日本消化器内視鏡学会雑誌
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新しい手技・処置具・機器
2チャンネルスコープなしで可能な内視鏡的巾着縫合法のためのデバイスの開発
平賀 裕子 渡邉 千之隅岡 正昭
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電子付録

2017 年 59 巻 2 号 p. 205-206

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Ⅰ 背  景

偶発症予防に対する内視鏡切除術後の創縫縮術の必要性に関しては意見が分かれており,内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後切除創の縫縮術について現在のところ,確実なエビデンスはない 1が,後出血などの偶発症予防として期待されている.しかし,大腸ESD後の大きな創部は創縫縮術で最も一般的なクリップ法では縫縮できないことも多く,われわれはその場合,内視鏡的巾着縫合法を用いている.

Ⅱ 内視鏡的巾着縫合法

内視鏡的巾着縫合法とは,鉗子口が2つある2チャンネルスコープを使って,一方から出した留置スネアを他方から出したクリップで創部周囲に固定した後,留置スネアを絞めることで外科の巾着縫合のように創部を絞って縫縮する方法で,1996年にHachisuら 2が胃腫瘍内視鏡治療後の創縫縮術として報告した.2004年にMatsudaら 3が大腸でも2チャンネルスコープを使って,クリップ法では縫縮不能な大きな創部の最長部分をクリップで留めた留置スネアを絞扼して寄せることで,残りのクリップ閉鎖が容易になることを報告した.だが,この特殊な大腸用2チャンネルスコープを持たないわれわれは,通常スコープのままで行う方法(電子動画1Figure 1)を考案し,2012年9月より行っている.本来,留置スネアは専用デバイスに取り付けないと絞扼できず,クリップもまた同様のため,2種類のデバイスを出すために2つの鉗子口が必要となるわけだが,留置スネアが別のデバイスで絞扼可能なことを発見したことで,2チャンネルスコープを使用せず巾着縫合法が可能となった.その代用デバイスはゼオクリップ装置(ゼオンメディカル株式会社,東京)で,先端部がピンセット様の形状(Figure 2-a)のため摘んで引き込むことができ,留置スネアのループを腸管内で拾ってハンドルを絞めることで少しずつだが絞扼することが可能であった.ただ,この代用品では1回の操作でストッパーが進む距離が短く,ループを完全に絞めるためには腸管内でループを摘んで絞めるというハンドル操作を十回前後繰り返さなければならず,煩雑な上,ループ2本を一緒に引き込むとループが外れなくなるトラブルが生じたこともあり,もっと簡便化する必要があると考えた.

電子動画1

電子動画1,Figure 1 

通常スコープによる内視鏡的巾着縫合法.

a:事前にループ付きクリップ(右)を作成しておく.(把持部分を広くしストッパーを補強した留置スネアのループ(MAJ-340;オリンパス株式会社,東京)とゼオクリップ(ZP-CH;ゼオンメディカル株式会社,東京)の脚にある穴を2-0絹糸で結び付ける).

b:そのループ付きクリップをクリップ装置に付けて鉗子口から出し,切除後潰瘍の口側正常粘膜に留める.

c,d:bで腸管内に運んだループを潰瘍の辺縁数箇所(基本的には口側にもう1箇所,肛門側に2箇所追加し計4箇所)にクリップで固定する.ゼオクリップの再収納可能な機能を使って,ループをクリップでつかんで目的の場所に運び,そこで再びクリップを出してループを跨いだ形で正常粘膜にクリップを止める.

e~g:通常の結紮装置ではなく,代用デバイスを用いて腸管内でループを把持し,クリップ同士が寄るまで少しずつ結紮する.

Figure 2 

専用デバイスの開発.

a:ゼオクリップ装置(ゼオンメディカル株式会社,東京)の先端部(インナーシースから出てくるハネ部).ピンセット様の形状を呈しており,ハンドル操作で引き込むことによりハネが閉じる.

b:ゼオクリップ装置(上)と開発した専用デバイス(下)のハンドル(スライダー)部の比較.

専用デバイス(下)はハンドルストロークを長く改良したことで,ループをつかんで引き込める距離が長くなり,ほぼ1回のハンドル操作でループが締まるように改善できた.

Ⅲ 内視鏡的巾着縫合法用デバイスの開発

そこでわれわれは,ゼオクリップ装置のハンドルストロークを長く改良した専用デバイス(Figure 2-b)を作成し,倫理委員会の承認を得て2013年12月から使用している.市販のゼオクリップ装置が有する回転機能は失ったが,ハネの片方をループの輪に通すようにしてつかめば,把持・絞扼は可能で,留置スネアの結紮がほぼ1回のハンドル操作で可能となった.

Ⅳ 内視鏡的巾着縫合法の実際

2009年4月から2015年9月に当院で大腸ESDを施行した130例135病変中,創縫縮術を108病変(80.0%)に施行しており,創縫縮術施行率が巾着縫合法導入前後で有意に増加していた(58.9% vs. 94.9%).創縫縮術を施行した病変の切除標本径は平均37.0mm(range 12-80mm)で,縫縮方法別では,クリップ単独法31.5mm(41病変range 13-54mm),巾着縫合法39.9mm(64病変range 12-80mm)であり有意差を認め,完全縫縮できた病変でも有意差を認めた(30.4mm,range 13-54mm vs. 37.3mm,range 12-64mm).専用デバイス使用前にはデバイストラブルによる巾着縫合不能例が9.1%(2/22)生じたが,専用デバイスへ変更後の42例は全例トラブルなく安全に施行可能であった.また,巾着縫合法はクリップ法と異なり,完全に粘膜を合わせることが困難な状況(潰瘍底にクリップをかけた後や肛門管やバウヒン弁近傍など)でも部分的に創部周囲粘膜を寄せることが可能であり,活用範囲の広い縫縮術であると考えられた.

Ⅴ 結  語

われわれの2チャンネルスコープを使用しない巾着縫合法は専用デバイスにより簡便化され,通常クリップでは届かない大きな欠損部でも完全縫縮可能であった.

本研究の専用デバイスの開発において県立広島病院研究支援事業からの助成を受けた.

本論文の要旨の一部を第89回日本消化器内視鏡学会総会(2015年5月29日名古屋)で発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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