日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
デザインペーパー:Japan Endoscopy Database(JED)プロジェクト:日本の消化器内視鏡に関連する前向きデータベースを確立するためのプロジェクト
松田 浩二田中 聖人藤城 光弘斎藤 豊大塚 和朗小田 一郎堅田 親利加藤 正之木田 光広小林 清典布袋 屋修堀松 高博小田島 慎也松田 尚久武藤 学山本 博徳良沢 昭銘岩切 龍一久津見 弘宮田 裕章加藤 元嗣春間 賢藤本 一眞上村 直実上西 紀夫田尻 久雄
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2018 年 60 巻 10 号 p. 2317-2334

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要旨

電子カルテの到来により,多くの病院で画像ファイリングシステムや内視鏡データベースが普及してきている.しかしながら,異なったベンダー間でのデータ統合は行われていない.筆者らは,2015年1月より,日本消化器内視鏡学会の一事業として,JED(Japan Endoscopic Database)プロジェクトを開始した.

本プロジェクトの目的は以下の通りである.

1)通常の内視鏡診療から作られた世界最大の内視鏡データベースの構築

2)日本の内視鏡診療の現状の把握

3)臨床研究用のレジストリーのための,用語と基本的項目の標準化

さらには,偶発症,修練医の達成度や評価,国内で施行されている内視鏡実数の把握などの自動収集の可能性もひめている.筆者らは,このデザインペーパーが,将来の国内多施設研究のみならず,海外多施設研究にも有用となると信じている(UMIN000016093).

Ⅰ はじめに

本邦の消化器内視鏡分野においては,多くの施設では内視鏡画像・レポートの電子化が導入され,各施設内でデータベースを構築している場合が多いが,全国規模のデータ収集はこれまで行われていなかった.その一方,米国における消化器内視鏡の大規模データベースは1995年に構築されており,現在までに多くの実臨床や臨床研究等の基礎データとして有効に利用されている(Ref:The Clinical Outcomes Research Initiative http://www.cori.org).そのような状況の中,本邦における消化器内視鏡領域の大規模データベース構築の必要性の気運が高まり,Japan Endoscopy Database(JED)Projectが日本消化器内視鏡学会の一事業として立ち上がった.本事業は,日本全国の内視鏡関連手技・治療情報を登録し,精度の高いデータを集計・分析することで医療の質の向上に役立て,患者に最善の医療を提供することを目指す事業である.内視鏡の分野におけるこのような全国的なデータ回収は初めての試みであり,患者のみならず医療従事者にも,素晴らしい恩恵をもたらすものである.

Ⅱ 目  的

本事業で集められたデータを分析することで以下のことを明らかにできる.

・内視鏡関連手技を行っている施設診療科の特徴

・医療水準の評価

・適正な消化器内視鏡専門医の配置,ならびに消化器内視鏡技師,看護師などのコメディカルの適正な配置

・早期癌登録に対する精確な情報収集

・内視鏡検査・治療を受けた方の予後

・内視鏡検査・治療の医療経済的な情報収集

・これから内視鏡関連手技を受ける方の死亡・合併症の危険性,など

これにより,各施設は自施設の特徴や課題をはっきりと理解した上で,改善にとりくむことが可能になる.また施設単位だけでなく,医療圏レベル,地域レベル,全国レベルで医療の水準を明らかにすることで地域単位,国単位での比較が可能になる.さらに,内視鏡関連手技にともなうリスクを理解した上で,患者,患者家族とともに手術・治療の方針を決定することができるようになる.

日本消化器内視鏡学会は,消化器内視鏡に関連した偶発症を1983年から5年毎に全国的に調査し,これまでに5回の発表を行ってきた.この様な個別調査を逐次行うことなく,容易に精確な諸情報が取得できる.加えて,適切な診療報酬決定のための情報提供が可能となると共に,全国の皆様が安心して内視鏡検査・治療を受けられるようにするため,よりよい専門医制度のあり方を検証するための基礎資料ともなり,さまざまな研究と連携して運営することで,臨床現場がさらに充実した医療を提供でき,ひいては新たな医療に取り組む手助けをすることができる.

Ⅲ プロジェクトのデザイン,内容,施設,データ収集方法

大規模事業であるため,対象施設と情報収集時期を複数に分けて段階的に情報収集を行う.各期における予定された期間や内容は,その進捗状況や,以前の期に得られた結果に基づき変更されうる.本プロジェクトにおける研究は,多施設共同前向き観察研究として行われる(UMIN000016093).本プロジェクトにおけるデータの収集は,通常の内視鏡診療を妨げることはない.

第一期(実行可能性の評価)

本事業第一期トライアルは当該委員会(Japan Endoscopy Database(JED)Project 委員会)で決定された,以下の協力施設8施設を対象に開始した.データ収集期間ならびに対象は,2015年1月1日から2015年12月31日までの1年間に実施された消化器内視鏡検査・治療全例であった.

・北里大学病院

・京都大学医学部附属病院

・国立がん研究センター中央病院

・埼玉医科大学国際医療センター

・東京医科歯科大学医学部附属病院

・東京慈恵会医科大学葛飾医療センター

・東京大学医学部附属病院

・虎の門病院

当該8施設の内視鏡データベースから別途定める項目を出力して収集する.第一期においては,インターネットを介さずに,USBメモリなどの媒体を用いて,CSV形式で出力されたデータにハッシュ変換をかけて連結可能匿名化し,オフラインにて収集する.使用する媒体は新規購入したものとし,媒体は収集時に使用した施設以外では使用しない.万一の媒体紛失の危険性を考慮しパスワード設定可能なセキュリティー機能付きの媒体を使用する.識別可能情報は各施設で厳重に保管される.使用した媒体は日本消化器内視鏡学会本部で施錠可能な場所に保管し,本部に設置する事業用サーバにデータを移行した以降は使用しない.出力されるデータには氏名,カナ氏名などの患者情報は削除した形とする.患者IDに関しては,出力後匿名化を行う.原則として,匿名化にあたっては当該施設の事業協力責任者たる日本消化器内視鏡学会Minimal Standard Endoscopic Database-Japanese(MSED-J)作成小委員会の担当者が立会いの上,施設固有の患者ID番号が削除されたことを確認する.収集されたデータは学会本部に設置したサーバ内に格納し,データのクレンジングを行い,分析に耐えうる形式に変更する.データクレンジングのために,8施設からのデータ収集は一年の単位をまとめてという形ではなく,2015年1月一カ月分を第一次収集とし,その後3カ月程度の間隔で逐次収集する.第二次収集以降も第一次収集と同様の配慮を行い,個人情報の保持に努める.第二期以降のデータ収集において,より効率的なデータ提出の方法を確立する事も第一期データ収集の目的とする.さらに,第一期を通じて,現状の収集項目の見直しを行い,最終的に決定されたものを日本消化器内視鏡学会におけるデータ提出に関わる仕様として公開し,内視鏡ファイリングシステム,ならびに内視鏡データベースの制作ベンダーに広く公開し,各ベンダーごとの簡便な対応を求めるものとする.各施設の内視鏡部門システム内で患者IDの匿名化を行い得るようになれば,第二期以降各施設からの個別登録が容易となるため,この点も盛り込んだ仕様書を作成する.

第二期(安全性と有用性の解析)

2016年1月から2018年12月末までの全症例のデータは,日本消化器内視鏡学会指導施設のうち,データ提供が可能な施設から収集される.第一期トライアルの施設は,各施設の倫理委員会で承認の後に,自動的に第二期トライアルに移行する.

第一期におけるデータ回収方法に加え,春と秋の総会での担当者によるデータ提出も検討している.さらには,セキュリティーが担保された上でのオンラインでのデータ回収も前向きに検討している.各々の施設での参加の意志は,個々の施設に委ねられており,結果として全体数は増加するであろう.可能ならば,個々の施設で登録されたデータのエラーをオンラインでチェックするシステムも検討されている.同時に,匿名化された患者IDは,連結不能匿名化される.第一期を通して得られたデータに基づいた,回収された情報の現状での項目の評価を行い,最終的には,日本消化器内視鏡学会仕様として公開される.これにより内視鏡データベースベンダーは,JED対応用の作業工程を簡略化できる.

第三期(すべての指導施設への全国展開)

実行可能性・安全性・有効性の解析を終えた後,すべての指導施設へ拡大する.

これらのデータ収集を通して,実際に施行する内視鏡医・指導医・メディカルスタッフの数の情報も収集される.内視鏡医のパフォーマンスの記録も登録される.現状では,専門医受験申請時には,経験症例数は手書き入力となっており,実際の数字とは離れている場合も考えられる.JEDプロジェクトがすべての指導施設に広がった場合,受験資格者の経験症例数は自動登録されるため,経験症例数を提示する必要はなくなる.

(原典出版時の)現時点では,新専門医制度が依然不透明であるが,このプロジェクトに参加するすべての施設では,専門医資格の新規取得・更新時,指導医資格申請時には,データ提出が義務化され,症例数等を提出する事が要求されるであろう.他の分野を含めた専門医や指導医は,将来的には大変な検討をさせられるのは,否定できない.JEDプロジェクトにおけるデータは,また,内視鏡医の実際の施行状態の情報も提供する.

Ⅳ 患者同意ならびに倫理規定に関して

本研究は,「ヘルシンキ宣言 ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則」(2013年10月 フォルタレザ修正)の精神を遵守して実施する 1.さらに,本研究は,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守して施行される 2

本研究は,前向き観察研究であり,研究対象者においては,すでに消化器内視鏡検査・治療は行われており,本研究が既存の資料等を用いる観察研究にあたり,研究対象者に対して通常のリスクと同様であり公共性のある研究であると認められるため,新たに同意を得る必要はない.そして,各施設で施行された消化器内視鏡検査・治療はいずれも被験者に検査の意義,目的,偶発症について説明し,同意を得たもとで行われている.しかしながら,当該事業の目的を含む事業の実施についての情報を公開しなければならないと思われるため,倫理審査委員会で承認の得られた文書を事業参加施設のホームページなどに掲載することにより,情報公開を行うこととする.情報公開用文書には,以下の内容を含むものとする.

①本事業の目的(意義),対象,方法(利用する情報)

②実施施設名,施設責任者名,連絡先

③個人情報の取り扱い方法

④研究不参加に関する事項

Ⅴ 情報収集項目

集積される情報に関しては,標準化され層別化されている.そうすることで,基本的に,該当項目を選択することによって入力が可能とある.それは,データ入力時のバラツキを押さえる.上部消化管内視鏡・大腸内視鏡・小腸鏡・ERCPに関して,MSED-J小委員会で,各臓器において必要であると考えられた項目に基づき,構成されている.以下の項目は,通常内視鏡および治療内視鏡の両方で収集される.

すべての上部消化管内視鏡で共通する項目は以下の通りである.

・患者基本情報

検査日,年齢,性別,ASA Grade,抗血栓薬(使用状況ならびに中止,置換の有無などの詳細も),喫煙歴ならびに喫煙の有無,飲酒歴および飲酒状況,悪性腫瘍の家族歴,他臓器癌の既往歴,ピロリ菌の感染状態

・依頼情報

予定性,外来・入院,検査目的,治療目的

・薬剤

鎮痙剤使用状況,鎮静・鎮痛・麻酔に関する事項

・使用スコープ情報

・送気の種類

・手技開始・終了時間

・手技中偶発症

・手技後偶発症

・30日以内の死亡の有無

・実施医師名(医籍番号)*

・副実施医師名(医籍番号)*

・内視鏡看護師・技師名**

*内視鏡実施医,副実施医の姓名,医籍番号の取得にあたっては本研究の分担医師(本研究実施者)として登録の可否を本人に確認する.

**内視鏡看護師,技師に関しても同様に,姓名の取得にあたっては本人の同意を必須とし,許可が得られない場合は,検査に関与した人数のみを登録する.

上部消化管内視鏡検査関連共通項目に加えて,下部消化管では,①腹部手術歴 ②生涯大腸内視鏡歴 ③大腸前処置状態(Aronchickの分類を改変したExcellent,Good,Fair,Poorの4分類) 3の3項目が,ERCP関連手技検査共通項目では,①造影範囲 ②挿管状態 ③胆管・膵管径 ④挿管難易度 ⑤胆管へのアプローチ方法 が追加されている.

消化器内視鏡検査所見,診断,治療内容,病理結果に関しては別途定める臓器別の用語を用いた入力を行う.(Table 1-18-2

Table 1-1 

Head and neck procedures.

Table 1-2 

(Continued)

Table 2-1 

Esophageal procedures.

Table 2-2 

(Continued)

Table 2-3 

(Continued)

Table 3-1 

Gastric procedures.

Table 3-2 

(Continued)

Table 3-3 

(Continued)

Table 4-1 

Duodenal procedures.

Table 4-2 

(Continued)

Table 4-3 

(Continued)

Table 5-1 

Small bowel procedures.

Table 5-2 

(Continued)

Table 6-1 

Colon procedures.

Table 6-2 

(Continued)

Table 6-3 

(Continued)

Table 7-1 

Endoscopic retrograde cholangiopancreatography procedures of the papilla, bile duct, and pancreatic duct.

Table 7-2 

(Continued)

Table 7-3 

(Continued)

Table 7-4 

(Continued)

Table 8-1 

Endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)procedures: Major measurements in ERCP.

Table 8-2 

(Continued)

Ⅵ 評  価

データ解析を行い下記を学会会員へフィードバックする.各施設で蓄積されたデータは,各施設の倫理委員会で承認の後に前向き研究のデータとして使われるかも知れない.大規模データが得られた段階で可能となる学会加入施設へのフィードバックは,以下の通りである.

①内視鏡診断結果によるフィードバック

・詳細な疾患統計が取得できる

・内視鏡関連手技受診者における年齢別,性別の有病率など

・全内視鏡検査における有病率など

②内視鏡治療,治療結果におけるフィードバック

・治療の確実性に関わるデータが取得できる

・外科治療と内視鏡治療の件数比較が可能になる

③偶発症におけるフィードバック

・現状のアンケート調査より正確で子細な偶発症率が取得可能

Ⅶ 事業安定化,安全確保に関する事項

本事業は通常診療範囲内で行われるため,研究によって個人への不利益や危険性が新たに生ずる可能性はない.しかし,健康被害が発生した場合や,何らかの偶発症が生じた場合には,施設責任者は速やかに最善の治療を適切に講じる.

本事業における安全性の脅威はデータの漏洩である.これに対する措置として,

①データサーバは本部内に設置する

②データ管理者,データ解析者以外の人間のデータサーバへのアクセスは禁じる

データサーバ内のデータは自動バックアップがとられるように配慮する.さらに,セキュリティーの担保が確認された段階で,日本消化器内視鏡学会での承認を得た上で,外部データセンターへのバックアップも考慮する.

Ⅷ 公表および保存

評価の項であげた各項目に関しては,会員施設にインターネットで開示,公表できる様に配慮する.データ解析後の結果公表,開示に関しては,患者はもちろんのこと,データを提出する施設,また自治体単位のプライバシーも考慮し開示を行うべきであり,公表・開示に関する議論を行う組織であるJED Projectデータ適正使用委員会でその事は議論される.その結果は,理事会で審議され,会員の同意を得た後,用いられる.

Ⅸ 事業実施体制

本事業は日本消化器内視鏡学会JED Project委員会が行う事業である.本研究の計画,実施,報告において研究の結果および解釈に影響を及ぼすような「起こり得る利益の衝突(研究者個人の利益,立場等が,研究の公正,公平な計画,実施,報告に影響を及ぼす可能性)」は存在しない.また,本研究の実施が被験者の権利,利益を損ねることはない.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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