日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
セレコキシブによる小腸多発潰瘍の発生をカプセル内視鏡検査にて観察しえた1例
青山 祐樹 高橋 索真稲葉 知己コルビン 真梨子石川 茂直和唐 正樹河野 吉泰川野 誠司高木 章乃夫岡田 裕之
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2018 年 60 巻 10 号 p. 2297-2302

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要旨

75歳男性.結腸憩室出血時のカプセル内視鏡にて,小腸に2~3mmのびらんが散在していた.2カ月後,膝関節痛に対してセレコキシブの投与が開始された.その9カ月後に黒色便および鉄欠乏性貧血を認め,カプセル内視鏡にて小腸に多発した潰瘍を認めた.Non-steroidal anti-inflammatory drugs起因性小腸潰瘍と診断し,セレコキシブの投与を中止とし,ミソプロストールおよびレバミピド,ポラプレジンクの投与を開始した.治療開始3カ月後のカプセル内視鏡では潰瘍は改善していた.セレコキシブはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)選択的阻害薬であり粘膜傷害リスクは低いとされるが,長期投与やプロトンポンプ阻害薬併用時には粘膜傷害リスクが高まる可能性があり,投与には注意が必要である.

Ⅰ 緒  言

シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)選択的阻害薬であるセレコキシブは,非選択的non-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)に比べて小腸粘膜への傷害が少ないとされている 1)~3が,最近では他のNSAIDsと同様に,臨床症状を引き起こすほどの粘膜傷害に至る報告 4),5もある.

今回われわれは,セレコキシブ投与開始前,投与中,投与中止後の変化をカプセル内視鏡(Capsule Endoscopy:CE)にて観察しえた小腸多発潰瘍の一例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:75歳,男性.

主訴:黒色便.

既往歴:脊髄性小児麻痺・小人症,骨粗鬆症,変形性膝関節症,膝半月板損傷術後,上行結腸憩室出血(73・74歳),右半結腸切除術(74歳),逆流性食道炎,高血圧症,高尿酸血症,不眠症.

家族歴:特記事項なし.

飲酒歴:なし.

喫煙歴:20本/日を20年間(40歳より禁煙).

常用薬:ラベプラゾールNa,テルミサルタン,アロプリノール,アルファカルシドール,ブロチゾラム,エチゾラム.

アレルギー歴:サルファ剤,鶏肉.

現病歴:逆流性食道炎にてラベプラゾールNa 10mg/日を長期間内服していた.2015年4月,下血の精査目的のCEで,上行結腸憩室からの出血とともに,小腸に2~3mmのびらんが散在していた(Figure 1).2015年6月より,膝関節痛に対して他院よりセレコキシブ200mg/日の投与が開始されていた.

Figure 1 

小腸カプセル内視鏡所見(2015年4月セレコキシブ投与開始前).

小腸には小びらんが散在していた.

2016年3月,黒色便および貧血を認めたため,精査加療目的に入院となった.血液検査ではHb 9.0g/dlと低下しており,鉄欠乏を伴っていた(Table 1).造影CT検査では出血源を疑う病変は認めなかった.上部消化管内視鏡では逆流性食道炎および萎縮性胃炎を認めたが,出血源は認めなかった.緊急CEでは小腸全体に多数の潰瘍とびらんを認め,膜様狭窄も認めた(Figure 2).明らかな活動性出血は認めなかったが,小腸病変が貧血の原因と考えられた.直近での抗菌薬使用歴はなく便培養も陰性であり,セレコキシブによるNSAIDs起因性小腸潰瘍と診断した.

Table 1 

臨床検査成績.

Figure 2 

小腸カプセル内視鏡所見(2016年3月セレコキシブ投与中).

a:膜様狭窄を認める.

b:小腸全体に潰瘍・びらんが多発している.

c:潰瘍は一部輪状傾向を認める.

セレコキシブを中止し,鎮痛薬をアセトアミノフェンに変更した.小腸粘膜保護作用を期待して,ミソプロストールおよびレバミピド,ポラプレジンクの投与を開始した.その後は黒色便は認めず,貧血は徐々に改善した.2016年6月のCEにて潰瘍・びらん病変の著明な改善を確認した(Figure 3).以降も黒色便や貧血の再発は認めておらず,経過は良好である.

Figure 3 

小腸カプセル内視鏡所見(2016年6月セレコキシブ投与中止後).

びらん・潰瘍の改善がみられる.

Ⅲ 考  察

NSAIDsはCOX-1・COX-2の阻害作用を有し 6,消化管粘膜に恒常的に発現しているCOX-1の阻害により,粘膜の血流維持に関わるプロスタグランジンE2(prostaglandin E2:PGE2)などのPG生成を抑制することで粘膜傷害を引き起こすとされる 7),8.セレコキシブはCOX-2の選択的阻害薬であるため,小腸も含め消化管における粘膜傷害は非選択的NSAIDsに比べ有意に少ないとされている 9が,数カ月にわたる長期投与を行うと非選択的NSAIDsと同程度の小腸粘膜傷害を引き起こす可能性が報告 10されている.本症例では9カ月間もの投与を行っていたことから,長期投与が小腸粘膜傷害のひとつの要因として考えられる.

セレコキシブが原因による小腸潰瘍について,1983年から2016年までの医学中央雑誌にて「セレコキシブ」,「小腸潰瘍」をkey wordとして検索した結果,会議録を除く論文報告は10例あり,セレコキシブが原因であると断定した小腸潰瘍の本邦報告例は,本症例を含め3例と非常に少ない(Table 2).本症例以外は,大量出血や穿孔といった重症例である.出血例 4では1年以上にわたる長期投与であったが,穿孔例 5では約4週間と短期投与例であった.全症例において,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)が併用されていた.同様に1983年から2016年までのPub Medにて「celecoxib」,「small bowel ulcer」あるいは「small intestine ulcer」をkey wordとして検索したが,報告例は認めなかった.

Table 2 

セレコキシブによる小腸潰瘍の本邦報告例(3例).

上部消化管と同様に,小腸においてもPPIがNSAIDsによる粘膜傷害を予防するという報告 11を認める一方,近年ではセレコキシブを含め,NSAIDsによる粘膜傷害をPPIが増悪させるという報告が認められる 12),13.PPIが正常な腸内細菌叢のひとつであるグラム陽性菌のActinobacteria網を著減させるといった報告 13や,腸内細菌叢でグラム陰性菌が増加するとNSAIDsによる粘膜傷害が増悪するといった報告 14があることから,PPIにより腸内細菌叢が変化しNSAIDsの粘膜傷害がより増強する可能性も考えられるが,腸内細菌叢に関する評価を行っていないため,小腸粘膜傷害におけるPPIの関与については憶測の域を出ない.長期投与やPPIの併用投与など複合的な要因が重なり合うことで,COX-2選択的阻害薬であっても臨床症状が出現しうると考えられる.

NSAIDsによる粘膜傷害時はNSAIDsの中止が基本であるが,粘膜保護作用が期待できるミソプロストールやレバミピド,ポラプレジンクの投与も有用であるという報告が認められる 15)~17.ミソプロストールはPG製剤であり,粘液分泌作用や粘膜微小循環維持,粘膜透過性亢進の抑制効果を示し 15,NSAIDsのCOX-1阻害作用によるPG生成抑制状態において効果が期待できる.レバミピドは,内因性PG増加や粘膜透過性亢進の抑制,活性酸素抑制,炎症細胞浸潤抑制効果を示し 16,ポラプレジンクは,活性酸素抑制および消去作用によって活性酸素に由来するアポトーシスを予防する 17.PGの関与しないNSAIDsによる小腸粘膜傷害の原因の一つとして,小腸上皮細胞内での過剰な活性酸素産生による酸化ストレスの蓄積が指摘されており 18)~20,動物実験においてNSAIDsによる小腸粘膜傷害時にも酸化ストレスが高いことが報告 21されている.本症例では,NSAIDs中止のみでも傷害粘膜の改善が得られた可能性は考えられるが,臨床症状を有する症例では,重症化進展予防や創傷治癒促進を目的として,PG製剤 や活性酸素抑制作用のある粘膜保護剤の併用投与を考慮すべきと考える.

COX-2選択的阻害薬を投与する際は小腸粘膜傷害を引き起こす可能性に留意し,長期投与時やPPI併用投与時には特に注意が必要である.

Ⅳ 結  語

COX-2選択的阻害薬のセレコキシブ投与により生じた小腸多発潰瘍の経過をCEにて観察し得た一例を経験した.COX-2選択的阻害薬による小腸粘膜傷害の報告は少なく,症例の蓄積が待たれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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