2018 年 60 巻 1 号 p. 48-56
消化器内視鏡治療のめざましい発展とともに,安定した治療を施せるような鎮静が求められている.しかし,内視鏡時の鎮静に対する承認が取得できている薬剤はほとんどなく,ミダゾラムやフル二トラゼパムが保険適応外で使用されているのが現状であり,安全かつ確実な鎮静方法の確立が急務となっている.この状況を受けて2013年には日本消化器内視鏡学会より“内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン”が作成され,鎮静が必要と考えられる局面においてどのような鎮静方法が良いのか,指針が示されている.近年では,鎮静薬として,短時間作用型のプロポフォールや呼吸抑制がないプレセデックスが注目を浴びており,消化器内視鏡治療領域においても使用頻度が増している.しかし,その適応や使用方法を誤ると偶発症のリスクが高まるのも事実である.薬剤の特徴,使用方法,モニタリング方法等,今まで以上に事前の学習とトレーニングが必須の時代となっている.
近年,消化器内視鏡検査による詳細な観察・診断,それに続く内視鏡治療の発展がめざましい一方で,治療に伴う内視鏡手技は複雑化し,ひと昔前に比べると侵襲度も高くなっている.内視鏡治療施行時の鎮静は患者の苦痛軽減,治療の成績向上に寄与するが,重大な偶発症を生じるリスクも持っている.内視鏡施行時の鎮静薬についても,保険適用を取得している薬剤は少なく,ベンゾジアゼピン系薬剤が適応外で使用されており,薬剤の投与等の鎮静方法についても各施設間で異なっていた.
そのような状況より,安全な鎮静を支援する体制作りのため,日本消化器内視鏡学会より日本麻酔科学会の協力の下“内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン 1),2)”が発刊されている.本稿では,このガイドラインを紹介しながら,内視鏡診療時における鎮静法の実際,現況での問題点について解説する.
1.ガイドライン作成の意義
内視鏡診療,特に,近年になって発展を遂げている内視鏡治療においては鎮静が不可欠になっている.内視鏡検査においても,患者側は苦痛のない内視鏡検査を要望する機会が増加している.一方で,日本国内には鎮静のためのガイドラインとして明確に標準化されているものは存在しておらず,各施設の担当医の裁量により,様々な薬剤が用いられ,鎮静深度の評価も施設ごとに行われていた.そのため,
① 必ずしも適切でない薬剤が用いられている.
② 鎮静レベルの調整が不十分であるため,患者の安全性に問題がでることがある.
③ 標準化された方法がとられていないため施設間での比較が難しい.
④ 多施設で共同臨床研究を行うことが難しい.
⑤ いずれの鎮静薬も保険適応がない.
などの潜在する問題,課題が抱えられていた.
これらの解決に向けて,2013年EBMを重視した“内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン”が作成された.
2.ガイドラインの評価
提唱されたステートメントに対しては,Delphi法による投票が行われている.エビデンスレベルと推奨度の評価はMindsの推奨グレード(Table 1) 3)を採用して評価されている.
エビデンスレベルと推奨度:Mindsの推奨グレード.
3.鎮静レベルの評価
1)鎮静と鎮痛の定義
・鎮静(sedation):投薬により意識レベルの低下を惹起すること.
・鎮痛(analgesia):意識レベルの低下を来さずに痛みを軽減すること.
上記は明確に区別されている.
2)鎮静レベルの評価と簡便な判定法
本ガイドラインでは,米国麻酔学会の鎮静・麻酔レベルとその定義が採用され(Table 2) 4),鎮静麻酔の深度を判断する方法として,Ramsay鎮静スコアが推奨されている(Table 3) 5).Ramsayスコア3ないし4が中等度鎮静(意識下鎮静)に相当する.
米国麻酔学会 鎮静・麻酔の分類.
Ramsayスコア.
4.クリニカルクエッション(CQ)とステートメント(ST)
本ガイドラインでは14項目のSTを取り上げ,それぞれについて詳細な解説を加えている.ここでは,代表的なSTをいくつか提示する.
ST1
・内視鏡診療における鎮静は,医師がその必要性を勘案し,十分なインフォームドコンセントのもとに,患者の意思と同意に基づいて行うものである.
内視鏡診療における鎮静は,十分なインフォームド・コンセントのもとに,患者の意思と同意に基づいて行うものである.
ST5:Evidence level Ⅳb,推奨度B
・鎮静下で内視鏡を施行する場合,患者の視診,意識レベルと呼吸循環動態の適切な監視が重要である.内視鏡手技終了後も覚醒までの間は患者監視を継続する.
鎮静下での内視鏡診療において,患者死亡に関連する最も重要な要因は,呼吸抑制と気道閉塞である.米国麻酔学会におけるデータベースからは,内視鏡施行中の心肺イベントが致死的偶発症として最も重要であることが示されている 6).
呼吸器系の監視:直接的な呼吸状態の監視は非常に重要であり,必要に応じて聴診・呼吸回数測定などを行う.パルスオキシメーターは低酸素血症を数値化してモニタリングできるため,重要な呼吸モニターとなる.一方,高炭酸ガス血症は酸素飽和度だけでは把握できないことにも留意が必要である.特に,呼吸器合併症を有する患者監視においては,聴診およびカプノグラフィー(呼気中の炭酸ガス検査)を用いた呼気終末の炭酸ガス濃度を測定することも重要とする見解もある 7),8).
循環器系の監視:不整脈のモニタリング,深鎮静下での血圧測定が重要とされている 9).リスクが高いと思われる患者に対しての鎮静下内視鏡診療においては,血圧や心電図を含めた精度の高い機器によるモニタリングが推奨される.
ST9:Evidence level Ⅳa,推奨度B
・疼痛や苦痛を伴う頻度が高く,かつ長時間の鎮静が必要となる内視鏡治療(ERCPを含む)では鎮静の選択肢として,ベンゾジアゼピン系薬剤単独,塩酸ペチジンなどの鎮痛薬単独,ベンゾジアゼピン系薬剤+鎮痛薬などが挙げられる.また,長時間安定した鎮静を得る必要がある内視鏡治療では全身麻酔が選択肢となる.
内視鏡治療には様々な手技があるため,その種類によって鎮静の必要性も異なる.上部消化管ESDやERCPでは疼痛や苦痛を伴うため,安全かつ安定した状況下で治療完遂するためにも鎮静が必須となる.鎮静レベルは中等度鎮静が基本となる.長時間,体動なく安定した状態が必要な場合には全身麻酔も選択肢となる.
長時間におよぶ内視鏡治療(ESDやERCP)では,ベンゾジアゼピン系薬剤+鎮痛薬による鎮静が広く行われている.一方,長時間の治療内視鏡ではベンゾジアゼピン系薬剤+鎮痛薬を間欠的に追加投与する必要があり,鎮静薬の投与量が過鎮静となることがあるので注意を要する.
ST12a:Evidence level Ⅱ,推奨度B
・フルマゼニルは,ジアゼパム系薬剤により誘発された内視鏡診療時の呼吸抑制の緊急回避および覚醒時の全身状態を早急に確認するために有用である.
ミダゾラムに誘発された呼吸抑制に対する拮抗作用は,フルマゼニル静注にて発現し,呼吸抑制を直ちに軽減させることができる.しかし,フルマゼニルの持続時間がミダゾラムの作用時間より短いことから,再鎮静が生じる可能性もあることに留意が必要である 10),11).
各種薬剤の種類.
1.催眠鎮静薬
a;ジアゼパム
・薬理作用:中枢神経系における抑制系神経伝達物質であるGABAの受容体を賦活することによって,鎮静や抗痙攣作用を発揮する.
・使用方法:単独投与では静注5-10mgが一般的に使用されている.
・副作用:徐脈,低血圧,呼吸抑制,運動失調,血栓性静脈炎.
・禁忌:狭隅角・広隅角緑内障,重症筋無力症.
・その他:半減期が長い(35時間)ので,検査後の患者ケアに注意が必要.
血管痛,血栓性静脈炎に注意が必要.
b;フルニトラゼパム
・薬理作用:大脳辺縁系,大脳皮質,小脳などに分布するGABAA/ベンゾジアゼピン受容体 Cl⊖チャネル複合体などの認識部位に作用して,抗不安,抗痙攣,筋弛緩,鎮静,催眠作用を発揮する.
・使用方法:麻酔導入における鎮静時,0.02~0.03mg/kgを静注する.
・副作用:呼吸抑制,過鎮静,依存性,興奮.
・禁忌:急性狭隅角緑内障,重症筋無力症.
・その他:眠気,集中力・反射運動神経の低下を来すことがあるため,自動車運転や危険を伴う機械操作に従事させないようにする.
c;ミダゾラム
・薬理作用:中枢神経系における抑制系神経伝達物質であるGABAの受容体を賦活することによって,鎮静や抗痙攣作用を発揮する.
・使用方法:成人にはミダゾラム0.15~0.30mg/kgを静注する.必要に応じて初回量の半量ないし同量を追加投与する.
・副作用:無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下,心室頻拍,心停止,悪性症候群.
・禁忌:本剤に対して過敏症の既往歴のある患者.
・その他:プロポフォールとの併用で,収縮期・拡張期血圧および心拍出量が低下する.
過鎮静,錯乱,昏睡が生じた場合には必要に応じて拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する.
2.鎮痛薬
a;塩酸ペチジン
・薬理作用:モルヒネと同様にオピオイド受容体作動薬で,中枢性鎮痛作用を示し,その鎮痛効果はモルヒネの1/5~1/1である.モルヒネと比較して,本薬の尿閉・便秘発現作用等は弱く,呼吸抑制も軽度である.
・使用方法:35~50mgを皮下または筋注,あるいは緩徐に静脈内注射する.
・副作用:呼吸抑制,過鎮静,依存性,興奮.
・禁忌:急性狭隅角緑内障,重症筋無力症.
・その他:急速静注によって,呼吸抑制・循環障害・心停止等が現れることがある.
麻薬拮抗薬(ナロキソン塩酸塩)や呼吸の調整・補助設備のないところでは,静脈注射は控える.
b;ペンタゾシン
・薬理作用:強力な鎮痛作用と弱いオピオイド拮抗作用を有する.ペンタゾシンの鎮痛作用はモルヒネのおよそ1/2~1/4の効力である.10~30mgの静注あるいは50mgの経口投与で中等度の鎮痛作用が生じる.30~70mgでペンタゾシンの鎮痛作用および呼吸抑制作用には天井効果が生じる.
・使用方法:1回に15mgを静注する.追加投与は15mgの静注とする.
・副作用:呼吸抑制,一過性高血圧,頻脈,発汗,嘔吐,尿閉.
・禁忌:本剤に対して過敏症の既往歴のある患者.
・その他:高齢者では高い血中濃度が持続する傾向が認められているので,低用量から投与を開始するとともに,投与間隔を延長するなど慎重に投与すること.
3.内視鏡治療における鎮静で話題となっている薬剤
a;プロポフォール
・薬理作用:プロポフォールは広く中枢神経に抑制的に働く.GABAA受容体を賦活し,N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容2体を抑制する.麻酔作用の発現には特に中枢神経における3GABAA受容体への関与が重要と考えられている.
・適応:全身麻酔の導入・維持,集中治療における鎮静(局所麻酔あるいは検査時の鎮静は本邦では適応外となっている).
・投与方法:プロポフォールの投与方法として,通常投与法とデュプリヒューザーTCI(target-controlled infusion:目標血中濃度調節投与)機能を用いたものがある.TCIを用いることで,麻酔深度をより簡単かつ速やかに調整できるようになっている.従来の投与法とTCIを比較した研究では,TCIの使用により低血圧・徐脈などの循環器系合併症や術中覚醒などの有害事象が増えたというものはなく,安全性については確立していると考えてよい.本邦において,プロポフォールをTCIで投与するには,シリンジポンプ(テルモTE371)と1%デュプリバン®注-キットが必要となる(Figure 1).
プロポフォール使用時のシリンジポンプ.
・投与量:十分鎮痛が行われていれば,0.5mg/kgを3-5分かけて投与後2(1.5-4.5)mg/kg/hr程度の投与量で鎮静を維持できる.
・副作用:低血圧,無呼吸,徐脈,アナフィラキシー様痙攣,プロポフォール症候群.
・禁忌:ダイズ油,卵黄レシチンに対し過敏症の既往がある患者.
・その他:循環器障害のある患者や高齢者では,特に,呼吸抑制,循環抑制(徐脈,低血圧)には十分に注意する.
・内視鏡施行時にプロポフォールを使用する場合の問題点
プロポフォール麻酔は“かかりやすく覚めやすい方法”であるため,麻酔導入時に時間短縮ができ,覚醒時に遅延がおきにくい特徴がある.しかし,本邦では,消化器内視鏡施行時において,麻酔科としての専門的な教育を受けていない非専門医が行うNonanesthesiologist-administered propofol(NAAP)の安全性,添付文書に記載されていない使用法の是非が問題となっている.プロポフォールをベンゾジアゼピン系薬剤と同等に扱っていいのか?投与者が麻酔科医ではなく内視鏡医でいいのか?という点が解決されていないかぎり,積極的に使用が推奨できないのが現状である.
b;デクスメデトミジン(Figure 2)
デクスメデトミジン(プレセデックス®静注液200μg/2ml).
・薬理作用:デクスメデトミジン(Dexmedetomidine;以下DEX)はα2アドレナリン受容体の完全アゴニストであり,青斑核や脊髄が作用部位であり,鎮静作用,鎮痛作用,交感神経抑制作用などがある.
・適応:集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静.
集中治療における非挿管患者の鎮静・鎮痛.
局所麻酔下における非挿管での手術および処置時の鎮静.
・投与方法:いずれの適応に対してもシリンジポンプを用いて持続静注する(Figure 3).ルート内の薬剤がボーラス投与されることを防ぐため,DEX専用の別ルートを使用する(Figure 4).
プレセデックス使用時のシリンジポンプ.
プレセデックス使用時のルート保持の様子.
・投与量:初期負荷投与速度3-5μg/kg/hで10分間投与する.その後,維持投与速度は0.2~0.5μg/kg/hを目安として調整する.鎮痛薬も同時に投与し,鎮痛をとるようにする.
・副作用:低血圧,徐脈,冠動脈れん縮.
・禁忌:DEXに対し過敏症の既往がある患者.
・その他:呼吸系については安全な薬物であるが,循環器系に関しては副作用が高頻度に発現するので注意する.カルシウム拮抗薬,ジギタリス製剤,β遮断薬などと併用すると相互作用によって著しい徐脈となることがある.
・最近の報告
DEXは呼吸抑制が少なく,鎮痛・鎮静効果を併せもった新規の薬剤である.非挿管下処置においても使用が可能であることから,内視鏡処置の鎮静にも有用性が報告された 13).胃ESDにおいては,DEX投与群,ミダゾラム投与群,プロポフォール投与群の3群(n=90)での比較で,DEX使用群において,体動,治療時間,追加投与したミダゾラム投与量が有意に減少したと報告されている 14).ERCPでは,DEX投与群とDEX非投与群の2群(n=198)比較で,SpO2低下の頻度,鎮静・鎮痛薬の追加投与量がDEX群で有意に低かったと報告されている 15).DEX群では呼吸抑制による検査中止例は1例も認めなかった.消化器内視鏡におけるDEXとミダゾラムのメタ解析も報告されている 16).治療を中断するような体動発生率は,DEX群は2.2%に対してミダゾラム群は28.9%とDEX群で有意に低かった.Ramssay鎮静スコアはミダゾラム群に比べてDEX群で有意に高かった.低酸素血症,血圧低下,徐脈に関しては,両群において有意差は認めていない.これらの報告より,DEXは消化器内視鏡(特に,ESD・ERCP)において,呼吸・循環系の合併症を増やすことなく,優れた鎮静効果を有することが示されている.
DEXは局所麻酔下における非挿管下での処置時の鎮静に対して,保健適応が認められていることから,内視鏡治療分野においても,今後ますます使用頻度が増えていくであろうと推測される.
1.問診と診察
内視鏡検査・治療前に問診を行い,循環器・呼吸器疾患の有無,アレルギーの有無,飲酒・喫煙歴,内服状況を確認する.侵襲的な治療を伴う場合には,胸腹部X-P,心電図,採血,必要に応じて呼吸機能検査まで行う.術前に収集した患者情報から,ASA(American Society of Anesthesiologists;米国麻酔学会)分類(Table 5)を用いて鎮静に伴うリスクを評価しておくことが大切である.
ASA分類.
2.インフォームド・コンセント
鎮静の必要性および偶発症について十分説明する.薬剤アレルギーや鎮静に伴う呼吸抑制が生じる可能性についても同意を得る必要がある.
3.鎮静薬の導入
患者にはモニターを装着し,血圧測定(5分間毎),脈拍数,心電図,血中酸素飽和度をモニタリングする.モニターは,術者ならびに介助者によくみえるところに設置する(Figure 5).
モニター装着の様子.
当院では,内視鏡治療時(ESD)には長時間同一体位になるため,下肢静脈血栓症予防に両下肢に間欠的空気マッサージ器もしくは弾性ストッキングを装着,褥瘡予防として処置台上には除圧マットを敷いている(Figure 6).鎮静薬導入前に経鼻カニューレを装着し,酸素吸入を2l/minで開始する.
下肢静脈血栓症予防のための間欠的空気マッサージ器.
1)ミダゾラムを使用した場合
導入時は3-4mgを静注し,同時に鎮痛薬(ペンタジン7.5~15mgもしくはオピスタン12.5~35mg)を静注する.鎮静が得られない場合,時間経過とともに体動等が出現した場合には2mg前後を適宜,追加投与する.
2)プロポフォール(1%)を使用した場合
シリンジポンプを使用して投与する.最初に0.5mg/kgを緩徐に静注後,3(2.0-4.0)mg/kg/hr程度で持続静注を開始する.同時に鎮痛薬も静注する.鎮静の程度に合わせて,持続静注量を変更する.また1時間をめどに鎮痛薬も追加投与する.
3)DEX(プレセデックス®)+ミダゾラムを使用した場合
プレセデックスはシリンジポンプを用いて投与する.プレセデックス1A(200μg/2mg)を生食48mlに解き,全体で50mlの薬液を作成する.まず,初期負荷投与速度4.5-5μg/kg/h(体重50kgであれば,約60ml/h)で10分間投与する.ミダゾラム2-3mg,鎮痛薬も同時に投与する.その後,維持投与速度は0.4(0.3-0.5)μg/kg/hを目安として調整する.体動時には,適宜,ミダゾラムや鎮痛薬を追加投与する.徐脈や血圧低下を認めた場合には,プレセデックスの時速投与量を少なくする.
4.術中管理
中等度以上の鎮静を行う場合,最低限でも,術者,助手(医師),患者介助者(医師,看護師)が必要である.介助者は患者管理とともに,心電図,血圧,脈拍,血中酸素飽和度をモニタリングし,定時的に記録する.治療中は誤嚥を起こしやすい状況のため,定時的に口腔内吸引を行うようにする.また,急変時に速やかに対応できるよう,治療室の近くには救急カートも準備しておく.いざ急変となった際にもすぐに対応できるよう,普段から現場で急変のシナリオトレーニングを行い,現場の問題点を洗い出す努力も必要である.
5.術後管理
覚醒を促すため,ミダゾラム使用例ではフルマゼニル0.25mgを静注し,再鎮静予防に残りの0.25mgは点滴内混注する(ミダゾラムに比べるとフルマゼニルの半減期の方が短く,再鎮静のリスクがあるため).プロポフォールやプレセデックスは治療終了とともにすぐに投与を中止とする.病室帰室後も2-3時間は酸素投与を継続し,同時にモニタリングにて循環動態を監視する.
適切な鎮静を行い,体動なく安定した状態が保たれることで,より確実かつ安全な消化器内視鏡検査・治療が可能となる.近年では,新しい薬剤やモニタリングが開発されており,消化器内視鏡分野においても有効であることが示唆されている.一方,その使用方法については,事前の学習とトレーニングが必須である.患者が暴れるからと投与量を増やした結果,過剰投与になり呼吸状態が悪化した,というような事態は,麻酔科医が関与していれば違った結果になるであろう.消化器内科医は麻酔に関してはプロではない.消化器内視鏡分野において,ここまで鎮静が広まってきた現状を鑑みると,今後は鎮静のプロである麻酔科医にも,指導者として関わって頂く必要があるのかもしれない.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし