2017 年 59 巻 11 号 p. 2661
【背景】ガイドラインでは,早期胃癌ESD非治癒切除患者に対してリンパ節転移の危険性から追加外科切除が推奨されているが,全例に追加外科切除を行うことは過剰医療となる可能性がある.そこで,本研究では,早期胃癌ESD後の治療方針決定のためのスコアリングシステムを確立することを目的とした.
【方法】本研究は,2期にわけて行った.Development stageでは,ESD非治癒切除後追加外科切除を行った1,101例を対象とし,ロジスティック回帰分析を用いてリスクスコアリングシステム(eCura system)を作成した.Validation stageでは,eCura systemをESD非治癒切除後経過観察となった905例に当てはめ,癌特異的生存率(CSS)よりeCura systemの検証を行った.
【結果】Development stageでは,5つのリンパ節転移リスク因子をβ回帰係数による重みづけから,3点:リンパ管侵襲,1点:腫瘍径>30mm,SM2,静脈侵襲,垂直断端陽性とした.続いて,患者を低リスク(0-1点,リンパ節転移率2.5%),中リスク(2-4点,同6.7%),高リスク(5-7点,同22.7%)の3群に分類した.Validation stageでは,CSSが3群間で有意差を認め(log-rank test:P<0.001),それぞれ5年CSS:99.6%,96.0%,90.1%であった.多変量Coxハザード回帰分析では,低から高リスクになるにつれて胃癌死のリスクが上昇する傾向を認めた(P trend<0.001).また,eCura systemの胃癌死に対するC statisticsは0.78であった.
【結論】eCura systemは早期胃癌ESD非治癒切除患者の胃癌死を予測可能であった.eCura systemにて低リスクの場合には,ESD後経過観察もオプションとなりうる.
本論文 1)は早期胃癌ESD非治癒切除病変の解析を行っているEAST study groupからの報告であり,約2,000例という膨大な数の早期胃癌ESD非治癒切除病変の統計学的解析からそのリンパ節転移リスクを予測する簡便なスコアリングシステム(eCura system)を確立した論文である.
本論文の特筆すべき点は,その研究デザインである.早期胃癌ESD非治癒切除病変を検討する上での大きな問題は,非治癒切除後の治療選択をランダム化することが倫理的に困難なことから選択バイアスが生じてしまうことであるが,Development stageではESD非治癒切除後追加外科切除例を対象としてリンパ節転移をエンドポイントに,Validation stageではESD非治癒切除経過観察例を対象として癌特異的生存率をエンドポイントとしてeCura systemを作成・検証したことでその問題点を解決しており,このような検討方法は今後の研究のロールモデルとなりうる.ただし,初期治療で外科手術あるいはESDを行うかの選択バイアスの影響は残っている.この影響を強く受けるのが初期治療で外科手術にまわりやすい未分化型(優位)癌であり,実際に本論文においても未分化型(優位)癌の症例数が分化型(優位)癌に比して少ない.したがって,現段階ではeCura systemは分化型(優位)癌を中心に用いる方がよいかもしれない.
本論文の最も大きな臨床的意義としては,計7点,低・中・高の3つのリスク群からなる簡便なリスクスコアリングシステムを確立したことであり,今後の日常診療においてもeCura systemは有用なシステムとなるだろう.特に「低リスク群」では,ESD非治癒切除後経過観察をしても5年癌特異的生存率が99.6%と非常に高く,筆者が述べているように,このような患者ではESD後経過観察もオプションの一つとなりうると思われる.
早期胃癌ESD非治癒切除の際にはガイドライン上追加外科切除が全例で推奨されていることを忘れてはならないが,超高齢化社会を迎えるわが国において,eCura systemは早期胃癌ESD非治癒切除となった際の治療方針決定における有用な指標となるだろう.また,早期胃癌ESD非治癒切除患者では非胃癌死も多く 2),今後は非胃癌死も予測できるような包括的なスコアリングシステムの開発も望まれる.