日本消化器内視鏡学会雑誌
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胃粘膜にランタンの沈着を認めた1例
甲斐 聖広 平賀 聖久笹栗 毅和
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2017 年 59 巻 2 号 p. 203-204

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【症例】

症例:72歳,女性.

主訴:摂食時の違和感.

既往歴:高血圧,白内障.

現病歴:糖尿病性腎症のため7年前に血液透析を導入された.5年前より高リン血症治療薬として炭酸ランタン水和物を内服していた.

数カ月前より摂食時の違和感を自覚し,上部消化管内視鏡検査を施行した.

噴門部~体部小弯のひだに沿って白色調の粗糙な粘膜を認めた(Figure 1).体下部~前庭部の粘膜でも同様の所見を認めた(Figure 2).

Figure 1 

噴門部~体部の主にひだに沿って白色調の粗糙な粘膜を認める.

Figure 2 

体下部~前庭部でも粘膜の粗糙と白色調変化を認める.

体上部大彎,および前庭部前壁から生検を施行した.生検組織では,粘膜直下にマクロファージに囲まれた,ランタンと思われる好酸性で針状ないし顆粒状の沈着物を認めた(Figure 34).

Figure 3 

生検組織の中拡大像(HE染色,100倍).粘膜表層にランタンと思われる好酸性物質の沈着を認める(矢印).

Figure 4 

生検組織の強拡大像(HE染色,400倍).マクロファージに囲まれた,ランタンと思われる好酸性物質を認める.

本症例では5年前より高リン血症に対し炭酸ランタン水和物を内服していた.過去の報告と併せ,炭酸ランタン水和物の連用に伴い,胃粘膜にランタンの沈着を生じたものと考えられた.

尚,本症例においては炭酸ランタン水和物の内服を中止し経過観察中であるが,摂食時の違和感は大きな改善なく,症状との関連性は不明である.

【解説】

炭酸ランタン水和物は高リン血症の治療薬として2008年に保険収載され,透析患者を中心に広く用いられている.消化管内でランタンはリン酸と結合し,不溶性のリン酸ランタンとして腸管から体外へ排出される.腸管から血中への吸収率が非常に低く安全な薬剤とされているが,近年,炭酸ランタン水和物の連用に伴い,消化管粘膜にランタン沈着を認めた例が報告されている 1),2.胃からの報告が多く,他に十二指腸1)や横行結腸 3への沈着が報告されている.沈着の程度は消化管内の遊離ランタンイオン濃度や腸管内pH,薬剤の滞在時間に左右され,胃粘膜への沈着については,胃内の酸性環境でランタンが遊離し,細胞間隙より胃粘膜内に侵入して沈着すると考えられている 4),5

胃粘膜に沈着したランタンの病理組織学的所見として,HE染色では胃粘膜固有層内で針状,顆粒状,不定形の好酸性から好塩基性ないし淡褐色調の沈着物として観察される.また,電子顕微鏡観察では高電子密度の物質として認められ,EDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy;エネルギー分散型X線分光器)を用いてスペクトル分析を行うとランタンに固有の特性X線が検出される 4),5

過去の報告における内視鏡検査所見では,胃炎,びらん,潰瘍,ポリープの存在が指摘されている 1),5),6.浪江らは,内視鏡検査を施行された患者4例でいずれも胃粘膜にひだ状の白色肥厚を認めたと報告しており 4,本症例でみられたひだの白色調変化と同様の所見と思われる.

鑑別疾患として,透析患者の胃粘膜内に沈着物を認める疾患であるアミロイドーシスが挙げられる.特にAA型アミロイドーシスは粘膜固有層や粘膜下層血管壁へ沈着し,内視鏡所見では発赤やびらん,微細顆粒状の粗糙な粘膜が観察される.本症例のような,ひだに沿った白色調変化に関する報告はみられないものの,内視鏡所見のみでは両者の鑑別は困難であり,診断確定には生検による病理組織学的な検索が必要と思われる.

過去の報告と併せ,本症例でみられた胃粘膜の粗糙や白色調変化はランタン沈着に伴う特徴的な所見と示唆される.しかしながら,ランタン沈着に伴う内視鏡検査所見や長期的な予後については症例数も少なく詳細も不明であり,今後も症例の蓄積と検討が必要と思われる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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