2017 年 59 巻 8 号 p. 1632-1637
74歳男性.総胆管結石に対して内視鏡的乳頭括約筋切開術,胆道結石除去術施行され,胆嚢結石に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)が行われた.9カ月後に近医より肝機能障害で紹介され画像検査にて総胆管内に迷入したクリップの存在を疑い内視鏡的逆行性胆管造影を施行した.総胆管内に結石形成を伴わないクリップを確認しバスケット鉗子にて摘出した.本邦での胆嚢摘出術後クリップ迷入65例の報告を検討するとLCやLCから開腹移行し胆嚢摘出術を受けた症例では26.6%で術中術後合併症を伴い,クリップ迷入のリスク因子であることが分かった.迷入症例では胆管狭窄を伴い胆管切除が必要になることもあるため,クリップを使用した胆嚢摘出術で術中術後合併症を起こした症例では術後のフォローが必要と思われた.
胆嚢結石に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)は広く一般に行われているが件数の増加につれ合併症の報告も目立つ.クリップの胆管内迷入もその一つと考えられ,本邦でも症例の集積がなされもはや稀な合併症とはいえない.迷入の機序にはいくつかの要因があると思われ大変興味深いが,治療には胆管切除・再建となる例もあり患者負担は大きい.予防策も含め若干の考察を加え報告する.
症例:74歳,男性.
主訴:なし(肝機能障害精査目的).
既往歴:大腸ポリープ切除,脂質異常症,陳旧性脳梗塞.
内服:なし.
家族歴:特記事項なし.
生活歴:喫煙:10年前から禁煙,飲酒:機会飲酒.
現病歴:9カ月前に当院にて総胆管結石に対して内視鏡的乳頭括約筋切開術(以下EST),胆道結石除去術施行され,同月に胆嚢結石症に対してLCが行われた.この手術中に胆嚢管を損傷し,損傷部位より中枢側に4個のクリッピングがなされた(Figure 1).術後は順調に経過し退院となったが,脂質異常症で通院中の近医で肝機能障害を指摘され当院紹介受診となった.

胆嚢管損傷部位より中枢側を4個クリップした.
現症:身長173cm,体重71kg,体温36.5℃,脈拍88bpm,血圧152/83mmHg.
腹部:平坦,軟,圧痛なし.
臨床検査成績(Table 1):ALP 392U/L,γ-GTP 234U/Lと軽度の胆道系酵素上昇を認めたが炎症反応は正常であった.

臨床検査成績.
腹部単純X線検査(Figure 2):胆嚢摘出術直後に右季肋部に認めた4個のクリップのうち1つが今回来院時は中枢側のやや足側に移動していた.

a:胆嚢摘出術直後.
b:今回来院時にはクリップ1個が移動していた.
腹部造影CT検査,DIC-CT(Figure 3):下部胆管に通常の結石よりもhigh densityの構造物が存在し,そのdensityと形状からクリップの総胆管内迷入が疑われた.クリップはその周囲に結石を伴っておらず胆管壁を貫いている所見もなく内視鏡的に摘出可能と考え入院の上,内視鏡的逆行性胆管造影(以下ERC)施行とした.

a:CT検査でhigh densityの構造物を確認した.
b:DIC-CTでは下部胆管内にクリップを疑う構造物を認めた.
入院後経過:ERC(Figure 4)では胆管内にクリップ1個を確認しバスケット鉗子にて摘出した.クリップは回収できず消化管内に排出した.合併症なく退院し,以後肝機能の改善をみた.

ERCでは胆管内に結石形成のないクリップ1個を認めバスケットカテーテルで把持し十二指腸内に排出した.
LCは1986年フランスのMouretらが世界で初めて実施し 1)本邦でも1990年に実施されて以降その侵襲の低さと安全性から広く普及し現在では年間に約27,000件程度が行われている.
クリップの総胆管迷入は1979年に最初の報告 2)がみられ,LCの広まりに連れてその後報告は増加している.
医学中央雑誌にて「胆嚢摘出術」「クリップ」「迷入」をキーワードとして用い,1992年から2016年9月までの期間で会議録を含み検索し引用文献まで渉猟すると,本邦におけるクリップ迷入の報告は64例であった.自験例を含めた65例につき検討した(Table 2).手術偶発症は13例確認でき,そのうち12例がLCまたはLCからOCに移行した症例であった.一般にLC全体の術中術後合併症は1.4%であり 3),今回検討したクリップ迷入例でのLC術中術後合併症は26.6%で起こっていることから,術中術後合併症がクリップ迷入のリスク因子であることが示唆された.手術からクリップ迷入が指摘されるまでの期間については,以前は1年以内の発症が多くみられたが近年の報告では長期経過例が多い傾向にあった.クリップ迷入部位は総胆管への迷入が58例と最も多いがその他の部位への迷入例も確認された.迷入クリップの起源は胆嚢管に限らず胆嚢動脈,Cチューブ固定など様々であり腹腔内のクリップはすべて迷入するリスクがあるものと思われた.治療で外科手術を選択した要因としては,クリップが胆管壁に刺さっており内視鏡治療困難2例,傍乳頭憩室2例,膵胆管合流異常2例,喉頭展開不良1例などがあり,それらを除くと胆管狭窄が8例(12.3%)と最も多く,この8例では胆管切除,胆道再建術が施行されていた.

胆摘後クリップ迷入例の文献的考察.
自験例1例を含む65例の検討─(1992年~2016年9月).
迷入の機序については,胆道周囲に存在する異物が炎症によって胆道内に迷入し,長期間うっ滞により結石形成するとした奥山らによる説 4),胆汁嚢胞が胆嚢管に吸収される際に引き込まれるとするRaoulらによる説 5),クリップされた胆嚢管が肝臓など周囲臓器に圧排され総胆管に陥没し胆嚢管壊死を起こすとするKitamuraらの説 6),局所の炎症によりクリップ周囲に微小膿瘍が形成され,感染を伴うクリップが胆管壁を侵食するとしたMatsumotoらによる説 7),クリップの開いた側が胆嚢壁に当たり,微細な振動により少しずつ侵食していくとするAhnらによる説 8)など様々ある.まるで手品のように移動するクリップ迷入の真相は,おそらく個々の症例でクリップのおかれた環境と条件,手術からの期間により上記仮説でそれぞれ説明可能だが推測に過ぎない.しかし,近年総胆管にクリップが突き刺さった状態で発見された症例が複数報告 7),9),10)された.これらは迷入過程を見ていると思われ,炎症や微細な振動,またその他の力学で総胆管壁を貫き胆管内に迷入する説が機序の一つとしてほぼ証明されたといえるのではないか.初回手術前に強い胆嚢炎,胆管炎や膵炎を合併していた例も多く見受けられ,クリップ周囲での炎症の存在が迷入に関わっていることが推察された.本例の術中所見では,癒着はなかったものの胆管周囲の脂肪織が硬く剥離に難渋した経緯があり,過去に胆管炎を起こしていたものと考えられた.
迷入クリップに対する治療は身体侵襲を考慮しERC,ESTを基本として結石除去に準ずる方法を第一に検討するが,総胆管内のクリップにカテーテルがひっかかり抜去困難となったため緊急手術となった報告 11)があり通常の総胆管結石治療の手技より慎重さが求められる.高度胆管狭窄や悪性疾患を否定できない症例ではやむなく胆管切除から胆管再建術が必要となるがその場合患者負担は甚大となるため治療選択は安易に決定されるべきものではない.
予防策としては,クリップ数が多いほど迷入リスクが高いことが報告 12)されており,胆嚢管の処理に超音波凝固装置を用いるなどして,手術中の使用するクリップ数を減らすことが重要である.吸収性クリップは6カ月以内に吸収されるためそれ以降の迷入を防ぐことができるが,吸収前に迷入した例 13)も稀にあり完全に防げるものではない.また高価であり,胆嚢管と胆嚢の剥離露出距離が短い場合,クリップ幅が広いため使用困難であり,操作性も劣るため一般に普及していない.クリップ迷入を予防するために,金属クリップを用いないLCを実際に導入している報告 14)もあり症例の集積を期待したい.
術中術後合併症,炎症の強い胆嚢炎,胆管炎を合併していた症例,クリップ数が多い症例では迷入リスクが高いと考えられるため,定期的に腹部X線検査など行い早期発見につなげることが重要であると思われた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし