術後再建腸管を有する胆膵疾患に対するERCPは,バルーン内視鏡の開発により可能となった.しかし手技の標準化はなされておらず,複雑な分岐を伴う再建術式(膵頭十二指腸切除後Child変法,胃切除後Billroth-Ⅱ法,胃切除後および胃温存Roux-en-Y法)に対し,試行錯誤しながら,目的部位への到達を目指して挿入を試みているのが現状である.われわれは,空腸空腸吻合部での挿入方向の判別方法として“吻合部の縫合線”を利用し,高い目的部位到達率を得ている(95.6%[347/363]).正確な挿入方向の判別によって,術者のストレス軽減に加え,挿入時間の短縮や安全で確実な手技遂行の達成が期待される.
術後再建腸管を有する胆膵疾患に対するERCPは,バルーン内視鏡の開発により可能となった 1)~3).さらに2016年にはバルーン内視鏡加算として保険収載され,ますますの手技普及が期待される.しかし,種々の術式や再建法があり,挿入手技の標準化はなされておらず,なお難渋することも少なくないのが現状である.われわれはこれまでに,のべ800件を超えるバルーン内視鏡によるERCPを行っており,その中でY脚吻合部やBraun吻合部といった,いわゆる空腸空腸吻合部での挿入方向の判別方法として,“吻合部の縫合線”の利用が有用であることを見出したので,報告する.
ショートタイプのダブルバルーン内視鏡(DBE)である,EC-450BI5,EI-530B,EI-580BT(すべてフジフイルム社)の3種を用いている.到達困難な場合は,ロングタイプDBEであるEN-450T5(フジフイルム社)を用いることもある.
2.前処置先端フードとして,D-201-11304(オリンパス社)を使用している.これは,挿入性向上に加えて,CO2送気量の軽減,主乳頭や胆管空腸吻合部の観察のしやすさ,安定した胆管挿管や治療手技を得るためである.鎮痙剤は適宜使用し,腸管内の視認性を向上させ,消化管吻合部を見逃さないようにする.また鎮静剤も通常のERCPと同様に使用し,患者の体位は,基本,腹臥位として手技を行う.
3.術式別の挿入方法以下,頻度的に多く経験する4つの術式における“消化管吻合部の縫合線”を利用した挿入方法について,解説する.各術式のシェーマにて,目的部位到達までの挿入ルートと“縫合線”の関係をイメージしながら読み進めていただくと理解しやすい.“縫合線”は通常,輪状瘢痕として同定できるが,不明瞭な場合は小腸ヒダの走行を参考にすると推定できる(Figure 1).

消化管吻合部での“縫合線”の同定法.胃温存Roux-en-Y法の側側吻合症例.まず内視鏡の位置(★)を基点に,そこから小腸ヒダが連続して続く(青矢印)管腔が,縫合線を越えない側の管腔(▲)である.したがって,残りの2つの管腔を取り囲むように,“縫合線”(➡)が必ず存在する.縫合線が不明瞭でも,この方法により推定できる.
1)膵頭十二指腸切除後Child変法のBillroth-Ⅱ法式(幽門輪温存膵頭十二指腸切術,亜全胃温存膵頭十二指腸切除後も含む)
まず,Braun吻合を有する場合,胃空腸吻合部とBraun吻合部の2カ所で分岐するため,“輸入脚ルート”と“輸出脚ルート”の2つのルートが選択可能なことを認識しておく(Figure 2).“輸入脚ルート”を選択する場合は,胃空腸吻合部で内視鏡画面の6時に胃大彎側を位置させた時に,通常8~12時にみえる側の管腔に挿入し,さらにBraun吻合部で“縫合線”を越えない管腔へと進むと,胆管空腸吻合部に到達できる.“輸出脚ルート”を選択する場合は,胃空腸吻合部で通常2~6時にみえる側の管腔に挿入し,Braun吻合部で観察される3つの管腔のうち,“縫合線”を越えて,真ん中の管腔へと進むと胆管空腸吻合部に到達できる(Figure 3).もし,Braun吻合部で管腔が2つしか見えない場合は,“縫合線”を越える側には必ず2つの管腔があるはずであり,これを想定すると真ん中の管腔がどこかを判定できる.胃空腸吻合部で輸出脚と輸入脚のどちらに挿入したかの判別はX線像も参考になり,同部から両脚内に内視鏡を5cm程度進めた時のX線像を比較すると,通常シェーマと同様に,輸出脚の場合は腹部の外側(左側)寄り,輸入脚の場合は内側(右側)寄りに進み始める.これらルールに従ってBraun吻合部を越えたにもかかわらず,肛門側に進んでしまった場合は,胃空腸吻合部で逆のルートに挿入していたと判断できるため,その上で挿入し直せば確実に到達できる.

膵頭十二指腸切除後Child変法のBillroth-Ⅱ法+Braun吻合の挿入ルート.“輸入脚ルート”(左)は,胃空腸吻合部で輸入脚に進み,Braun吻合部で“縫合線”を越えずに進むと胆管空腸吻合部に到達できる.一方,“輸出脚ルート”(右)は,胃空腸吻合部で輸出脚に進み,Braun吻合部で“縫合線”を越えて真ん中の管腔に進むと同様に到達できる.

“輸出脚ルート”でのBraun吻合部の越え方.Braun吻合部は3つに分岐する管腔として観察され,内視鏡の位置(★)を基点に,“縫合線”(➡)を越えて,真ん中の管腔へ進む(赤矢印)と胆管空腸吻合部に到達できる.他の2つの管腔のうち,縫合線を越えない管腔(▲)は肛門側へ進み,残る管腔(■)は輸入脚から胃内へと戻る.
一方,Braun吻合がない場合,胃空腸吻合部で輸入脚に挿入できれば胆管空腸吻合部に到達するため,通常迷うことはない.
われわれは,①Braun吻合部で単純に3つの管腔の真ん中を選択すれば,確実に盲端に到達できること,②到達時の内視鏡形状が大きくU字を描くため,内視鏡へのストレスが少なく,安定した処置が行いやすいこと,③胃空腸吻合部での輸入脚への挿入は,吊り上げ吻合のために急峻な角度となり困難な場合があること,の理由から,“輸出脚ルート”を第一選択としている 4).
2)胃切除後Billroth-Ⅱ法
本術式は,到達目的部位が主乳頭部であるが,前述の膵頭十二指腸切除(PD)後と挿入ルートは類似している.Braun吻合の有無により,同様の方法で挿入する 5).
3)胃切除後Roux-en-Y法
本術式でのY脚吻合部は,一般的に端側吻合が多いが,器械吻合の場合や術者の好みにより側側吻合で再建されることもある(Figure 4).

胃切除後Roux-en-Y法の挿入ルート.端側吻合(左)は,Y脚吻合部で“縫合線”を越えて進むと主乳頭部に到達できる.一方,側側吻合(右)は,Y脚吻合部で“縫合線”を越えて真ん中の管腔に進むと同様に到達できる.
端側吻合の場合,輸入脚は挙上空腸の側方に縫合されており,見逃しやすいので注意が必要である.この2つに分岐するY脚吻合部で,“縫合線”を越える側の管腔を選択し進めると,主乳頭部に到達できる(Figure 5).

胃切除後Roux-en-Y法(端側吻合)のY脚吻合部の越え方.Y脚吻合部は2つに分岐する管腔として観察され,内視鏡の位置(★)を基点に,“縫合線”(➡)を越える側の管腔に進む(赤矢印)と主乳頭部に到達できる.もう一方の管腔(■)は,肛門側へ進む.
側側吻合の場合,Y脚吻合部で3つの管腔が観察されるが,通常,“縫合線”を越えて,真ん中の管腔へと進むと,主乳頭部に到達できる.
4)胃温存Roux-en-Y法
本術式は,解剖学的に胆管空腸吻合部までの距離が長く,複数の屈曲部を伴うためにたわみやすく,癒着の影響も受けるため,目的部位への到達が最も難しい.
胃切除後Roux-en-Y(R-Y)法と同様に,Y脚吻合部は端側吻合と側側吻合の場合があるが(Figure 6),唯一,本術式の端側吻合は“吻合部の縫合線”を利用した挿入ができない.なぜなら,胃切除後R-Y法とは異なり,Y脚吻合部では“縫合線”を越えて2又に分岐する形態をとるためである(Figure 7).そこでわれわれは,挿入方向の判定にX線像での内視鏡の進行方向を参考にしており,通常,肝側や頭側方向に進み始める側の管腔をまず選択し,挿入している.

胃温存Roux-en-Y法の挿入ルート.端側吻合(左)は,Y脚吻合部で2又に分岐し,一方(赤矢印)の管腔に進むことができれば胆管空腸吻合部に到達する.側側吻合(右)は,Y脚吻合部で“縫合線”を越えて真ん中の管腔に進むと胆管空腸吻合部に到達できる.

胃温存Roux-en-Y法(端側吻合)のY脚吻合部.内視鏡の位置(★)から“縫合線”(➡)を越えて2又(●)に分岐するため,“縫合線”は挿入方向の決定のメルクマールとして利用できない.
側側吻合の場合は,胃切除後R-Y法と同様に“縫合線”を利用できる(Figure 8).

胃温存Roux-en-Y法(側側吻合)のY脚吻合部の越え方.内視鏡の位置(★)を基点に,“縫合線”(➡)を越えて,真ん中の管腔に進む(赤矢印)と胆管空腸吻合部に到達できる.他の2つの管腔のうち,縫合線を越えない管腔(▲)はすぐに盲端となり,残る管腔(■)は肛門側へと進む.
2013年1月から2016年3月までに,当施設にてDBEによるERCPを162例396件に施行した.本検討では,上記4つの術式に該当する155例 363件を対象とした.
結果を示す(Table 1).全体での初回到達成功率,のべ到達成功率は,それぞれ94.8%(147/155),95.6%(347/363)とともに高率であった.術式別では,胃温存R-Y法が最も到達率が低かったが,そのうち,側側吻合は端側吻合よりも初回およびのべ到達成功率ともに高かった.また到達時間は,胃切除後R-Y法において,端側吻合より側側吻合の方が短かった.

術後再建法別の内視鏡挿入に関する成績.
挿入に伴う合併症は,胃切後Billroth-Ⅱ(B-Ⅱ)法後の膵頭部癌症例の1例(0.6%)に,輸入脚の消化管穿孔を認めた.緊急でPDを施行したが,術後経過良好にて3週間後に退院された.
到達困難であった原因は,挙上脚の癒着や過長な挙上脚が69.2%(9/13)を占め,ロングタイプのDBEへの変更3例とランデブー法の利用2例の計5例は,後日到達成功した(Table 2).また消化管吻合部を同定できずに間違った脚に挿入していた2例は,後日確実に同定し,適切な脚に挿入することで到達できた.

到達困難例の詳細.
術後再建腸管症例の胆道疾患に対するショートタイプDBEを用いたERCの有用性が,2016年に本邦から世界初の多施設共同前向き試験として報告された 1).しかし,効率的かつ確実に目的部位へ到達させるための標準的な挿入法はなく,術者の技量や経験に委ねられているのが現状である.今回われわれは,正しい方向へ内視鏡を進めるための工夫の一つとして,“消化管吻合部の縫合線”を利用した挿入法について解説し,メルクマールとして非常に有用であることを述べた.
目的部位への到達困難な理由としては,腸管の癒着や過長な挙上脚の影響によることが多いが,挿入ルートの選択による影響も受けうる.正確な挿入方向がわからずに挿入することは,術者のストレスを生じるとともに,挿入時間の延長や安全性への影響も危惧される.あらかじめ手術記録で再建術式を確認することは必須であり,さらに手術スケッチをもとに挿入ルートをイメージしておくことが,確実,迅速,安全に目的を達成するために効果的と考えられる.
消化管吻合部の同定は,胃温存R-Y法の端側吻合では2又に分岐するため,また胃温存や胃切除後R-Y法の側側吻合,PD後やB-Ⅱ法のBraun吻合部では3つの管腔に分岐するため,難渋することは少ない.一方,胃切除後R-Y法の端側吻合では,輸入脚は挙上空腸の側方に縫合されているため,内視鏡画面の中央に捉えにくく見逃すことも少なくない.胃切後R-Y法での到達時間が端側吻合より側側吻合で短かったのは,このY脚吻合部の同定のしやすさが異なることが影響したと考えられる.鎮痙剤や先端フードを有効利用するとともに,腸液の色調が変化する付近,食物残渣がたまっている付近,また突如管腔が拡大する付近に吻合部が存在することもあるので,注意深く観察しながら挿入することが重要である.
消化管吻合部での挿入方向に関しては,以前われわれは,PD後の患者72例を対象に,“輸出脚ルート”または“輸入脚ルート”による挿入プランを立てて,ショートタイプのDBEによるERCPを試みたところ,到達成功率99%(71/72),到達時間中央値10分であったことを報告した 4).一方,最も挿入が難しい胃温存R-Y法の端側吻合では,インジゴカルミン散布により腸管の蠕動方向を判断する方法 6)や,CO2送気 7)や造影剤 8)の注入により深部腸管の走行を確認する方法などの工夫が報告されているが,評価困難な場合も経験する 9).この点,側側吻合の場合は3つの管腔に分岐するため,一見複雑なようであるが,手術スケッチと“縫合線”を参考にすると,正確な挿入方向の判定が可能となるメリットをもつ 10),11).また胃切後R-Y法においても,輸入脚の逆蠕動を判断する方法では評価困難な場合もあり,“縫合線”を越えて進む方法であれば,確実に主乳頭部に向かう管腔に挿入可能となる.したがって,胃温存R-Y法の端側吻合を除く術式においては,恒久的に存在する“消化管吻合部の縫合線”の利用を挿入方向の判定方法の第一選択としてよいものと考える.
また挿入に伴う合併症は,B-Ⅱ法の1例のみであったが,消化管穿孔を生じ緊急手術を要した.特にB-Ⅱ法は他の術式よりも合併症が多いことが報告されており1),内視鏡のトルクやアングル操作を中心に慎重な挿入を試みるよう,注意が必要である.
さらに到達困難時は,挙上脚の癒着や長さが原因の場合は,ロングタイプのバルーン内視鏡や挿入性の向上した新しいショートタイプのバルーン内視鏡(EI-580BT;フジフイルム社,SIF-H290S;オリンパス社)への変更による再検や,ランデブー法の利用が有用なことがある 12).消化管吻合部を同定できなかった場合は,再検にて慎重な挿入により確実に同定することで,挿入ルートが明確化し到達可能となりうる.ただし,挿入手技による合併症は回避しなければならないため,内視鏡に固執し過ぎることなく,経皮的ドレナージや施行可能な専門施設ではEUSガイド下ドレナージといった代替法も考慮する.
今回の検討は,当院の外科手術症例が全体の約8割を占めていた.術式や再建法が同じでも,外科手術を行った施設や術者によって挙上脚の長さや癒着防止フィルムの使用の有無などが異なり,スコープ挿入性に影響が生じる可能性も考慮されるが,理論上,“消化管吻合部の縫合線”を利用した挿入法はこれらによらず標準化可能と考える.本法を挿入の基本手技とするには,今後,多施設でのさらなる症例数の蓄積による検証も望まれる.
術後再建腸管を有する胆膵疾患に対するERCPにおけるスコープ挿入の際は,手術記録の確認やX線像の併用に加え,“消化管吻合部での縫合線”を利用した挿入方向の正確な見極めが有用である.挿入成功率の向上とともに,挿入時間の短縮や安全性の向上,術者のストレス軽減の獲得により,患者と医師に優しい低侵襲な手技の確立に貢献することが期待される.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし