日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
胃壁固定術を用いて安全に用手的抜去を施行したバンパー埋没症候群の1例
赤須 貴文 堀内 洋志加藤 正之古橋 広人金井 友哉中野 真範内山 勇二郎鳥巣 勇一田尻 久雄
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2017 年 59 巻 8 号 p. 1620-1625

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要旨

症例は74歳女性.進行性核上性麻痺にて嚥下障害を生じ,約1年前に経皮内視鏡的胃瘻造設術が施行された.今回,経管栄養の滴下不良と胃瘻瘻孔周囲の発赤・熱感を主訴に当院を受診した.上部消化管内視鏡では胃内に胃瘻内部バンパーを認めず,バンパー埋没症候群と考えられた.埋没した胃瘻内部バンパーは腹部単純CT・EUSにて完全に胃壁外に脱落していることが確認され,胃瘻外部バンパーからのガイドワイヤーの胃内挿入も不可能であった.外科的手術が検討されたが,鮒田式胃壁固定術を応用することで簡便で安全な用手的胃瘻抜去を実現したため,これを報告する.

Ⅰ 緒  言

バンパー埋没症候群(Buried Bumper Syndrome;BBS)は,胃瘻カテーテルの内部バンパーが胃壁瘻孔内に埋没することで発生する,頻度は比較的低いが治療には難渋することが多いとされる合併症である.治療は,大きく二種類に分かれ,ⅰ)内部バンパーが胃壁外に脱落している場合は外科的手術,ⅱ)胃壁内までの脱落の場合はガイドワイヤー下に用手的抜去を施行するのが一般的であるとされる.今回われわれは,胃瘻内部バンパーが胃壁外に脱落し従来ならば外科的治療が検討されるBBS症例に対し,EUSにて周囲組織を確認後,胃瘻造設時に用いられる鮒田式胃壁固定術を応用することによって周囲組織の損傷リスクを低下させ,安全かつ簡便な用手的胃瘻抜去を実現し外科的手術を回避できた一例を経験した.BBSに対する治療として今後有用と考えられるため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:74歳女性.

主訴:経管栄養の滴下不良,胃瘻瘻孔周囲の発赤.

既往歴:進行性核上性麻痺,抗血小板薬・抗凝固薬の服薬なし.

現病歴:進行性核上性麻痺にて当院に外来通院していたが,嚥下障害が徐々に進行したため約1年前に当院で経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した(Introducer変法:日本コヴィディエン社 カンガルーセルジンガーPEG造設キット 20Fr 2.5cm).今回,2週間前より経管栄養投与時に胃瘻瘻孔周囲より栄養剤の漏出を認め,また瘻孔周囲に発赤・熱感を認めることを主訴に当科を受診した.

身体所見:身長147.0cm,体重31.0kg,BMI 14.3kg/m2,血圧120/82mmHg,脈拍136回/分・整,体温 38.8度,SpO2 98%(room air).眼瞼結膜に貧血を認めない.眼球結膜に黄染を認めない.胸部に異常所見を認めない.腹部は平坦・軟.胃瘻瘻孔部周囲に発赤・熱感を認める.胃瘻外部バンパーの可動性は消失している.

血液検査所見:WBC 11,400/μl,CRP 0.42mg/dlと炎症反応の上昇を認める以外には特記事項なし.

腹部単純CT所見(第1病日):胃瘻内部バンパーは胃内から脱落している.胃壁外への脱落を疑わせるが,胃壁内に存在するか腹腔内に脱落しているかは画像での判断は困難.胃瘻瘻孔周囲には軽度の脂肪織混濁を認める(Figure 1).

Figure 1 

腹部単純CT.

胃瘻内部バンパーは胃内から脱落し,また胃瘻瘻孔部の周囲脂肪織混濁を認める.

上部消化管内視鏡所見(第3病日):胃体中部前壁に粘膜下腫瘍様の立ち上がりのなだらかな隆起を認める.胃瘻内部バンパーは認められず,外部バンパーからガイドワイヤーの胃内への挿入は不可能であった.体表から胃瘻ボタン部を圧排すると,胃内の小さな瘻孔より膿汁の流出を認めた(Figure 2).

Figure 2 

上部消化管内視鏡.

胃体中部前壁に粘膜下腫瘍様の粘膜隆起を認める.胃瘻内部バンパーは確認できない.

超音波内視鏡所見(第8病日;GF-UE260-AL5使用):胃瘻の内部バンパーは漿膜層と考えられる高エコー層より外側に位置しており胃壁外に脱落していた(矢印:漿膜層).瘻孔周囲には膿瘍を認めなかった(Figure 3).

Figure 3 

超音波内視鏡.

胃瘻の内部バンパーは漿膜層と考えられる高エコー層より外側に位置しており胃壁外に脱落していた(矢印:漿膜層).瘻孔周囲に膿瘍を認めない.

臨床経過:血液検査,腹部単純CT,EUS所見より本症例はBBS・胃瘻瘻孔周囲炎と診断した.第1病日より経管栄養投与の中止,セファゾリンナトリウム2g/日の点滴静注を施行し,炎症は速やかに軽快した.炎症が改善したのちにBBSの加療を施行した.まず,内視鏡下に指押し試験・内視鏡透過光を用いて,胃壁と腹壁間に他臓器がないことを術前に確認した.その後,胃瘻造設のdirect法で用いられる鮒田式胃壁固定術を胃瘻周囲に4点施行し,オブチュレーターを用いて胃瘻カテーテルを用手的に抜去した(Figure 4).周術期に明らかな合併症は認めなかった.後日,同部位よりやや肛門側に新たにPull法にて胃瘻を造設した(Figure 5).

Figure 4

a:胃壁固定術.

b:胃瘻周囲に4点の胃壁固定術を施行(赤線部).

Figure 5 

上部消化管内視鏡.

バンパー埋没症候群が発生した部位よりやや肛門側に新たにPull法にて胃瘻を造設した.

Ⅲ 考  察

胃瘻は,経口摂取困難な患者に栄養の供給源として造設され,低侵襲で且つ栄養学的にも優れており長期的な管理が可能なため以前より普及している.胃瘻造設にあたり併発症としてBBSがあり,比較的頻度は低いものの治療に難渋するとされる.BBSは胃瘻カテーテルの内部バンパーが胃壁瘻孔内に埋没することで生じる併発症であり,胃瘻造設後早期・晩期のいずれの時期にでも発生しうる 1

発生機序は,経管栄養投与による栄養状態の改善に伴い皮下脂肪が増加すること,あるいは患者の姿勢・体位習慣によって,内部バンパーが持続的に胃粘膜を強く圧迫し虚血を生じ潰瘍が形成される.その後,潰瘍部に内部バンパーが脱落し,粘膜再生の過程で内部バンパーが徐々に胃壁瘻孔内に迷入していくというものである.BBSは1988年にShallmanらにより初めて報告されている 2.頻度は0.6%~1.9%とされ 3,臨床所見・症状としては,栄養剤の注入困難や胃瘻カテーテルの回転不良・不可,瘻孔部の感染などが挙げられる.このうち最も客観性の高い徴候はカテーテルの回転不良と言われている 4.Usubaらは,胃瘻内部バンパーが胃壁外に脱落しているものを「total burial」,胃壁内に留まっているものを「partial burial」と分類し報告している 5.Total burial BBSでは,一般的には外科的処置,腹腔鏡を用いた処置が必要とされており 6,最近ではNOTESを用いた治療法の報告もなされている 7.内部バンパーの埋没が軽度でPartial burial BBSであるならば,ガイドワイヤー下にカテーテル牽引による経皮的抜去が可能である 8.内部バンパーと周囲組織の固着がある場合には,針状メスやスネア等を用いて周囲組織を剥離する症例も報告されている 9),10.いずれの場合にしても瘻孔部には局所感染を伴っていることがほとんどであり,創部の安静とドレナージのためすぐには胃瘻の使用は不可能な状態であり,胃瘻栄養は一旦中断せざるを得ない.予防は,内部バンパーと外部バンパーの距離を胃粘膜と体表間より1~2cm程度の十分な余裕を持たせること,体位によるバンパーの持続的牽引がないことを確認すること,また経管栄養注入前に必ずバンパーが回転可能なことを確認することなどが挙げられる 4.また,バルーン型カテーテルは胃壁への圧力が分散しBBSが発生しにくいと考えられるため,胃瘻カテーテルの交換時にはこれへの変更を考慮する 11.しかし,バルーン型カテーテルでもBBSを生じるとの報告もあり予防策の確認は必ず施行するようにする 12

診断には上部消化管内視鏡を用いる以外に腹部CTなどが挙げられるが,当院ではEUSを用いた診断も併用している.EUSは,内部バンパーと胃壁・腹壁との位置関係を正確に把握でき,また膿瘍の有無や,周囲臓器との位置関係もより詳細に把握することが可能である.腹部単純CTでは診断困難であった膿瘍形成や内部バンパーの位置診断がEUSにより可能となった報告もあり 13,詳細な診断には優れていると考えられる.

本症例では,腹部単純CTにて胃瘻の内部バンパーが胃壁外に脱落していることが疑われ,EUSでの詳細な観察により完全に脱落していることを確認し,Total burial BBSの診断に至った.外部バンパーからガイドワイヤーの胃内への挿入は不可能であり,経皮的抜去は瘻孔の損傷による穿孔・周囲組織の損傷を来す可能性があり外科的処置が検討された.しかし,胃瘻造設のdirect法で用いられる鮒田式胃壁固定術 14を胃瘻周囲に4点施行することにより瘻孔損傷や周囲組織の損傷リスクを低下させ,オブチュレーターを用いての安全な用手的胃瘻抜去を実現し,外科的手術の回避を可能とした.胃壁固定術は胃瘻カテーテル留置部付近の胃壁と腹壁を糸で縫合する手技であり,本来Introducer法による胃瘻造設の際に胃壁と腹壁の間隙を埋めるために施行される手技である.また,Pull法やPush法においても腹膜炎予防のために有用とされる手技である 15),16

今回われわれは,この胃壁固定術を応用しBBSの加療に用いることで,本来は外科手術の適応であると思われるBBSの症例に対し安全に用手的抜去を施行した.今まで頻度は低いが合併すると難渋するとされてきたTotal burial BBS症例に対するより安全かつ簡便な治療が今後可能になると考えられる.

医学中央雑誌で2000年から2015年までで“バンパー埋没症候群”“治療”で検索したところ,現実的には患者の全身状態の悪さから外科的手術に至っていない症例も含めてTotal burial BBSの内科的治療の報告は5報存在した 17),18.しかし,いずれの報告もカテーテルの抜去方法の記載はなく,カテーテル抜去時の瘻孔損傷や周囲組織損傷のリスクを考慮した内科的治療の報告は本報が初めてと考えられる.瘻孔損傷や周囲組織損傷に関しては,胃瘻カテーテルの交換時に発症した症例の報告がなされており 19),20,このことよりBBS症例の内科的治療においても瘻孔損傷や周囲組織損傷のリスクを十分に念頭に置いた治療が求められると考えられ,本症例を報告した.

現在,医療政策上,在宅医療が広く普及しつつあり,胃瘻の在宅管理の増加とともにBBSの発症が増加する可能性がある.このような中,BBS発症予防の啓蒙とともに発症時の適切な加療がますます重要になると考えられる.

Ⅳ 結  語

Total burial BBS症例に対し,EUSにて周囲組織を確認後,胃壁固定術を施行することによって安全に用手的胃瘻抜去を実現した一例を経験した.EUSは,BBSの診断・治療方針決定の一助になると考えられるが,今後さらなる症例の蓄積が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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