日本消化器内視鏡学会雑誌
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急性膵炎を呈した胃異所膵の1例
浦田 淳資今村 治男神尾 多喜浩
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2017 年 59 巻 1 号 p. 68-69

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【症例】

患者:36歳女性.

主訴:腹痛.

現病歴:平成24年10月下旬より心窩部痛を認め,徐々に増悪したため10日後に近医を受診.血清アミラーゼ値の上昇を認め,翌日に精査加療目的で当科に紹介となった.

飲酒歴:焼酎1~2合以上/日.

腹部所見:心窩部~右上腹部に自発痛,圧痛.

入院時検査所見:白血球数11,700/µl,血清アミラーゼ210IU/l,膵型アミラーゼ176IU/l,CRP 0.79mg/dl.

上部消化管内視鏡検査(Figure 1):胃体下部大彎に径20mm弱の粘膜下腫瘤を認め,腫瘤周囲の胃体下部から幽門大彎壁に粘膜浮腫性変化とびらんを認めた.

Figure 1 

上部消化管内視鏡像:胃体下部大彎に粘膜下腫瘤を認め,周囲粘膜の浮腫性変化がみられる.

超音波内視鏡検査(Figure 2):腫瘤は第3層から第4層に首座を置き,境界不明瞭不均一な等~低エコーを呈し,周囲胃粘膜に著明な浮腫性変化を認めた.

Figure 2 

超音波内視鏡:腫瘤内部エコーは不均一で境界不明瞭(白矢印).周囲粘膜に浮腫状変化を認める(白矢尻).

腹部造影CT所見(Figure 3):胃体下部の腫瘤は,動脈相で膵実質と同様の増強パターンであり,胃周囲の脂肪織濃度に上昇を認めた.以上の画像診断と臨床所見より,胃異所膵による膵炎と診断した.その後、膵炎は改善したが,本人の希望で平成25年1月初旬に腹腔鏡下胃部分切除術が施行された.

Figure 3 

造影CT:動脈相で膵実質と同様の増強パターンで,周囲脂肪織濃度の上昇を認める(白矢印).

病理組織学的所見(Figure 4):病変は胃粘膜下層に存在する充実性腫瘤で,固有筋層に浸入し,一部漿膜下層まで広がり,周囲粘膜に浮腫状変化を認めた.腺房細胞やランゲルハンス島,膵管が小葉構造を形成しており,HeinrichⅠ型の胃異所膵と診断した.腫瘤部辺縁の間質に水腫変性による空隙がみられたが,導管閉塞所見は認めなかった.その近傍に好中球・リンパ球が集簇性に軽度浸潤していたが,線維化は乏しかった.

Figure 4 

病理組織像:粘膜下層を首座とする充実性腫瘤で,腺房細胞やランゲルハンス島,膵管が小葉構造を形成するHeinrichⅠ型の胃異所膵である.腫瘤部辺縁に水腫変性による空隙がみられ(白矢印),近傍に好中球・リンパ球等の軽度浸潤を認める.

【解説】

異所膵は,解剖学的に正常膵と連続性を欠き,血管支配も異なる異所性に発生する膵組織と定義され,成因は発生段階での腹側膵原基と背側膵原基の癒合が不完全で,膵原基の一部が原腸に取り残されるため 1)との説が有力である.発生頻度は剖検例の0.5~13%程度 2)で,発生部位は,十二指腸29%,胃27%,空腸16%,回腸6%,Meckel憩室6%,胆嚢6%の順に好発する 3).自験例の胃異所膵の急性膵炎は,患者食事摂取歴の聴取から,不規則な食生活や頻回のアルコール,脂質糖質の過剰摂取による膵外分泌亢進と持続が原因であったと思われる.胃異所膵は正常膵と同様に機能している可能性があり,膵炎を呈した胃異所膵では,分泌液の周囲への漏出による炎症浮腫変化を惹き起こし,炎症により導管が閉塞することで形成される嚢胞性変化,被覆粘膜障害による出血,高度線維化,硝子様壊死性滲出物,膵石様産物等の所見を認めることがある 4)~7).自験例の病理像では前述の変化はみられなかったが,腫瘤内部に水腫変性による空隙を認め,近傍に好中球・リンパ球などの炎症細胞が集簇性に軽度浸潤する炎症所見を認めた.これは異所膵の急性膵炎の名残を反映した変化であると推察された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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