2017 年 59 巻 4 号 p. 458-464
胃がん検診の手段として胃X線検査に加え,上部消化管内視鏡検査(内視鏡)が推奨され,今後内視鏡が中心的役割を果たすようになるであろう.スクリーニング内視鏡では,胃全体を網羅的に撮影し,胃がんなどの疾患を見落とさないようにすることはもちろん大切である.それに加えて,背景胃粘膜の状態から胃がんリスクを評価することも望まれる.「胃炎の京都分類」では,19の内視鏡所見によりH. pylori感染状態について未感染・現感染・既感染に区別することを基本としている.そのうち,胃粘膜萎縮がなく,胃角部にRAC(regular arrangement of collecting venules)を観察できれば,H. pylori未感染の可能性が高い.そして,胃底腺ポリープや稜線状発赤を認めれば未感染の可能性はさらに高まる.一方,C-2以上の胃粘膜萎縮はH. pylori感染を示唆するものであり,びまん性発赤を認めれば現感染の可能性が高く,認めなければ既感染の可能性が高い.地図状発赤はH. pylori既感染の診断において感度は低いが特異度の高い所見である.背景胃粘膜の評価はその後の効率的な胃がん内視鏡スクリーニングに繋がるであろう.
胃がんや消化性潰瘍をはじめとする上部消化管疾患の発生にHelicobacter pylori(H. pylori)感染に伴う胃粘膜の炎症と萎縮が強く関連していることに異論はないであろう.胃がん発生リスクファクターとしてはH. pylori感染のほかに喫煙や塩分摂取があげられるが,H. pylori感染は必要条件とも位置づけられる.わが国におけるH. pylori診療は2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍,2010年に早期胃がん内視鏡治療後胃・胃マルトリンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病(現:免疫性血小板減少症)に保険適用が認められ,2013年にはH. pylori感染胃炎にまで拡大された.すなわち,H. pylori感染者はすべて除菌治療可能になったが,上部消化管内視鏡検査(内視鏡)で胃炎と診断することが前提条件となっている.
また,2015年3月に国立がん研究センターから公表された「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版」(齋藤班報告) 1)を受け,2016年2月に一部改正された厚生労働省健康局長通知「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」では,対策型胃がん検診の方法として,胃X線検査とともに内視鏡が推奨され,今後,地域検診においても画像検査の主体は内視鏡に移行していくであろう.その際にも胃がん診断に加え,H. pylori感染状態など背景胃粘膜状態の把握は大切である.
第85回日本消化器内視鏡学会総会(会長:春間賢)(メインテーマ:科学する内視鏡~あなたには何が見え,何をみますか~)が2013年5月に京都で開催され,シンポジウム2「胃がん撲滅に向けた内視鏡的胃炎の意義」(司会:加藤元嗣,鎌田智有),ワークショップ7「新たな内視鏡的胃炎分類‘Up dated 京都分類’をめざして」(司会:井上和彦,村上和成)において,内視鏡的胃炎分類や内視鏡所見による胃がんリスク評価が討論された.そして,その後議論を積み重ね,2014年9月に「胃炎の京都分類」 2)が発刊された.その際,これまでの国内外での胃炎診断・分類を踏まえた上で,1.H. pylori未感染,現感染,既感染 (除菌後含む)を区別できる分類にする,2.薬剤による変化など多彩な内視鏡所見に対応している,3.胃がんのリスクを反映している,4.胃炎の記載を見れば,内視鏡像が想像できる,5.国際的に通用する,6.客観的で簡便な分類で実地医家の先生にも役立つ,7.将来的にも使える,ことを目標として作成された.その中でもH. pyloriについて未感染・現感染・既感染(除菌後を含む)を区別できる分類とし,胃がんリスクを反映することを最大の目標とした.
内視鏡所見とその存在部位,H. pylori感染状態に関する総括表 3)をTable 1に示す.

胃炎の京都分類.
H. pylori未感染を示唆するものとしては,胃粘膜萎縮のないことと体下部小彎でRAC(regular arrangement of collecting venules) 4)が観察できることが,感度・特異度ともに高い所見である.最近では,体下部のみならず胃角部を越え前庭部でもRACを観察できる未感染者も少なくない.胃底腺ポリープや稜線状発赤は感度はそれほど高くないが特異度は高く,それらの存在は未感染を強く示唆するものである.また,ヘマチンの付着も特異度が比較的高く,前庭部の隆起型びらんも未感染者にみられることが多い.Table 1に記載されていない所見としては,未感染者の十二指腸に小びらんがみられることも少なくない.
わが国におけるH. pylori感染者では,木村・竹本分類 5)でC-2以上の胃粘膜萎縮を呈することが圧倒的に多く,また,体下部小彎でRACを観察できることはほとんどない.胃粘膜萎縮の拡がりの程度は木村・竹本分類で評価されることが多く,内視鏡報告書に記載することを必須とすべきであろう.
腸上皮化生は一般的には胃粘膜萎縮の進展した症例でみられる頻度が高くなり,前庭部にみられることが多い.
びまん性発赤は現感染を強く示唆する所見であるが,内視鏡に携わる医師全体に正しく普及するように啓発が必要であろう.色調は観察者の主観により異なることがあり,また,内視鏡機器の設定により判断が異なることも否定できず,特に,ワンポイントでの評価では注意を要するかもしれない.穹窿部や体部の点状発赤も現感染者に認めることが多い.
体部大彎でみられる皺襞腫大や前庭部にみられることの多い鳥肌,平坦型びらんはH. pylori現感染を示唆する特異度の高い所見である.
H. pylori除菌治療に成功すると組織学的胃炎の改善に伴い,びまん性発赤は消退・軽減する.びまん性発赤の有無により現感染と既感染を鑑別できることが多いが,前述したようにワンポイントでの判断は難しいことがある.また,地図状発赤や斑状発赤が出現するが,その頻度はそれほど高くない.すなわち,特異度は高いが感度はそれほど高くない所見である.「胃炎の京都分類」に詳細な記載はないが,体部小彎の萎縮粘膜がまだらとなり(Figure 1),その中にRAC様所見を認めることもあり,現感染と既感染の鑑別に用いることができるのではないかと思われる.

Inactive gastritis.H. pylori除菌施行後の体下部小彎のまだらな萎縮粘膜(EG-L580NWで観察).
H. pylori感染の中で胃がんリスクの高い所見としては,まず進展した胃粘膜萎縮があげられる.Uemuraら 6)は病院受診者を対象としたコホート研究で背景胃粘膜の組織学的検討から腸上皮化生や胃体部胃炎を伴う高度胃粘膜萎縮はH. pylori感染者の中でも胃がんリスクが高かったことを報告している.また,Masuyamaら7)は消化器内科クリニックで内視鏡的胃粘膜萎縮別の胃がん発見率を検討し,C-0で0.04 %,C-1で0%,C-2で0.3%,C-3で0.7%,O-1で1.3%,O-2で3.7%,O-3で5.3%であり,胃粘膜萎縮の進展とともに胃がん発見率が高くなることを報告している.われわれが行った人間ドック内視鏡スクリーニング発見胃がんの背景胃粘膜の検討 8)では,分化型胃がんで大部分がopen typeの萎縮を呈していたのみならず,未分化型胃がんでも70%がopen typeの萎縮を呈しており,また,経過観察での胃がん発見率も初年度の胃粘膜萎縮の程度と相関していた.すなわち,H. pylori感染者の中での胃粘膜萎縮の程度,腸上皮化生の有無を把握することは重要である.胃粘膜萎縮以外に胃がんリスクの高い所見としては皺襞腫大と鳥肌があげられ,Nishibayashiら 9)は体部大彎の皺襞が太くなるほど胃がん発見率が高かったことを報告し,Kamadaら 10)は鳥肌を認める人は鳥肌の所見のないH. pylori陽性者に比べ有意に胃がん発見率が高かったことを報告している.
これらより,萎縮(A:atrophy),腸上皮化生(IM:intestinal metaplasia),びまん性発赤(DR:diffuse redness),皺襞腫大(H:hypertrophy),鳥肌(N:nodular)の5つを要素とし,A,IM,DRについては0~2点の3段階,HとNについては0ないし1点の2段階に点数化し,合計スコアを記載する「胃がんリスクの内視鏡所見スコア」が提案された(Table 2) 11).症例を呈示する.症例1は前庭部に隆起型びらんを認めるが,胃角部にRACを観察でき胃粘膜萎縮はなく(C-0),体部に胃底腺ポリープを認め,H. pylori未感染と考えられ,non-gastritis:A0 IM0 H0 N0 DR0 (0)となる(Figure 2).症例2はC-3の胃粘膜萎縮と明らかなびまん性発赤と点状発赤を認め,鳥肌・皺襞腫大・腸上皮化生を認めないが,H. pylori現感染と考えられ,active gastritis:A1 IM0 H0 N0 DR2 (3)となる(Figure 3).症例3はH. pylori現感染に伴う明らかなびまん性発赤があり,O-2の萎縮と皺襞腫大を認めるが,腸上皮化生を認めず,active gastritis:A2 IM0 H1 N0 DR2 (5)となる(Figure 4).症例4は2年前に除菌に成功し,C-2の軽度胃粘膜萎縮(まだらな萎縮)は認めるが,びまん性発赤は消失しており,inactive gastritis:A1 IM0 H0 N0 DR0 (1)となる(Figure 5).

胃がんリスクの内視鏡所見スコア.

Non-gastritis:AO IMO HO NO DRO (0) (H290で観察).

Active gastritis:Al IMO HO NO DR2 (3) (EG-L580NWで観察).

Active gastritis:A2 IMO Hl NO DR2 (5) (EG-L580NWで観察).

Inactive gastritis:Al IMO HO NO DRO (1) (EG-L580NWで観察).
「胃がんリスクの内視鏡所見スコア」はH. pylori未感染の場合には0点,H. pylori感染による前庭部胃炎優位の場合には1~3点,胃体部萎縮の進んだ場合には3~8点となるように設定されており,血液検査による胃がんリスク層別化検査(ABC分類)のC群ではB群よりも高くなるであろう.すなわち,分化型胃がんの背景胃粘膜はスコアが高いが,未分化型胃がんの背景胃粘膜ではそれほど高くならないと予測され,未分化型胃がんを考慮すると,点数の重みづけを修正する必要があるのかもしない.このスコアがスクリーニング内視鏡において実際に有用なのかどうか,後向き研究のみならず,前向き研究で実証しなければならない.
今後,胃がん検診における画像検査の主体は内視鏡になると思われるが,内視鏡専門医だけが担当するわけではなく,日本消化器内視鏡学会の指導医ならびに専門医は各地域において指導的役割を果たさなければならないであろう.
胃がん内視鏡検診に携わる医師は,非専門医も含め全員が,網羅的に胃全体を観察撮影し,偽陰性(見落とし)がないように診断するとともに,背景胃粘膜の観察により胃がんリスク評価を行うことが望まれる.すなわち,内視鏡検診に従事する医師全員が,内視鏡所見からH. pylori感染状況(未感染・現感染・既感染)を判断できるようにすべきである.少なくとも,H. pylori未感染で胃がんリスクが極めて低いのか,あるいは,それ以外でリスクがあるのかを把握し,記載すべきである.しかしながら,実地医家の先生方からは総括表(Table 1)で示す19の内視鏡所見すべてを網羅することは複雑すぎるとの意見が多く,簡便な方法も求められている.胃がん検診や人間ドックで用いられることを期待して,「背景胃粘膜チェックシート」 12)も掲載しているが,その改訂普及版をTable 3に示す.角上部~胃角部小彎を観察し,胃粘膜萎縮がなく,RACを認めれば,H. pylori未感染の可能性が高いと判断して良いであろう.一方,C-2以上の胃粘膜萎縮を認め,角上部にRACを観察できなければ,H. pylori現感染あるいは既感染と判断して良いであろう.そして,びまん性発赤があれば現感染の可能性が高く,なければ既感染の可能性が高い.また,地図状発赤は除菌成功後にみられ,感度は低いが特異度は高い.

内視鏡的背景胃粘膜チェックシート(改訂普及版).
一般診療のみならずスクリーニング内視鏡において背景胃粘膜の状態,特にH. pyloriの感染状態を把握することは重要である.そのために「胃炎の京都分類」が有用と思われ,広く活用されることを希望している.非専門医も含め,スクリーニング内視鏡に従事する医師全員が共通認識できるように,簡素化した普及版の作成も望まれる.「胃がんリスクの内視鏡所見スコア」は魅力的であるが,今後早い時期に検証する必要がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:井上和彦(武田薬品,エーザイ,アストラゼネカ,第一三共,大塚製薬)