内視鏡分子イメージングは,従来のイメージング技術とは異なる方法でターゲット分子の局在,機能,性質を付加情報として与えることができる新たな技術である.本技術の確立には,1)病変における特異度・感度ともに高いバイオマーカーの発見・確立,2)バイオマーカーとの親和性が高く,明瞭なシグナルを産出可能な蛍光プローブの存在,3)低侵襲でリアルタイムに高解像度のイメージを供給可能な画像機器の開発の3点が重要な要素となる.本技術は,消化管癌に対するスクリーニングのみならず,治療方針の決定や治療効果の判定に応用が可能と考えられる.抗体医薬,低分子化合物の普及などに伴い治療と診断を融合したTheranosticsの臨床応用が期待され,内視鏡分子イメージングは個別化医療においても中心的な役割を果たすと考えられる.
症例は83歳女性.嘔吐後に吐血し救急搬入となった.検査所見では腎不全,高血糖,高乳酸血症を認めた.胸腹部CTにて胃は著明に拡張し巨大な食道裂孔ヘルニアを認め,CTにて胃短軸捻転を合併したUpside-down stomach(UDS)と診断した.緊急内視鏡にて中下部食道は全周性の黒苔に被われた急性壊死性食道炎の所見を認めた.十二指腸観察後に捻転は解除され,翌日の内視鏡にて黒色粘膜の改善を認めた.ラベプラゾールを継続し退院3カ月後のCTでも再発なく経過している.急性壊死性食道炎を合併したUDSでは,重症化を予見し軸捻転の早期解除を念頭におく必要がある.
症例は74歳 女性.認知症で入院中,腕時計を誤飲し当科外来受診.腹部単純レントゲンにて胃内に異物を認め,上部消化管内視鏡を使用し摘出を試みた.時計は直径5cm大の硬い金属のバンドが伸縮するタイプで,重量もあり当院に常備されているデバイスでは摘出困難であった.そのため,内視鏡の鉗子孔から出した,把持鉗子で回収ネットをつかみ腕時計のバンド内を通過させた後,一端回収ネットを離し,バント外から回収ネットを掴み直すことで回収ネット,把持鉗子,内視鏡でリングを作り,腕時計を牽引することに成功し体外へ除去しえた.本方法は,重量のあるリング状消化管異物を低侵襲に体外へ摘出するうえで有用な方法と思われた.
症例は52歳,男性.血便を主訴として来院.大腸内視鏡検査で,全結腸型潰瘍性大腸炎と診断.絶食とメサラジンの内服で症状は軽快,外来通院していた.潰瘍性大腸炎発症から,約3カ月後,右上肢の麻痺を主訴に再来院.脳CT,MRI,血管造影検査で脳静脈洞血栓症と診断した.脳静脈洞血栓症を合併した潰瘍性大腸炎患者は,比較的稀であるので報告する.
症例は84歳,女性.上腹部痛,嘔吐にて来院し,急性胆管炎,膵炎と診断され保存的加療にて改善した.精査で胆嚢底部の腺筋腫上に無茎性隆起を認め,胆嚢癌の診断で手術を施行した.病理学的には限局型腺筋腫症の直上に幽門腺型管状腺腫が存在し,その頂部に腺癌を認めた.背景粘膜に過形成や慢性炎症はなく,幽門腺化生が散在し,腺筋腫症と癌の関連を示唆する所見は認められなかった.画像,病理所見から,急性胆管炎,膵炎の原因として,結石や腫瘍に伴う血腫・粘液は否定的であり,腫瘍脱落による腫瘍片の乳頭部通過の可能性が考えられた.超音波像において高エコー層の菲薄化と判断した部位は,腺腫のRAS内進展部を反映していたと思われた.
【目的】透析患者において,経口腸管洗浄剤,アスコルビン酸含有ポリエチレングリコール電解質製剤(PEG-ASC)服用後の血清電解質濃の変動について検討した.
【方法】本剤服用前と服用後(大腸内視鏡終了時)で採血を行った.
【成績】高カリウム血症治療薬非使用グループ(12例)では,カリウム濃度は服用(4.5±0.4mEq/L)と服用後(4.9±0.7mEq/L)とでは有意差(P=0.012)を認め上昇していた.
【結論】透析患者にPEG-ASCに限らず,腸管洗浄剤を安全に使用するには,服用前にカリウム濃度が適切に維持されていることが重要であり,症例により高カリウム血症治療薬の使用も必要である.
大腸ESDは依然として難易度の高い手技であり,接線方向からのアプローチが難しい症例では粘膜下層が十分視認できず,剥離操作に難渋し,穿孔などを生じる危険性が高くなる.しかし,トラクションにより良好な視野が得られればESDの手技は数段容易となり安全に行うことができる.有効なトラクションを得るには牽引する方向と安定した強さが重要であり,これを目標に多くのトラクション専用のデバイスが考案されてきたが大腸ESDで実際に使用される機会は少なかったと思われる.近年,市販化された「けん引クリップ®(S-O clip)」は通常のクリップと同様に鉗子口を通過可能なデバイスであり,深部大腸においても簡便に使用できる.ESDの主な適応である20mm~50mm程度の平坦型腫瘍においては終始安定したトラクション効果が得られており,大腸ESDを効率よく安全に行う上で有用なデバイスとなるであろう.
悪性肝門部胆管狭窄に対して複数本の金属ステントを留置した後のステント閉塞に対する処置は難易度が高い.処置を成功させるためには,ガイドワイヤー,カテーテル,ステントなど,各処置具の特性を理解して適切に選択することが重要であり,処置を行う際には,それらの処置具を扱ううえでのポイントを理解しておかなければならない.stent-in-stent法で留置した複数の金属ステントが閉塞した場合の処置では,金属ステントのメッシュの隙間にカテーテルやプラスチックステントを通過させることが最大の難関であることを知ったうえで,それぞれの処置具を慎重に操作する必要がある.プラスチックステントを留置する際はそれらを留置する順序も重要であり,基本的には金属ステントを留置した順番で留置する.本手技の成功には術者のみならず,介助者のテクニックも重要であり,日頃からスコープを握るだけではなく,ガイドワイヤーの扱いに慣れておかなければならない.
【背景】現在大腸ポリープの切除に際し,切除後の出血予防にクリップをかけることが一般的である.しかし,クリップの有無については術者の裁量に委ねられており,かつ,クリップの出血予防効果についても明らかとはなっていない.
今回,クリップの効果を明らかにすべく,われわれは2cm以下のポリープを対象に多施設共同の無作為化比較試験を行った.
【方法】検討期間は2004年4月から2013年7月の間,内視鏡的にポリープ切除を行う2cm以下のポリープを持つ20歳以上の患者を対象とし,ポリープ切除後の出血の有無を調査した.肝硬変や透析症例,ヘパリン置換例など重篤な合併症を持つものは除外とした.クリップ施行群ではポリープ切除後に全例でクリップをかけ,非施行群ではクリップを施行せずに処置終了とした.切除時に露出血管または静脈性出血が見られた場合には,スネアの先端で凝固焼灼を追加した上でそれぞれの群に応じた処置を行い終了としたが,動脈性出血が見られた場合には適切な止血処置を行い検討からは除外した.
切除後は慎重な経過観察を行い,顕性出血やHb2以上の低下があった場合には緊急内視鏡を行い出血部位を同定した.
【結果】北海道の7施設が研究に参加し,1,499人3,365ポリープが解析対象となった.そのうちクリップ群は752人1,636ポリープ,非クリップ群は747人1,729ポリープであった.後出血率はクリップ群で1.10%(18/1,636),非クリップ群で0.88%(15/1,729)であった.その差は-0.22%(95%CI:-0.96,0.53)で,95%信頼区間上限が非劣性マージン1.5%を下回り,非クリップ群のクリップ群に対する非劣性が証明された.次いで,クリップ群,非クリップ群それぞれに出血に関わる因子を検討したところ,両群でサイズが有意な因子となった.さらに非クリップ群ではさらに切除後の凝固焼灼の追加も有意なリスク因子であった.
【結語】大腸ポリープにおける後出血予防としてのクリップ施行は必ずしも必要ではないことが明らかになった.さらに,後出血の危険因子として凝固焼灼の追加が挙げられ,高周波を使用しないコールドポリペクトミーの有用性も示唆された.
日本消化器内視鏡学会は,抗血栓薬の休薬による血栓塞栓症の誘発に配慮した“抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン”を報告した.その後新しい経口抗凝固薬が用いられるようになり,実臨床ではそれらの対応についての基準が求められていた.そこで,抗凝固薬の新たな知見を加えて,抗凝固薬に関する追補版を作成した.しかし,各ステートメントに関してはエビデンスレベルは不十分なものが多く,今後は臨床現場での追補ガイドラインの検証が必要となる.
【背景】内視鏡的粘膜切除術(EMR)は現在大型大腸ポリープの切除に最も用いられている方法である.しかしながら,大型病変のEMRではしばしば分割切除となり,低いR0切除率と高い再発率を引き起こす.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)は新しい技術であるが,より難しく長時間を要するが,高い一括切除率ときわめて低い再発率のため有望な治療であることは確かである.
今回の検討は,ESDのEMRに対する対費用効果を短期(6カ月)と長期(36カ月)で比較することを目的とした.ESDは短期的には時間がかかり高い医療費が必要となるが,低い患者負担,高い一括切除率と低い再発率から,繰り返しの検査が必要なく,長期的には医療費の面で効率的であると仮定した.
【方法】直腸,S状,下行結腸の2cm以上のnon-Ip病変で内視鏡的に腺腫と診断される病変を対象とする多施設ランダム化比較試験(RCT).
主エンドポイントは6カ月後の内視鏡経過観察における再発率.セカンダリエンドポイントはR0切除率,患者負担とQOL,医療費と外科紹介率,合併症率と36カ月後の再発率とした.質調整生存年数(QALY)はAUCとEQ-5D indexesで評価する.医療費の算定は部門のコストを複数算定する.
ESDのEMRに対する費用対効果は,「費用の増分」を「効果の増分」で割ることで算出されるICER(増分費用効果比)を用いて評価するが,その「効果」としては「無再発」「QALY」を用いる.
【考察】本検討でESDが長期的に効果的であれば,余分な大腸内視鏡や,繰り返しの検査の患者負担が将来的に不要となる.