日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
術中内視鏡併用にて腸管切除を回避し得た大腸憩室出血の緊急手術例
石郷岡 晋也 佐藤 望小澤 俊一郎松尾 康正佐藤 義典片山 真史奥瀬 千晃朝倉 武士安田 宏伊東 文生
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2017 年 59 巻 2 号 p. 184-189

詳細
要旨

症例は78歳,男性.大腸憩室出血による出血性ショックにて救急搬送された.腹部造影CTでは脾彎曲からの出血が疑われ緊急内視鏡を施行したが,大量の血液で視野を得ることができず内視鏡止血が困難であった.自然止血したため保存的加療となっていたが,入院後再出血をきたした.血圧が保てず緊急手術となった.術中内視鏡を併用し出血源を同定後,内視鏡視認下で漿膜側から責任憩室のみを全層縫合し,腸管切除を回避することが可能であった.これまで同様の報告例はなく,低侵襲かつ確実性の高い方法と考えられたため報告する.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的止血術は憩室出血に対する有用な方法であるが,止血困難例も存在する.今回われわれは,内視鏡的止血が困難であった大腸憩室出血の緊急手術例に対し,術中内視鏡を併用することで腸管切除を回避し得た.当院の治療成績や文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:78歳,男性.

主訴:血便.

既往歴:慢性関節リウマチ(RA),リウマチ性多発筋痛症,2型糖尿病,慢性心房細動.

現病歴:RAに対してプレドニゾロン(PSL)8.5mg/日を数年来内服中の患者.血便を主訴に当院救命センターを受診した.下部消化管出血による出血性ショックの診断にて当科紹介となった.

来院時現症:体温35.6℃,血圧66/20mmHg,脈拍79回/分,不整,意識清明,呼吸数13/分,眼瞼結膜に貧血あり,腹部は平坦で軟,圧痛,自発痛は認めなかった.直腸診では腫瘤は触知しなかった.

血液検査所見:ヘモグロビン7.1g/dlと低下している他は特記すべき異常は認めなかった.

腹部造影CT所見(Figure 1):多発憩室と動脈相において脾彎曲部に血管外漏出像を認めた.

Figure 1 

腹部造影CT.多発する憩室(白矢印)と,脾弯曲部に血管外漏出像(黄矢印)を認める.

腹痛を伴わない突然の血便と造影CT所見より大腸憩室出血と診断した.補液と輸血にて血圧が安定したため,緊急大腸内視鏡(CS)を施行した.

緊急CS所見(Figure 2):脾彎曲部で体位変換も併用したが,出血のために視野確保が困難で,出血源の診断はできなかった(Figure 2-a).脾彎曲近傍にマーキングクリップを留置した(Figure 2-b).

Figure 2

a:緊急大腸内視鏡(CS)所見.大量の出血と凝血塊で視野確保ができず,出血源同定が困難であった.

b:緊急CS所見.脾弯曲部にマーキングクリップを留置した.

CS中に再度血圧が低下し,同時に自然止血したため保存的加療の方針となり,即日入院となった.

入院後経過:第3病日,再度大量の血便の出現とともに血圧が低下した.補液,輸血でも血圧が安定せず,CSでの止血は困難と判断し,Interventional Radiology(IVR)での止血を選択した.

血管造影所見(Figure 3):明らかな血管外漏出像は確認できなかった.

Figure 3 

腹部血管造影所見.明らかな血管外漏出像は認めなかった.

血管造影検査中も血圧が保てなかったため,緊急手術となった.

手術所見(Figure 4):術中CSを施行した.内視鏡的にマーキングクリップを確認し,周囲の憩室を漿膜側から一つずつ反転することで露出血管伴う憩室を確認し得た.漿膜側から刺激すると容易に大量の拍動性出血を認めたため責任憩室と判断した(Figure 4-a).Feeding arteryを結紮切離し,内視鏡視認下で憩室を全層縫合した(Figure 4-b,c).

Figure 4

a:術中CS所見.マーキングクリップを確認し,周囲の憩室を漿膜側より一つずつ反転した.マーキングクリップ近傍に露出血管(黄矢印)を伴う憩室を認め,漿膜側より刺激すると容易に拍動性出血を認めた.

b:術中CS所見.Feeding arteryを結紮切離後,漿膜側から憩室を全層縫合した.内視鏡にて縫合針が確認できる(白矢印).

c:術中所見.漿膜側からの全層縫合後.

術後経過は良好で,術後8日目に軽快退院となった.また,術後2カ月で施行したCS(Figure 5)では憩室は瘢痕化しており,以降再出血なく経過している.

Figure 5 

退院2カ月後CS所見.憩室の瘢痕化が確認できる.

Ⅲ 考  察

本邦では近年の食生活の欧米化や高齢化により,大腸憩室は増加傾向にあると言われている 1),2.自ずと憩室出血も増加していくことが予想される.実際に下部消化管出血において大腸憩室出血の占める割合は多く,2004年9月〜2012年12月に当院に下部消化管出血を主訴に受診した1,604例中,約30%(465例)が憩室出血であり,原因疾患として最多であった 3

憩室出血に対してCSが行われる機会も増加している.しかし,出血様式が間欠的で自然止血も多い 4ため,出血源の同定率は40%前後との報告が多く 5高いとは言えない.当院における検討でも出血源同定率は36%であった 3.一方で再出血も多く,同一症例が複数回の出血を繰り返し長期間の入院を余儀なくされることもある.高齢化が進む今後,再出血の予防という観点からもCSの必要性は高いとわれわれは考えている.

出血源をより効率的に同定するための工夫としてCS前の造影CT検査の有用性が報告されており,いずれも出血源同定に有用な所見として造影剤の血管外漏出像が挙げられている 3),6),7.前処置による腸管洗浄も出血源を同定する上で重要な点である.血圧が安定した場合は前処置を行ってからCSを行うのが一般的であり,自験例においても前処置を行った上での待機的CSが検討された.しかし,急激に進行した貧血に伴い入院後より傾眠傾向となっていたため,自力での前処置薬内服は困難であった.そのため数日間は絶食による腸管安静と輸血での貧血改善を優先させたが,その間に再出血をきたしてしまった.

出血源が同定できた場合,内視鏡的止血術を検討する.大腸憩室は仮性憩室であるため 8,高周波などを用いた熱凝固による止血は穿孔のリスクがあるため避けるべきである 9.本邦では一般的にクリップによる止血が選択されることが多い 10.憩室内の露出血管を直接クリップするのが確実だが,実臨床ではそのような視野を得られるとは限らない.先端フードや送水機能付きスコープを用いて良好な視野を得る工夫も必要とされる 10.それでも露出血管の確認が困難であれば,憩室開口部を縫縮する方法もあるが,再出血が危惧される 11.また開口部を塞いでしまうと止血困難や再出血をきたした際,次なるアプローチの障害となるため安易なクリップは控えるべきである.最近ではEBL(endoscopic band ligation)の有用性も報告されている 12),13が,スコープを抜去しデバイスを装着しなければならないため,やや煩雑である.出血の程度や視野の状況,スコープの操作性などを冷静に評価し,最適な止血法を選択することが肝要である.

多くの憩室出血は保存的加療が可能だが,自験例のような止血困難例も経験する.①操作性の問題から有効な内視鏡的止血術が行えない②再出血を繰り返し,出血コントロールに難渋する③バイタルサインが維持できないような大量出血をきたす場合はIVRや外科的手術を考慮せざるを得ない.内視鏡的止血困難例に対するIVRの成績は良好な報告が多く 14,外科手術は最終手段である.自験例もIVRでの止血を試みたが責任血管が同定できず,大量補液にも関わらずショックを改善することができなかったため,再IVRを検討する時間的余裕はないと判断した.外科手術は出血部位を含む腸管切除になることが通常である 15.しかし,冒頭にも述べたように今後は高齢者,抗血栓薬内服症例が増加していくため,腸管切除が躊躇されるケースも想定される.自験例は抗血栓薬の内服はなかったが,PSLを長期内服されている高齢者であり,可能であれば腸管切除を回避したかった.マーキングクリップが残存していたため,外科医と相談のうえで術中内視鏡を行う方針となった.責任憩室が同定できなかった場合は,クリップをメルクマールに腸管切除術へ移行する準備を整え術中内視鏡を施行した.内視鏡的にクリップを確認し,周囲の憩室を漿膜側から一つずつ反転することで露出血管を伴う責任憩室が同定できた.短時間でショックを呈する病変であり,再出血の可能性が否定できない内視鏡的止血よりもFeeding arteryを漿膜側で結紮切離し,憩室を全層縫縮する方が確実な止血が得られると判断し,その結果腸管切除を回避し得た.医学中央雑誌にて「憩室出血」と「緊急手術」,または「憩室出血」と「術中内視鏡」で検索を行ったが同様の報告例はなかった.出血部位の想定ができていること,外科医と内視鏡医が緊急対応可能であること等,条件はあるが,本法を選択肢として持っておくことは今後の憩室出血診療の一助になると考えられた.

Ⅳ 結  語

術中内視鏡を併用し,腸管切除を回避し得た大腸憩室出血の緊急手術例を経験した.憩室出血は手術に至る頻度は少ないが,止血困難時の対応は常に想定しておかねばならない.手術における合併症や,患者への侵襲を考慮した際,本法は有用な方法と考えられるため報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top