日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
膵頭十二指腸切除術後に形成された魚骨を核とした胆管結石の1例
馬場 弘道 中田 俊朗佐藤 祐斗新谷 修平井上 博登今井 隆行田辺 浩喜土井 久和駒井 康伸安藤 朗
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2017 年 59 巻 1 号 p. 62-67

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要旨

症例は71歳男性.2年前に膵頭部の膵管内乳頭粘液性腫瘍(分枝型)のため膵頭十二指腸切除術を施行した既往がある.今回,肝機能障害を認めたため,精査目的に近医より紹介となった.画像検査で右肝管に魚骨を核とした胆管結石を疑い,シングルバルーン内視鏡による内視鏡的結石除去術および異物除去術を行った. 除去した針状の物質は病理組織検査などより魚骨と診断した.膵頭十二指腸切除術後に魚骨を核にした胆管結石の報告はまれであり,貴重な症例と考え文献的考察を加えてこれを報告する.

Ⅰ 緒  言

胆管空腸吻合術後の胆管内異物の多くは,ロストチューブなどの医原性である.今回われわれは,膵頭十二指腸切除術後に医原性以外の胆管内異物である魚骨が迷入し,それを核とした胆管結石の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:71歳,男性.

主訴:肝機能障害,発熱.

既往症:68歳 糖尿病,69歳 膵管内乳頭粘液性腫瘍.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2013年5月膵頭部の膵管内乳頭粘液性腫瘍のため膵頭十二指腸切除術(PD-ⅡA再建)を施行した後,近医で経過観察されていた.2015年7月頃肝機能障害が出現したため,当院紹介された.外来精査中に発熱を認めたため入院となった.

嗜好:毎日魚を食べる.義歯の使用や早食いの習性がある.

入院時現症:身長168cm,体重51kg,眼球結膜 黄染なし,腹部 平坦 軟 圧痛なし.

臨床検査成績:胆道系酵素と炎症反応の上昇,HbA1cの上昇を認めた(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

腹部超音波検査:右胆管内に後方への音響陰影を伴う約9mm大の境界明瞭でやや高エコーの腫瘤影とその内部に点状の高エコーを認めた.周囲の胆管には壁肥厚を認めた(Figure 1).

Figure 1 

腹部超音波検査.

右肝管内に約9mm大の結石と内部に点状高エコーを認めた.周囲の胆管壁は肥厚していた.

腹部CT検査:胆管空腸吻合部から右肝管,さらに前枝にかけ線状の高吸収物とその周囲にやや高吸収域を認めた(Figure 2).

Figure 2 

腹部CT検査.

右肝管に線状の高吸収物と周囲にやや高吸収域を認めた.

腹部MRI/MRCP検査:MRCP検査(冠状断面)では右肝管から胆管空腸吻合部付近に欠損像を認めた(Figure 3-a).胆管空腸吻合部付近のT2強調画像(軸位断面)では胆管内に低信号域を認めた(Figure 3-b).

Figure 3

a:MRCP検査(冠状断).右肝管から胆管空腸吻合部付近に欠損像を認めた.

b:腹部MRI検査(T2強調画像 軸位断).胆管空腸吻合部付近の胆管内に低信号域を認めた.

臨床経過:CT検査で線状の高吸収物,超音波検査で点状の高エコーより魚骨による胆管内異物が疑われ,それに伴う胆管結石,胆管炎と診断した.保存的加療にて胆管炎を改善した後,シングルバルーン内視鏡による検査と処置を施行した.

胆管空腸吻合部に到達すると吻合部に結石を認めた(Figure 4-a).最初に内視鏡的逆行性胆管造影を施行した.吸引と洗浄で比較的柔らかい黄褐色の結石が排石された.排石後,吻合部に狭窄と胆管内に針状の物質を認めた(Figure 4-b).これを愛護的に生検鉗子で把持して胆管から除去し,鉗子口を通して回収を行った(Figure 4-c).異物除去後,吻合部の狭窄を拡張用バルーン(8mm径)で拡張したのち,バルーンによる結石除去術を施行した.最後に残石のないことを確認して終了した.

Figure 4

a:内視鏡検査.胆管空腸吻合部に結石を認めた.

b:結石除去後に吻合部狭窄と胆管内に線状物質を認めた.

c:吻合部より生検鉗子にて線状物質を胆泥とともに把持して抜去した.

d:内視鏡で除去した針状物質.胆泥の付着と長径25mmの黄白色物質を認めた.

摘出標本:異物は長径約25mmでやや黄白色の針状の物質で,その表面には胆泥が付着していた(Figure 4-d).性状は弾性硬であった.

病理組織所見:繊維性結合織を認め,骨の組織と診断された(Figure 5).形状と組織所見,生活習慣より魚骨が考えられた.

Figure 5 

病理組織検査(HE染色×200).

周囲に胆砂を伴う層状の繊維組織を認めた.内部にごく少量の紡錘形細胞を認めた.

術後経過:異物と結石を除去した後,肝機能障害は改善を認めた.また腹部CT検査やMRCP検査で異物や結石残存のないことを確認した.現在まで肝機能障害などを認めることなく,経過している.経過中に魚骨の胆管内への迷入の原因精査のため上部消化管造影検査と胆道シンチグラフィーを施行した.

上部消化管造影検査:体位変換などでも挙上空腸への造影剤の流入は認めなかった.

胆道シンチグラフィー:肝臓からのRIの排泄は良好であり,挙上空腸でのうっ滞や逆流は認めなかった.

Ⅲ 考  察

術後の胆管内異物の報告は様々ある.原因が医原性でないものはB-Ⅰ再建術後に魚骨を核とした総胆管結石やB-Ⅱ再建術後に鳥の骨が迷入した報告がある 1),2.一方,医原性のものとして開腹胆嚢摘出術では絹糸や残存縫合針,腹腔鏡下胆嚢摘出術では金属クリップの迷入による報告が散見される 3)~5.また胆管空腸吻合術や膵管空腸吻合術に減圧や狭窄防止のために留置するロストチューブの迷入も報告されている 6.術後の胆管内異物は明らかに医原性の原因の報告が多く,術式により原因が異なっている.今回自験例のように膵頭十二指腸切除術後に医原性以外の胆管内異物が迷入したものは,医学中央雑誌にて「膵頭十二指腸切除術」と「胆管内異物」,PubMedにて「pancreatoduodenectomy」と「Foreign body」,「bile duct」をキーワードで2016年まで検索するも,自験例を含め3例を認めるのみである 7),8.自験例を含め2例は魚骨の迷入で,もう1例は植物石であった.また,魚骨を核とした総胆管結石の報告でも11例中3例が術後であるが 9,自験例のような胃空腸吻合術後は1例しかなく稀であった.

胃空腸吻合術後で胆管内異物となるには①挙上空腸に入り,②胆管空腸吻合部まで他動的に運ばれ,③更に胆管内に留まる必要がある.自験例では術後から今回の入院までに治療を必要とした胆管炎や腸閉塞を認めていないにもかかわらず魚骨が胆管内に迷入している.原因としてまず,①を調べる目的で上部消化管造影検査を施行した.自験例では挙上空腸は描出されなかった.次に②を調べる目的で胆道シンチグラフィーを施行した.胆道シンチグラフィーは胆汁うっ滞や挙上空腸の機能低下,空腸への排泄遅延を見るのに有用との報告がある 10.自験例では明らかな異常は認めなかった.最後に③は異物の中でも魚骨のように一度迷入すると引掛かり,排出しにくい形態と胆管空腸吻合部狭窄が重なり,胆管内に留まったと考えられた.Banら 11は胆管内異物の症例の69.8%で異物を核とした結石の形成を認め,その中でも食物による結石形成率は100%であると報告している.結石形成は魚骨の迷入に加え,胆汁うっ滞を引き起こす吻合部狭窄により一層促されたと考えられた.これらのことより胃空腸吻合術後の胆管異物迷入の機序は解明できていないが,複数の要素が重なることにより起こる希少な現象と考えられた.

胆管空腸吻合術後における胆管内異物では,外科的治療が困難なことが多い.報告されている1例では開腹下で内視鏡治療がなされている7.今回のように処置前に診断できている胆管内異物(特に魚骨)を経皮的に処置する場合は末梢側に向かって処置を行うため,様々な工夫を行わなければ安全にはできない.一方,バルーン内視鏡による内視鏡的異物除去では末梢側から中枢側に処置を行い,内視鏡下により安全に確実に処置することが可能である.以前は術後再建腸管を有する胆管結石に対して内視鏡治療は困難とされてきたが,バルーン内視鏡の登場により盲端部へのアプローチや胆管結石除去術が可能になり良好な成績が得られるようになった 12.自験例でも胆管空腸吻合部に到達し,異物ならびに結石を除去することができた.

また魚骨は消化管穿孔や損傷をきたすため,胆管から除去するだけでなく,回収する必要がある.自験例では鉗子口より安全に回収することができた.その他に安全に回収するためには先端アタッチメントやオーバーチューブの利用なども有用である.

さらに安全に処置を施行するためには,処置前に魚骨などの針状の異物をCT検査などの画像で診断する必要がある.魚骨の画像診断は超音波検査にて点状や線状の高エコー陰影,CT検査では高吸収な点状や線状陰影とされている.MRI検査ではCT検査より石灰化描出能が悪く,描出しにくい.魚骨による消化管穿孔の報告では魚骨の描出率はCT検査にて60-81.5%,超音波検査では35-40%と報告されており,これらの検査が魚骨の描出に優れていると言われている 13),14.しかし,魚骨を核とした総胆管結石では術前に魚骨と診断できた症例は少ないと吉田ら 15は報告している.理由はCT検査の軸位断面では総胆管内で点状の石灰化としか描出されないため診断が困難であると考えられた.自験例では胆管空腸吻合術後に起こった肝門部付近の異物であるため,CT検査の軸位断面で描出でき,診断することが可能であった.CT検査の軸位断面に線状陰影を認めなくても結石内点状骨濃度を認めれば,冠状断面や他の検査(超音波検査 管腔内超音波検査など)を併用し,処置前に可能な限り診断する必要性がある.こうすることにより異物除去や結石除去を安全に施行することができる.

今後膵頭十二指腸切除術後患者の増加や長期生存により胆管内異物に伴う胆管結石の症例の増加が予想される.症例の蓄積により,異物迷入の発生機序が解明されることを期待したい.

Ⅳ 結  論

今回われわれは膵頭十二指腸切除術後に形成された魚骨を核とした胆管結石の1例を経験した.PD-ⅡA再建に魚骨が迷入したことはまれなケースで,術前にCT検査などの画像検査で診断でき,バルーン内視鏡により慎重に魚骨を除去できたことを報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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