2017 年 59 巻 1 号 p. 70-80
近年,欧米においてはバレット食道が急速に増加しており,本邦においても今後増加することが懸念されている.バレット食道を診断するためには,十分に食道胃接合部を伸展させ,下部食道柵状血管の下端もしくは胃の襞の上縁を確認し,胃から連続する円柱上皮を確認する.SSBEの表在癌は右前壁に多いとされ,まず通常内視鏡で発赤・凹凸不整の所見を見落とさないことが重要である.深達度診断には白色光観察に加え,画像強調内視鏡,拡大内視鏡,超音波内視鏡,食道造影が用いられる.凹凸のほとんどない0-Ⅱbや0-Ⅱa,基部にくびれを有する0-Ⅰ型,浅い陥凹を有する0-Ⅱc型は粘膜癌を示唆する.酢酸併用画像強調+拡大内視鏡は癌の側方伸展の診断に有用である.バレット食道癌の深達度診断は治療方針をたてるのに重要である.一部のT1a-DMM癌と粘膜下層癌には転移が見られるため,内視鏡治療の適応拡大は慎重に行う必要がある.
バレット粘膜は,胃から連続性に食道に延びる円柱上皮化生のことであり,バレット粘膜を有する食道をバレット食道という.胃食道逆流症により,炎症と修復を繰り返すことにより,刺激の強い胃酸や胆汁酸に対する反応により元の扁平上皮(食物の運搬が主な役割)が刺激に強く酸環境に適した円柱上皮(食物の消化・吸収が主な役割)に置換された状態と考えられている.
「バレット」の名前の由来については,1950年にイギリスの胸部外科医,Norman Rupert Barrett(1903-1979)が食道潰瘍を有する下部食道が円柱上皮で覆われた症例を報告した 1)ことに由来する.1900年初頭より,食道に円柱上皮を認めたとの報告はあり,当初Barrett自身は,先天性短食道により胃の上部が縦隔に引き上げられたものと認識しており,食道潰瘍や食道炎により食道に円柱上皮が形成されると報告した 2)のは,その後の1957年である.その後10数年を経てBurgessらにより円柱上皮からなる食道をバレット食道と呼称するようになった.
バレット食道が注目されているのは,まさに「腺癌の発生母地となる」という点であり,近年バレット食道癌は欧米において急速に増加し 3),特に米国ではバレット食道癌の急増により1995年以降食道扁平上皮癌を追い抜き,2005年には食道癌の70%までがバレット食道腺癌となった 4).2000年までの過去25年間で約6倍の有病率となっている 5).本邦でも近年,逆流性食道炎やgastro-esophageal reflux disease(GERD)症状を有する患者は増加し 6),食生活の欧米化や肥満の増加,Helicobacter pylori感染率の自然低下や除菌治療の普及など社会的背景の変遷により,今後バレット食道癌の増加が懸念されている.
本稿ではバレット食道・およびバレット食道癌の診断・治療の要点について概説する.
内視鏡的にバレット食道を診断するために重要な事は,食道胃接合部(Esophagogastric junction:EGJ)を正確に同定する事にある.本邦においては「食道癌取扱い規約」第10版 7)で食道胃接合部(Esophagogastric junction:EGJ)の内視鏡的同定法が明記され,さらに2015年10月に出版された第11版 8)では内視鏡,上部消化管造影,病理それぞれの基準(Table 1)に基づき,総合的に判断するとしている.内視鏡的には食道下部柵状血管の下端 9)で,柵状血管が判定できない場合は,欧米において主流である「胃の縦走ひだの口側終末部」 10),11)としている.
バレット食道の取扱い.
内視鏡的に柵状血管下端を確認し,あるいは確認できない場合は胃の縦走ひだのよりも口側に円柱上皮を確認できれば,バレット食道と定義する事が出来るが,これら2つの指標の同定には,それぞれ問題がある.「食道下部柵状血管の下端」を食道胃接合部とすると,食道炎や異型性病変の影響で視認が難しい症例が存在する.また,「胃の縦走ひだの口側終末部」は萎縮のない胃であれば容易に同定できるが,萎縮の強い胃では胃のひだが確認できない事が多く,また被験者の吸気および検者の送気の程度により容易に胃のひだの上縁と思われる位置が移動する.2つの指標は必ずしも一致しないため,まずは柵状血管の下端を探し,白色調の扁平上皮と赤色調の腺上皮との境界(squamocolumnar junction)がこれより口側に存在していれば,バレット食道と言える.
バレット粘膜が全周性に3cm以上認められるものをLong segment Barrett esophagus(LSBE),それ以下ものは,short segment Barrett esophagus(SSBE)と定義される.SSBE症例(Figure 1-a)を図に示す.新しい画像強調内視鏡Linked Color Imaging(LCI)により柵状血管が明瞭に観察され,矢印の位置に柵状血管の下端があり,点線(squamocolumnar junction)との間がバレット食道である.Figure 1-bは全周性3cm以上のバレット粘膜を呈するLSBE症例である.白く島状に取り残されているのが扁平上皮島であり,バレット食道の診断に有用である.
a:SSBE(点線が柵状血管の下端でSCJの間がバレット上皮).
b:LSBE(全周3cm以上のバレット上皮,内部に白い島状の扁平上皮の取り残し(扁平上皮島)を認める.
病理学的には1)円柱上皮下の粘膜側に食道腺導管あるいは粘膜下層に固有食道腺2)円柱上皮内の扁平上皮島 squamous island3)円柱上皮下に粘膜筋板の二重構造のいずれかが認められる.バレット食道には本来の粘膜筋板の他,円柱上皮深部に新たな粘膜筋板形成を認める事があり,新生されたものを浅層粘膜筋板(superficial musclaris mucosae=SMM)と呼び,本来の筋板を深層粘膜筋板(deep muscularis mucosae=DMM)と呼ぶ.これが筋板の二重構造 12)である.さらに食道下部で円柱上皮下の粘膜固有層に径100μm以上の柵状血管 13)が見られた場合はバレット食道の可能性が考えられるとしている.バレット食道の定義は世界的にみると統一されておらず,英国を除く欧米では,バレット食道の診断には生検が必要で,発癌に強く関与すると考えられている特殊腸上皮化生を伴うことが必須条件とされている.本邦では,癌の発生に腸上皮化生由来ルート以外にも発癌経路がある 14)との報告から,バレット食道の診断に生検を必要とせず,腸上皮化生の有無を問わない.
胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015改訂第二版 15)によると,本邦におけるバレット食道の有病率は,時代やバレット食道の内視鏡診断基準や内視鏡医の診断一致率により異なり,SSBEで10.3~43.0%(頻度の平均17.9%)とかなりのばらつきを認めるとされる.一方LSBEでは診断のバイアスが少ないと考えられ,平均0.4%(0.2~1.4%)と明らかにSSBEより頻度が低いとされる.現在,バレット食道のうち発癌リスクが明らかになっているのは腸上皮化生をもつ長さ3cm以上のLSBEのみであり,年間の発癌リスクは0.4%と報告されている 16),17).SSBEとLSBEでは,発癌のポテンシャルに差がある事が知られており,Heicoら 18)の最新の報告では,LSBEで0.22%,SSBEで0.03%と有意にLSBEにリスクが高かったと報告している.また,バレット食道の癌化に関する危険因子の1つにバレット粘膜の長さ 19)が挙げられている.
バレット食道腺癌の発生母地として特殊腸上皮化生が重要視されてきた経緯から,1994年Stevensらが最初に報告 20)して以来,これまでmethylene blue 21),22),indigo carmine 23),crystal violet 24)などの色素法や酢酸法 25),26)に拡大内視鏡を併用し,特殊円柱上皮に特徴的な内視鏡所見を明らかにする試みが行われてきた.特にEndoら 22)はmethylene blueを併用したバレット食道の拡大内視鏡によりバレット食道の粘膜模様をsmall,straight,long oval,tubular,villousの5つに分類し,tubularおよびvillous patternをもつバレット食道に高頻度に特殊円柱上皮を認めると報告した.単なる形態だけの分類ではなく,細胞形質発現,細胞増殖能,methylene blueの吸収能など細胞の機能と拡大像が密接に関係していることを証明しており,これが今日のバレット食道における拡大内視鏡観察の基本となっている.しかし,methylene blueのDNA障害の問題が報告され 27),現在はmethylene blueはほとんど利用されていない.これと置き換わるようにNBI拡大内視鏡によるバレット食道診断の有用性がHamamotoら 28)によって2004年に初めて報告された.さらにGodaら 29)はNBIをもちいて微細粘膜模様(Fine mucosal patterns)と毛細血管像(Capillary patterns)に注目した拡大内視鏡分類を提唱している.LSBEでは,多彩な粘膜模様を呈することが少なくない.すべての領域を拡大観察するのは困難であるため,弱拡大で全体を見渡し,発赤や凹凸などの関心領域に近接するのが実際的である.腸上皮化生のある患者はない患者に比べ,3倍の腺癌のリスクがあり,high grade dysplasiaの患者は腸上皮化生の有無で癌発生頻度が0.38対0.07と有意差があることが報告されており 30),リスクの高い患者の絞り込みには腸上皮化生の有無に着目するとよい.腸上皮化生の存在部位ではNBI拡大内視鏡によりwhite zoneの外縁に青白い線状の縁取り:Light blue crestが高率に観察される 31)ことが知られている.
バレット食道の内視鏡診断の標準化を目指して2003年にInternational Working Group for the Classification of Oesophagitis(IWGCO)によりC&M分類(プラハ分類)が提唱された 32).食道の下端を胃のひだの最口側とし,円柱上皮が全周性の部分の長さをC-extent(circumferential extent),火焔状または舌状に伸びる部分の最大長をM-extent(maximam extent)としバレット食道の長さを2つの項目で記載する(Figure 2).全周部分が3cm,最大長が5cmの場合はC3M5と表記する.この長さの計測は内視鏡シャフトに刻んだスケールをバイトブロック上で行う事を推奨している.本邦の基準によれば,円柱上皮化粘膜の全周性の部分が3cm以下であれば,口側に何cm伸びていてもSSBEと診断されるが,プラハ分類では,具体的な数値でバレット食道を表現できる.
C&M criteria(Cは全周部分,Mは最長のバレット上皮の長さを数値化).
日本人のバレット食道はすべて内視鏡による経過観察が必要か?について胃食道逆流症診療ガイドライン2015改訂第二版 15)では,バレット食道から発生した腺癌の報告はあるがその頻度は極めて低く,現時点でバレット食道全例に内視鏡による経過観察が必要かは不明であるとしている.日本食道学会の食道癌登録 33)によれば2004年の食道悪性腫瘍全体に占める腺癌の頻度は4.0%で1988年の1.4%にくらべて2倍以上に増加している.これらがすべてバレット食道腺癌とは限らないものの,年々増加傾向にある.バレット腺癌は4:1で男性に多いとされ,少なくともLSBE症例には定期的な経過観察が必要であろう.
バレット腺癌を早期に診断するために,米国・ドイツではバレット食道のsurveillanceとしてSeattleプロトコール 34)(ランダム生検)が標準的である.ランダムにEGJより2cm間隔に90度毎に4点ずつJumbo鉗子で生検する(dysplasiaのある症例は1cm毎)方法である.これに対して,費用・再現性・安全性の点で問題が多く,欧米での施行率は50%程度にとどまるとされ 35),今日まで様々な診断方法が検討されている.本邦では,ランダムな生検による診断は一般的ではなく,内視鏡診断に基づく狙撃生検が行われている.近年,国際的な多施設前向き試験で,高解像度の内視鏡+NBIを用いたバレット食道のサーベイランスにより,ランダム生検に比較し,有意にdysplasiaを発見し,生検個数を減らせたと報告された 36).今後,欧米においてもランダム生検ではなく,内視鏡所見を主体とした診断の普及が期待される.
内視鏡検査法の基本は,蛋白分解酵素(プロナーゼ®)による前処置で付着粘液を分解し,消化管内ガス駆除剤(ガスコン®)混合水で良く洗った上,よく伸展して,時間をかけてじっくり観察する事に他ならない.スコープを食道から胃に進める時には,一旦進めるのを停止して,患者に深吸気を促し,十分に食道胃接合部が伸展した写真を撮影する.十分に伸展した場合は,柵状血管が観察しやすくなる(Figure 3-a)が,粘膜模様は見えにくくなる.粘膜模様を観察するには,弱伸展で病変を舐めるように近接観察するとよい(Figure 3-b).症例はLCI併用経鼻内視鏡による画像であるが,近年,経鼻内視鏡の画質は著しく向上しており,スクリーニングツールとして広く普及している.Moriら 37)は,バレット食道,胃食道逆流症においては,無鎮静での経鼻内視鏡が,経口内視鏡と遜色ない診断が可能であると報告しており,またバレット食道における高度異形成や食道腺癌の検出率は観察時間が長いほど増加するという報告 38)もある.経口内視鏡で深い鎮静下に検査を行う場合は,深吸気を促すのが難しい点に注意を払う必要がある.
a:強伸展時(LCI経鼻内視鏡) 柵状血管が良好に観察される.
b:弱伸展時 バレット上皮内の粘膜模様が視認し易くなる.
バレット食道癌の診断のためには,内視鏡的特徴を知っておく必要がある.通常観察でまず気を付けるべきは,バレット食道内の発赤および凹凸である.バレット上皮は平坦で一様に肌色を呈するが,より赤みが強く領域性をもって広がるのが癌の特徴である.また逆流性食道炎の発赤は先端で先細りし,毛羽立ち状となる事で鑑別できる.存在部位においてはSSBE由来の表在癌では,右前壁の局在が多いと報告されている 39),40).またLSBEでは62%が1~5時の右側壁に見られた 41)と報告されている.どの方向にも癌が発生する可能があるため,筒状にくまなく全周を観察する必要があるが,全体を見渡して特に赤みが強い部分に着目し,画像強調内視鏡があれば活用すると良い.
食道胃接合部では,逆流性食道炎に伴う炎症性ポリープ(Figure 4-a),非萎縮性粘膜に存在する胃底腺ポリープ(周囲粘膜と同調で表面平滑),乳頭腫(白色調で乳頭状,分葉傾向)や食道胃接合部の扁平上皮癌(Figure 4-b)などとの鑑別が必要になる.種々の精密診断法を行う前にまず,通常観察での所見を重視する.異常を指摘したら,近接して空気の伸展度合による形態の変化や基部の粘膜模様の不整,隆起の表面性状を観察する.腫瘍性の変化の場合は,赤みの強い隆起の表層に白い付着物を有するケース(Figure 4-c)もある.また,扁平上皮癌の場合は近接観察すると,領域性のある異常の内部にdot状の異常血管が観察される点で腺癌と鑑別できる.
a:炎症性ポリープ.
b:SCJに生じた扁平上皮癌.
c:バレット食道癌(0-Ⅰp+0-Ⅱb,pT1a-SMM).
d:バレット食道癌(0-Ⅱa,pT1a-DMM).
バレット食道癌の病型分類は,食道癌取扱い規約 8)に順じて記載する.表在癌においては丈の高い表在隆起型(0-Ⅰ),明らかな隆起や陥凹のない表面型(0-Ⅱ),深い潰瘍形成型の陥凹でその陥凹底が粘膜筋板を超えると推定される表面陥凹型(0-Ⅲ)に分類される.0-Ⅰ型は有茎性(基底部の広さより高さが目立つ)0-Ⅰp型と高さより基底部の広さが目立つ0-Ⅰsに亜分類される.0-Ⅱ型はごく軽度に隆起(高さ約1mm程度)した表面隆起型(0-Ⅱa:Figure 4-d),肉眼で隆起や陥凹が認識できない表面平坦型(0-Ⅱb),ごく浅い軽度の陥凹を呈する表面陥凹型(0-Ⅱc)に亜分類される.バレット食道癌の深達度診断は,通常観察が最も信頼度が高い.浸潤が増すと陥凹型に0-Ⅱaや0-Ⅰ(Figure 5-a)の隆起成分を伴う事が多い.0-Ⅰ型では基部の太さ・隆起部の大きさに注目する.くびれがあり,基部が細い病変は深達度が浅い事が多い.逆に基部が太く末広がりを呈する0-Ⅰs型(Figure 5-b),基部に0-Ⅱc成分を伴う混合型(Figure 5-c),0-Ⅱc型でも強伸展で厚みや緊満感が残る場合(Figure 5-d)は粘膜下層への浸潤を疑う.また拡大内視鏡観察により毛細血管の2倍以上の径に拡張した不整血管(Caliber variation)の出現がバレット食道癌のSM浸潤を示唆するという報告 42)もある.診断を迷う場合には超音波内視鏡や食道造影などを加え,総合的に診断するとよい.
a:バレット食道癌(0-Ⅰs+0-Ⅱb SM 500μm浸潤).
b:バレット食道癌(0-Ⅰs SM 1300μm浸潤).
c:バレット食道癌(0-Ⅰp+0-Ⅱc SM150μm浸潤).
d:バレット食道癌(0-Ⅱc SM 600μm浸潤).
バレット食道癌の内視鏡治療においては正確な範囲診断が必要となる.バレット食道癌は胃癌と同様随伴Ⅱbを伴う事が少なくなく,これらの診断にはNBI拡大内視鏡による表面構造,血管構造の観察が有用であると報告されている 43).最近ではLCIやBlue Laser Imaging(Figure 6-a)などの新しい画像強調内視鏡も注目されており,通常観察での色調変化や領域性のある異常に加え,従来から報告されている酢酸(Figure 6-b)やインジゴカルミン酢酸混合液 44)を用いた精密検査により存在・範囲診断を行う.酢酸は,バレット食道粘膜を白色化させる事により,視認性を向上させる.SSBE由来のバレット食道癌ではしばしば扁平上皮下進展が見られることが知られている.小山ら 45)は30例39病変の検討で,13病変に扁平上皮下進展を認め,その平均距離は4.3mm(最長9mm)であったとしている.内視鏡的には扁平上皮が薄く表層を被覆し,厚みを形成する所見や酢酸撒布による小さな白色変化=腫瘍腺管が扁平上皮内に露出した所見(small white signs;SWS)(Figure 6-c矢印)などを捕えるとよい 46).腫瘍が口側にどの程度進展しているかを診断するのは,しばしば困難であり,また生検やプロトンポンプ阻害剤の影響で,診断当初は表層に露出していた癌組織が,再生した扁平上皮に覆われるケースも経験する.内視鏡治療を行う場合は,この特徴を知った上で,切除範囲を決める必要がある.
a:BLI拡大内視鏡で粘膜模様の大小不同あり.
b:6-aの1.5%酢酸撒布 バレット腺癌の診断.
c:酢酸インジゴカルミン混合液により矢印の白色変化が視認しやすくなる.扁平上皮下進展を示唆する所見である.
バレット食道癌の内視鏡治療には切除法とラジオ波やアルゴンプラズマ焼灼法に代表される組織破壊法の大きく分けて2つの方法があるが,本邦では転移のない消化管腫瘍に対してEndoscopic Mucosal Rsection(EMR)やEndoscopic submucosal dissection(ESD)が普及している事から,切除法が一般的に行われている.われわれはこれまでSSBEに生じた2cm程度のバレット食道癌へ簡便な治療法としてEMRを多用してきた.しかし,切除ラインが盲目的となる点,大きな病変においては分割切除が必須となるという欠点があり,最近では,大きさに関係なく一括切除が可能なESDを第一選択としている.
バレット食道癌の内視鏡治療適応については,食道癌診断・治療ガイドライン 47)において扁平上皮癌に準じ,深達度T1a-LPMまでの分化型腺癌が適応とされ,DMM浸潤例,未分化癌,潰瘍合併例に対する適応拡大は今後の課題とされている 48).当科では明らかな転移がなく概ね粘膜内癌と診断する病変に対して内視鏡治療を適応してきた.1988~2013年12月までに経験したバレット食道表在癌は38病変で,うちT1aが21病変,T1bが17病変であった.このうちリンパ節転移を認めたのはT1a-DMMの1例とSM2~3の2例で,粘膜癌の転移頻度は4.8%,粘膜下層癌の転移頻度は11.8%であった.転移リンパ節の部位は3例とも#3(胃小弯リンパ節)に認めた.下縦隔リンパ節に転移を認めたのが1例あり,表在癌においては頸部・上縦隔に転移を認めた症例はなかった.われわれの検討では大きさ25mm以下,脈管侵襲陰性,分化型腺癌,200μmまでのsm1を満たす20例に転移陰性で,それ以外の18例中3例(16.7%)に転移陽性であった 49).九嶋ら 50)は,Barrett食道癌110例112病変中,リンパ節郭清が行われた64例の検討で,粘膜癌7例中2例,粘膜下層癌29例中7例(24%)に転移を認めたとし,転移リスク因子として腫瘍径,深達度,脈管侵襲陽性を挙げている.西ら 51)は,本邦報告1,339例1,406病巣を検討し,T1a-SMM,LPMの74例に転移はなく,T1a-DMMの122例におけるリンパ節転移頻度は6.1%,SM1の61例における転移頻度が7.9%と報告している.欧米ではバレット腺癌において粘膜筋板から500μmまでの浸潤をsm1とする事が多い 52)が,本邦において扁平上皮癌では200μmまでがsm1とされ,どちらをsm1の基準とするかが検討されている.現在の所,T1a-LPMまでの病変を内視鏡治療の適応,SM深部浸潤を根治手術の適応とし,臨床的に明らかに転移がなく,T1a-DMM~SM1と診断した症例にはまず内視鏡治療を先行し,病理組織学的所見を元に追加治療を検討するのが実際的とされる 53).
内視鏡治療後の追加治療に関して明確な基準はないが,深達度が粘膜筋板より500μmを超えて浸潤する例や脈管侵襲陽性例など転移が危惧される病変にはリンパ節郭清を伴う根治手術を行うのが一般的である.術式は下部食道+噴門側胃切除または胃全摘,あるいは食道切除+胃上部切除などが行われるが,切除範囲を決める際には,腫瘍ぎりぎりではなく,その周囲の癌の発生母地となるバレット粘膜も含めて切除する.バレット食道の口側端は扁平上皮と円柱上皮の色調変化で診断するため,切除の上縁を決めるのは容易である.郭清をどこまで行うかについては,占拠部位による.食道胃接合部癌は本邦においては「食道胃接合部の上下2cm以内に癌腫の中心があるもの」という西分類が普及している.さらに食道癌取扱い規約第11版 8)においては,腫瘍中心が食道側か,胃側か接合部線上かで分け,接合部にまたがるか否かでE,EG,E=G,GE,Gの5つに細分類されている.これらの手術術式は食道癌として扱うべきか,胃癌として扱うべきかの議論があり,日本食道学会と日本胃癌学会が合同で行った全国調査により暫定的な基準として長径4cm以下の食道接合部癌に対するリンパ節郭清アルゴリズムが策定され,胃癌治療ガイドライン2014年5月改定4版 54)に収載された.バレット食道腺癌の中心が「食道胃接合部の上2cm以内にある場合でかつ長径が4cm以下」という縛りで,M,SM癌には下縦隔+横隔膜周囲+1,2,3,7,9の腹部リンパ節の郭清が推奨されている.癌の占拠部位が胸部中・上部食道に及ぶ場合は扁平上皮癌に準じて術式を決めるのが妥当であろう.
バレット食道およびバレット食道癌の診断と治療の概要を述べた.今後本邦においても増加が予想される疾患であり,早期診断法が普及することを期待する.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし