2017 年 59 巻 10 号 p. 2508-2513
症例は80歳,男性.初見時0-Ⅱc+Ⅲの早期胃癌に対して2年間経過観察を行った.初見時より1年後には0-Ⅰ型に形態変化を来し,今回吐血で受診したため上部消化管内視鏡検査を行ったところ,同病変は0-Ⅱc+Ⅲ型に形態変化し,噴出性出血を来していた.2度の形態変化を来し出血を来した胃癌を経験したため報告する.
胃癌の形態変化の経過を追跡した報告は散見されるが,自然消失したと考えられる症例や主病巣が自然脱落した症例などの自然消退・縮小例の報告は稀である.今回,われわれは2年の間に0-Ⅱc+Ⅲ型から0-Ⅰ型に形態変化し,さらに0-Ⅱc+Ⅲ型へと2度の形態変化を来し,噴出性出血を認めた胃癌の1例を経験した.2度の形態変化を来した胃癌は非常に稀と考えたため文献的考察を加えて報告する.
患者:80歳 男性.
主訴:心窩部痛・吐血.
既往歴:脳梗塞・心筋梗塞でアピキサバン内服中.
現病歴:2014年1月に心窩部痛と吐血で当院を救急受診.上部消化管出血疑いにて緊急入院となった.
入院経過:同日に上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy:EGD)を施行し,体下部後壁に20mm大の潰瘍性病変を認めた(Figure 1-a).潰瘍辺縁は不整であり,潰瘍の小彎側から肛門側には,正色調の浅い陥凹を伴っていた(Figure 1-b).陥凹辺縁から生検を行い,標本内にはヘリコバクターピロリ様の桿菌は認めず,病理診断は高-中分化型の管状腺癌で,早期胃癌0-Ⅱc+Ⅲと診断した(Figure 2).Ⅱcの領域を含めると病変の大きさは40mmであった.陥凹および潰瘍は浅く,潰瘍内部にさらなる隆起や陥凹は認めなかった.また,台状隆起や辺縁のSMT様隆起,襞の太まりや癒合はなく,空気量に応じた変形を来し,明らかなSM浸潤を示唆する所見には乏しく,深達度はT1aと診断した.

a:初回内視鏡像.体下部後壁を主座とし,小彎から後壁にわたる40mmの0-Ⅱc+Ⅲを認めた.
b:色素内視鏡像.病変辺縁は不整であり,周囲には発赤調から正色調の浅い陥凹を伴っていた.陥凹および潰瘍は浅く,潰瘍内部にさらなる隆起や陥凹は認めなかった.
また,台状隆起や辺縁のSMT様隆起,襞の太まりや癒合は認めなかった.矢頭:病変範囲.

生検標本 400倍率.HE染色.粘膜内で不規則に癒合した腺管を認め,中分化型管状腺管と診断した.
精査のために施行した腹部造影CTで,肝右葉に腫瘍像を認め,肝腫瘍生検の結果,原発性胆管癌と診断した.PETでは,胃と肝右葉の腫瘍に集積を認めたが,他臓器やリンパ節などには集積は認めなかった.
以上より胃癌と胆管癌の重複癌で,胃癌は高分化型でcT1aN0M0,cStage ⅠA,胆管癌はcT3N0M0,cStage Ⅲであった.早期胃癌は,腫瘍径30mm以上の潰瘍合併病変であり,内視鏡治療の適応外病変と診断した.外科的切除にて根治可能な病変と思われたが,胆管癌との重複癌であり,高齢で基礎疾患も有していることから,十分なインフォームドコンセントを行った結果,いずれの病変に対しても積極的治療は行わず,胆管癌に対してはCT,胃癌に対してはEGDでの定期的な経過観察のみを希望されたため,患者希望に沿う方針となり,ヘリコバクターピロリの除菌歴はなく,今回潰瘍部より出血を伴っていたと考えられたため,エソメプラゾールマグネシウム水和物20mgの内服を継続する方針とした.
2015年1月に経過観察目的にEGDを施行.2014年に認めた体下部小彎の0-Ⅱc+Ⅲの領域に一致して40mm大の広基性の隆起性病変に変化していた.病変の肛門側である小彎側辺縁は急峻な立ち上がりを認め,境界は明瞭であり,病変の口側である大彎側では,なだらかな立ち上がりを有していた.病変の表面は結節状の凹凸不整がみられ白苔が付着していた.この時点における深達度は,SM浸潤の可能性が考えられた.肉眼型は0-Ⅰであり,1年間で0-Ⅱc+Ⅲから形態変化していた(Figure 3-a,b).

a:2回目の内視鏡像(見上げ).病変の範囲には変化は初見時と一致していたが,隆起性病変(0-Ⅰ型)に変化していた.病変の表面には白苔が付着し,結節状の凹凸不整を認めた.
b:2回目の内視鏡像(見下ろし).病変の口側から大彎側では境界不明瞭でなだらかな立ち上がりを有しておりSM浸潤の可能性が考えられた.
2016年2月に吐血と黒色便で当院救急外来受診となった.血液検査でヘモグロビンの低下とBUNの上昇を認め,上部消化管出血が疑われ,同日にEGDを施行した.胃内には,黒色の凝血塊の貯留を認め,既知の胃癌は不整形の潰瘍性病変に変化しており,潰瘍底には露出血管を認め,同部位から噴出性出血を認めた.止血鉗子で露出血管を把持し,焼灼凝固止血した.以降は,出血は認めず経過した.
内視鏡的止血後8日目のEGDでは,体下部後壁に潰瘍性病変とその肛門側に浅い発赤調の陥凹面を認めた.インジゴカルミンを散布するとwavy marginを有する発赤調の陥凹面が明瞭となり,初回と同様に潰瘍の小彎と肛門側には陥凹を伴っていた.陥凹部・潰瘍部の範囲には著明な変化がなかったが,初見時と比べ陥凹内の発赤が目立ち,粗大結節とまではいえないが,陥凹内の凹凸不整が目立つ印象で,深達度はSM浸潤の可能性が考えられた(Figure 4-a,b).1年前に認めた隆起成分は消失しており,1年経過にて自然脱落して初見時と同様の0-Ⅱc+Ⅲに変化したと思われた.病変の辺縁と中央部からの生検を行い,病理診断はそれぞれ中分化管状腺癌,高分化管状腺癌を認めた.

a:3回目の内視鏡像(見上げ).初回時と同様に0-Ⅱc+Ⅲへ変化を認めた.矢頭:病変範囲.
b:色素内視鏡像(見上げ).潰瘍肛門側の陥凹を含め,病変の範囲は初見時に一致していたが,初見時に比べ陥凹内の発赤が顕著となり,陥凹内の凹凸不整が目立つようになりSM浸潤の可能性を考えた.矢頭:病変範囲.
形態変化を認めた胃癌については以前より,陥凹型から隆起型へ,あるいは隆起型から陥凹型への変化が報告されているが,1983-2015年の医学中央雑誌Ver.5で「胃癌」and「自然脱落」/「形態変化」また,「早期胃癌」and「形態変化」をキーワードに,会議録を除く報告例で検索した結果,10例の報告 1)~10)を認めるのみで比較的稀である(Table 1).更に本症例のように陥凹型から隆起型に変化し,さらに陥凹型に再変化した報告はきわめて稀である.

形態変化を来した胃癌の報告例.
陥凹型→隆起型→陥凹型の観察期間は,(隆起型から陥凹型の期間)→(陥凹型→隆起型の期間)で表記.
陥凹性病変から隆起性病変へと形態変化した胃癌の報告例 1)~5),9)は,いずれも胃角部から胃体部の病変で大きさは16-43mm(中央値30mm),観察期間は1-21カ月(中央値3.5カ月)で,3病変が分化型,2病変が未分化型,Ⅰ病変でCarcinoma with lymphoid stromaであった.陥凹型胃癌には,その病巣内に潰瘍を有し,治癒→再発→再燃を繰り返す悪性サイクルを呈する病変がある.良性潰瘍が制酸剤投与における強力な抗潰瘍作用による急激な組織の過形成によって隆起性瘢痕を来すことが報告されている 11)が,胃癌においても陥凹型から隆起性に形態変化する機序には,悪性サイクルのなかで制酸剤が有する酸分泌抑制効果によって,潰瘍の組織修復機転に歪みを来し,過剰な肉芽形成が関与している可能性が報告されている 2),3).陥凹性病変から隆起性病変へ形態変化した胃癌症例3例はH2blockerあるいはプロトンポンプ阻害剤(proton pump inhibitor:PPI)を持続的に内服していた.本症例も初回のEGD以降,約12カ月間PPIを内服しており,0-Ⅱc+Ⅲの潰瘍を伴う早期胃癌の組織修復過程で隆起型へと形態変化した可能性が考えられた.
一方,隆起型胃癌が陥凹型胃癌に形態変化した報告は5例 1),6)~8),10)あり,いずれも胃角部から口側の分化型癌であり,大きさは10-70mm(中央値16mm),観察期間は1-15カ月(中央値4カ月)で,深達度はM病変3例,SM病変2例であり,いずれも隆起性病変の自然脱落が形態変化の要因となっている可能性が考えられた.
化学療法に伴う胃癌の縮小や脱落などの形態変化の報告例は多くみられるが,隆起型胃癌の自然脱落例の報告は稀で,1974年に西川ら 12)が報告した,胃体中部前壁の有茎性隆起癌の自然脱落例が最も古い報告例である.
西川ら 12)は胃隆起性病変の自然脱落因子について,有茎性病変や,蠕動が盛んな前庭部に存在する病変が多いことから,循環障害などが原因ではないかと考察している.また同様に,濱本ら7)は10mm以下のものや,前庭部前後壁に存在するもの,生検や蠕動に伴う機械的刺激や,嵌頓,ポリープの振り子状運動や,茎の屈曲による循環障害,巨大化に伴う相対的虚血などを原因因子として考察し,有馬ら 13)は蠕動と循環障害の関与を報告している.
本症例は体下部後壁に存在し,広基性病変であり,かつサイズも大きいことから,前述の自然脱落例にみられる特徴には合致しなかった.自然脱落の機序については,動脈硬化を示唆する併存疾患もあり,血流障害もあったことが予測され,腫瘍の巨大化に伴う相対的虚血が原因の一つとして考えられた.
本症例では経過中に噴出性出血を認め,腫瘍の脱落に伴い出血が惹起された可能性が考えられた.医学中央雑誌Ver.5で「胃癌/胃腫瘍」and「噴出性出血」で検索したところ,増田ら 14)の報告を認めるのみであった.増田ら 14)は胃ポリープの自然脱落から大量出血を来す原因として,①出血傾向を来す基礎疾患がある,②血流障害がある(刺激や基礎疾患,内服歴:胃粘膜障害を引き起こすNSAID,経口血糖降下薬など)を考察している.本症例は20mm以上のサイズで,抗血小板薬の内服歴があり出血傾向であり,動脈硬化の存在を示唆する併存疾患があり血流障害が存在した可能性があり,前述の原因因子を満たしていた.
2年間で0-Ⅱc+Ⅲ型から0-Ⅰ型に形態変化し,自然脱落にて0-Ⅱc+Ⅲ型へと2度の形態変化を認め,その後に噴出性出血に至った胃癌の1例を経験した.本症例は非常に稀であると考えたため報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし