日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
膵上皮内癌術後に残膵癌を認め残膵全摘術を施行した2例
池本 珠莉 花田 敬士南 智之福原 基允岡崎 彰仁平野 巨通米原 修治
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2017 年 59 巻 8 号 p. 1638-1643

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要旨

膵上皮内癌の術後,3年目と6年目に残膵癌を認め,残膵全摘術を施行した2例を経験した.2例とも初回診断は上皮内癌でR0手術であったが,短期間に残膵癌を認め,上皮内癌の再発よりも多中心性発癌の可能性が示唆された.今後,早期診断された膵癌の切除例に対しては,EUSを含む残膵観察を十分考慮した経過観察法の検討が必要である.

Ⅰ 緒  言

膵癌の予後改善には,小径での早期診断が必要不可欠である 1.膵上皮内癌はStage 0に該当し,良好な予後が期待できるが,5年生存率は90%に達していない.今回,膵上皮内癌の術後3年目と6年目に残膵癌を来し,残膵全摘術を施行した2例を経験したので報告する.

Ⅱ 症例①:69歳,女性

【主訴】肝胆道系酵素上昇.

【既往歴】逆流性食道炎,高血圧,糖尿病.

【嗜好歴】喫煙歴なし,飲酒なし.

【家族歴】特記事項なし.

【現病歴】2010年4月にUS,MRCP,ERCPにて膵体部主膵管の限局的な狭窄と尾側分枝膵管の拡張を認め,同部位に5Frの内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(ENPD)チューブを留置し,複数回の膵液細胞診で腺癌と診断.膵体尾部切除術(DP)を施行し膵上皮内癌(pTisN0M0 Stage 0)と診断された.上皮内癌から尾側の膵管内にLow grade PanINを認め(Figure 1),上皮内癌部分のp53とKi-67は強陽性を示した.術後は3カ月に1度の腫瘍マーカー(CEA,CA19-9)の測定,半年に1度の造影CTで経過観察したが術後3年半に黄疸を認め,精査目的に入院した.

Figure 1 

初回手術時画像(症例①).

a:ERP.膵管造影で膵体部主膵管(矢印)に限局的な硬化像を認め,同部位での分枝膵管の描出が不良であった.

b:組織所見.間質浸潤を伴わず異型上皮が主膵管および分枝膵管に乳頭状に増殖する上皮内癌の像を呈した.

【入院時検査所見】血液検査では肝胆道系酵素と膵酵素の上昇,CA19-9 144.0U/mL,HbA1c(NGSP)8.3%と上昇を認めた.腹部造影CTでは膵胆管が著明に拡張し,膵胆管合流部に小型の低吸収域を認め,EUS(Figure 2-a)では同部に8mm大の低エコー性腫瘤を認めた.ERCPでは膵液および胆汁細胞診はともに陰性であったが,残膵の浸潤性膵管癌を疑い,残膵全摘術を施行した.

Figure 2 

残膵画像診断および手術標本(症例①).

a:EUS.総胆管および残膵主膵管の合流部付近に8mm大の低エコー性腫瘤を認めた.

b:残膵全摘出時の手術標本.正常膵を介して膵体部(A)と膵頭部(B)の2カ所に腫瘍を認めた.

c:組織所見.低分化腺癌の像を認めた.

【病理学的所見】切除標本では,正常膵を介して膵体部(A)と膵頭部(B)に腫瘍を認め,いずれも上皮内癌に連続する低分化腺癌であった(Figure 2-b,c).腫瘍Bは胆管・十二指腸への直接浸潤を認めた.以上より,腫瘍AはpT1N0M0(StageⅠA 17×16×12mm),腫瘍BはpT3N0M0(StageⅡA 12×10×5mm)の浸潤性膵管癌と診断された.術前に腫瘍Aは指摘されなかった.

【術後経過】補助化学療法としてS-1を投与したが,初回手術から4年4カ月後に癌死した.剖検では多発肝転移を認めた.

Ⅲ 症例②:72歳,男性

【主訴】腫瘍マーカーの上昇.

【生活歴】飲酒4合/日,喫煙40本/日.

【既往歴・家族歴】特記事項なし.

【現病歴】急性膵炎後のCTで,膵体尾部の主膵管拡張を認め,ERPでは膵体部に70mmの膵管狭細化と尾側膵管の拡張を認め,同部位に5FrのENPDを留置.複数回の膵液細胞診で腺癌と診断し,DPを施行.上皮内癌(pTisN0M0:Stage 0)と診断された.切除断端は陰性で,癌は一部正常膵を介して約70mm長の主膵管内進展を認め,癌部のp53は陰性,Ki-67は強陽性であった.術後3カ月に1度の腫瘍マーカーの測定,半年に1度の造影CTで経過観察していたが,術後6年1カ月後に腫瘍マーカーの上昇を認め,PET-CTで残膵の異常集積を指摘され入院となった.

【検査所見】血液検査ではHbA1c 8.2%,CA19-9 128.3U/mLと上昇を認めた.EUSでは残膵に25mm大の低エコー性腫瘍を認め,同部位にEUS-FNAを施行し,ClassⅢと診断された.以上から,残膵癌を疑い残膵全摘術を施行した.

【組織所見】膵頭部の高分化管状腺癌pT1N1M0(StageⅡB 16×16×15mm)と診断された.術後化学療法は希望せず,術後半年経過したが再発は認めていない(Figure 3).

Figure 3 

症例②.

a:初回診断時のERP.膵体部主膵管は70mm長の狭細像を示した.

b:上皮内癌部分の組織所見.主膵管および分枝膵管の上皮を置換して,異型上皮が小乳頭状に増殖する上皮内癌の像を示した.

c:EUS-FNA.十二指腸からの走査で25mm大の低エコー性腫瘍を認めた.胃内から25G針でEUS-FNAを施行し,ClassⅢと診断された.

d:残膵全摘時の手術標本.

Ⅳ 考  察

浸潤性膵管癌の5年生存率は約20%である 2.切除後の再発は腹膜播種,リンパ節転移や肝転移が大半で,残膵再発の割合は低い.Miyazakiらは284例の膵切除症例のうち,残膵再発は11例(3.9%)と報告したが 3,診断症例に上皮内癌はみられず,早期診断膵癌の再発形式は明らかでない.

当院で,2007年から尾道市医師会と協働で膵癌早期診断プロジェクトを展開している.膵癌家族歴,糖尿病,肥満,アルコール多飲,膵嚢胞性病変など膵癌危険因子に対して連携施設でUSを施行し異常を認めた場合,中核病院へ紹介し,所見に応じて入院精査する体制を整備した 4.その結果,膵上皮内癌17例を含む399例の膵癌を確定診断しえた.

今回上皮内癌17例のうち,1年以上の経過観察が可能であった16例中,残膵癌を2例に認めた.残膵癌はその原因が,再発か多中心性発癌かの鑑別が困難な場合が多い.近年Yachidaらは正常膵管上皮が非浸潤癌となるまで平均11.7年,癌が増殖し転移するまで平均6.8年と推測している 5.今回の2例は初回手術時にR0でありながら短期間で残膵癌を認めた.症例①では再発時に正常膵を介して2カ所に浸潤癌を認めたことや症例②では初回手術時に主膵管の狭窄より広範囲に上皮内癌を認め,一部正常膵を介していたことを考慮すると,初回手術時すでに残膵に画像で描出できない異型細胞が存在し,3~6年後に浸潤癌となった可能性が高い.

膵全摘術は血糖管理や消化酵素剤の大量内服が必要で,残りの自験例14例は無再発生存中であることから,小膵癌の初回手術で全例に膵全摘術を施行すべきかの判断は難しい.しかし,症例①は初回手術から4年で癌死し,初回に膵全摘術を施行していれば長期予後を得た可能性がある.膵切除法の決定に,術中分割膵液細胞診の有用性が報告されており,今後の検討が待たれる 6

今回の2例は初回手術時の病理所見で,上皮内癌部分のp53またはKi-67が強陽性を示した.p53の陽性率は小膵癌で高く 7,p53とKi-67の陽性率が高いほど術後早期に再発する可能性が報告されている 8.今後は,これらを残膵再発の高リスク例として厳重な経過観察を行うことが望まれる.

2016年に改訂された膵癌診療ガイドラインでは,初めて膵癌術後の経過観察法が提案され 9,造影CTが推奨されている.従来はNCCNガイドラインを参考に 10,血液検査と造影CTを定期的に施行していたが,造影CTを用いた小残膵癌の診断には限界があり,分解能の高いEUSを介入することで早期診断できる可能性がある.2000年~2015年の間でPubMedにて「remnant pancreas resection」,医中誌で「膵癌,残膵再発,残膵摘出」をキーワードに検索したところ,12例が該当した 11)~20.自験例3例を含む15例をTable 1に示す.初回診断がStage 0の症例は自験例のみで,多発した残膵癌を3例に認めた.残膵癌の診断は全例でCTまたはPET-CTにて腫瘍を認めていた.膵頭十二指腸切除術(PD)後症例は吻合法や腸管再建法により,EUSでの残膵観察が困難な場合もあるが,EUS-FNAは5例で施行可能であった(DP:2例,PD:3例).自施設ではPD後の再建に膵空腸吻合を用いており,EUSでの残膵観察は大半で可能であった.再建方法により多少の制限はあるものの,術後の残膵経過観察法にEUSを介入することで微小な残膵癌を発見できる可能性があり 21,今後EUSを併用した経過観察法の検討が必要である.

Table 1 

残膵癌の切除例.

Ⅴ 結  語

膵上皮内癌術後,残膵再発を認めた2例を報告した.今後,早期診断例の増加に伴い,残膵に着目したEUSを含む経過観察法の構築が必要であると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:花田敬士((株)SRL,(株)日総研出版)

文 献
 
© 2017 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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