日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
総説
大腸カプセルup to date
藤田 朋紀 根本 大樹冨樫 一智勝木 伸一
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 60 巻 11 号 p. 2369-2376

詳細
要旨

免疫学的便潜血反応検査が大腸癌のスクリーニング検査として国内外で行われ,精密検査として大腸内視鏡検査が行われる機会が増している.大腸カプセル内視鏡検査は,スクリーニング検査の一翼を担っている.大腸カプセル内視鏡検査は偶発症が少なく,大腸腫瘍性病変に対する6mm以上の大腸ポリープの感度は84〜94%,特異度は64〜88%と報告されており,大腸内視鏡検査とほぼ同等のポリープ検出率を有し,大腸CT検査より優れている可能性がある.一方で①本邦における保険診療は大腸内視鏡検査が困難な場合に限定されている,②医療費が比較的高額である,③腸管洗浄液の飲水量が多い,などの課題も残っており,広くは普及していない.しかし,2018年2月 日本カプセル内視鏡学会(JACE)推奨レジメンが決められるなど腸管洗浄液量の問題は克服されつつある.大腸内視鏡専門医が不足する現状を鑑みると,大腸カプセル内視鏡検査も大腸内視鏡検査や大腸CT検査と同様の基準で保険収載されることが望まれる.炎症性腸疾患におけるカプセル内視鏡検査の評価は定まっていないが,潰瘍性大腸炎においては大腸内視鏡検査より低侵襲なモダリティとして活動性を評価する役割が期待される.

Ⅰ はじめに

大腸癌は世界各国において罹患率・死亡率ともに上位をしめており,本邦においては2013年には,罹患率では男性で7万4,881人と3位,女性で5万6,508人と2位となっており,男女を合わせても胃がんに次いで2番目に罹患率が高い疾患である.また,死亡数においても2016年には女性で2万3,073人と1位,男性で2万7,026人と3位,男女合計では5万99人が亡くなっており,死亡率2位の疾患となっている 1

大腸癌のスクリーニング法としては便潜血反応検査が国内外で広く行われている.潜血反応陽性者が増えることは,結果として大腸内視鏡検査数が増加することにつながる.しかしながら,必要とされる内視鏡専門医数は圧倒的に足りず,さらに検査それ自体の受容性が低いなど問題点は多々ある.この様な現状の中,今後大腸カプセル内視鏡検査(colon capsule endoscopy;CCE)の役割が重要となると思われる.

本邦では2014年1月に世界で初めて保険収載された.しかし,Table 1に示すようにその適応としては大腸内視鏡検査が困難な場合に限定されたことや,算定量15,500円+カプセル内視鏡償還価格81,700円を合わせると97,200円となり,大腸内視鏡検査・大腸CT検査の15,500円・10,200円と比較して割高であることが,CCEの普及を妨げる要因となっている.

Table 1 

大腸カプセル内視鏡の保険収載された適応(2014年1月).

一方,炎症性腸疾患においては,患者数が増加の一途をたどっている.そのため,より低侵襲に活動性を評価する検査法の普及が望まれており,CCEにその役割が期待されている.

本稿ではCCEの現状と普及に向けた今後の課題を述べる.

Ⅱ CCEの特徴

CCEはFigure 1に示すように①COLON2カプセル,②レコーダーDR3,③ワークステーション,からなる.

Figure 1 

a:PillCamCOLON2カプセル

b:PillCamレコーダーDR3

c:Rapidワークステーション

①CCE本体は31.5×11.6mmである.視野角172°のカメラを両端に備えているため344°と,360°に近い視野を確保する.また,通常は4枚/secの撮影枚数であるが,撮影枚数を自動で調整するフレームレート調整機能(adaptive frame rate;AFR)が搭載されているためカプセルが大腸内を早く移動する場合には35枚/secの撮影枚数となり視野・撮影枚数の機能により見落としを防止する策が講じられている.しかしながら,約10時間のバッテリーがなくなった時点で撮影は終了となるため,10時間以内でCCEが大腸から排泄される必要がある.

②レコーダーの付加機能としては,リアルタイムにCCEが撮影している画像を確認できるのみでなく,小腸と大腸粘膜を自動で区別し,カプセルが小腸にあると判断した場合にはバッテリー温存のため14枚/minで撮影する機能が備わっている.また,下剤・腸管蠕動促進剤内服の時期を知らせる『レジメンリマインダ機能』がついているため内服のタイミングが分かり易くなっている.

③ワークステーションの特徴としては,肝湾曲部・脾湾曲部を自動で認識する機能が備わっており,上行結腸・横行結腸・下行結腸〜直腸の3部位に自動で区分けされるため,病変のおおよその位置を特定することが可能となっている.また,病変のサイズを計測可能なPSE(polyp size estimation)機能が搭載されている.

Ⅲ CCEの禁忌と偶発症

CCE検査は小腸CEと同様の注意が必要である.CEの偶発症として最も問題となるのがretention(滞留:カプセル内視鏡が体内の同一部位に2週間以上とどまる状態と定義されている)である.retentionをきたし易い状態として既知の高度消化管狭窄を有する症例や腸閉塞例,腹部放射線照射歴を有する患者などが挙げられ 2,このような症例においてはCE施行前に消化管開通性評価を行う必要がある.また,MRI検査との併用は腸管または腹腔内に傷害を受ける可能性があるため併用禁忌である 3),4

それ以外としては①ペースメーカー植え込み患者,②嚥下障害患者,③妊婦,④滞留時にカプセル内視鏡回収に同意しない患者,などは禁忌ないし慎重に適応を判断する必要がある 2

CCE検査の偶発症は嘔気・嘔吐・頭痛・腹痛・倦怠感などの前処置関連が3.9%と多くを占めている.その他の偶発症としては嚥下困難1.1%,retention 0.8%,技術的問題1.4%と報告されており,大腸ファイバースコピーの腹痛+出血0.8%と比較して軽度な偶発症は多い傾向にあるものの,大腸CT検査の腹痛24%と比較すると頻度は低く 5)~8,重篤な偶発症発生頻度は極めて低いものと思われるが,前述のようにretentionには十分な注意が必要である.

Ⅳ CCEの前処置

CCE検査を施行するにあたって最も問題となるのが前処置である.

大腸内視鏡検査においては十分な腸管洗浄が必要であるが,CCEにおいては大腸ファイバースコピーと比較して残渣を洗浄・吸引できないというハンデを抱えているため,より厳格な腸管洗浄が必須となる.さらにCCEではカプセルを能動的に進めることが不可能なためカプセルのバッテリー持続時間内に肛門まで移動を促進させるための腸管洗浄剤の内服(booster)が必要である.そのため大腸内視鏡検査に比較して多くの腸管洗浄液を内服しなければいけない現状である.

欧米からの報告ではCCEのstudyのほとんどで腸管洗浄液として大量(3〜4L)のPolyethlene glycol electrolyte(PEG)溶液を使用しており,boosterとしてはNaPを使用しているstudyが多いが,boosterを含めると2日間で4.5L〜6Lの腸管洗浄液が必要とされている.その一方で,カプセル内視鏡排出率においては75〜94%と良好な結果が得られている 9

しかしながらboosterで使用される液状型Napは本邦では認可されておらず,認可されている錠剤型NaPにおいては高血圧症の高齢者や腎不全・心不全・狭心症には禁忌とされており,大腸内視鏡検査を受ける年齢層には投与しにくい製剤である.

そのため本邦ではPEGを使用した多施設ランダム化前向き試験が行われ 10),11,93%で腸管洗浄度が良好という結果が得られたため標準レジメンとして推奨されてきたが,本検討ではCCEのバッテリー持続時間内の排出率が71%とTable 2に示すように欧米からの報告 6)~8),12)~15に比して低いことが問題となっている.

Table 2 

大腸ポリープ前処置評価・排泄率.

それ故に現在本邦ではboosterの際に『ガストログラフィン』または『ひまし油』を併用したプロトコールが各施設で検討されている.Table 3に示す『ガストログラフィン』を使用したプロトコールでは5.1Lの腸管洗浄液で排出率97%,大腸通過時間(中央値)165分であった.腸管前処置のグレードは汎用されているEliakimら 16が使用した分類を当てはめると『優』または『良』の割合が90%と報告されており 17,腸管前処置のグレードを保ちながら標準レジメンに比して高い排出率が達成されている.欧米でもSpadaらが使用してはいるが 18,本邦では『ガストログラフィン』は保険適応外であるという問題点があり,広く普及するには至っていない.

Table 3 

大腸ポリープ検出目的のガストログラフィンレジメン.

『ひまし油』を使用したプロトコールでは20症例と少数例の報告ではあるものの3.7Lの腸管洗浄液で排出率100%と報告されており 19,多施設比較対象研究がなされている.その中間報告が第11回日本カプセル内視鏡学会(JACE)学術集会で発表されている 20.それによると,「ひまし油なし群」:「ひまし油あり群」で対象症例137:135症例・腸管洗浄液3,508:3,086ml・排出率80%(110/137):95%(128/135)(P=0.0006)・大腸通過時間132:103分・腸管前処置が『優』または『良』71%(57/80):62%(51/82)と腸管洗浄度に課題は残るもののカプセル排出率は有意に優れており,現時点では『ひまし油』を使用したプロトコールがJACE推奨レジメンとなっている(Table 45).また,現在全国規模で多施設共同研究(責任研究者:藤田保健衛生大学消化管内科・大宮直木先生,UMIN000021936)が進行中であり,その結果が待たれるところである.

Table 4 

大腸ポリープ検出目的のJACE推奨レジメン.

Table 5 

潰瘍性大腸炎のJACE推奨レジメン.

Ⅴ CCEの読影

CCEの読影において小腸CEとの相違点は①大腸には粘膜ヒダが存在するという管腔構造の違いにより死角が生じうること,②カプセルが大腸内で順方向に進むのみでなく逆行することも多いこと,③カプセルの両端にカメラが存在するため別のカメラで映った病変が同一病変であるのか異なる病変であるのか確認が必要であること,などが挙げられる.また,対象病変としては腫瘍性病変がメインとなり,疾患頻度も高いため見落としを防ぐために読影速度を落とす必要がある.そのため小腸CEに比較して読影に時間を要し,読影する医師の負担増となっている.今後は読影医師の育成のみならず,読影支援技師の育成にも力を入れる必要がある.

Ⅵ 大腸腫瘍性病変におけるCCEの成績

Table 6に示すように大腸腫瘍性病変に対するCCE2の6mm以上の大腸ポリープの感度は81〜94%,特異度は64〜88%と報告されており 6)~8),14),15),21),22,AFR搭載以前の4枚/secの撮影枚数であった第一世代の感度39〜79% 16),23)~28と比較して大腸ポリープ検出の感度の向上が得られたために,CCE2の大腸腫瘍性病変における成績は大腸内視鏡検査との比較においてほぼ同等の検出率と報告されている.9mm以上のポリープを対象にした報告では全大腸観察が可能であった症例に限定するとCCEの感度は97%と大腸内視鏡検査の89%に比較して優れているが,CCEの全大腸観察率が低いことが問題であると報告されている 29.また,進行大腸癌を対象にしたCCEの感度は85%であり,検出できなかった症例はすべてCCEが病変に到達しなかった症例であると報告されている 30.これらの報告では病変検出率を上げるために,全大腸観察率(CCE排出率)の向上を目的とした前処置の重要性が述べられている.

Table 6 

大腸ポリープ診断能.

一方,大腸CT検査の6mm以上の大腸ポリープの感度は85〜91%,特異度は87〜93%と報告されており 31)~33,大腸CT検査も大腸内視鏡検査とほぼ同等の検出率と報告されている.

CCEと大腸CT検査とを比較した論文は少ないながら,感度CCE 88%・大腸CT検査88%,特異度CCE 88%・大腸CT検査85%とほぼ同等の検出率との報告がある 8.その一方で,特に6〜9mmのポリープの検出においてはCCEの方が大腸CT検査より優れているとの報告 15もある.

以上よりCCEの大腸腫瘍性病変における成績は大腸内視鏡検査とほぼ同等,大腸CT検査より優れている可能性があるものの,さらなる病変検出率の向上のためには『CCEの前処置』の項で述べたように全大腸観察率の向上を目的とした前処置の検討が課題である.

Ⅶ 炎症性腸疾患におけるCCEの成績

潰瘍性大腸炎の活動性評価においては感度78〜98%・特異度75〜100%と大腸内視鏡検査と同等の活動性評価が可能であり,忍容性が高く活動性のモニターリングにおいては信頼性が高いとの報告が多い 34)~38一方で,病変の進展範囲の評価には大腸内視鏡検査に劣るという報告もあり 39),40,評価は定まっていない現状である.しかし,低容量の腸管洗浄剤(約2)で活動性評価が可能であるとの報告もあり 35,大腸内視鏡検査より低侵襲なモダリティとして活動性を評価する役割を担う可能性がある.

クローン病においては,潰瘍性病変の感度86%・特異度40%という報告 41や,小児症例において炎症の感度89%・特異度100%という報告 42など有用性が報告されているがいずれも少数例の報告であり,クローン病におけるCCEの役割については今後の検討が待たれる.

Ⅷ 今後の展望

大腸癌が増加している現状において,CCEは安全かつ腫瘍性病変の検出率も優れたモダリティである.保険適応,高額の医療費,腸管洗浄液の量が多いなどの課題も残されているが,前述したように,腸管洗浄の問題は克服されつつある.大腸癌検診においては,いわば,1.5次検診の位置付けになるだろう.局所を医療者にさらすことのない特徴を活かせば,検診受診者の新たなオプションともなりうるだろう.炎症性腸疾患の活動性をモニタリングしうることはいうまでもない.磁気を利用した自走式CCEの検討もされており 43,今後は観察のみならず治療内視鏡へと発展していく可能性も秘めている.開発当初より大腸カプセル内視鏡に注目してきた内視鏡医の一人として,大腸カプセル内視鏡がさらに発展していくことを切に願う次第である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top