を受け,早期胃癌を診断された.胃体部の粘膜萎縮は認めたが,ピロリ菌未感染であった(a,b).病変は前庭部大弯の陥凹性病変であった(黄色矢印).ESDでの治療が行われ,病理所見では,粘膜に限局する印鑑細胞癌であった.

Figure 5 

家族性大腸腺腫症患者の胃癌.

40歳女性,患者は2年前から家族性大腸腺腫症と診断されていた.定期検診としての内視鏡検査受け,早期胃癌を指摘された.ピロリ菌未感染胃で(a,b),胃内に多発する胃底腺ポリープを認めた(b).病変は体上部大弯の白色調陥凹性病変で,腫瘍径は24mmであった(c).ESDでの治療が行われ,病理所見では,粘膜に限局する高分化型腺癌であった.

Table 4 

ピロリ菌陰性胃癌の内視鏡所見.

Ⅴ 結  論

ピロリ菌陰性胃癌の頻度はおおよそ全胃癌の1%と考えられる.しかしながら,ピロリ菌感染率の低下により,相対的には,全胃癌における頻度は増加する可能性がある.

われわれの施設では,ピロリ菌陰性胃癌症例の多くは健康診断の内視鏡検査で発見されており,早期診断された症例では,内視鏡切除が可能であった.しかしピロリ菌陰性胃癌の病因や臨床経過は,いまだはっきりしていないため,今後のさらなる研究が必要である.

ピロリ菌陰性胃癌を早期診断するために,内視鏡医はその臨床所見,内視鏡所見の特徴を十分に理解しておくことが必要である.

本稿が,増加するピロリ菌未感染の症例に対して内視鏡検査を行う内視鏡医の一助になることを期待している.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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