日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
大腸ポリペクトミー・コールドポリペクトミー・EMRのコツ
樫田 博史
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2017 年 59 巻 3 号 p. 311-325

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要旨

有茎性病変は通常のポリペクトミーの適応である.無茎性や平坦型病変で大きいもの,小さくとも癌を疑うような病変はEMR(やESD)の適応である.コールドポリペクトミーの適応は,癌を疑わない無茎性ないし平坦型病変で,9mm以下までが妥当な線と思われる.有茎性ポリープでは,頭部寄りにスネアをかける.茎が太い場合は出血予防のために留置スネアも使用する.コールドポリペクトミーの場合,周囲粘膜を含めて切除するため,常に病変をスネアの中央付近に捉えるよう,微調整しながらスネアを閉じる.EMRの成否の大半は,局注にかかっていると言っても過言ではない.屈曲部やヒダにまたがっている病変では口側から局注を開始する.SM癌を除く大きい病変では中央部から局注を開始する方が膨隆を得られやすい.穿刺した針で病変を少し持ち上げるようにし,注入しながら針をゆっくり引き戻していく.スネアをかける際は,軽く病変を押さえ込むようにするが,筋層を巻き込まないよう注意する.患者が痛みを訴える場合や,介助者がゴムのような弾力を感じてなかなか切れない場合は,筋層を巻き込んでいる可能性が高いので中止する.

Ⅰ はじめに(各手技の適応を含めて)

ポリペクトミーと言えば従来,金属線製の輪(=スネア)に通電してポリープを切除することを意味し,主として有茎性病変~亜有茎性病変の切除法として用いられてきた.広基性病変~平坦陥凹型病変に対しては,病変直下の粘膜下層に液体を注入(局注)し,病変を拳上させた上でスネアを用いて通電切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)が行われてきた.一方近年,スネアを使用するが通電しないで切除する方法が流行し始めており,コールドポリペクトミーと呼ばれている 1

コールドポリペクトミーの特徴はburning effectがないことであり,それが長所にも短所にもなり得る.長所としては穿孔や後出血を来たしにくいこと,短所としては術中出血や病変の遺残を来たしやすいことである.有茎性病変はコールドポリペクトミーで術中出血を来たす可能性が高いため,通常のポリペクトミーの適応である.ただし,癌のstalk invasionが予測される場合は,基本的に外科治療すべきである.無茎性や平坦型病変で大きいものはEMRやESDの適応であり,小さくとも癌を疑うような病変では,局注して側方および垂直断端を確保すべきである.EMRとESDの使い分けに関しては本稿では述べない 2)~4.コールドポリペクトミーの適応は,癌を疑わない無茎性ないし平坦型病変で,大きさの明確な規定はないが,9mm以下までが妥当な線と思われる.

Ⅱ ポリペクトミーのコツ

1)基本手技

1.スネアをポリープの頭部からかぶせ,有茎性の場合は茎部,亜有茎性の場合は基部にあてがう.

2.ポリープの頭部が虚血で変色するまでスネアを閉じる.

3.通電しながらスネアをさらに閉じ,ポリープを切離する.

4.切除標本を回収する.

2)コツ

1.スネアをかける際のコツ5

有茎性ポリープで癌の疑いのない場合は,通電による穿孔を予防するため,頭部寄りにスネアをかける.後ほどクリップをかけるためにも,茎部を少し残す方がよい.癌を疑う場合は,断端確保の目的で,やや基部寄りにスネアをかける.

ポリープの全体像や茎部がよく見えない時は体位変換してみる.スネアが病変の頭部にひっかかっていないか,口側の正常粘膜を巻き込んでいないか,確認する.スネアをおしつけるのではなく,茎部にかけたスネアでポリープを引き起こしてから緊縛する(Figure 1).

Figure 1 

ポリペクトミーの実際(切除前に茎部にクリップをかけてから施行).

a:長い茎部を有するポリープ.

b:頭部寄りにスネアをかけ,スネアを手前に引いてから閉じていく.

c:通電中.

d:切断直後の断面.

ポリープの頭部が腸管の対側壁に接触していると,その方向に電流が流れ,ポリープの切離に時間がかかるだけでなく,接触部に熱傷を来たして危険である.ポリープが大きいなどの理由でどうしても接触が避けられない場合は,電流の一点集中を回避するため,逆に接触面積を広くする方がよい.

2.通電切除のコツ 6

切開電流・凝固電流を交互に,あるいは混合電流を使用する.切断が早すぎると出血し,通電が長すぎると貫壁性の熱傷(transmural burn, post-coagulation syndrome)や遅発性穿孔を来たすおそれがある.茎が太くなかなか切除できない場合は,過通電になる前に切開電流に変更するか設定を上げる.それでも切断できない場合や患者が疼痛を訴える場合は,手技を中断し原因を考える.穿孔や出血の予防目的に,予め基部に生食を局注することがあり,液にエピネフリンを混入することもある.

3.出血予防のコツ:留置スネア 7

茎が太い場合は動脈性の噴出性出血を来たしやすい.出血予防のためには,留置スネアを用いて茎部を結紮し,その頭部寄りにスネアをかけて切除する(Figure 2).通電の際に茎が予想以上に短縮するので,留置スネアは極力基部寄りに,切除用スネアは極力頭部寄りにかけ,距離を置く.切除用のスネアが留置スネアに接触してはいけない.距離が近すぎると,切除用スネアをかける際に留置スネアが邪魔であり,また通電時に留置スネアの緊縛部に電流が流れやすく,さらにポリープ切除後,せっかくかけておいた留置スネアが脱落する恐れがある.通電中は留置スネアの緊縛部の色調変化に注意しながら,なるべく短時間で切除する(長時間になると茎が余計に短縮し,また緊縛部に電流が流れやすい).茎が短い症例では留置スネアの使用を断念せざるを得ないことがある.

Figure 2 

留置スネアの使用法.

a:ポリープの頭部.

b:茎部は長く,幅広い.

c:留置スネアで基部を緊縛した.

d:スネアの余分な箇所は,ループカッターで切断・除去した.

e:留置スネアから距離を置いて,頭部寄りに切除用スネアをかけた.

f:切除直後. 出血はなかった.

4.出血予防のコツ:クリップ 7

術中出血予防目的で,切除前に茎部にクリップをかけることもある(Figure 1).茎部がクリップの長さより太い場合は1個のクリップでは出血予防しきれないので留置スネアを使用すべきである.また切除中,クリップに電流が流れないように十分注意する必要がある.

後出血の予防のためには,切除後の基部にクリップをかける.熱変性部が後ほど脱落することを見越して,クリップはできるだけ熱変性のない根元にかける.基部が太い場合は,複数個のクリップを,可能な限り異なる方向からかける(Figure 3).最近のクリップは回転機能が備わっているものが多いので,向きを調節できる.ゼオンメディカル社製 ZEOCLIPは,シースから出した時すでに開いており,開く手間が省ける.また途中まで閉じても,再度開いて掴み直しが可能である.シャフトと一体になっていて装着の手間が省けるクリップが発売されている(ボストン社製 Resolution,オリンパス社製 Quick Clip Pro).掴み直しも可能であるが,ディスポーザブルであるため,高価なのが欠点である.

Figure 3 

クリップのかけ方.

a:ポリープ切除中.

b:切断直後の基部.

c:クリップをかけたが,長さが茎部の太さに足りなかった.

d:異なる方向から複数個のクリップをかけて後出血を予防した.

Ⅲ コールドポリペクトミーのコツ

1)基本手技1)Figure 4
Figure 4 

コールドポリペクトミーの実際.

a:病変は SSA/P であり,境界不明瞭.

b:インジゴカルミン撒布により,病変の範囲がやや明瞭化.

c:径 10mm の Captivator Ⅱ Snare (ボストンサイエンティフィック社)をあてがう.

d:周囲粘膜を少し含んだ状態でスネアを押し当てる.

e:周囲粘膜を含んだままゆっくりスネアを閉じ,病変を軽く持ち上げながら切断する.

f:切除直後.粘膜下層の組織がヒモ状に見える.

g:バイアスピリン内服中であったので,念のためクリップをかけた.

h:切除標本は濾紙の上に広げてからホルマリンに浸漬した.

1.スネアをポリープの周囲にあてがう.

2.スネアを閉じていき,ポリープを絞扼する.

3.スネアをさらに閉じ,ポリープを切離する.

4.切除標本を回収する.

2)コツ

周囲粘膜を含めて切除する必要があるため,スネアの先端はポリープから少し離れた位置に押し当てる.スネアを閉じる速度が速すぎると滑ってしまい,ポリープをつかみ損ねるので,ゆっくり閉じる.スネアが浮いてしまうと病変を逃すが,根元を押し付けすぎても,スネアが近位側に滑ってしまう.スネアを閉じ終わるまでは,常に病変をスネアの中央付近に捉えるよう,微調整する.

病変を把持したら,スネアを軽く内腔側に持ち上げてから切除する.硬くてなかなか切れない場合は,スネアを絞扼した状態のまま,シースごと鉗子孔に引き込むと,切断することができる.

Ⅳ EMRのコツ

1)基本手技

1.局注液を病変直下に注入する.

2.スネアを病変の周囲にあてがう.

3.スネアを閉じて病変を把持・絞扼する.

4.通電しながらスネアをさらに閉じ,病変を切離する.

5.切除標本を回収する.

2)コツ

1.体位選択やスコープ位置取りのコツ 8

病変の全体像を捉えながら治療することが必要なので,患者の体位が重要である.病変が水没せず,重力により局注での挙上が得やすい体位を工夫する.スコープがコントロールしやすいように大腸が短縮された状態で治療するのが基本であるが,時には意図的にプッシュして大腸を伸展させる方が全体像を得やすいことがある.スコープをひねって,病変が鉗子孔の近く,すなわち5-7時方向に来るようにする.残渣や余分な色素は洗い流して吸引しておく.

ヒダにまたがる大きなLSTや下部直腸の病変で,病変の全体像を捉えにくい場合,スコープを反転させて口側からアプローチすることもある.

一方,切除標本が大腸の口側に移動すると後ほど回収が困難となる(特に分割EMRの場合)ので,肛門側に移動するような体位が望ましい.例えば,S状結腸下行結腸寄りの病変を仰臥位や左側臥位で切除すると,標本が下行結腸に移動してしまい,回収時に難渋することが多いので,右側臥位にすることがある.同様に,標本回収の観点からは,横行結腸病変の場合は左側臥位が望ましい.

2.局注のコツ 9

針の太さは,25Gより23Gの方が低い注入圧で済むが,切れ味が劣り針穴も大きくなるので,筆者は25Gを用いている.最近は,肉薄で太さの割に内腔が広く注入圧が低くてすむもの(ハイフロータイプ:トップ社のインパクトフローなど)が増えており,ヒアルロン酸を使用する際にも問題ない.針の突出長に関しては4mmが標準的であるが,筋層を貫くのを避けたければ3mmや2mmのものも発売されている.切れ味のよいものが望ましく,各社が工夫している.「鋭針」「鈍針」は先端の形状を示すが,必ずしも切れ味と相関する訳ではない.最近は,小さい力でも刺しやすいように,シースが硬い=力が先端に伝わりやすいものが発売されている(トップ社のスーパーグリップA(エース),ボストン社のSure LIFTERなど).

EMRの成否の大半は,局注にかかっていると言っても過言ではない.小さい病変では病変の肛門側から病変の直下に向かって穿刺する.屈曲部やヒダにまたがっている病変で肛門側から局注すると,病変が口側に向いてしまい見えにくくなることが多いので,口側から局注を開始する(Figure 5).大きい病変や線維化を疑う場合は,よい膨隆を期待してヒアルロン酸を用いることがある.原液のままでは硬すぎるので,2-3倍希釈にすることが多い.

Figure 5 

局注のコツ:病変がヒダに跨っている場合.

SM癌を疑う場合は,病変を針で貫いて局注することは避けるべきである.しかし周囲にだけ局注しようとすると,大きな病変では長い円周に沿って何度も穿刺しなければならず,しかも液が周囲に拡散するばかりで,病変中央部が充分膨隆しないことが多い(Figure 6-a).また穿刺孔から液漏れや出血を来たす.このような病変では中央部から局注を開始する方が膨隆を得られやすい(Figure 6-b).可能な限り1回の穿刺で病変全体が挙上するまで注入を続けるのがコツである.

Figure 6 

局注のコツ:病変が大きい場合.

a:周囲にだけ頻回に局注した場合.

b:病変を貫いて局注した場合.

穿刺が浅すぎると液漏れや粘膜内注入を来たし,後者では,血腫を形成しやすい.逆に穿刺が深すぎ筋層や漿膜を貫いてしまうと,それだけでも穿孔や限局性腹膜炎を来たす可能性がある.穿刺の際に筋層を貫いた感触や,局注しても膨隆が得られないことにより,針先が深すぎることに気付くべきである(Figure 7).右側結腸など,高いヒダに病変がまたがっている場合,局注液が漿膜下層に入っていても,一見病変が挙上したように見えることがある(Figure 8).特にヒアルロン酸を使用する際には注意する方がよい.

Figure 7 

穿刺の深さの良い例と悪い例.

a:良い例.

b:筋層を貫いてしまった場合.

Figure 8 

右側結腸などでヒダにまたがる病変.

漿膜下に注入しても膨隆したように見えることがある.

穿刺したら介助者に少量注入させ,病変が少し挙上するのを確認してから注入を続ける.針を押しつけたままでは液が側方へ広がりやすい(Figure 9-a)ので,穿刺した針で病変を少し持ち上げるようにし,注入しながら針をゆっくり引き戻していく(Figure 9-b).

Figure 9 

注入のコツ.

a:針を押しつけたまま注入すると液が横方向に広がってしまう.

b:針先で病変を持ち上げるようにする.注入しながら針を少しずつ引く.

3.スネア選択のコツ 10

形状が細長いスネアや軟らかいものは,反りやすく,先端が浮いてしまうことがある(Figure 10).また,スネアの形状が細長い楕円形であると病変の口側や肛門側の正常粘膜を余分に巻き込みやすい.横方向への開きがよく円形に近いものが望ましい(オリンパス社製スネア・マスタ,ボストン社製captivator Ⅱなど).特にヒダにまたがる病変やヒアルロン酸使用時は押さえこみが重要である.

Figure 10 

スネア選択のコツ.

a:軟らかいスネア.押しつける力が弱いためスネアが滑って浮き上がりやすい.先端がそりやすい.

b:硬いスネア.

スネアの大きさは病変のサイズに合わせる.「大は小を兼ねる」という発想は間違っており,大きすぎるスネアでは,筋層や余分な正常粘膜を巻き込みやすい.分割EMRの場合,最初は大きいスネアを使用するが,後半になると小さいものにかえる.一本のスネアで大小2段階に使い分けることができるものも市販されている(メディコスヒラタ社製 Dualoop).

バイポーラスネアは電流が深く流れず穿孔しにくいと思われるが,切除が素早過ぎると出血を来たす可能性がある.

4.スネアリングのコツ 11

スネア先端を病変の口側粘膜に軽くあてた状態でゆっくり開き,根元を病変の肛門側に押し付ける.大きいスネアでは,先端を大腸の側壁に当て,少し押しつけながら開くと,横方向への開きがよくなり,病変を把持しやすくなる.

側方断端陽性にならないよう,正常粘膜を少し含むようにする.押しつけが不十分であると,スネアを閉じる際に先端が肛門側に向かってすべり,病変を逃がしてしまう.逆に押しつけ過ぎると,スネアが口側へすべって病変を把持し損ねたり,口側粘膜を巻き込んだりする.スネア先端がブラインドになっていると予想以上に正常粘膜を巻き込んでいる場合があるので注意する(Figure 11).スネアを閉じるにつれて病変がスコープの方向へ移動するので,レンズに接近しすぎて見えにくくなる.逆にスネアのシースを押し出し過ぎると,スネアが口側にすべったり,スコープが押し戻されてしまったりする.常に病変がスネアの中心に来るように,シースを少し押し出したり,スコープを少し引いたり,微調整しながらスネアを閉じていく.硬いスネアを早く閉じると途中でカクッと急に閉まるので,滑ってしまい,病変を取り逃がすことがある.半分ほど閉じたところで一旦止め,ひと呼吸おく方がよい.

Figure 11 

スネアリングのコツ.スネアの根元を押しつけすぎると,すべったり,口側粘膜を巻き込んだりしやすい.

a:側方からみた様子.

b:上からみた様子.

スネアに軽くダウンアングルをかけ,病変を押さえ込むようにスネアを閉じていく.押さえこみ過ぎると筋層を巻き込む恐れがある(Figure 12).病変を確実に把持するために軽い吸引で病変をスネアの中に吸い込むのもコツであるが.吸引しすぎると筋層を巻き込む可能性もあるので,注意が必要である(Figure 13).

Figure 12 

スネアをかける位置と押さえつけ.

a:良い例.

b:悪い例:スネアの位置が病変に近すぎると,側方断端陽性になりかねない.

c:悪い例:正常粘膜をつかみ過ぎたり,押さえこみ過ぎたりすると,筋層を巻き込む恐れがある.

Figure 13 

病変を把持するためのコツ.

a:スネアをおしつける.

b:吸引を利用する.

c:過度であると筋層を巻き込む(赤線:筋層).

絞扼した状態でスネアを少し出し入れし,病変の可動性を見る.筋層を巻き込んでいると可動性が悪くなる.スネアを少し緩めながら送気して,もう一度スネアを締め直すこともある.この操作によって余分な正常粘膜や筋層の巻き込みを解除する.

5.通電切除のコツ 12

スネアを腸壁に押し付けず,病変を少し持ち上げるようにして切り離す.凝固電流は出血が少ないが,遅発性穿孔を来たすリスクがある.切開電流は遅発性穿孔のリスクは低いが,出血を来たしやすい.通常はエンドカットモードなど混合電流を使用する.オリンパス社UES-20の場合,混合波2: 25-30Wあるいは凝固波25Wを交互に踏んで用いる.オリンパス社 ESG-100の場合,Pulse cut slow 25Wあるいは Forced coag. 2:25Wを用いるが,前者では素早く切れすぎる傾向がある.エルベ社 ICC200ではEndocut mode, effect 3:90-120W,エルベ社VIO300DではEnd cut Q, effect 3, duration 1, interval 6あるいはForced coag., effect 3:60Wなどを用いる.切除が早すぎると出血しやすく,遅すぎると遅発性穿孔を来たす恐れがある.バイポーラスネアは穿孔しにくいが,切除が素早過ぎると出血を来たす.

患者が痛みを訴える場合や,介助者がゴムのような弾力を感じてなかなか切れない場合は,筋層を巻き込んでいる可能性が高いので,安易に電圧を上げてはならない.

6.分割EMRのコツ 13

大きい病変では,無理に一括切除するより分割切除する方が安全なことがある.しかし,分割数が多くなると局所遺残再発の可能性が高くなる.分割EMRの場合でも最初は大きいスネアでできる限り大きく切除し,可及的に分割数を減らす.途中から小さいスネアに交換する.

内部に取り残しを来たさないようにスネアリングするのが重要であるが,逆に深部断面を巻き込むと穿孔のおそれがあるので,注意する.断端の判定には拡大内視鏡によるピットパターンの観察が極めて有用である.病変の遺残が疑われれば,ホットバイオプシーやAPCによる治療を追加するが,焼灼しすぎると遅発性穿孔を来たし得る.分割EMRの場合は病変の遺残が否定できないので,原則的にクリップなどで創閉鎖すべきでない.

7.出血予防のコツ 14Figure 1415

Figure 14 

EMRの実際.

a:径 23mm の病変.局注後 33mm Captivator Ⅱ (ボストンサイエンティフィック社)で把持した.

b:通電切除直後の断面.穿孔・出血や遺残は認めなかった.

c:切除直後の病変の裏側.正常粘膜も含まれている.筋層は切れていない.

d:クリップで縫縮の後,ネットで病変を回収した.

Figure 15 

EMRの実際.

a:径 25mm の病変は中央部がやや陥凹しているように見えた.

b:クリスタルバイオレット染色拡大像では,明らかな SM浸潤所見は認めなかった.

c:病変の中央部にも直接局注することにより,十分な膨隆が得られた.

d:横方向にも開きのよい DuaLoop Snare (メディコスヒラタ社)をかけた.

e:正常粘膜を少し含めて,病変を把持できた.

f:通電切除した.穿孔・出血や遺残は認めなかった.

g:クリップにて創閉鎖した.

h:切除標本をゴム板に貼付した.

後出血の可能性が高いと思われる部位には,止血鉗子,APCなどで出血を予防するが,凝固しすぎると遅発性穿孔を来たすことがある.創全体をクリップ縫縮しても,2cm以上の大きい病変,抗血栓薬内服など出血傾向を有する場合を除いては,後出血の頻度を有意に下げないとするデータが多い 15)~18.先述のように,分割EMRなどで病変の遺残が否定できない場合も,創閉鎖すべきでない.

8.標本回収,標本貼付のコツ 10

通常は5脚鉗子で回収するが,大きい病変の場合はネットを使用する(Figure 14).形態や大きさおよびシース外径にはいくつか種類がある(US Endoscopy社製 楕円型は開き(横)幅30mmと40mm,八角型は40mm,P Medical Products社製 楕円型は回転機能付きで30×60mmと40×75mm).切除用のスネアで把持して回収することもあるが,標本がちぎれてしまわないよう留意が必要である.小さい病変で特に多発の場合,ポリープ・トラップに吸引して回収する場合があるが,標本が挫滅しやすいので,なるべく使用しない.

EMRの場合は,必ず標本を展開して板に貼付する(Figure 15).ゴム板やコルク板が望ましく,発泡スチロールでは軟らく軽すぎて固定しにくいことがある(Tmedix社の標本展開シートは発泡ポリエチレンフォーム製のマットにポリプロピレン製の方眼シートを貼付してあり,メタルプレートにてホルマリン液に沈める).固定針には錆びないステンレスが必要であり,太いと針孔が目立つので,細いほどよい.分割EMRでも切除標本はすべて回収し,可能な限り再構築する.

Ⅴ おわりに

大腸におけるポリペクトミー・コールドポリペクトミー・EMRのコツについて解説した.大腸においてもESDがかなり普及したが,大腸腫瘍の95%以上はESD以外の手技で治療可能である.基本手技を侮ることなく,確実かつ安全に行っていきたい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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