2017 年 59 巻 9 号 p. 2443-2448
【背景】発症早期の食道アカラシアでは,内視鏡では特徴的な所見を認識するのが難しいことがあり,診断までに発症後数年かかることがある.
【方法】対象は,2014年3月から2015年8月までに当院で経口内視鏡的筋層切開術を施行した食道運動機能障害400例とした.内視鏡の胃内反転像において下部食道括約筋弛緩不全(LESRF)の下端がSquamocolumnar junction(SCJ)と一致しない所見をChampagne glass signと定義した.LESRFの下端とSCJが一致する場合,いわゆる「巻き付き」を認める場合をCG-0,LESRFの下端からSCJの距離が1cm未満の場合をCG-1,1cm以上の場合をCG-2とした.
【結果】CG-0は28.0%しか認めなかった.CG-1は65.1%,CG-2は6.1%に認められた.
【結論】LESRFの下端とSCJが一致せず,胃内反転像ではSCJが開いているようにみえるアカラシアは多く,注意が必要である.
食道アカラシアは,下部食道括約筋の弛緩不全と食道の蠕動消失を特徴とする原因不明の食道運動機能障害である 1).上部消化管内視鏡検査,バリウム食道造影,食道内圧検査が診断に有用である.近年,上部消化管症状の患者へのスクリーニング検査として,上部消化管内視鏡検査を施行することが一般的であり,食道造影を施行することは稀になってきた.ごく初期の食道アカラシアでは,特徴的な内視鏡所見を認識することが困難なことも多く,自覚症状が出現してから診断がつくまでに何年もかかることがある.
岩切ら 2)の報告した深吸気後の下部食道におけるロゼット様食道ひだは,食道アカラシアに特徴的な内視鏡所見である.食道アカラシア取扱い規約 3)では,内視鏡の胃内反転像での「巻き付き」「めくれこみ」が典型的な所見とされている.巻き付きとは噴門粘膜が内視鏡に強く巻き付いている所見であり,めくれこみとは内視鏡を胃内に引き込むと食道粘膜が内視鏡とともに胃側にめくれこんでくる所見である.
下部食道括約筋弛緩不全(Lower esophageal sphincter relaxation failure:LESRF)の下端がSquamocolumnar junction(SCJ)と一致している場合,胃内反転像で巻き付きを認める.しかし,LESRFの下端がSCJより口側にある場合,巻き付きは認められず,胃内反転像でSCJが開いているように見えることから,食道アカラシアではないと誤った診断をしてしまうことがあるのではないかと考えられた.
そこで私たちは,食道アカラシア症例の胃内反転像での噴門の所見を検討し,新しい分類を作成することとした.
対象は,2014年3月から2015年8月までに当院で経口内視鏡的筋層切開術(Peroral endoscopic myotomy:POEM)を施行した食道運動機能障害400例とした.食道アカラシア以外の食道運動機能障害の10例,内視鏡的バルーン拡張術や外科的筋層切開術といった前治療歴のある117例,内視鏡所見の判別が困難であった12例を除外した261例を検討した.内視鏡検査は10年以上の経験のある内視鏡医が施行した.
内視鏡はオリンパス社製のGIF-H290ZもしくはH260Zを使用した.内視鏡検査はすべて1%プロポフォールによる静脈麻酔での鎮静下で施行し,鎮痙薬は使用しなかった.
内視鏡所見:内視鏡の胃内反転像においてLESRFの下端がSCJと一致しない所見をChampagne glass(CG)signと定義した(Figure 1).LESRFからSCJの距離が1cm未満の場合をCG-1(Figure 2),1cm以上の場合をCG-2(Figure 3)とした.LESRFの下端とSCJが一致する場合,つまり巻き付きを認める場合をCG-0とした(Figure 4).

Different types of Champagne glass(CG)sign. LESRF, lower esophageal sphincter relaxation failure ; SCJ, squamocolumnar junction.

CG-1. Distance from the SCJ to the lower end of LESRF is <1cm.

CG-2. Distance from the SCJ to the lower end of LESRF is ≧1cm.

CG-0. The lower end of LESRF coincides with the SCJ(equal to Makitsuki).
直線型とシグモイド型に分類し,さらにシグモイド型はSigmoid type1(S1)とSigmoid type2(S2)の2つに分類した.S1は食道が拡張・蛇行しているがCTの冠状断の1スライスで単一の管腔しか見られない場合,S2は1スライスで2個以上の管腔が見られるような蛇行が強い場合とした 4).
261例のうち,男性は121例,女性は140例であり,平均年齢は46.4歳(10-85歳)であった.
CG-0群は73例(28.0%)であり,CG signは186例(71.3%)に認められた.そのうちCG-1群は170例(65.1%),CG-2群は16例(6.1%)であった(Figure 5).2例(0.8%)はバレット上皮を伴った食道アカラシアであり,CG signの判定は判断不可能であり,解析からは除外した.

Classification of Champagne glass(CG)sign.
滑脱型食道裂孔ヘルニアを伴う食道アカラシアは7例(2.7%)認めた(Figure 6).7例ともSCJはLESRFの下端と一致しておらず,5例はCG-1であり,2例はCG-2であった.

CG-2 with a sliding hiatal hernia.
CG-0群,CG-1群,CG-2群間で,年齢,性別に有意差は認めなかった(Table 1).Eckardt scoreはCG-0群においてCG-2群に比べ有意に高かった(Table 1,Figure 7).病脳期間はCG-0群においてCG-1群に比べ有意に長かった(Table 1,Figure 8).拡張型分類については,Sigmoid type2の頻度がCG-0群で13.7%と多い傾向にあり,CG-1群で3.5%,CG-2で0%であり,LESRFの下端の位置がSCJから遠いほどSigmoid type2の割合が減る傾向にあった(Table 1,Figure 9).また,食道の拡張度については,GradeⅢの頻度がCG-0群で6.8%と多い傾向にあり,CG-1群で2.8%.CG-2群で0%であり,LESRFの下端の位置がSCJから遠いほど拡張度が低い傾向があった(Table 1,Figure 10).Chicago分類は各群で差は認めなかった(Table 1,Figure 11).

Differences in features according to the type of Champagne glass(CG)sign.

Relationship of Champagne glass sign and Eckardt score(total). n.s., not significant.
**, P<0.01.

Relationship of Champagne glass sign and disease history. n.s., not significant.
*, P<0.05.

Relationship of Champagne glass sign and disease type. n.s., not significant.
**P<0.01. n.s., not significant.

Relationship of Champagne glass sign and degree of dilatation. n.s., not significant.
*P<0.05;**P<0.01.

Relationship of Champagne glass sign and Chicago classfication. n.s., not significant.
n.s., not significant.
本邦では,胃内反転像での巻き付きが食道アカラシアにおける典型的な内視鏡所見とされてきた.しかし,LESRFの下端がSCJと一致せず,SCJより口側にあることはしばしば認められ,このため胃内反転像でSCJがひらいており,巻き付きを認めないことがある.本検討では,LESRFの遠位端がSCJと一致する食道アカラシア症例において見られるCG-0(巻き付きに相当)は,食道アカラシア症例の28.0%のみでしか認められなかった.この所見は正常人では見られないので,食道アカラシアに特異的な所見であると考えられるが,その感度は低いと考えられた.
私たちは,巻き付きを認めずLESRFの下端がSCJより口側にある食道アカラシアの胃内反転像をCG sign(CG-1,CG-2)と定義した.しかし,CG sign陽性の食道アカラシア患者における胃内反転像は,正常人の胃内反転像と区別することが困難である.したがって,CG signは食道アカラシアにおいて特異度の高い所見ではない.
巻き付きの存在は食道アカラシアを強く示唆するかもしれないが,巻き付きがなくSCJが開いていても食道アカラシアを否定することはできず,食道アカラシアを疑う自覚症状がある場合は食道造影や食道内圧検査を実施すべきである.
さらに,私たちの検討では,食道の拡張度が高い(GradeⅢ)症例,拡張型が進行した(Sigmoid type2)症例は,CG-2群において最も頻度が低く,CG-1群,CG-0群の順に,つまりLESRFの下端がSCJに近づくにつれて頻度が高くなることが明らかになった.換言すれば,LESRFの下端がSCJに近くなるほど,食道の拡張度および拡張型が進行した症例が多かった.また,CG-2群,CG-1群,CG-0群の順に,つまりLESRFの下端がSCJに近づくほど病脳期間が長かった.
したがって,発症から時間がたつにつれ,拡張度や拡張型が進行するとLESRFの下端が徐々にSCJに近づいていく可能性,もしくは,発症から時間がたつにつれ,LESRFの下端が徐々にSCJに近づくことで,拡張度や拡張型が進行していく可能性が考えられる.
CG signは食道アカラシア症例でしばしば認められる所見であった.CG-0,いわゆる巻き付きは食道アカラシア患者の28%にしか認められなかった.巻き付きがなくSCJが開いているからといって,食道アカラシアを否定することはできない.食道アカラシアを疑う場合は,内視鏡検査だけでなく,食道造影や食道内圧検査を考慮すべきである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし