2017 年 59 巻 3 号 p. 300-310
大腸腫瘍に対する術前診断として通常観察と拡大観察は必要不可欠なモダリティーである 1).拡大観察は主として,Narrow Band Imaging (NBI)観察とIndigo carmine撒布およびCrystal violet染色による色素拡大観察に二分される.
本章では拡大観察のうち,NBI拡大観察と色素拡大観察を中心にその手技と有用性につき概説する.
「木を見て,森を見ず」というフレーズで一時期,拡大内視鏡観察がもてはやされた時期に揶揄されることもあった.しかしながら今日,NBIやBLI機能の搭載機種が汎用されることで,拡大観察の重要性が全管腔臓器の術前診断で認知されるようになったと考えられる.
拡大内視鏡機能はオリンパスメディカル社から1990年に市販され,今日にいたっている.当初は初期の電子スコープ(CF:200Z)に搭載され,現在は光学ズーム80倍(CF:HQ290Z)と電子ズームが2倍まで最大拡大率で120倍までの観察が可能である.またMaunakea社より共焦点内視鏡,またプロトタイプのEndocytoscopeも登場 2),3)し,生体内で細胞レベルまでの観察も可能になろうとしつつある 4).
本稿では初学者の先生を中心に大腸腫瘍性病変で拡大観察手技の基本法とNBI拡大および色素拡大観察における各々の所見の取り方について概説を行い,より理解を広めて頂ければ幸いである.
NBI拡大観察の重要性は上部消化管を中心に上皮性腫瘍で,その有用性が報告されてきた 5)~11).一方,下部消化管における内視鏡診断に関しては当初,各施設で独自の分類が用いられ,各々の分類上での有用性について報告されてきたのが実情である 12)~16).しかしながら各施設での分類詳細のすべてを把握するのは困難で,本邦での統一された分類の確立を期待する声が次第に多くなった.そこで2013年に各施設の分類の提唱者が中心になり,海外で提唱されたNICE分類 17),18)をたたき台として作成されたJNET(Japan NBI Expert team)分類を報告するに至った 19).現在,各内視鏡医間で,所見の目合わせを行いその一致率について検討される予定である.またJNET分類を用いた各施設からの報告 20)を基にして,今後はJNET分類の有用性の是非につき討論されていくと予想される.
2)手技と観察法大腸観察の場合も上部消化管観察と同様,HQ290ZもしくはFH260AZI(兼AFI用CCD装着)といった拡大機能がついた電子内視鏡を使用するのが必須となる.観察は通常観察を行った後,色素撒布を行う前の段階で手元のボタン,もしくは光源に装着されている「NBI」ボタンを使用し,NBIモードに切り替えて行う.色彩強調の使用は各臓器別で,1から3まで別々のモードを使うことを推奨されている(頭頸部・食道・胃が1,大腸が3)が,若干の色調変化はあるものの,大差は認められない(Figure 1).また輪郭強調においては一般的に「A7-8」に設定して観察することが推奨されている 21)(Figure 2).NBI観察は色素撒布前に行う方が望ましい.NBI拡大観察は白色光観察と同様で,弱拡大から強拡大にズームを上げて観察を行う.非拡大観察でも内視鏡の解像度が鮮明なため,腫瘍部の毛細血管の拡張の有無からある程度の腫瘍-非腫瘍の鑑別可能である.以上から拡大観察のみならず,通常倍率で腫瘍性病変の拾い上げにも重要な手段と考えられる.

各設定モードにおけるNBI画像所見の違い.
上段に非拡大の全体像,下段に拡大像を呈示する.左から色彩1,2,3で,上部消化管では1,下部消化管では3が推奨モードとなる.

A・BモードにおけるNBI画像の違い.
上段がAモード,下段が同一病変をBモードで撮影した.左側が非拡大画像であるが,Bモードでは構造強調され,コントラストが強い画像である.その分,Surface patternが明瞭に描出されている.一方,Aモードでは画像にメリハリがない分,右側の拡大観察所見で血管所見がより強調され描出されているのがわかる.大腸の腫瘍性病変で観察する場合はA7もしくはA8モードが推奨されている.
拡大観察の際における注意点は,病変部の水洗の際に出血を起こさない点である.出血をきたすと腫瘍表面が黒茶色に描出されて,以降の観察が不明瞭となり,十分な観察が行うことが困難となる.また反対に少々の粘液付着は水洗により粘液除去をしなくても,照射光が透過し血管走行が観察され,この点はNBI観察における利点と考えられる.
また胆汁がNBI観察では赤色調に描出されることから,あたかも出血しているような錯覚に陥るが問題はない.便汁を含めた,すべての腸管洗浄剤を吸引した後に観察を始めることが重要である.
3)NBI拡大観察所見の読影法NBI観察の前に,通常白色光観察である程度の病変全体像の把握を行う.腫瘍-非腫瘍の鑑別,腫瘍性病変と診断した場合には粘膜内に限局するか粘膜下層(SM)中等度以深の浸潤かの鑑別が必要となる.そのために拡大観察前に色調の変化,表面性状および正常周囲粘膜の状態を観察する.引き続いて,異型度が高い部位,SM浸潤部が疑われる部位について拡大観察を行う.
NBI拡大観察での腫瘍-非腫瘍の鑑別は比較的容易で血管拡張の有無で把握可能である.過形成性ポリープを主体とした鋸歯状病変では一般的に表層部の血管拡張は乏しい場合が大きい(JNET分類のType 1).しかしながら腫瘍径が10mm以上を超えると,局所的に拡張血管の屈曲蛇行がみられる場合がありVMVと呼称されたり 22),腺管開口部が開大することで,開口部が黒色のドット状に観察され,それらを開Ⅱ型pit 23),またはⅡ-Dilatation pit(Ⅱ-D pit)と呼称し 24),Sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)に特異的と報告されている.
一方でこれら非腫瘍性病変に腫瘍性変化が併存する場合や腺腫を主体とした粘膜内病変では拡張した血管が観察される.これらはJNET分類のType 2Aとされる.一般的に5mm以上の腫瘍径では内視鏡治療の適応病変である.このような腺腫主体の病変の異型度が増すと拡張血管に不規則な所見がみられる(JNET分類のType 2B).これらは屈曲蛇行,形状不均一,大小不同の血管径として観察される(Figure 4-d).以上のような所見がみられる場合は迷わず後述の色素拡大観察を行うことが必要となる.これら異型血管の走行が消失して確認できず,表面構造も消失している場合(JNET分類のType 3)はすでにSM深部浸潤が示唆され,このような病変では外科切除の適応になる.
以上から,拡大観察を行ってこれら血管所見と表面構造の性状を把握する必要がある.拡大観察法として非拡大観察から弱拡大で観察を行い,最深部と考えられる部位に対して強拡大観察を行う.Figure 3では左がFull zoomで×1.4,×2.0と電子ズームを併用し拡大観察を行っている.Lucera Elite®では光量が上がり,電子ズームでも鮮明な画像が得られるのが特徴である.光学ズームが80倍で,電子ズームと併用し160倍までの観察が可能である.その点を利用するとFigure 3で示される両病変とも,比較的小さな病変であるが無血管野の認識が可能となる.このような所見を見た場合はpit patternの観察を行って慎重に治療方針を決定するべきと考えられる.この点でNBI拡大観察は下部消化管病変の場合,後述のpit pattern分類がほぼ確立した中での「補助診断」的な役割が主流と考えられる.

電子ズームを用いた場合のNBI画像の違い.
上段・下段と小型SM癌2例を呈示する.左写真がフルズーム,中央写真がフルズーム+電子拡大×1.4,右写真がフルズーム+電子拡大×2.0を呈示する.
上段病変では血管走行(vessel pattern)・表面構造(surface pattern)ともに不明瞭化し,JNET3と分類される(詳細は文献19参照).
下段病変では陥凹面の大部分で著明に拡張した血管が屈曲蛇行し確認されるが,一部で小結節隆起を伴ってその周囲のみ拡張血管の走行は途絶断絶している(右下写真参照).JNET2Bもしくは3と迷う症例で,色素拡大内視鏡も併用すべき症例である.
色素撒布法にはコントラスト法と染色法に二分される.前者はインジゴカルミン液の撒布で高低差を利用して,腺窩や病変境界部に色素が貯留することでより高低差が明瞭となる利点がある(Figure 4-b,c).しかしながら十分な撒布量や濃度がないと,明瞭に描出されないのが難点である.一方で染色法であれば腺窩上皮が染色されることで,窩間部と腺窩が明瞭に描出される.なお,一般的にはメチレンブルーやクリスタルバイオレット(0.05%)を用いて撒布する.

拡大観察が有用であった症例.
a:通常白色光観察.
b:色素撒布所見.
c:インジゴカルミン拡大観察所見.
d:NBI拡大観察所見.
e:Crystal Violet染色による拡大所見.

f:実体顕微鏡所見.
白線部を矢印方向に切り出しを行った.組織像は(g~i)に呈示する.
g:4-fのルーペ像.
h,i:弱拡大像(4-h)と強拡大像(4-i).
腫瘍隆起部を主体に高分化型腺癌の増生を認めるが,陥凹部に一致して構造異型の強い中分化型腺癌の像を呈した.明らかなSM浸潤所見はみられず,粘膜内癌であった.
染色前には消泡剤・蛋白分解酵素剤入りの微温湯で十分に表層部の粘液を剥奪させることが重要である.また染色液の撒布量は極力少なめで正常周囲粘膜は染色させないことと不要な染色液はすぐに吸引して除去する必要がある.これは病変以外の周囲粘膜も染色されると病変自体が暗くなることや,不要な染色液が残存することで粘膜の刺激性から蠕動亢進が引き起こされることによるからである.
また蠕動亢進により腸管が収縮し,送気にても伸展性が悪い時は躊躇なく抗コリン剤および当院ではハッカ水を併用して観察を行っている.
3)クリスタルバイオレット拡大所見(工藤・鶴田分類)25)腺管開口部の形態を観察して,組織所見の術前診断を行うことは大腸病変では拡大内視鏡が開発されて以来のことで,ほぼ箱根合意 26)を経て確立された感がある.それまではあくまで切除標本に対して実体顕微鏡を用いて,開口部の観察が行われていたのが主流である 27).本章では各々のpit patternとその組織型について詳述する.正常腺管はⅠ型pitとして分類されるが(Figure 5-a),若年性もしくは炎症性ポリープでも観察される腺管開口部である.Ⅱ型pitに分類される開口部はFigure 5-bで呈示されるように,主として星形pitを呈しており,過形成性ポリープをはじめとした鋸歯状病変でみられるpit patternである.近年,SSA/PおよびTSAでもこのようなpit patternが散見され 28),1cmを超える病変では鑑別を要する場合があり,慎重な観察が必要となる.Ⅲ型からⅤ型では腫瘍性病変にみられるpit patternである.

pit pattern分類(鶴田・工藤分類).
Ⅰ型pit:正常腺管を表現(a).
Ⅱ型pit:過形成性ポリープをはじめとした鋸歯状病変でみられるpit pattern(b).
ⅢL型pit:管状pitを呈している(c).
Ⅲs型pit:Figure 5-dに示されるような表面陥凹型病変に特徴的なpit pattern(d).

Ⅳ型pit:絨毛状構造を呈する比較的大きな隆起性病変およびLST顆粒型病変でみられる特徴的なpit pattern(e).
ⅤI型pit(軽度不整):Figure 5-fに示されるようにⅢ型,Ⅳ型pitのように規則性が消失している開口部を呈する.
ⅤI型pit(高度不整):開口部が極めて不明瞭になっている(g).
ⅤN型pit:表層部のpit patternが消失し,腺管開口部として認識されない(h).
Ⅲ型pitは2型に亜分類され,腺腫でみられる病変のほとんどは管状pitで,ⅢL型pitとして呼称される(Figure 5-c).表面型の低異型度腺腫の場合,Ⅰ型pitと混在する場合がある.一方でFigure 5-dに示されるような表面陥凹型病変に特徴的なpit patternもⅢ型pitに分けられ,この特徴は正常のⅠ型pitより小型の正円形pitで密に存在する.クリスタルバイオレット染色による拡大観察でないと認識が難しい.Ⅳ型pitは絨毛状構造を呈する比較的大きな隆起性病変およびLST顆粒型病変でみられる特徴的なpit patternである(Figure 5-e).脳回状,樹枝状,松毬様と表現法は様々であるが,いずれも腺管開口部の溝が深いのが特徴で,粘液付着が強く染色前には十分な水洗を行う必要がある.最後にⅤ型pitを概説する.Ⅴ型pitは開口部が残存するもその模様に不規則性(irregular)がみられるものと無構造(Non structure)で開口部が確認困難なものに大別される.前者をⅤI型pit,後者をⅤN型pitとした.ⅤI型pitはまた,腺管開口部形態の異型性に応じて軽度不整と高度不整に大別される.軽度は不規則なpit patternを呈するも染色性も保たれ,開口部の辺縁が不明瞭化せずに明瞭に描出されるものとされる(Figure 4-e,5-f).一方で,形態に内腔の狭小化,辺縁不整,境界不明瞭な所見を呈する場合は高度不整と位置づけられる(Figure 5-g).表面構造で腺管開口部の形態が消失し認識できない場合はⅤN型pitとされ,SM深部浸潤の指標となる(Figure 5-h).
最新機種HQ290Zの最大拡大倍率は約80倍である.微小病変はより拡大率を上げて観察する必要があり,その点を補填する機能が「電子ズーム」である.以前は光量が低いために画像にノイズが入り不鮮明であったが,Lucera Elite®になりその点も改善された.左が光学ズームのみの拡大所見(Figure 6-a).中央が電子ズーム1.4倍(Figure 6-b),右が2.0倍拡大を併せて拡大した画像である(Figure 6-c).

電子ズームを用いた拡大画像の違い.
a:光学ズームのみの拡大所見.
b:電子ズーム1.4倍拡大画像.
c:電子ズーム2.0倍拡大画像.
S状結腸に見られた隆起性病変.通常光観察では淡発赤調の凹凸不整病変を認める(Figure 4-a).送気にて伸展性は保たれているが,肛門側部で陥凹様所見を呈する.インジゴカルミン染色で明瞭となった(Figure 4-b).同部の拡大観察所見ではpit patternの残存が認められた(Figure 4-c).NBI拡大観察では陥凹部に一致して拡張した血管が屈曲蛇行している.表面構造も不明瞭ながら残存しており,Vessel pattern,Surface patternともにJNET-2Bと診断し(Figure 4-d),Crystal violet染色を施行した.辺縁隆起部ではⅢL pitからⅣ pit,一方で陥凹部ではⅤI pit軽度不整と診断した(Figure 4-e).以上から粘膜内主体の病変と考えて内視鏡的粘膜切除術を施行した.実体顕微鏡鏡所見(Figure 4-f)の通り,陥凹面を含めて標本作成を行った.白線部を上に面出しを行い(矢印方向),Figure 4-g~iに呈示を行う.ルーペ像では隆起型主体で,内視鏡所見の通り,肛門側で陥凹面を形成していた(Figure 4-g).隆起部では絨毛状構造を呈するのに対し,陥凹部では構造異型を伴った密に増生した管状腺癌の集簇が見られた.病変は粘膜内に限局していた(Figure 4-h,i).
本病変のように,通常観察で粘膜下層浸潤が疑われる病変では拡大観察も行うことで,より詳細な組織性状の把握が可能で,病変に対する治療方針決定に寄与することが期待される.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし