日本消化器内視鏡学会雑誌
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内視鏡室の紹介
国立病院機構九州医療センター 光学医療診療部
責任者:原田直彦(光学医療診療部長),村中 光(院長) 〒810-8563 福岡県福岡市中央区地行浜1丁目8番地1号
井星 陽一郎原田 直彦
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2017 年 59 巻 7 号 p. 1563-1566

詳細

概要

沿革・特徴など

九州医療センターは,前身である国立福岡中央病院と国立久留米病院を1994年に統合移転し,九州全域を診察圏とする高度総合診療施設として福岡市シーサイドももち地区に新設された.2004年より独立行政法人化された後も,現在まで特にがん,循環器系を中心とした広い分野で高水準の医療,高次救急を展開し,福岡市と近郊において中核的な位置付けの702床(一般650床・精神50床・感染症2床)の医療機関である.がん診療連携拠点病院,AIDS,広域災害の九州ブロック拠点病院,地域医療支援病院の認定を受けている.地域からのニーズに応え,光学医療診療部においては近年ESDやポリペクトミー,消化管ステント,ERCP,胆膵EUS等の治療内視鏡やX線透視を併用した処置内視鏡件数が急激に増加している.

組織

光学医療診療部は診療中央部の一部門であり,消化器内視鏡(消化管,胆膵領域)と呼吸器内視鏡領域の業務を行う.専任スタッフはおらず,診療は消化器内科,呼吸器内科,呼吸器外科医師が担当している.

検査室レイアウト

 

 

 

当内視鏡センターの特徴

病院2階の中央診療部門にある内視鏡室は5室を有し,うち最も広い1室はX線透視装置を備える.2015年にX線装置の更新,診察室や更衣室,リカバリールームの新設を含むリノベーション,拡張を行った.X線透視下の処置件数が多く急患対応等で処置が重なる場合は,1階放射線部門のX線TV室に出張し同時に処置を行う等,ソフト・ハード両面で最大限の対応が必要になる.

施設の特性上,健診例はなく心血管疾患,高齢,悪性腫瘍ハイリスク,消化管出血,術前精査等の症例が多い.よって医師と看護師とで毎朝症例検討を行い,一例毎に精査,処置を想定し検査を進めている.

鎮痙剤のルーチンでの使用は原則下部のみで,上部では使用していない.セデーションは精査・処置を除いてはリカバリーベッドやマンパワーの問題から積極的には行っておらず,ケースバイケースの対応としている.被験者の負担の少ない経鼻内視鏡検査は積極的に行っている.全室CO2送気,送水装置を備えている.

胆膵領域の検査,処置件数は院内,地域からのニーズを受け増加の一途を辿り,2016年ERCPは600件に達し地域でトップクラスの施設となった.ESDは年間200例超が続き,併存疾患や瘢痕合併例等困難な症例にも様々な工夫により積極的に治療を行っている.消化管ステント留置にも積極的に取り組み,高い手技的成功率を誇っている.大腸,胃・十二指腸,食道の順に多く2016年には62件まで増加した.2015年からコールドポリペクトミーを導入した結果,ポリペクトミーの件数は大幅に増えたが,発見時に即座に切除することでEMRや入院の手間が減り効率化が得られ受診者の評判も良好である.緊急内視鏡には医師のオンコール体制で常時対応している.フロアにはリカバリー用の電動リクライニングシートが3台あるが各科処置室も利用している.面談室,診察室では電子カルテを用い検査後結果説明を行うことができる.

スタッフ

(2016年9月現在)

医   師:指導医3名,専門医4名,その他スタッフ11名,非常勤2名,研修医など2名

内視鏡技師:Ⅰ種 3名

看 護 師:常勤8名,非常勤1名

事 務 職:1名

そ の 他:4名

設備・備品

(2017年1月現在)

 

 

実績

(2016年1月から12月まで)

 

 

指導体制,指導方針

当院は内視鏡手技・外科手術のトレーニングのため2006年に内視鏡トレーニングセンターを設立した.臨床研修指定病院として1学年30名もの初期研修医の採用があり,診療科ローテートとは別に必修の研修プログラムを設け,体系的な内視鏡トレーニングを組み込んでいる.その中で,上部消化管内視鏡のカリキュラムとして,数名単位のグループ毎に内視鏡の基本原理や注意点に関する講義,その後に基礎実技としてシミュレーター(CAE Healthcare社EndoVR)を用いた上部消化管内視鏡検査の一定回数以上の練習及び実技試験のクリアを課している.さらに消化器内科をローテートする初期研修医には担当患者の検査・処置を中心に介助を経験させる.研修期間は短いながらも一歩進んだ興味がある者は内視鏡の取り扱いを内視鏡検査技師,看護師より学び,十分な見学と所見会参加の後に,臨床実技として監督下に患者を対象に,短時間の操作から,体系的な観察,内視鏡挿入と段階的に経験を積む.検査の記録(ログ)を取り指導医からフィードバックを受け,最終的に責任者の審査をクリアした者には修了を認めTraining Certificateを発行する.カリキュラム開始以降,多くの研修医・専修医がトレーニングを受け基本的技能を習熟し,後のさらなるレベルアップや日本消化器内視鏡学会専門医取得等のキャリアの足がかりとした.

大学から派遣される医師3年目以降の専修医は個々の到達度に応じ積極的に難易度の高い処置を十分に経験させることにしている.ある程度経験を積んだ時点で,希望者には病理検査部へ依頼し2カ月程度のローテーションをさせてもらっている.

日々の内視鏡検査結果は後日ダブルチェックを行い,所見のもれや生検の妥当性,内視鏡検査に基づく今後の治療方針について問題がないかどうかを検討し,検査医や依頼医へフィードバックするようにしている.

現状の問題点と今後

鎮静剤の使用症例は少ない.使用希望は潜在的には多いと考えられるが,外来患者の場合は回復室も手狭で監視できる人員数も余裕がなく,検査説明時に選択肢としては提示できていない.大腸内視鏡の前処置は,自宅での服用は高齢者が多くトラブルを起こしうるため来院後の開始としているが,前処置ブース数が外来検査の受け入れの障壁になっている.

消化器内科医師は前述の内視鏡検査・処置の他に,消化器内科外来・病棟業務,急患対応,会議やカンファレンス,消化管X線検査等にも時間を割かれる.予定あるいは緊急の内視鏡処置が夜遅くまで続くことも稀ではなく看護師・コメディカルもシフト体制をとって対応しているが,慢性の人手不足は否めない.最近洗浄スタッフが常時2-3名入り看護師の負担が軽減された.しかし常時マンパワーの問題がある中,内視鏡室で経験を積み成長した医師や看護師の異動により戦力ダウンが起こり新しいスタッフが再度慣れ回復するまでに負担が生じる.

夜間,休祝日の緊急内視鏡は消化器内視鏡の大きなニーズの1つであるが,当院では医師2名が診察,各種指示,家族への対応,病棟業務に加え,検査室・機材の準備,処置の介助,スコープの洗浄まで行っており過剰な負担となっている.同規模の他施設の様に,内視鏡技師や看護師スタッフのオンコール体制を整備し,自施設の体制の水準を高める努力が求められる.

これからの専門医制度も1つの課題である.消化器内視鏡を専門に志望する若手スタッフの業務への貢献は大きい.後期研修目標と実務とのバランスのとれた魅力的な部門であるための工夫が必要であろう.

 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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