2017 年 59 巻 5 号 p. 1362
【背景】内視鏡的乳頭括約筋切開術(Endoscopic sphincterotomy:EST)の後期合併症として胆管癌の発症リスクが示唆されてきた.しかし,著者らの以前の検討ではEST施行群と非施行群との間に,胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の発症リスクの有意差を認めなかった 2).
【目的】今回は,より大きな集団に対する長期観察を行うコホート研究によりESTと胆管癌の因果関係を明らかにする.
【対象と方法】フィンランド(1986~2010年)とスウェーデン(1976~2010年)の退院登録を用いてERCPあるいはESTを施行された患者を拾い上げた.両国の癌登録を用いて悪性疾患(胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌)を拾い上げ,ERCP検査後2年以内の発症例を除外した.対象患者の経過観察は,悪性疾患の発症,死亡,移住時期まであるいは,2010年12月末まで施行した.悪性疾患の危険度の判定は,性別,年次,年齢を調整した両国の一般人口データの悪性疾患発症率と比較し,標準化罹患比(standardized incidence ratio:SIR)を求めた.
【結果】1976年から2008年までにERCPを施行された69,925名が登録され,40,193名にESTが施行されていた.胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の罹患比は,EST施行,未施行に関係なく,全対象群で上昇していた(SIR 2.3;95%CI 2.1-2.5).胆管に限局する癌の相対危険度はERCP群全体で約4倍(SIR 3.9;95%CI 3.3-4.5)であり,EST施行群(SIR 4.3;95%CI 3.5-5.5)は未施行群(SIR 2.7;95%CI 2.0-3.5)に比べ高い傾向を認めた.胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の標準罹患比は,経過観察期間が長くなるにつれ減少していた.
【結語】ERCP後には胆管に限局する癌のみならず,胆管および周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の発生頻度が上昇していた.この危険率はESTの施行,未施行に関係なく同じであったことから,EST手技との関連性は少なく,ERCP以前から存在していた胆管結石などの関与が示唆された.
ESTは1974年にKawai,Classenらによって開発され,手術治療に代わる胆管結石の治療手技として普及している.ESTの後期偶発症としては胆管炎や結石の再発に加え,細菌感染や慢性炎症が胆管癌の発症に関与する可能性が報告されている 3),4).
今回の検討ではESTの施行,未施行とは関係なくERCP後に胆管に限局する癌のみならず胆管および周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の頻度が上昇しており,その頻度は経過観察期間が長くなるにつれ減少していたことから,ERCP前から存在していた胆管結石などが発症に関与している可能性を示唆している.
興味深いことに,引用されている本邦の論文(410例に対する平均122カ月間の経過観察)では8例の胆道癌を認めているが,5例はEST時に既に存在していたと考えられる癌(胆管癌3例,胆嚢癌2例)であり,3例(肝内胆管癌2例,胆管癌1例)が長期経過観察例からの発症である 3).
以上より,胆管結石例では胆管癌の罹患率が高いことを認識し,初診時に併存癌のスクリーニングを十分行うとともに,慎重に経過観察を行う必要があると考えられる.