日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
大腸CT検査(CT colonography)の現況と展望(動画付き)
歌野 健一 永田 浩一遠藤 俊吾冨樫 一智
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キーワード: 大腸CT検査, 大腸癌, 癌検診
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電子付録

2018 年 60 巻 10 号 p. 2275-2283

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要旨

大腸CT検査が報告されてから20年余りが経過した.その間,CT機器は多列化・高速化が進み,以前とは比較にならないような高画質なCT画像が得られるようになった.大腸CT検査は,内視鏡の挿入やバリウムの注入が不要であり,検査時間も短いため,一般的に被験者の負担が少ないのが利点とされる.また大腸内視鏡検査のように高度の熟練を必要としない,重篤な合併症が少ない,等の利点もある.タギングを含む腸管前処置や撮影手法の進歩に伴い,多数の大規模臨床試験で検査精度は担保されている.本邦の大腸がん死亡者数は増え続けている一方で,精検受診率は低迷しており,大腸CT検査の有効活用が期待される.

本検査は2012年から健康保険にも適応となり,被ばく低減技術や前処置の低減の進歩が著しい.近い将来,さらに安全で受容性,精度ともに高い大腸スクリーニング検査法として確立されると考えられる.

Ⅰ はじめに

CTを用いた大腸検査が注目を集めるのは1994年にViningがコンピューター技術を応用した仮想内視鏡を報告して以降である 1.当時の画質では臨床応用は難しい状況ではあったが,大腸癌の多い欧米では,CTによる大腸検査の研究が続けられた.2000年よりマルチスライスCTが発売され,CT装置の多列化・高速化が進んだ結果,撮影可能なスライス厚が飛躍的に薄くなった.これにより任意方向にゆがみのない3D画像の作成が可能となり,現在,大腸CT検査などで用いられる高画質の3D画像の作成が可能となった(電子動画 1)(Figure 1).

電子動画1

Figure 1 

a:66歳男性,便潜血陽性で大腸CTを施行し,S状結腸に8ミリのIs ポリープを認めた.

b:大腸内視鏡が施行され,同様の病変を認め内視鏡的に切除された.病理学的には低異形度腺腫であった.

2000年代初頭から大腸CT検査の研究は活発化し,米国で複数の大規模臨床試験が行われた 2)~4.しかし公表された結果が大きく食い違っていたために,大腸CT検査の診断能は,大腸内視鏡検査と比較して著しく劣るのではないかという懸念が生じた.この問題解決のために,米国でAmerican College of Radiology Imaging Network(ACRIN)による,15施設での2,531症例を対象とした大腸CT検査の臨床試験(ACRIN 6664)が行われ,10mm以上の病変に対する患者別感度が90%,特異度が86%と良好なものであった 5.その結果,5年毎の大腸CT検査が有用な検診法として大腸癌スクリーニングガイドラインに掲載された 6.引き続いて,各国から大規模臨床試験の結果が発表され,いずれも良好な結果が報告された 7),8.本邦では,大腸CT検査は2000年代半ばから,術前診断に用いられていたが 9),10,2012年に大腸スクリーニングに対する保険適応および大腸CT加算(当時600点)が認められた.また本邦からもJapanese National CT colonography Trial(JANCT)やUMIN6665といった多施設共同試験の良好な成績が報告された 11),12Table 1).

Table 1 

主な大腸CT検査の精度検証.

大腸CT検査は,内視鏡機器の挿入やバリウムの注入が不要であり,検査時間が10~15分程度と短いため,被験者の負担が少ない点が長所とされる.また,大腸内視鏡検査のように高度の熟練を必要とせず,被験者の状態(性別,年齢,体格,腹部手術歴など)に影響されない利点もある(Table 2).本邦の大腸内視鏡検査件数は飽和状態であり,大腸内視鏡検査をつらいと考え避ける受診者も多いため,新たな検査法である大腸CTへの期待は大きい.今後は被ばく低減技術の進歩や前処置法の改良,コンピューター支援診断などにより,さらに安全で受容性,精度ともに高い検査が可能になると考えられている.

Table 2 

大腸CTの利点と欠点.

Ⅱ 本邦および各国の現状

日本における大腸癌死亡者数は増加の一途をたどり,2017年の予測では男女を合わせた大腸癌死亡者数は53,000人で,肺がんの78,000人に次いで第2位である 13.一方,米国では大腸癌による死亡者は徐々に減少していて2018年の予測では50,630人である 14.日本の人口は米国の4割であることを考えると,少子高齢化が進んでいるとはいえ,日本の大腸癌死亡の多さは驚くべき状況といえる.大腸癌死亡者数を減らすためには,検診が有効であり,なかでも便潜血検査には,複数のランダム化比較試験による死亡率減少効果が証明されている 15),16.しかし,平成28年国民生活基礎調査の概況によると,大腸癌検診受診率は41.5%(男性44.5%,女性38.5%)と徐々に上昇傾向はみられるものの,依然として,2007年に定められたがん対策推進基本計画で目標とされた50%には届いていない 17.さらに精検受診率の低さが問題として挙げられ,平成28年度の地域保健・健康増進事業報告の概況によると,大腸癌の精検受診率は68.6%であり,胃癌の80.4%,肺癌の83.1%,子宮頸がん74.3%,乳癌の87.2%の中で最も低い 18.このように精検受診率が低迷する中で,2016年に日本消化器がん検診学会より委員会報告が出され「精密検査を全大腸内視鏡検査で行うことが困難な場合は,大腸CT検査あるいは,S状結腸内視鏡検査と注腸X線検査の併用法のいずれかを実施する.」とされ,大腸CT検査を精密検査法の一つとする提言が出された 19

米国では近年,着実に大腸癌死亡率を減らしているが,これは検診受診率の向上に伴う面が大きく,2012年の大腸癌検診受診率は65.1%である 20.2016年に改定されたUS Preventive Services Task Forceの声明や全米21の主要ながんセンターで構成されるNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)の大腸癌スクリーニングガイドラインでは,逐年の便潜血検査に加えて10年毎の大腸内視鏡検査や5年毎のS状結腸内視鏡検査,5年毎の大腸CT検査が記載されている 21),22.欧州の大腸CT検査のガイドライン 23では,大腸内視鏡検査が不完全であった場合や大腸内視鏡検査の実施が適さない場合に大腸CT検査を用いることが勧められている.このように米国では大腸CT検査はスクリーニング(一次検診)のモダリティとして認められているのに対して,ヨーロッパや本邦では,精密検査として行うことが提案され,地域や国により大腸CT検査の取り扱いは異なっている.

Ⅲ 前処置および撮影

大腸CT検査では,腸管前処置を行い,経肛門的に二酸化炭素などのガスを注入して撮影する.拡張した腸管内腔と腸管壁の大きなCT値の差を利用して大腸の内腔を画像化しているため,腸管の拡張が不良な場合や前処置が不良な場合には診断精度が低下する.また,2000年代初めに行われた複数の多施設共同試験の解析によって,検査精度を保つには①タギング(残渣標識法)②十分な読影トレーニング③2体位での撮影④CO2自動注入器の使用,が重要であることが判明している 2)~4.この中で,タギングはガストログラフィンなどの経口造影剤で腸管内の残渣を標識する大腸CT検査に独特の手法である(Figure 2).タギングを行わない大腸CT検査は,残渣と病変の区別が困難となり精度が低下するため,検診や精密検査目的の大腸CT検査では必須である.また,タギングを用いた大腸CT検査では,腸管内を完全に洗浄する必要はないことから,腸管洗浄剤の大幅な減量が可能である 12.2012年には,ZalisらがCADと電子クレンジングを併用することで,腸管洗浄剤および下剤を一切用いない大腸CT検査の良好な成績を報告した 24.大腸内視鏡検査をはじめとする他の大腸精密検査では,多量の腸管洗浄剤の内服が必須であることから,Zalisらは大腸CT検査の大きな利点を証明したといえる.また,最近の報告では,新たな下剤であるルビプロストンの有用性や水溶性造影剤を使用した前処置では食事制限が不要な可能性も報告されている 25),26

Figure 2 

a:仮想内視鏡は,残液がある場合,水面下は観察することができない.

b:アキシャル画像では良好にタギングされた残液の中にポリープが描出されている.

大腸CT検査では,腸管拡張も検査の質を左右する重要な要素である.良好な画像を得るためには,腸管前処置を行って読影の妨げとなる残渣を減らし,大腸全体をしっかりと拡張させることが重要となる.大腸の1区分以上が2体位共に虚脱している場合には,評価不可能と判断され,他の検査での評価が必要となる 27.腸管拡張においては,CO2自動注入器は患者受容性を向上させ,持続的に一定の圧で送気を行うことで良好な腸管の拡張が得られることが報告されている 28.また,撮影に際して鎮痙剤の使用の有無は腸管拡張に影響を与えない 29

実際の撮影においては,病変と残渣の鑑別に2体位の比較読影が必要とされ,通常は腹臥位と背臥位で撮影を行う.2体位撮影であれば側臥位での撮影も問題がない 30.残渣は体位変換に伴って移動することから,2体位以上撮影することで病変との区別が可能となる.タギングと体位変換を活用することで,より見落としの少ない診断が可能となる.

Ⅳ 診断精度

これまでに行われた大規模臨床試験の結果によると,大腸CT検査の患者別の感度・特異度は,10mm以上のポリープに対しておよそ90%と報告されている 2),5),7),8),11),12.NCCNの大腸スクリーニングガイドラインでは,10mm以上の病変に対する感度はほぼ内視鏡と同等の精度,5-9mmの病変は許容できる範囲,5mm未満の病変は明らかに内視鏡に劣るとされている 22.しばしば問題となるのが平坦型病変に対する感度であり,隆起型病変に対して有意に低いことが報告されている 11),12.しかし,これは大腸内視鏡検査でも同様の傾向があることが指摘されている 31.側方発育型腫瘍(Laterally spreading tumors;LST)は,内視鏡治療のメインターゲットであり,大腸癌スクリーニングでは重要であるが,大腸CT検査によるLSTの感度は60%と低く,とりわけ非顆粒型LSTの検出精度は低く注意が必要である 32.また,近年第三の発がん経路として注目されているSessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)も平坦な形態をとるために検出感度が大腸内視鏡検査より劣ることが報告されている 33

大腸CT検査の検査結果は,C-RADS(CT Colonography Reporting System and Data System)に基づいて報告される 27.5mm以下の病変しか認められない場合(C1)には,5-10年ごとの検査が推奨され,6-9mmの病変が1-2個認められた場合(C2)には,3年以内の再検査もしくは大腸内視鏡検査が推奨される.6-9mmの病変が3個以上,もしくは10mm以上の病変が見られた場合(C3)には大腸内視鏡の施行が推奨され,悪性を疑う腫瘤性病変を認めた場合(C4)には外科医へのコンサルトが推奨されている.最近のPickhardtらによる報告では,初回の大腸CT検査で5mm以下の病変しか認められない(C1)と診断された場合,2回目の大腸CT検査(平均の検査間隔5.7年)で浸潤癌が見られたのは0.14%(2/1,429)であり,大腸CT検査における5-10年の検査間隔は妥当であることが報告されている 34

Ⅴ 読  影

大腸CT検査では,読影者の技量は検査精度に直接影響するために非常に重要な要素である.米国放射線学会のガイドラインによると,大腸CT検査の読影に際しては,読影開始前に大腸内視鏡検査で結果の確認された,少なくとも50症例の読影トレーニングが必要とされている 35.過去の研究では,腹部CTの初心者が新規に大腸CT検査の読影を始めた場合,必要な症例数は164例と算出され,トレーニングプログラムには175症例が必要とされている 36.読影トレーニングの際にも,どのような症例でもよいというわけではなく,内視鏡で病変の有無を確認された症例でトレーニングしなければ,大腸CT検査で見逃されやすい病変などが学習することができない.読影に要する時間は,十分な読影経験があれば比較的短時間であり,JANCTでは放射線科医では平均9.97分/症例,消化器科医で平均15.8分/症例,そしてUMIN6665では10.6分/症例と報告されている 11),12.欧米の臨床試験では放射線科医だけが読影を担当したのに対して,JANCTやUMIN6665といった本邦での臨床試験では放射線科専門医のみならず読影トレーニングを受けた消化器科専門医も読影に参加し,その読影成績は同等であった 11),12.また,今後検査が本格的に普及した際には,放射線科医の数がOECD参加国最低レベルという本邦の現状もあり 37,診療放射線技師による一次読影も重要になってくると考えられる.診療放射線技師の読影に関するmeta-analysisでは,患者別の感度76%,特異度74%と報告され,放射線技師の単独読影は現時点では十分なエビデンスに欠けるが,トレーニングを積むことで改善の余地があり,十分な潜在能力があると結論づけている 38

大腸CT検査は腹部CTを撮影することから腸管外臓器も検索が可能であるが 39),40,臨床的に重要でない病変を多数拾い上げてしまう可能性が指摘されている.US Preventive Services Task Forceによる声明では,腸管外病変に関しては,利益と不利益の両面を持つとされている 21.NCCNによる大腸癌スクリーニングのガイドラインでも拾い上げ不要の病変に関する問題が指摘されている 22

Ⅵ 医療被ばくの低減

大腸CT検査は数年ごとに繰り返し行う検査であることから,医療被ばくにも注意を払う必要がある.また大腸CT検査では2体位での撮影が必要であることから,通常のCT撮影と比較しても被ばくの低減が重要となる.CT検査の被ばくを低減する要因は,管電流や管電圧の低減,頻回撮影の回避などがあげられる.放射線量は管電流に正比例し,調整も容易であることから管電流の低減は被ばく低減の一般的な方法である.これに対して,放射線量は管電圧の2乗に比例する.大腸CT検査では,標準的な管電圧である120kVpで撮影されることが多いが,被ばく低減のために,近年は100kVp程度に管電圧を下げた報告も見られる 41.大腸CT検査では,炭酸ガスで拡張された腸管内腔と腸管壁の大きなCT値の差(約1,000HU)を利用して画像を作成するため,大幅な低線量化が可能であり,100mAs以下(50mAs程度)の一定線量あるいは自動露出機構による撮影が推奨されている 42.欧州のコンセンサスをもとにすれば,1検査あたり平均実効線量で3-5.7mSv程度に抑えるのが一つの目安とされる 43.これまでのCT撮影においては,線量を下げ過ぎるとノイズが増え,画像が劣化するために超低線量で撮影された大腸CTは読影が困難であった.しかし,近年,新たな再構成法である逐次近似応用再構成法の登場により,1mSvを下回る超低線量で撮影された画像でも,ノイズを大幅に削減することが可能となった(Figure 3).1体位あたりの平均実行線量を0.5mSv以下にした条件でも,画質が担保されることも報告されている 44.参考のために放射線被ばく量と副作用の一覧を示す(Table 3).

Figure 3 

a:120kVp,10mAsで撮影された超低線量の大腸CT.超低線量でも明瞭な仮想内視鏡像が得られる.

b:アキシャル画像はノイズが目立ち,腸管外臓器の詳細な評価は困難である.

Table 3 

主な被ばくの影響.

Ⅶ 偶発症

大腸CT検査における稀な偶発症として腸管穿孔があり,リスク因子として大腸癌よる高度狭窄,高度の憩室症,炎症性腸疾患,S状結腸陥頓を伴う鼠径ヘルニアなどが挙げられる 45.具体的な穿孔例では,注腸X線検査用の直腸カテーテル留置に伴って生じた直腸穿孔 46やS状結腸憩室を原因とする穿孔例が報告されている 47.2014年に報告された大腸CT検査の偶発症に関するmeta-analysisでは,腸管穿孔の頻度は0.04%(28/103,399)と報告されている 48.2017年には,本邦から14万人余りを対象とした大腸CT検査の実態全国調査の結果が報告された 49.それによると腸管穿孔の頻度は0.014%(21/147,439)であり,穿孔と診断された21例のうち外科的治療を要したのは4例(0.003%)であり,残りの17例は保存的治療で軽快していた.大腸CT検査は,CT検査であるという性質上,わずかでもフリーエアーがあれば穿孔として拾い上げられるが,治療を要する頻度はわずかであり安全性は非常に高いと考えられる.また,そのほかの検査に伴う偶発症として,腸管拡張に伴う気分不快などの迷走神経反射の発生頻度が0.1~0.16%に認められるが,多くは3時間以内に改善する.

Ⅷ 今後の展望

大腸癌の最大のリスクは加齢でることから,少子高齢化が進む本邦では,大腸癌罹患率はこのまま上昇することが予測される.その場合,大腸癌死亡率の減少には,検診受診率とともに精検受診率の向上が欠かせない.大腸CT検査は16列以上のCT装置があれば,医師の立ち合いがなくとも診療放射線技師1名により撮影が可能である.前処置の大幅な軽減やCO2自動注入器の使用により,他の大腸検査と比べて被験者の受容性が高く,超高齢者にも安全に検査可能というメリットもある 50.撮影された画像はDigital dataであり,遠隔画像診断の利用も可能である.大腸癌死亡者数が高止まりし,CT装置が全国に普及している本邦には最適な検査といえる.

これまで蓄積された多数の知見から,大腸CT検査の方法論はすでに確立され,今後の焦点はその運用にある.大腸CT検査を便潜血陽性者に対する精密検査として組み込むことで,ポリープサイズのカットオフ値を10mmにすると86%の大腸内視鏡検査が不要になると報告され,大腸内視鏡検査の処理能力が飽和状態の本邦では,患者トリアージとしても有用である 12.前処置をはじめとする検査の標準化がなされた場合には,米国のように5年毎のスクリーニング検査としても活用する道が開けてくるかもしれない 21),22.対策型検診として大腸CT検査が行われるようになれば,胃癌検診のようにCT機器を積んだ大腸CT検診車が街々を回ることになるかもしれない.しかし,それには圧倒的に不足する読影処理能力をどう確保するかが課題となり,近年話題となっている深層学習を活用した読影の自動化に対する研究等も期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:遠藤俊吾(大鵬薬品工業),冨樫一智(有隣病院)

文 献
 
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