2017 年 59 巻 3 号 p. 284-290
症例は45歳,男性.原発性硬化性胆管炎,潰瘍性大腸炎にて経過観察されていた.大腸全摘術の術前CTにて総胆管壁肥厚を指摘され,紹介となった.US,CT,MRIでは前区域胆管内に2cm大の乳頭状腫瘤が認められた.ERCPでは前区域胆管に陰影欠損像を認め,経口胆道鏡では前区域胆管の内腔を占拠する乳頭状腫瘍と下部胆管に顆粒状粘膜が認められた.生検でintraductal papillary neoplasm of bile duct(IPNB)と診断し,肝右葉切除および肝外胆管切除を施行した.本症例では経口胆道鏡がIPNBの表層進展範囲の診断および術式決定に有用と考えられた.
胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of bile duct:IPNB)は胆管内腔に乳頭状発育を示す胆管上皮性腫瘍の総称である.IPNBと胆管上皮内腫瘍性病変(biliary intraepithelial neoplasia:BilIN)は,肝内結石症や原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)などの慢性胆管障害を来す疾患に合併することが知られており,胆管癌の前癌病変と考えられている 1).また,IPNBは浸潤傾向に乏しく,胆管長軸方向に上皮内を進展しやすいため,表層進展範囲の正確な診断が切除範囲決定に重要である.今回われわれはPSCに合併したIPNBに対し,術式の決定に経口胆道鏡(peroral cholangioscopy:POCS)が有用であった1例を経験したので報告する.
患者:45歳,男性.
主訴:なし.
家族歴:特記事項なし.
既往歴:44歳時,直腸S状部の側方発育型腫瘍(lateral spreading tumor;LST)に対してEMRを施行された.病理診断はadenocarcinoma(tub1),pM,ly0,v0,pHMX,pVMXであった.
生活歴:喫煙 なし,飲酒 なし.
現病歴:33歳時に近医にてPSC,潰瘍性大腸炎(全大腸炎型)と診断され,同院にてメサラジン,アザチオプリンの内服にて経過観察されていた.2011年8月に大腸内視鏡にて直腸S状部にLSTを認め,EMR施行したところ高分化型管状腺癌であった.大腸全摘術を勧められるも,本人の希望により経過観察となった.2012年7月に大腸内視鏡にてS状結腸に40mm大のLSTを認めたため,再度,大腸全摘術が検討され,当院消化器外科に紹介となった.術前のCTにて総胆管壁の肥厚を指摘されたため,精査加療目的にて当科紹介となった.
入院時現症:身長169.0cm,体重53.0kg,体温36.8℃,血圧108/62mmHg,脈拍54/分・整,眼瞼結膜に貧血を認めた.眼球結膜に黄疸を認めなかった.腹部は平坦,軟で圧痛を認めなかった.
臨床検査成績:Hb:9.1g/dlと貧血を認め,AST:50IU/l,ALT:34IU/l,ALP:1,638IU/l,γ-GTP:446IU/lであり肝胆道系酵素の上昇を認めた.CRP:1.08mg/dlと軽度に炎症反応は上昇しており,腫瘍マーカーではCEAが18.7ng/mlと高値であった(Table 1).

臨床検査成績.
腹部超音波検査:前区域胆管内に18×8mm大の表面が凹凸不整な充実性腫瘤を認めた(Figure 1).肝外胆管にはびまん性の壁肥厚を認めた.

腹部超音波検査.
前区域枝内に18×8mm大の肝と比較してやや高エコーな乳頭状腫瘤を認めた.
腹部CT検査:拡張した前区域胆管内に造影効果を伴う腫瘤性病変を認めた.右肝内胆管の不整な拡張と総胆管に全周性の壁肥厚を認めた.
腹部MRI検査:造影早期相にて造影効果を伴う腫瘤性病変を前区域胆管内に認めた.
ERCP:Vater乳頭の開口部は軽度開大していたが,明らかな粘液の排出は認められなかった.肝内胆管には帯状狭窄が多発し,beaded appearanceを呈していた.前区域胆管内には可動性のない陰影欠損像が存在した(Figure 2).

ERCP.
肝内胆管には帯状狭窄が多発し,beaded appearanceを呈していた.前区域枝内には可動性のない陰影欠損像を認めた(矢印).
経口胆道鏡:事前に留置した経鼻胆管ドレナージカテーテルを用いて生理食塩水で胆管内を十分に洗浄した後に,電子胆道鏡CHF-B260(オリンパス社製)を用いてPOCSを施行した.前区域胆管内には表面が粘液で覆われた乳頭状の腫瘍を認めた.腫瘍の表面には不整な拡張血管を認めた(Figure 3-a).胆道鏡はB4分岐部まで挿入可能であったが,左肝管内は正常粘膜で覆われており,明らかな腫瘍性病変は認めなかった.肝外胆管には血管透見が消失した白色調の粘膜が続いており(Figure 3-b),下部胆管には不整な拡張血管を伴う顆粒状粘膜が認められた(Figure 3-c).POCSに伴う急性膵炎などの偶発症は認めなかった.

経口胆道鏡.
a:表面が粘液で覆われた強い発赤を伴う乳頭状の腫瘍を認めた.
b:上~中部胆管の粘膜は血管透見が消失し,白色調を呈していた.明らかな顆粒状粘膜は認めなかった.
c:下部胆管には拡張した血管を伴う丈の低い顆粒状粘膜を認めた.
臨床経過:右肝管の内腔を占拠する乳頭状腫瘤から透視下に生検を施行したところ,IPNBの診断であった.左肝管へは生検鉗子の挿入が困難であり,擦過細胞診を施行した.下部胆管は擦過細胞診と生検を施行した.左肝管,下部胆管ともに悪性所見は認められなかったが,POCSでは下部胆管に腫瘍性病変の存在が示唆されたため術式として肝右葉切除術,膵頭十二指腸合併切除術が検討された.しかし,潰瘍性大腸炎とcolitic cancerに対する大腸全摘術も予定されていたため,膵頭十二指腸切除術は侵襲が大きいと考えて肝右葉切除術および肝外胆管切除を施行し,下部胆管は可及的に切除した.
病理所見:前区域胆管を中心として胆管内腔に乳頭状に増殖し,線維性血管芯を伴う腫瘍を認めた(Figure 4-a,b).円柱状の腫瘍細胞の細胞質は明るく,豊富な粘液を含有していたが,炎症細胞浸潤により腺管構造は一部崩れていた.腫瘍の大部分は上皮内に留まっていたが,前区域胆管の間質への微小浸潤が認められた.また,腫瘍は胆管壁に沿って連続性に進展しており,胆管十二指腸側断端付近まで上皮内癌を認めた(Figure 4-c).免疫染色ではMUC1陰性,MUC2陽性,MUC5AC陽性,MUC6陰性,CK7陽性,CK20陽性であり,腸型の粘液形質を有していた.また前区域胆管,下部胆管領域の病変は主病変と同様の免疫染色態度を示していた.以上より,IPNB with an associated invasive adenocarcinoma,Bdp,circ,papillary-infiltrating type,tub1,pT1b,int,INFβ,ly0,v0,n0,pN0,DM1(m),HM0,EM0,PV0,A0,R1;fStageⅠと診断した.表層進展範囲をシェーマで示すとFigure 5のようになった.また,一部の胆管周囲には同心円状の線維化を伴い,肝内及び細胆管内には軽度の胆汁うっ滞を認めていた.これらの所見はPSCの病理像に一致していた.

病理組織学的所見.
a:前区域枝に内腔に向かって乳頭状に増殖する腫瘍を認めた(HE染色×4).
b:腫瘍細胞は円柱状で細胞質は明るく,豊富な粘液を含有していた(HE染色×40).
c:腫瘍は胆管壁に沿って下部胆管まで連続性に進展していた(HE染色×200).

表層進展範囲のシェーマ.
前区域胆管を中心に乳頭状に増殖する腫瘍を認めた.腫瘍は胆管壁に沿って連続性に進展しており,胆管十二指腸側断端付近まで上皮内癌を認めた.前区域胆管では一部間質への微小浸潤を認めた.
術後経過:術後1年で胆管空腸吻合部の狭窄を来したが,保存的に改善した.PSCの進行に伴って肝機能の悪化がみられるが,2014年12月の現在までCTで指摘できるような再発は認めていない.
今回われわれはPSCに合併したIPNBの1例を経験した.IPNBは胆管乳頭腫,乳頭型胆管癌,胆管内発育型肝内胆管癌といった胆管内腔に乳頭状発育を示す胆管上皮性腫瘍の総称である.IPNBはその発育形態以外にも肉眼的あるいは組織学的に粘液産生を伴う,多段階発癌を示すといった膵管内乳頭粘液性腫瘍intraductal papillary mucinous neoplasm(IPMN)と類似した特徴を有し,膵IPMNの胆管カウンターパートとされている 2).しかしながら,膵IPMNと異なり,IPNBで臨床的に明らかな粘液の産生を示す症例は少なく,約1/3と報告されている 3),4).また,Ohtsukaらは4),粘液産生性IPNBと粘液非産生性IPNBには浸潤の程度や粘液形質に違いがあると報告している.本症例は,胆管造影では明らかな粘液は認められなかったが,POCSにて腫瘍表面に付着する粘液を確認できた.また,病理組織学的には胆管上皮は乳頭状に増殖し,腫瘍細胞の細胞質に豊富な粘液が認められたことから,粘液産生性のIPNBと考えられた.本症例の病理学的な特徴として,浸潤傾向が乏しいこととMUC1陰性,MUC2陽性で腸型の粘液形質を有していることが挙げられるが,これはOhtsukaらの報告している粘液産生性IPNBの特徴と一致していた.
IPNBは浸潤傾向に乏しい腫瘍であり,側方への表層進展が特徴的な進展様式とされている 5).根治切除後の予後は比較的良好とされている一方,断端陽性例の予後は不良との報告もあり 6),表層進展範囲の正確な診断が術前に必要である.本症例ではUS,CT,MRIで胆管内腔に突出する乳頭状腫瘤が明瞭に描出可能であったが,これらの画像検査では表層進展を正確に診断することが困難であった.表層進展範囲の診断が可能な唯一の画像検査法は胆道鏡であり,IPNBにおいてもその有用性が報告されている 7)~9).表層進展は主病巣周囲に拡がるイクラ状や顆粒状粘膜として胆道鏡では描出される.本症例ではPOCSにて下部胆管に拡張した血管を伴う顆粒状粘膜を認めたことから表層進展と診断することができ,治療方針の決定に有用であった.しかしながら,病理組織学的にはFigure 5のように前区域胆管の主病変から下部胆管まで連続して表層進展が認められたが,胆道鏡で顆粒状粘膜が認められたのは肝門部胆管と下部胆管のみであった.上部胆管と中部胆管では血管透見の消失した白色調の粘膜しか認められなかったが,これは背景に存在するPSCの炎症による修飾が加わった可能性が考えられるが,一層置換型の表層進展であることによりPOCSによる診断が困難であったことが考えられる.表層進展範囲の診断にPOCSは有用であるが,本症例のように一層置換型の表層進展である場合には診断が困難となることもあり,注意が必要である.
PSCには高率(5~13%)に胆管癌が発生するとされており 10)~12),PSCの予後規定因子の一つである.PSCの発癌機構は十分解明されていないが,BilINからの多段階発癌が想定されている 13).その根拠として,Lewisらは,PSCの肝門部胆管や肝内大型胆管では高頻度にBilINが認められ,その頻度は胆管癌合併例で有意に高かったと報告している 14).IPNBはBilINとともに胆管癌の前癌病変とされており,肝内結石症に合併する肝内胆管癌の初期病変であることが知られている 15),16).PSCに合併したIPNBについて医学中央雑誌,PubMedで「Primary sclerosing cholangitis」,「Intraductal papillary mucinous tumor of bile duct」または「Intraductal papillary neoplasms of the bile duct」をキーワードとし,1995年から2015年の間での症例報告を検索したところ,報告例は少なく,自験例をあわせても4例しかなかった(Table 2) 17)~19).しかしながらPSCは肝内結石症と同様に慢性の胆管障害を来す疾患であり,IPNBからの発癌経路も存在する可能性もある.PSC自体症例数が少なく,胆管癌合併例は更に稀である.今後,PSCからの発癌経路の検討には多施設での症例の蓄積が必要である.

PSC合併IPNBの報告例.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし